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第17話 第1章 許さぬ咎人(とかびと)、それでも愛そう編・END

ผู้เขียน: 羽の赦し記録者
last update วันที่เผยแพร่: 2026-08-24 18:46:05

フェルータの祖母と母、そして服を無理やり着せられたフェルータが、目を赤くして俺の向かいに座っている。

さっきから、重苦しい沈黙が続いていた。

母親と祖母の二人に挟まれ、尋問《じんもん》される形になっているというのに、フェルータは時折《ときおり》、鼻をすするだけで、頑なに口を閉ざしている。

『フェルータ? 説明しなさい!!』

厳しい口調で祖母が問い詰める。だが、フェルータは口を開こうとしない。

まるで、自らの内に秘めた何らかの覚悟を、無言で主張しているかのようだった。

『何があったの? 言わないと分からないわよ?』

今度は母が優しい声をかける。

その声に押されるように、フェルータはとうとう自身の犯した罪を暴露《ばくろ》した。

「……ソル様の貞操《ていそう》を、奪おうとしました……」

フェルータがしぶしぶ答えると、二人は目を伏せ、深く考え込んだ。

仮にも主《あるじ》の客人である俺に手を出そうとした。その事実を前に、身内としてどう言葉をかければいいのか分からないのだろう。

やがて、フェルータがゆっくりと口を開いた。

「私はもう……職《ここ》を辞めさせて──」

だが、フェルータが言い切る前に、俺は強引に言葉を挟んだ。

ここで止めなければ、彼女は永遠に何処かへ行ってしまう。

取り返しのつかない事態になる。そんな恐怖にも似た感情が俺を支配した。

「フェルータ。俺がふざけて言ったことに、真面目に応えてくれただけだろ? 俺の責任だ!! 自分を悪者にするのはやめてくれ」

「え……?」

驚いたフェルータが、弾かれたように俺へと顔を向ける。

だが、俺は言葉を続けた。心の内を全て暴露するように。

あの、アーコブの後悔に塗れた何も言えない姿を思い出しながら……。

自分は決して、あんなふうに後悔しないように。

「前に、冗談で“一方的に愛されてみたい”って口にしたことがある。それを彼女が本気で受け止めてくれて、今回のことに繋がった。正直な話、フェルータを好きかどうかはまだ分からない。でも、俺を愛してくれる人を、愛したいと思った。だから──お二人には、彼女を大切に思う俺を、どうか許してほしい」

深く、頭を下げた。

これが、自分に向けられた彼女の狂おしいほどの気持ちに対する、俺なりの答えだった。

フェルータの勇気によって気づかされた、彼女の『祈り』に似た恋心がどれほどの奇跡《きせき》か──その重みを、今ようやく知った気がした。

─────────

夜、寝床にて──

「どうして私を庇ってくれたんですか? ソル様……いえ、ソル」

「痺れ薬を盛った事は、少しだけ俺の中で疑問に思っている節《ふし》はある。でも、それだけで君を嫌いになったら……俺はきっと後悔することになると思ったから……」

アーコブに話が通ったのだろう。今夜から、俺はフェルータと寝床を共にすることになった。

部屋に入るなり問いかけてきた彼女に、俺は短く返した。

そして、少しだけ落ち込むような感じを見せた。

「それは結局、私をどう思っているのですか?」

彼女は目線を少し下に向けると、唇を震わせながら言う。

だが、俺は彼女の手を取ると、決意の瞳でフェルータの手を取った。

「フェルータ……俺はまだ過去に囚われている。君の気持ちにはすぐ応えられない。だけど──絶対に、もう死に急いだりはしない。それだけは信じてくれ……」

「……では、私を、抱きしめてくれますか? それすらも、無理ですか?もし、それが出来るなら……私はもうあんな事はしません。約束します……!!」

「……おいで」

俺はそっと彼女を抱き寄せた。

そして、装備していた鞘に収まっていたナイフを、その場に捨てる。

最初、少しびっくりしたように身を強ばらせた彼女だったが……数秒もしない内に、静かに身を預けてきた。

甘い、やわらかな香りがする。

人の重みに包まれるという──ずっと忘れていた懐かしい感覚が、俺に確かなぬくもりと心の安寧を与えてくれた。

「……ごめんなさい、ソル」

涙声で囁く彼女に寄り添うように、俺は返す。

「謝るなよ。ごめんな──今まで俺は、誰からも愛されたことがないと思っていた」

(でも、この世界に来て『初めて』祈られて分かった……)

