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第7話

Penulis: 幸月
美南は自信満々だった。これまで何年も、どんな些細なことでも、蒼介が嫌がることだと言えば、杏奈は決して手を出さなかったのだから。

「それなら……」

杏奈が言いかけると、美南はもう苛立って先に口を開いた。

「もういいわ。あんたと無駄話してる時間なんてないの。友達が待ってるから」

美南の視線を追うと、杏奈は気づいた。少し離れた席に、美南と同年代くらいの女性が二人を見つめている。

けれど去り際、美南は声を潜めた。「あと三日。デザインを渡しなさい。でなければ、今日のことを兄さんに告げるわよ」

美南はそう言うと、杏奈の返事も待たずに自分の席へ向かった。

席に着くと、相手は杏奈を見て尋ねずにいられなかった。「美南、知り合いなの?一緒に座らないの?」

「知り合いは知り合いだけど、そんなに親しくないわ。挨拶だけで十分よ」

杏奈がバッグを持つ手が止まる。

親しくない?

美南が大学を卒業してから今まで、自分の手からどれだけのデザイン図を受け取ったことか。それなのに親しくないと言うのか。

でも考えてみれば当然だ。蒼介でさえ自分が妻だと認めていないのに、その妹が義姉だと認めるわけがない。

以前ならこんなことで傷ついていたかもしれない。けれど今は……心の中に何の波も立たない。

、もう二度としない。

杏奈は大股でカフェを出た。未練など微塵もない。反対に、美南の向かいに座る女性は、ずっと杏奈が去っていく方向を見つめていた。

「那月、どうしたの?」

美南は心中穏やかでない。

まさか杏奈が外で勝手なことを言って、自分が吉川家の嫁だと公表したんじゃないだろうな?

もし吉川家の当主の妻が、何の能力もない専業主婦で、男に媚びを売ることしか能がない愚か者だと知られたら、吉川家の面目は丸潰れだ。

横井那月(よこい なつき)が我に返る。「ううん、何でもない。ただ、さっき一緒にコーヒーを飲んでた人、ルミエールの代表、裕司に似てた気がして」

自分の予想と違うと分かり、美南は少しほっとした。

「ルミエール?あの有名なアクセサリーの会社?」

その会社のことは聞いたことがある。創業して数年しか経っていないのに、デザイン業界ではかなり有名で、独特のデザインスタイルで多くの同業者から認められている。

その代表とコーヒーを飲むなんて、ありえない。

杏奈にそんな資格があるわけない。

「ありえないわ、那月、絶対見間違いよ」

美南は自信たっぷりに言った。

「あの人とは親しくないけど、実際はただのお金をせびるしか能がない専業主婦なのよ。何の取り柄もない。ルミエールの代表どころか、だって彼女を見下すわよ」

だっては自分の努力で物乞いをしてる。杏奈は?

家にあれだけ使用人がいて、美味しいものを食べて飲んで、裕福な奥様として座ってるだけ。お金をあげる無駄!

美南がそこまで断言するのを見て、那月はそれ以上何も言わなかった。

本当に自分の見間違いかもしれない。

杏奈が家に帰る途中、ついでに食材を買った。家に戻り、キッチンに入って、慣れた手つきでご飯を炊き、野菜を洗う。

料理しようとした時、ふと気づいた。ここにあるのは蒼介の好きなものと、小春の好きなもの。自分の好きなものは一つもない。

杏奈は包丁を握る手を止め、まな板の上の野菜を二秒ほど見つめた。不意にそれらを脇に押しやり、戸棚から唐辛子を取り出した。

のご飯はまだぐつぐつと湯気を上げていたが、彼女はもう炒め物を作る気にもなれなかった。

帝都ガーデン、吉川家の別荘。

蒼介が娘の小春を連れて帰宅したのは、夜の九時を過ぎていた。

玄関にはいつもの温かいが点いておらず、リビングは静まり返り、壁時計のカチカチという音だけが響いている。

蒼介は眉をひそめた。「安達、杏奈はまだ戻っていないのか?」

慌てて出迎えに来た安達は、その言葉に気まずそうにエプロンの端を絞った。「はい……」

小春はランドセルの紐を握る指を曲げた。

いつもならこの時間、ママがもう玄関に現れて、自分とパパを迎えて、幼稚園でママに会いたかったって聞いてくれるのに。

もう二日も経つのに、ママったら仕事に行くって言い張って、大好きなイチゴケーキさえ作ってくれなくなった。

小春は唇を噛む。心の中が毛糸玉を詰め込まれたようにもやもやする。

「ママったら本当に。家で幸せに暮らしてればいいのに、どうしてわざわざ外で働くの?紗里ちゃんみたいに色んなことができるわけでもないくせに。何でも紗里ちゃんと張り合おうとするんだから」

正直のところ、この二日間、杏奈がいなくて嬉しかった。やっと誰にも管理されなくなったから。

好きなものを好きなだけ食べて、好きな時間に寝られる。こんなに自由だったことはなかった。

けれど、この二日間でものを食べ過ぎて、今は杏奈が作る味噌汁が飲みたくて仕方がない。

以前なら何も言わなくても目の前に出してくれたのに、今は欲しくても手に入らない……

そのギャップは並大抵じゃない。

杏奈に電話したいけれど、なんだかプライドが許さない。それに、もし電話したら、自分を必要だと勘違いして、これからもっと厳しく管理するようになったらどうしよう。

考えた末、小春は蒼介に希望を託すことにした。

「パパ、ママに電話して、帰ってきて味噌汁作ってって言って」

杏奈はいつも蒼介の言うことを聞くから、蒼介が言えば絶対に帰ってくる。

「自分で電話しろ」

蒼介はそう言って階段を上がっていく。立ち止まる気配すらない。

小春は唇を尖らせた。どうしても杏奈が作る味噌汁が飲みたい。杏奈の手料理も……

視線が少し離れた場所で片付けをしている安達に向けられ、目が輝いた。小さな足でとことこと走っていく。

「安達さん、今すぐママに電話して。パパが帰ってきてご飯作ってって言ってるって伝えて」

目の前で爪先立ちして甘える小春を見て、安達のエプロンにかけた手が微かに震えた。

小春のふわふわしたカールにはイチゴのヘアピンが付けられ、きらきらした色の瞳は潤んで、朝露を纏った葡萄のようだ。

まつ毛がぱちぱちと赤らんだ頬を撫で、誰が見てものように可愛らしいと褒めるだろう。

けれど今、腰に手を当てて横柄に命令する姿は、その可愛らしさを。

「安達さん、耳が聞こえないの?」

小春が足を踏み鳴らす。プリンセスドレスの真珠が軽やかに揺れ、幼い声には慣れた傲慢さが滲んでいた。

「電話しないなら、パパにクビにしてもらうからね!」

安達は小さくため息をつき、結局携帯を取り出して杏奈の番号にかけた。

杏奈は裕司が送ってきた近年の会社のデザイン資料を見ていた。携帯が鳴り、安達からだと分かって少し驚く。

「奥様……」

受話器から安達の気まずそうな声が聞こえてくる。

「小春ちゃんが、奥様の作る味噌汁が召し上がりたいとのことで……お戻りになりませんか?」
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