LOGIN僕は女の子二人を連れて家に戻る。
道すがらお姉ちゃんの方、クレタが僕に訊ねてきた。「ねぇ」
「何?」
「肩のあたりを飛んでいる妖精は何?」
え?
「君、見えるの?」
そりゃあびっくりするでしょ、だって転生者しか見えないって言う妖精が見えてるって言うんだから。
妹のカルホは「え? どこどこ? 私も見たぁ〜い」
てな具合なんだから。
僕だって前世の記憶が蘇って初めて目撃したもんだ。 もっとも、ずっとそばにいたわけじゃなさそうだけど……。 僕はリリムを見る。「何よ? 転生者にしか見えないわよ」
ってことはつまり……。
「そう言うことね」
そう言うことね。
「前世の記憶は戻っているの?」
と、聞いてみたら
「前世って何よ?」
と聞き返される始末。
リリムに助けを求めると村には代官屋敷が建っていた。 前回来たときに要望を出したものだ。 僕らが来たときに泊まる用の家で、ジャスを棟梁に町側の資材で建築したルンカー造りの二階建てだ。 ぶっちゃけ農業指導を表向きの名目に代官としてルダー一家を常駐させることになっている。 僕らは明日には帰るけど、ルダーとイラードにはそのまま残ってもらう。 イラードにはしばらくルダーの護衛兼村の問題点の洗い出しをしてもらう予定だ。 会食後、早々にケイロに案内されてその代官屋敷に引き上げる。 …………。 どうもケイロが挙動不審なので帰るのを引き止めて世間話に付き合わせることにした。 賢いといってもまだまだ未成年の村人1。 会話の中でカマをかけるとわりと判りやすく動揺したり喋ったりしてくれたので「ちょろいな」と、思ったのはここだけの秘密だ。 要約すると、村長のスパイをさせられているってところだった。 はい、早速始まりましたね。 肚の探り合いは、政治のイロハってことでしょうか。 でも、あからさますぎて減点です。 まぁ、田舎の村の大将じゃここらが相場ってとこなのかな? まだ若いと僕を侮っているんでしょう。 お貴族様じゃないから対等に、できれば年の功で立場を乗っ取ろうとか考えているかもしれないな。 そうさね、これを逆手に村長追い落とし作戦でも計画しよう。「ケイロ」「はい」「戦やらなんやらでうやむやになっていた読み書き算盤の稽古、再開しないか?」「いいんですか?」 目をキラッキラと輝かせているケイロにとびっきりの笑顔で応対する。「当然じゃないか」 ちょっと芝居くさかったかな?「僕らは明日、帰ることになるけど、一緒においで」「お願いします!」 ちょろい。 いや、しかしこれはいつの時代も人は知識に飢えているってことかもしれない。 時代どころか時を超え、次元を超えても普遍ってことなのかも。 前世でも
春になった。 村が僕を残して全滅してから四年目の春、僕は十八になっている。 ズラカルト男爵軍との衝突では結構な被害が出たけれど、人的被害以外はだいたい回復した。 町の中に軍を入れなかったのが功を奏したのは間違いない。 雪解けと共にかねてから計画していた宿場町建設団を派遣。 キャラバンは行商に旅立った。 今僕は隣村に来ている。 こちらも戦前の約定によって僕の傘下に入ることを正式に承認するためのものだ。 村長を町に呼びつけてもよかったんだけど、こちらから出向くことで今後の為政を少しでも有利にしたい思惑があったからね。 使節団は僕を筆頭にサビー、イラード、ルダー、オギンの四人。 僕を領主として認めるという文言を確認して、皮紙に署名捺印を取り交わす。 これで晴れて僕は正式に二ヶ村の領主だ。 建設中の宿場町が完成すれば四ヶ村の領主になる。 村長と握手を交わして調印式が終われば昼食会だ。 村からは村長とその息子夫婦、孫のケイロが参加した。 …………。(何か不服そうね) リリムが声に出さずに訊いてくる。 この場には前世持ちのルダーがいるから、そういう配慮をしたのだろう。(うん、村長の親族しかいないのがね)(何か問題?)(大いに問題だね。この村にはこれまでに二回来ているけど、交渉の場に村長以外の人が立ち会ったのは初回のケイロだけ。