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元夫の証言

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-10-30 19:30:26

『この女性は、元夫から多額の金銭を騙し取って離婚した人物です』

 佳苗は画面に表示された文章を見つめた。

「……何、これ」

 添付されていたのは、悟との結婚式の写真だった。

 見覚えのある披露宴会場。白いドレスを着た自分と、隣で笑う悟。

 それだけなら、以前送られてきた写真と変わらない。

 だが、今回は写真の下に長い文章が添えられていた。

『私はこの女性の元夫です。結婚生活の中で金銭的な被害を受け、離婚を余儀なくされました』

 佳苗は眉をひそめた。

「そんなこと、してない……」

 佐藤が困った顔をした。

「これ、また例の嫌がらせだよね?」

「はい。書かれていることは嘘です」

「だよね。でも、なんでこんなに何度も送ってくるんだろう」

 佐藤はメールを閉じずに、高瀬を呼んだ。

「課長、また例のメールが来てます」

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    『この女性は、元夫から多額の金銭を騙し取って離婚した人物です』 佳苗は画面に表示された文章を見つめた。「……何、これ」 添付されていたのは、悟との結婚式の写真だった。 見覚えのある披露宴会場。白いドレスを着た自分と、隣で笑う悟。 それだけなら、以前送られてきた写真と変わらない。 だが、今回は写真の下に長い文章が添えられていた。『私はこの女性の元夫です。結婚生活の中で金銭的な被害を受け、離婚を余儀なくされました』 佳苗は眉をひそめた。「そんなこと、してない……」 佐藤が困った顔をした。「これ、また例の嫌がらせだよね?」「はい。書かれていることは嘘です」「だよね。でも、なんでこんなに何度も送ってくるんだろう」 佐藤はメールを閉じずに、高瀬を呼んだ。「課長、また例のメールが来てます」「また?」 高瀬は画面を確認すると、深いため息をついた。「今度は元夫を名乗っているのか」「はい……」 佳苗は唇を噛んだ。「今朝、その元夫から電話があったんです」「藤倉さんから?」「はい。昨日、会社に持ってきたのは結婚式の写真だと言っていました」 高瀬は頷いた。「なるほど。それが今回の写真かもしれないね」「でも、私が受け取ったのは離婚届でした」「そうだったね」 高瀬は少し考えたあと、佐藤に声をかけた。「このメールは削除せずに、そのまま残しておいて。情報システムの担当にも確認してもらうから」「分かりました」 佳苗は高瀬を見た。「あの、私……」「朝倉……いや、榊原さん」 高瀬は言い直した。「今の段階で、君に

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    『俺が持っていったのは、お前と俺が結婚してた頃の写真だよ!』 佳苗はスマートフォンを握り直した。「……どういうこと?」『だから、写真だって! 久世って男に頼まれて、会社の受付に預けたんだよ』「どうしてそんなことしたの!」『十万円払うって言われたんだよ!』 悟は逆ギレしたように声を荒らげた。『でも、昨日になって急に、写真は会社に届けろって言われてさ。言われたとおりにしたのに、金が振り込まれねえんだ!』「……それで私に電話してきたの?」『ああ。久世に連絡しても出ねえし、お前なら何か知ってるかと思って』 佳苗は呆れてしまった。「知らないよ。私に届いたのは離婚届だったんだから」『おかしいだろ! 俺は確かに写真を入れたんだぞ!』「封筒には何て書いたの?」『榊原佳苗様って。それだけだよ』 佳苗は眉をひそめた。 昨日受け取った封筒にも、自分の名前だけが書かれていた。「受付には、直接渡したの?」『いや、受付の女の人に預けた。本人に渡してくれって』「……そう」『なあ、俺の写真はどうなったんだよ。あれがないと金がもらえねえんだ』「そんなの知らない。そもそも、勝手に私の写真を売ろうとしないで」『お前は金に困ってないから、そんなことが言えるんだよ!』 佳苗は返事をせず、電話を切った。 朝からひどく疲れてしまった。 それでも、気になることがある。 悟が嘘をついている可能性もあるが、わざわざ写真の行方を尋ねてくる理由が分からない。 佳苗は高瀬の席へ向かった。「高瀬課長、昨日の封筒について、少しお話ししてもいいですか?」「うん。どうしたの?」 佳苗は、悟から電話があったことを説明した。「本人は、写真を入れたと言っているん

