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年下男と侮るなかれ

Author: るな
last update publish date: 2026-04-19 15:30:38

「いらっしゃい、久しぶりね」

「仕事が立て込んでたからな」

俺は圭の営むゲイバーに久々に顔を出した。

「顔がやつれてるわ。潤いが足りてないのね」

「圭は痛い所をつくな」

「まさか、モテ男の司が誰とも遊んでないの?」

遊んでない。ではなく、遊ぶ気になれない。

「今はそんな気分じゃなくてさ」

「あらま!司の口からその言葉を聞く日がくるとは」

「驚きすぎじゃないか?」

「ううん、全然」

圭は真顔で俺に尋ねた。

「好きな子できた?」

「好きなのか?わからん」

「わからんってアンタ何歳よ」

「30歳」

「じゃなくて!あ、そうだった。司はまともな恋愛をしてきてないものね。聞いた私が馬鹿だったわ」

「おい、友人としてなんか言うことないのかよ」

俺は圭に問いかけた。

「仕方ない。悩め。悩んで、苦しんで、もがけ。みんなそうやって恋愛してるんだから」

「はぁ……」

俺は久しぶりに圭と談笑しながら、酒を飲んだ。高校からの友人で、お互いにカミングアウトもしている間柄である故、圭との時間は俺にとっての癒しだった。気取らなくても、そのままの俺を圭は受け入れてくれる。圭みたいな人が恋人なら、俺も恋愛できるのかもしれない。

「なに?人の顔じっとみて」

「圭ってよく見ると可愛いよなって」

「よく見なくても可愛いの!」

「あ、そうでした」

「司ったら、そういう所が残念よね」

「残念言うな」

「ホントのことでしょ」

言いたい放題言い合える相手が居る。俺にとっては有難いことだ。

「なぁ、俺と寝ない?」

「客とは寝ない主義なの」

「客じゃなくて、友人として言ってる」

俺は圭に詰め寄った。

「尚更、お断りよ」

「ブレないな、さすがだ」

「当たり前でしょ」

俺の友人はこうでなくては。

「圭、もう一杯」

「仕方ないから今夜はとことん付き合ってあげる」

「いつもわるいな」

「本当にわるいと思ってる?」

「まぁ……それなりに」

「全く、司は昔から変わらないわね。だけど、憎めないのが悔しいわ」

「仕方ないだろ。それが俺の魅力だ」

圭との会話は尽きない。俺は久しぶりに美味い酒を飲んだ。そして、いい感じに酔いも回った頃、その瞬間はやって来た。

「いらっしゃい。涼くんじゃない。久しぶりね」

りょ、涼だと!?

もう一度、会いたいと思っていた。けれど、いざ、再会してみると、どんな顔をすればいいのか分からない。

「こんばんは。来ちゃいました。って、司さん?」

「うん。久しぶり」

「隣いいですか?」

「もちろん」

「司さんって、バーに居ると絵になりますよね」

涼は頬ずえをつきながら俺を見つめた。

「あら?涼くんは、司狙いなの?」

「まさか、司さんが俺みたいな学生を本気で相手にする訳ないじゃないですか」

「なーんだ。結構、お似合いだと思ったんだけど。涼くんって、司の好みどストライクだし」

「おい、圭!!」

俺は思わず動揺して、大きな声を出してしまった。

「そうなんですか?司さん?」

「うーん、まぁ……」

「へぇー」

涼は俺にさりげなく近づき、足を絡めた。涼に抱かれたい。俺は衝動を抑えるべく、深呼吸を繰り返した。けれど、おさまるどころか、それは増すばかりだ。

「司さん?」

そんな俺を知ってか知らずか、俺の顔を覗き込みながら涼は微笑んだ。

「この後、どうです?」  

涼は俺に耳打ちした。一度寝た相手と二度目はない。俺はそうやって面倒事を避けてきた。

相手にハマるな、溺れるな。そんな俺のポリシーをこの男は揺るがそうとしている。ならば、大人の余裕を見せてやろうではないか。

「俺と寝たいのか?」

「寝たいというか、抱きたいです」

おお、そう来たか……年下と侮るなかれ。 

俺は本当に涼と寝たいのか?自問自答した。

「圭、タクシー呼んでくれるか?」

「ふふっ、わかったわ」

これが俺の答え。どうしても、あの夜の快楽が忘れられない。

俺たちはタクシーに乗り込んだ。

「もう会えないかと思ってました」

「それを言うなら、俺と会う気が無かっただろ?」

「ははっ、やっぱり司さんは鋭いなぁ。そうです。会う気が無かったんですよ。あの時は。でも、時間が経つにつれて、なんであの時、連絡先を聞かなかったんだろう?って思い始めて」

俺と全く同じことを涼も思っていた。やはり、俺たちは似たもの同士だ。

「ここで停めてください」

俺は高級ビジネスホテルの前にタクシーを停めた。そして、涼の手をとった。

「行くぞ」

「はい」

俺は迷うことなくフロントへ向かった。

「予約している高嶺です」

「お待ちしておりました」

俺は部屋の鍵を受け取ると、エレベーターで最上階のボタンを押した。

「司さんはいつもここで?」

「いや、ここに連れてきたのは涼が初めてだよ」

「それは、口説き文句ですか?」

「どうとでも」

「その余裕なくしてやります」

「ぜひ、そうして欲しいね」

エリート商社マンの仮面を外した俺は、快楽に溺れることを望む変態に成り下がる。俺の本性を知る涼ならば、きっと、最高の夜を演出してくれることだろう。その為に、俺はこの場所を選んだ。

さぁ、俺にとっての楽園はもうすぐそこだ。

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