あれも食事の席でこちらから切り出したんでたまたま同席していただけって気がするんだ)(そう言えば前回来たときも息子さんたちを用事に出してから交渉を始めてたわね)(村長には早々に交代していただこう) とはいうものの、じゃあ誰に交代するかと言えば悩ましい。 町から選ぶのは下の下策だ。 村長だけでなく村人全員を敵に回すことになりかねない。 かといってこの村の誰かで村長の代わりが務まるのかと考えると誰もいないのが現状だ。 自分の見たところケイロが村で一番賢いけど、さすがに未成年のケイロに村の経
「オギン」「ここに」 ヌッと現れる様がいよいよかげろうのお銀然としてきたな。「念のため見張っていてくれ」「かしこまりました」 武器を取り上げているとは言え、ちょっと無用心かな? でもまぁジュニアと違って大人しくしていてくれると僕は信じているよ。 館を出て中央広場に移動する。 そろそろ空が茜色に染まり始めている。 冬の日はつるべ落とし……いや、これは秋の季語か。 とにかくだ、昼の短い季節だし、火が落ちると一気に寒くなるし、とっととこっちも済ませなきゃな。 この町には現在、住宅が不足している。 冬になって流入人口が減少したことで、住宅不足は解消しつつあったわけだけど、捕虜が一気に四十人近くも増えたとあっては住宅建築も追いつかない。 特に今日だけで二十五人も増えたのが痛いんだ。「どうだった?」 敵野営陣に向かわせていたカシオペアメンバーが戻っていたので訊ねると「なんとか使えそうだ」 との返答だったので、今日は見張りを立てて、騎士以外の捕虜は野営地に送ることにした。 見張りはこちらのカイジョー以下、元傭兵の八人とサビー、ガーブラの総勢十人。 武器を取り上げて拘束した捕虜ならこの人数で大丈夫だろう。 町の守備が手薄になるけど、もう襲われるような事態にはならないだろうしね。 捕虜の護送と入れ違いに町の戦死者の埋葬を終えたグループが墓地から戻ってきたので、丁重にねぎらう。 一番きつい仕事を割り振っちまったからさ。 これにはルダーが率先して関わってくれた。 前世が戦中派の彼は、戦争を知らない団塊ジュニアの前世持ちである僕とは肚の括り方が違う。 それにしても……九人は多い。 働き盛りの労働者でもある彼らを失うのは経済的損失だし、避けられない犠牲でありある程度の覚悟はあったとしても、遺族の胸中は複雑だろう。 僕に対してわだかまりを持つものが出てきても詮ないことだ。 何より僕自身が見知った人の死に大きな精神的ダメ
ここは僕の館だ。 僕の右側にはジョーが、左にはルビンスが立っている。 ルビンスが心持ち苦虫を噛み締めるような表情をしているのが慮られる。 それもそのはず、捕虜の二人というのがルビンスの父ルビレルとその主筋にあたるオルバックJr.だからだ。 こりゃもう、ボンクラジュニアを助けるために奮戦して一緒に囚われたとしか思えない。 余談だけど、以前ルビンスと一緒に捕虜になったあと、ルビレルに使者として送り出した従者が今回もルビレルの従者として捕まっている。 ついてないねぇ。「騎士は捕虜として丁重に扱うことになっているのだけど、どうしたもんかね?」 事前にジョーとは打ち合わせをしてのぞんでいるわけだけど、ホント、どうしたもんかね?「お館様のご随意に」 ったく、ジョーってばさ。 ちょっと意趣返ししないとダメだろ、これは。「我が館には客間が四部屋あるので三人なら留め置くことは造作ないが、ここは領主の館であるから客人が来た折の部屋がないと困る。こちらの御曹司はジョーの家に預けよう」「え……ふむ、そうか。うむ、仕方ない……のか?」 へっへっへ、ちょっと溜飲が下がった。「いずれ代官殿から使者がこようから、せいぜい身代金を踏んだくってやろうじゃないか」 と、うそぶいて見せたらジュニアってばキっとまなじりあげて僕を睨みつけてくる。 あー、やっぱダメだなこいつ。 さすがにわめいちゃうほど教養なしじゃないようだけど、自分の立場を判ってない。 態度ってのは心証に大きく関わってくるから、その後の待遇が随分と変わるんだけどねぇ。 ルビンスからこいつの代わりになる後継がいないって聞いたから、オルバック家の未来は決定したようなもんだ。「じゃあ、よろしく頼むよ」 と、ジョーにさっさと引き取ってもらうことにした。 ジュニアがいなくなったあと、改めてルビレルと向き合う。「お久しぶりです」 と、言っておこう。 ル