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    「……離婚届?」 佳苗は思わず聞き返した。「うん。受付の人も困ってたみたい。とりあえず預かったけど、どうするかって」「私、そんなもの頼んでません」「だよねえ。そもそも、会社に持ってくるものじゃないし」 佐藤は首を傾げた。「高瀬課長に話しておく?」「はい。お願いします」 佳苗は自分の席に戻った。 悟だろうか。 けれど、悟とはとっくに離婚している。今さら離婚届を持ってくる理由などない。 直哉の嫌がらせだとしたら、何を考えているのだろう。 しばらくすると、高瀬が封筒を持ってやってきた。「朝倉さん、受付に預けられたものだけど」「すみません。お騒がせして」「いや、君が謝ることじゃないよ」 高瀬は茶封筒を机に置いた。「差出人の名前はないね。中身を確認する?」「……はい」 佳苗は封筒を開けた。 中には、確かに離婚届が入っていた。 しかも、ただの白紙ではない。 妻の欄には、榊原佳苗。 夫の欄には、榊原雄吾。 それぞれの住所まで記入されていた。「……何、これ」 佳苗の手が止まった。 当然、雄吾の筆跡ではない。 自分の名前も、誰かが勝手に書いたものだ。 高瀬が書類を覗き込み、顔をしかめた。「これは……悪質だね」「どうして、こんなものを……」 佳苗は離婚届を机に置いた。 雄吾との結婚を、直哉が快く思っていないことは知っている。 けれど、わざわざ離婚届を作り、勤務先に届けさせるなんて。「これも、例の嫌がらせですか?」 高瀬に尋ねられ、佳苗は頷いた。「おそらく&hel

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    「……もし旦那さんの会社が取引先と競合してたら、結構まずいんじゃない?」 田中の言葉に、佳苗は思わず顔を上げた。 佐藤は困ったように笑った。「でも、そんな話、誰もしてないじゃん」「そうだけどさ。なんか、いろいろ重なってるから気になっちゃって」「まあ、変なメールが何通も来たらねえ」 二人はそれきり別の話題に移った。 佳苗はパソコンの画面に視線を戻したが、指が動かなかった。 田中は、佳苗が情報を漏らしたと決めつけたわけではない。ただ、そんな可能性もあるのではないかと口にしただけだ。 それでも、胸が痛んだ。 以前なら、そんなことを疑われることさえなかったのに。 終業時間になると、佳苗は仕事を片付け、会社を出た。 雄吾の車は、少し離れた場所に停まっていた。「お疲れ」「……ただいま」 助手席に乗り込むと、雄吾が佳苗の顔を見た。「何かあったか?」「うん。ちょっとね」 佳苗は、田中たちの会話について話した。「別に悪口じゃないんだよ。ただ、私が雄吾さんに会社の情報を話してるんじゃないかって、気になってるみたい」「そうか」「なんかね、どんどん変な方向に話が広がっていくの」 佳苗は膝の上で手を握った。「最初は、私が絢子さんを助けたことだったのに。今度は仕事のことまで疑われて……」 雄吾はしばらく黙っていた。「弁護士には、今日の件も伝えた。久世への通知は準備を進めている」「うん」「ただ、警告を出したからといって、すぐに収まるとは限らない」「……そうだよね」 佳苗は窓の外を見た。「私、会社を辞めたほうがいいのかな」 雄吾がこちらを向いた。「辞めたいのか?」