「わかってる。何をどうしたって、俺が許されるとは思っていない。人は、生まれた瞬間から何かしらの罪を背負っている。俺は──その“多さ”を、痛いほど知っている」

……。

…………。

無言が支配した。

だが、フェルータは決して離れようとしない。

「フェルータ。俺はお前が思ってるような善人じゃない。君と会って分かったんだ。罪に塗れた仮面を被っている自分と、それを憎んでいる自分がいる。その仮面を被って沢山の罪を犯した。だから、君に許してもらって仮面を脱いだとしても、それだけで救われたなんて思えない」

···にも話したことない『本心《ざんげ》』を俺は言葉にすると決意して発した。

「……だけど、それでも思ってしまうんだ。赦してほしい。愛してほしい。受け止めてほしい、って。もう、自分でもどうしようもないんだ……!!」

フェルータは何も答えない。

『ただ』そこに居てくれた。

「でも──仮面を被っている自分が罪を犯すことは、やめられない。許されたいと願うたび、また罪に触れてしまう。人間は、理想と現実の狭間で、現実を生きるために罪を犯すことを止められない。そしてそれと同時に、赦されたいと願う欲も止まらない」

(自分のことで精一杯で、君の気持ちが見えていなかった)

言葉にしなくても、その発言だけで彼女に俺の決意···が通じると信じて最後に絞り出すように言葉を言う。

「こんな俺で──本当にいいのか?……まだ、選び直すことはできる。君の考えは、それでも……」

_____その言葉を最後まで発する前に。

フェルータは、聖母のような、それでいて何処か儚さと決意を感じる微笑みを浮かべた。

そして、俺の唇にそっと人差し指をあてて、言葉を遮った。

打算など一切存在しない、ありのままの彼女の祈り。

どんな偉大な詩人が唄う詩よりも美しく、俺の心がずっと渇望していた『赦し』の言葉。

それは、彼女の純粋な祈りとして、俺の魂に深く刻み込まれた。

「あとは言わなくていいです。私は、あなたに何を言われても──愛します」

(バキン……!!)

何か、俺の心にあった鎧が打ち砕かれた音がした。

それほどまでにその言葉は俺が望んでいて……。

「選び直したりなんて、しません。あなたが自分を嫌っていても、私は──あなたを嫌うことなんてできません」

____渇望していた台詞だった。

「あなたには、確かに“あなたなりの良さ”がある。罰したいと願うその一面も、私が大切に思ってるあなたの一部。理想を想う自分と、現実に生きる二つの顔を、同時に愛します。だから、私はずっとそばにいます。あなたを愛することで──私も少しずつ、二つの心を持つ自分を愛せるようになるから」

唄うように。

確かめるように……。

フェルータは抱きしめる力を強くして今まで俺が待ち望んだ言葉をなんの打算もなく純粋な心で言ってくれる。

「ねえ──互いに押し付け合うんじゃなくて、そっと、互いを愛してみようよ。その間だけはきっと、私たちが現実で生きるために犯した罪は、互いに赦し合えているんだから」

フェルータの瞳は、暗がりでもはっきり見えるほど澄んでいた。

相変わらず決意の色を宿したその瞳で、彼女は顔を近づけ……口元を通り過ぎて、俺の耳元でそっと囁いた。

「何度でも言います。私は──どんな二つのあなたが居ても……その二つのあなたが……大好きです……!!」

(嗚呼《ああ》……!!)

