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元婚約者が買ったのは、アンドロイドにされた私

元婚約者が買ったのは、アンドロイドにされた私

By:  ナナCompleted
Language: Japanese
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アンドロイドにされてから7年、かつての婚約者だった宮崎隼人(みやざき はやと)が、私を闇市場で競り落とした。 彼は品定めするように私の硬い関節を叩くと、あからさまに軽蔑の眼差しを向けた。 「真奈美、金のためならどこまで落ちぶれるんだ。目立ちたいがために、こんな人形みたいな姿に成り果てて!」 私は機械の眼球を動かし、加工された途切れ途切れの声を出した。 「宮崎さん、触るのは1回10万コインです。もしこの硬さが気に入らないようでしたら、返品も承りますよ」 すると隼人の動きがぴたりと止まった。その目には、言いようのない苛立ちが立ち込めていた。 「うちに来い。紗奈のモデルになれ。あの子は最近スランプ気味でね。お前のこの気味の悪い姿を見れば、なにか閃くようになるかもしれない」 彼は私の体にある継ぎ目を一瞥すると、鼻で笑った。 「昔のお前は、もっと生き生きしていたのにな。今の姿は本当に気味が悪い」 私は硬直した体で、くるりと向きを変えた。 隼人には理解してもらえないでしょうけど、今の私を生かしているこの人形の体は、7年もの間苦しみ続けて、ようやく慣れた檻だ。 それに、隼人はもう忘れてしまったようだが、7年前、愛する女を喜ばせるため、私の全身の骨をその手で打ち砕いて改造室へ送った人間こそが、他の誰でもない、彼自身なのだ。

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Chapter 1

第1話

地下の闇市場は、機械油と錆が腐ったような匂いに満ちていた。スポットライトに照りつけられて、私の安物の網膜がジジッと音を立ててきしんでいたのだった。

「最低入札価格、100万コインです!こちらは7年前のモデルながら、驚くべきことに人体組織の30%が良好な状態で保存されております。​痛みを感じる神経も完全に機能しており、サディスティックな趣味をお持ちのコレクターさんには、これ以上ない究極の逸品と言えるでしょう!」