さて、何から話せばいいだろう。 結果から言えば僕らは戦に勝った。 順を追って説明するとまず、オギンとサビーが首尾よくジョー隊に出会い作戦を伝達。 そこで魔法効力が切れて行動不能に。 二人の代わりにカーゲマンら三人を選抜して兵糧焼討ち隊を結成して送り出したジョーは、街道に出て敵本陣を背後から急襲する作戦を敢行。 折りよくというか、防御柵を焼いたズラカルト軍は好機とみて一気可成に僕らめがけて騎兵を吐き出していたため、手薄な本陣を蹂躙。 背後から合戦の音が聞こえてきて動揺した騎兵の気配を直感的に察した僕が、全軍に反転攻勢を命じたことで攻守逆転、戦線を支え切れなくなったズラカルト軍が潰走したというのがことの顛末だ。 そして、戦後処理だ。 三日目の敵軍戦死者は騎兵二、剣兵七、弓兵一。 捕虜は騎兵二、正規剣兵六、傭兵二、正規弓兵四、傭兵六。 味方の死者は九人に及んだ。 地味に痛い。 そうそう、ホルスを全部で七頭手に入れた。 こっちは大収穫と言っていいかな? 数字の話が続いてアレなんだけど、今回のズラカルト軍総数百五十(騎兵二十、弓兵五十、剣兵八十)に対して戦死三十五、捕虜三十四。 この世界の戦争が一般的にどんなもんだか判んないけど、戦死者だけで全兵力の四分の一ってもう大惨敗としか言いようがないだろ、これ。 こっちとしては大勝利だけどな。 確か事前情報ではズラカルト男爵の現有戦力三百人って話だったから、これだけ打撃を与えられればしばらく来ることもないだろう。 ひとまず当面の危機は脱したと言っていい。「さて……」 僕は騎士の捕虜二人を前に座っている。
「ルビンス」「なにか?」「ここの指揮を任せる。女子供を守ってくれ」「え?」「伝令に出せる人員がいないんだ。僕が行って撤退命令を出す間、ここを任せる」「心得た」 その返事を聞いて、僕もホルスを駆けさせる。 ガーブラに率いられて退却してくる女性達とすれ違う。「お館様」 ガーブラが僕についてくる。「撤退だ! イラード、弓兵を退げろ。ギラン、弓兵を援護! カイジョー、殿で退却戦!! ガーブラ、右を回って敵兵分断! 僕は左を行く」 指示を受けたそれぞれが返答とともに行動を開始する。 あれ? ラバナルは? 僕は左を迂回し、迫る歩兵の列の横腹に突撃する。 敵の進撃が乱れて弱まる。 が、敵騎兵も突撃しようとしているようだ。「ラバナル!」「いるぞ!」 弓隊の中に姿を見つけた。 急いでホルスを駆る。「例の大きな音って、今出せる?」「おおよ」 さっと、魔法陣を描き始めるラバナルを同じく戻ってきたガーブラと守る。 魔法陣を描き上げたラバナルはおもむろに懐から金属の棒を取り出しガンガンと叩きながら魔法を発動させると、大音響が辺りを満たす。 うおっ! ホルスが棹立ちになった。 僕はかろうじて堪えたけど、ガーブラが落馬した。 これは神様からもらった「人よりちょっと優秀」さの恩恵か? 敵騎兵のホルスも同じ状態になっているはずだ。「撤退! 急げ!」 鋭く命令して、こちらの軍を混乱から立て直す。 ん? 背後からガンガン音が鳴ってるけどなんだ? 町の方へと振り向くと物見櫓の上でザイーダが指を指している。 改めて指差す方へと視線をあげると、燃える柵の煙とは違う煙が遠くに上がっている。 あれは! オギン達が兵糧を焼くのに成功したに違いない。 と、同時に
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす