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     翌朝、佳苗が目を覚ますと、雄吾はすでに身支度を整えていた。「おはよう。早いね」「ああ。弁護士に連絡を入れておきたいからな」「昨日の件?」「そうだ。まずは相談してみる」 雄吾は佳苗の顔を覗き込んだ。「少しは眠れたか?」「うん。昨日はありがとう」「気にするな」 佳苗は微笑んだ。 雄吾に話を聞いてもらっただけで、ずいぶん気持ちが楽になっていた。 会社に着くと、佐藤と田中はすでに書類の確認を始めていた。「おはようございます」「あ、おはよう、榊原さん」 佐藤はいつもどおり挨拶を返した。 田中も軽く会釈する。 佳苗は自分の席に着き、今日の業務を確認した。 契約関係の仕事は、まだ任されていない。 それでも、今できることをきちんと進めようと思った。 午前中、高瀬に声をかけられた。「朝倉さん、例のメールの件なんだけど」「はい」「ご主人が弁護士に相談されるんだったね。会社に届いたものについては、必要な記録を残してあるよ」「ありがとうございます」「ただ、外部に出す資料については、こちらでも確認させてもらいたい」「もちろんです」 佳苗は頭を下げた。 高瀬が協力してくれることがありがたかった。 昼休みになる頃には、少し落ち着いて仕事ができるようになっていた。 ところが、午後二時を過ぎた頃だった。 高瀬の電話が鳴った。「はい、高瀬です」 いつもの調子で応じた高瀬だったが、相手の話を聞くうちに表情が変わった。「……それは、いつ届いたものですか?」 佳苗は思わず顔を上げた。「分かりました。確認して、折り返しご連絡します」 電話を切った高瀬は、しばらく考え込んでいた。 そして、佳苗の

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    「やっと捕まえた」 耳元で囁かれた低い声に、佳苗の心臓が大きく跳ねた。 捕まえた。 その言葉は、優しいのにどこか危険だった。「榊原、先輩……?」 佳苗が戸惑う中、雄吾は佳苗の手首を掴んだまま、ゆっくり顔を上げる。 その視線の先には、こちらへ歩いてくる悟がいた。「佳苗!」 苛立った声。 悟は佳苗を見るなり、露骨に顔をしかめた。「何やってんだよ」 だが次の瞬間、雄吾の姿に気づき、動きが止まる。「……誰?」 警戒した声音。 雄吾は答えない。 ただ静かに佳苗の前へ立った。 庇うように。 その背中の広さに、佳苗は息を呑む。「佳苗、こっち来い」 悟が手を伸ばす。 

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     恵が帰ったあとも、佳苗はしばらく動けなかった。 心臓が嫌なほど脈打っている。 あの目。 一瞬だけ見せた、冷たい視線。 前世では最後まで気づかなかった。 恵はずっと、自分から奪うことを楽しんでいたのだ。「……っ」 佳苗は唇を噛み締める。 怖い。 けれど、それ以上に悔しかった。 どうして自分は、あんな人たちのために命まで懸けてしまったのだろう。 テーブルの上に置かれた結婚写真が目に入る。 幸せそうに笑う自分。 悟の腕に寄り添って、未来を信じ切っていた頃の自分。 ――滑稽。 佳苗は震える手で写真立てを伏せた。 もう戻れない。 戻りたくもない。 今度こそ終わらせ

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   置いていかれる側

    「……今、泣いてるのか?」 低く静かな声が耳に落ちる。 その一言だけで、張り詰めていた感情が崩れそうになった。 佳苗は慌てて口元を押さえた。「な、泣いてません」『嘘が下手だな、お前は昔から』 昔から。 その言葉に、大学時代の記憶が蘇る。 榊原雄吾。 成績優秀、容姿端麗、誰にも媚びない孤高の男。 学生の頃から有名だった。 近寄りがたい人だったのに、なぜか佳苗にはよく話しかけてきた。『また他人の仕事押し付けられてるのか』『断れないのか、お前は』 呆れたように言いながら、結局いつも助けてくれた。 けれど卒業後は一度も会っていない。 それなのに、どうして今。「どうし

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