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壊れた約束、消えた未来

壊れた約束、消えた未来

By:  弱水三千Completed
Language: Japanese
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秘密の結婚生活、八年目。 深水智彦(ふかみ ともひこ)は、アシスタントの笑顔が見たい一心で、江市のすべてのLEDスクリーンを輝かせる。 祝福の声が響く中、そのアシスタントは進んでオフィスの皆に手土産を配る。 私はそれを手に取ると、何の感情もなくゴミ箱に放り込む。 すると彼女は、涙を浮かべてすぐに智彦のオフィスに駆け込み、告げ口をする。 間もなくして、智彦は怒りをあらわにし、私の職務を停止する。 会社のビルを出ると、最上階のスピーカーから智彦の声が響いてくる。 「黒川美緒(くろかわ みお)ちゃんの仕事完了を祝って、ポチ袋の準備は完了」 黒川美緒、それが、あのアシスタントの名前。 我先にと私の横をすり抜けていく人々を見ながら、私は淡々と智彦とのすべての連絡を絶つ。 誰にも知られることのなかったこの結婚は、そろそろ終わりにすべき時だ。

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Chapter 1

第1話

秘密の結婚生活、八年目。

深水智彦(ふかみ ともひこ)は、アシスタントの笑顔が見たい一心で、江市のすべてのLEDスクリーンを輝かせる。

祝福の声が響く中、そのアシスタントは進んでオフィスの皆に手土産を配る。

私はそれを手に取ると、何の感情もなくゴミ箱に放り込む。

すると彼女は、涙を浮かべてすぐに智彦のオフィスに駆け込み、告げ口をする。

間もなくして、智彦は怒りをあらわにし、私の職務を停止する。

会社のビルを出ると、最上階のスピーカーから智彦の声が響いてくる。

「黒川美緒(くろかわ みお)ちゃんの仕事完了を祝って、ポチ袋の準備は完了」

黒川美緒、それが、あのアシスタントの名前。

我先にと私の横をすり抜けていく人々を見ながら、私は淡々と智彦とのすべての連絡を絶つ。

誰にも知られることのなかったこの結婚は、そろそろ終わりにすべき時だ。

……

手土産がゴミ箱に捨てられるやいなや、智彦はかッとなって私の前に飛び出した。

彼の手には青筋が浮き、私とわずか一寸の距離まで詰め寄り、目を怒らせて睨みつけてくる。

「林結菜(はやし ゆいな)、せっかくの心づけを、平然とゴミ箱に捨てるのか?他人の顔に泥を塗るような真似をして、恥を知れ。

もしここが自分にふさわしい場所じゃないと思うなら、さっさと出て行け。ここで他人の邪魔をするな」

目の前の男が真っ赤な目で私を問い詰めるのを見て、私はなぜか笑いが込み上げてくる。

智彦に関わるすべてのことが、ただただ滑稽に思えてならなかった。

私は静かに息をつくと、顔を上げて彼の瞳をまっすぐ見つめる。

「プライドのある人なら、みんなが見ている前でそんなことはしないはずだし、教養のある人なら、他の女性と公然とそんなことをすることもないでしょ」

この言葉に、傍観している同僚たちは信じられない様子で顔を見合わせる。

私がこの会社で働き始めてから今日まで、一度たりとも智彦に「いや」と言ったことはなかった。

どんなに理不尽な要求でも、私は完璧にこなしてきた。

それは誰の目にも当たり前のことだ。

結菜は生まれついて智彦の犬のようなものだ。

何があろうと、智彦が指を一本動かせば、結菜は飛んでくる。

智彦は冗談を聞いたかのように、眉をひそめて口元を歪める。「林、今の言葉、本当に考え抜いて言ったのか?

何度も言っただろう、何をするにしても、何を言うにしても、自分の身分を弁えろと」

彼は「身分」という言葉をことさらに強く言い、私がその意味を分からないかのように念を押した。

なるほど、彼も私たちの表立って言えない夫婦関係を覚えているのか。

それなのに、彼は皆の前で、あのアシスタントに限りない寵愛を示している。

二人は毎日影のように寄り添い、目がある者なら誰もが二人がお似合いだとわかっている。

「冗談なんかじゃない。私は自分が何を言い、何をしているのかよく分かっている。はっきり聞き取れなかったのなら、監視カメラを確認すればいい」

私はゆっくりと半歩下がり、ためらうことなく背を向けて去ろうとする。

手土産を捨てたゴミ箱の前を通り過ぎるとき、私はさっとそれを拾い上げ、背後にいる男に投げつける。

「まだお祝いも贈っていないのに手土産とは、深水社長も太っ腹ね。どうやらお二人のご結婚は目前のようだ。だったら前もってお祝いしよう、末永くお幸せに、そしてお子さんに恵まれますように」

オフィスを出て最後の角を曲がろうとするとき、智彦の怒号が背後から飛んでくる。

「林、今日は一体どういうつもりだ?今すぐ態度を改めて、戻ってきてきちんと謝れ。そうすれば、もしかしたら許してやるかもしれない。

美緒はまだ結婚していない女の子だ。彼女の名誉を傷つけるような汚い言葉を吐いたのなら、戻ってきて彼女に謝るのが当然だろう。さもなければ、後悔することになるぞ」

私は耳を塞ぎ、足早にその場を離れる。

厳しい冬で、外はすっかり銀世界になっている。

周囲数キロにタクシーが一台も見当たらないため、私は歩いて家に向かう。

凍えた体を引きずって家の前にたどり着き、馴染みの二人の姿が目に入ると、私は反射的に反対方向へ歩き出す。

美緒が嬉しそうな声で私を呼び止める。

「林さん、どこへ行くの?

智彦さんの家はここなんだよ。よかったらちょっと寄って暖まっていかない?智彦さんは自分から人を招いたりしないけど、私の顔に免じて、追い出したりはしないと思うよ」

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