その言葉を聞いた時に。

心がなんとも言えぬぐらい歓喜する。

その言葉は──フェルータ自身が背負ってきた運命を、静かに、でも確かに乗り越えようとする叫びでもあった。

世話人として生まれ、村から出ることもなく、愛なのか分からない愛を紡ぎ、その証を胸に老いて死ぬ。

そんな未来しか知らなかった彼女が、一度は死を願った。それが現実を見据えたフェルータの顔。

でも今──自分の人生に、確かな名前をつけてくれる人に出会った。

その人が背負う重すぎる罪も、名前も、過去も、全部受け止めると決めた。

それは、赦しであり、誓いでもあった。それが、フェルータの理想を想う顔。

ソルは、その言葉のすべてを聞いた時。

瞳の奥から、熱い涙が溢れ出した。

言葉にならない。

自分の抱える多すぎる罪を、それ以上に重い感情で包み込まれたように感じて。

それでも彼は、まだ自分を完全には許せなかった。

だが、今は……。

この時だけは……赦されているように感じて。

赤ん坊のように──ただ静かに、彼女の胸元に顔を埋めて泣いた。

赦されたいと願って。

愛されたいと願って。

そしてようやく、“見つけられた”ことに泣いた。

地面に落ちたナイフは、蝋燭《ろうそく》に淡く照らされ、眩い光を小さく放っていた。

まるでフェルータの祈りによって、ソルの心の闇の何かが照らし出されたかのように……。

だが二人は知る由もなかった。

これが、許された有限なる赦しの光だという事を。

それが、あまりにも儚い祈りだということを。

しかし、この時だけは神すらも慈悲の心を持ったのか。

寄り添う二人を阻むことはしなかった。

─────────

フェルータを抱きしめた夜から、数日が経った。

アーコブの狸爺が急に休みをくれたと思ったら、「フェルータと一緒にいておやり」と余計な気遣いまで押し付けてきた。

結局、村を一緒に回ることになった俺は、あちこちで黄色い声援を浴びる羽目になった。

……その話は、まぁ置いておいて。

休みが終わり、日常が戻ってきた。

「んー?」

「これは水だ」

「みずぅ?」

時折、“あいつ”に似た少女に言葉を教えながら、仕事をこなす日々。

不思議だった。

フェルータを毎晩抱きしめるようになってから──悪夢も、焦燥も、ふと消え去っていた。

「行ってきます、フェルータ」

「行ってらっしゃい、ソル?」

「ただいま、フェルータ」

「おかえりなさい!! ソル?」

朝は温かい手料理で満たされ、

昼は自分の役割を果たし、

夜はまた、彼女の料理と──静かな抱擁に帰る。

その日その日を、確かに生きていた。

これは、“愛”と呼べるのだろうか。

少なくとも──哀れに思って一緒にいるわけじゃない。

俺は、満たされていた。

フェルータによって。

そう、救われていると……確かに感じていた。

自分を愛してくれる存在を、愛したい。彼女と同じように。

まだ知らない“彼女の罪”も、共に背負って生きたいと思っている。

この気持ちは、きっと──嘘じゃない。

─────────

そんな日々に、自分の感情を静かに問い続けていたある日。

俺は、アーコブに呼び出された。

部屋に入ると、彼はいつになく重い雰囲気で言った。

「ソル……すまないが、レクスとしばらく遠出をしてくれ。

『勤勉』の力を借りたいと思う」

その一言が、静かな日常の幕を強制的に引き下ろした。

ソルがまだ、“愛し方”を知らないように──

フェルータも、まだ“愛され方”を知らない。

祈りも、同じだ。

誰かを赦すという行為は、難しい。

赦す方法も、赦される方法も、人によって違う。

それでも、ソルは思う。

最初から──ひとりぼっちだった人間なんていない。

それは、見つけようとしていなかっただけだ。

「あなたのまわりに、本当に“誰もいない”か?」

そう問い直せば、必ず誰かが見つかる。

ソルにとっては、それがフェルータだった。

彼女は、静かに寄り添うことで、この残酷な世界をもう一度生きる理由を教えてくれた。

もし今、これを見ているあなたが孤独を感じているとしても。

フェルータのように、不器用でも声をかけてくれる存在がいなくても。

あなたが顔を上げ、探しさえすれば、必ず見つかるはずだ。

誰かに赦されること。

誰かを赦していくこと。

そのすべてが、形を変えて愛になっていく。

フェルータがソルに気づかせてくれたように──

その真の祈りは、きっと、いつかあなたにも届く。

この物語を見届けてくれた、あなたにも。

【第1章 赦さぬ咎人、それでも愛そう編・END】

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