そう言いながら、オークショニアの脂ぎった手が私の左腕を掴んだ。そして、関節の可動域を見せるため、力任せに90度後ろへ反らせた。

バキッ。

劣化したサーボモーターが甲高い悲鳴を上げた。肩と繋がっている人工皮膚が裂け、その下から、錆びて黄ばんだ金属骨格が剥き出しになった。

するとその様子に周りのやじ馬は一斉に笑い声を立てた。

「こんなガラクタが100万コインの価値があるかよ。スクラップ工場に持っていっても、処分費用を取られるぜ!」

「あの機械の眼球を見てみろよ、動きがカクカクじゃないか。買っても修理するのに大金がかかりそうだ」

私は展示台の上に立ち、機械の眼球で、身なりだけは立派なクズどもをゆっくりと見渡した。

左腕は力なく垂れ下がり、胸の警告ランプが赤くせわしなく点滅しながら、バッテリー残量が8%であることを示していた。

「200万」

冷たい声は雑踏を切り裂き、まるで真っ赤に焼けた鉄に冷水を注がれたようで、一瞬にして辺りは静まり返った。

会場は、水を打ったように静まり返った。

特別席に座る宮崎隼人(みやざき はやと)は、火のついていない葉巻を指に挟んでいた。私に視線をよこすこともなく、ただうんざりしたように灰を払う仕草をした。

「宮崎さんより200万!他にはいらっしゃいませんか?」

そうは言うものの、こんなガラクタのために、隼人に楯突く者など誰もいないのだから、こうして、落札のハンマーは振り下ろされた。

そして、私はスタッフに、まるで廃棄物のように引きずられ、通気口すらない金属の箱に放り込まれた。

次に光を目にすることができた時は、すでに隼人のプライベートガレージにいたのだった。

彼は車の前に立ち、私を見下ろしていた。

私は必死に体内のバランス制御装置を調整し、まっすぐ立とうとした。でも、左腕の損傷で重心がずれてしまい、みっともなく車のドアに寄りかかることしかできなかった。

「真奈美」

隼人は私の名前を呼んだ。その口調はまるで、なにか汚らわしいものでも呼んでいるかのようだった。

彼は手を伸ばし、その冷たい指先で私の首筋にあるざらざらした接合部をなぞった。

そこは、私がまだ人間だった頃、隼人が一番好んでキスをしていた場所だった。

しかし今では、安物のシリコンに電線が剥き出しになっているだけだった。

「7年経っても、相変わらず癇に障るやつだな」彼は嫌悪感をあらわに手を引くと、ハンカチを取り出して指先を拭った。

「どうやら、まだ改造が足りなかったらしいな。だが、紗奈が最近スランプでな。お前のこの気味の悪い姿を見れば、なにか閃くようになるかもしれない。それが今のお前に残された唯一の価値だ。分かったか?」

私は眼球を動かし、電子音声発生器を唸らせた。「はい、宮崎さん。石井さんが弄べるように、この左腕を取り外しましょうか?まだ完全にはちぎれていませんから、ドライバーが一本あればすぐに」

それを聞いて、隼人は、手を拭う動きをぴたりと止めた。

彼ははっと顔を上げ、私の無表情なシリコンの顔をじっと見つめた。なにやらそこから、ほんの少しでも皮肉や苦痛の感情を探そうとしているかのようだった。

だが、それは無駄だった。

私の表情制御モジュールは、とっくの昔に壊れているのだから。

「どうやら口だけは、体と違って達者なようだな」隼人は鼻で笑うと、ハンカチを私の顔に投げつけた。「とっとと車に乗れ。俺のシートを汚すなよ」

宮崎家の別荘は、昔のままだった。

ただ、かつて私の肖像画が飾ってあった場所には、今では石井紗奈(いしい さな)の描いた、歪んだ色彩の、いわゆる「ポストモダンアート」とかいう絵がずらりと並んでいた。

「あら、あなたが言ってた『特別なモデル』って、これなの?」

そう言いながら、紗奈が、高価なシルクのネグリジェを身にまとって、階段から降りてきた。

彼女は手入れが行き届いていて、肌は弾けるようにみずみずしく、埃っぽい私の人工皮膚とは、あまりに対照的だった。

紗奈は私の周りをぐるりと一周すると、その爪で、私の胸の金属プレートを叩いた。

コン、コン。

「なんだか、鈍い音がするわね」紗奈は眉をひそめた。「隼人、これ、汚すぎるわ。私の絵のモデルは線が綺麗じゃないとダメなの。こんな機械油まみれじゃ、インスピレーションが湧かないじゃない」

そう言われて、隼人はソファに座ったまま、ネクタイを緩め、何気なく私を一瞥した。「なら、洗えばいいだろう」

すると、紗奈は執事に手を振って呼び寄せた。「高圧洗浄室へ連れて行って。工業用の洗浄剤を使うのを忘れないでね。あれが一番きれいになるから」

すると、私のコアプロセッサが、瞬時にオーバーヒート警報を発した。

工業用の洗浄剤は、非常に腐食性が強い。全身が金属の機体なら問題ないだろうが、私にはまだ30%の生身の組織が残っている。

私の脳、脊髄神経、そして、とうに機能はしていないのに、それでもまだ動き続けている心臓がまだ生身のまま残っているのだ。

「宮崎さん」私は機械的に口を開いた。ノイズの混じった電子音だった。

「工業用の洗浄剤は、私の有機組織を腐食させます。そうなれば、システムが崩壊するでしょう。もし明日、石井さんのモデルを私にさせたいのであれば、通常の洗剤を使用することをお勧めします」

しかし、それを聞いて顔を上げた隼人の瞳は凍てつくように冷たかった。

「俺に、指図するつもりか?」
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