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家を追い出された偽令嬢――父と息子が後悔に狂うまで

家を追い出された偽令嬢――父と息子が後悔に狂うまで

By:  聞芝Completed
Language: Japanese
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夫と私の義妹、宝槻愛名(ほうつき あいな)がイチャついているところを、私はその場で目撃した。 ついに彼は開き直った。 「夕奈、お前に見られた以上、もう隠すつもりはない。俺はもう愛名を愛しているんだ! お前はもともと愛名の居場所を長年奪ってきたんだ。なら今、愛名が自分のものを取り戻したいと思うのは当然だろう?」 息子まで尤もらしく言い放った。 「お母さん、愛名さんは優しくて気が利くし、お金もあって仕事もできる。家にこもってばかりで、僕にきつく当たるお母さんなんかより、ずっといいよ。早く出ていって。僕、新しいお母さんのほうが好き!」 長いあいだ必死に機嫌をうかがってきたけれど、もう彼らに尽くし続けることに疲れ果てていた。 江島家と笹野家、宝槻家の提携を打ち切った私は静かに口を開いた。 「いいわ。望みどおりにしてあげる」

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Chapter 1

第1話

夫と私の義妹、宝槻愛名(ほうつき あいな)がイチャついているところを、私はその場で目撃した。

ついに彼は開き直った。

「夕奈、お前に見られた以上、もう隠すつもりはない。俺はもう愛名を愛しているんだ!

お前はもともと愛名の居場所を長年奪ってきたんだ。なら今、愛名が自分のものを取り戻したいと思うのは当然だろう?」

息子まで尤もらしく言い放った。

「お母さん、愛名さんは優しくて気が利くし、お金もあって仕事もできる。家にこもってばかりで、僕にきつく当たるお母さんなんかより、ずっといいよ。早く出ていって。僕、新しいお母さんのほうが好き!」

長いあいだ必死に機嫌をうかがってきたけれど、もう彼らに尽くし続けることに疲れ果てていた。

江島家と笹野家、宝槻家の提携を打ち切った私は静かに口を開いた。

「いいわ。望みどおりにしてあげる」

「だめよ、どうしてそんな連中を好きにさせるの。情けないったらありゃしない!」

姑の笹野菜奈子(ささの ななこ)が慌てて駆けつけるなり、大声で私に言い返した。

そのあとすぐ、彼女は笹野浩一(ささのこういち)を怒鳴りつけた。「このろくでなし、どうして勝手に女を家に連れ込んだうえ、自分の妻まで追い出そうとするの!あんた、それでも人間なの!?」

浩一は言い訳するように言った。「母さん、愛名ちゃんこそ宝槻家の実の娘なんだ。夕奈はただの偽物の令嬢で、彼女の立場を長いこと奪ってきただけだ。夕奈のものは、この別荘も含めて、これから全部愛名ちゃんに返すことになる」

愛名は甘えるようなやわらかい声で言った。「ごめんなさい、おじさま、おばさま。私、外でたくさんつらい思いをして、ようやく家に帰ってこられたんです……ここに住むことは、父も母も知っています」

「それに、私……浩一さんの子どもを、身ごもっていて……私のものは、これから先は浩一さんのものでもあるんです」

そう言いながら、彼女は浩一と見つめ合い、互いの目には情があふれていた。

菜奈子の眉は少しずつ和らぎ、ドアの外に立つ私を横目でちらりと見た。

迷っているのだと、すぐにわかった。

なにしろ結婚してからずっと、私はよくできた嫁だった。決まった時期には必ず生活費を入れ、気前よく金を使い、年長者には礼を尽くした。年寄りが病気になれば、いつも世話をしていたのも私だ。

けれど次の瞬間、私は彼女の冷えきった声を聞いた。

「そういうことなら、夕奈、あんたも空気を読まなくちゃね。これ以上、他人の居場所を奪うような真似をしちゃだめよ!もし今のところ行くあてがないなら、家の名義変更が済むまでいてもいいわ。そのあとで出ていきなさい」

私は静かにそれを聞いていた。胸の奥に広がる痛みと煮えたぎる怒りが入り混じって、どうしても笑わずにはいられなかった。

夫も子どもも譲ったのに、この家まで差し出さなければならないの?

「この別荘を買ったのは私よ。名義を変えたいなら、他人が私の家に住むんだから、その分のお金を払ってもらうわ」

愛名は目を赤くして、その場で泣き出した。

「お姉さま、好きな人を奪うのが悪いことなのはわかってる。たしかにお姉さまは長いあいだ私の立場を奪ってきたし、私と浩一さんが本気で愛し合っているのも事実だけど……でも、お姉さまだって悪気があったわけじゃないよね。子どものころのことまで責められないし。もし私がお姉さまを怒らせたなら、しばらくここには住まない。私、出ていくから」

「お前はこの宝槻武志の実の娘だ。俺が許さないかぎり、誰がお前を追い出せるものか!」

私の養父母——宝槻夫妻が玄関から入ってきた。実の娘があんなにも悔しそうに泣いているのを見て、たちまち怒りを爆発させた。

養父の宝槻武志(ほうつき たけし)は私を叱りつけ、養母の宝槻芳美(ほうつき よしみ)はそのまま私の頬を張った。

「宝槻夕奈(ほうつき ゆうな)、うちの娘に何してるの!?宝槻家がこれまでどれだけあなたにしてあげたと思ってるの。それでもまだ足りないっていうの?どうして私の娘を追い出そうなんてできるの!出ていくなら、あんたのほうよ!」

頬は焼けつくように痛み、唇の端からは血までにじんでいた。それでも私は手を上げ返さず、避けようともしなかった。

これで育ててもらった恩を返したことにしようと思った。

本当は、私はずっと前から自分が宝槻家の子ではなく、あの大富豪の江島家の実の娘だと知っていた。

五年前、実の両親が私を見つけ出し、連れて帰ろうとしてくれた。

けれど私は、投資に失敗して会社が破産寸前だった宝槻家を見捨てることができず、大学進学の機会を捨て、予定を早めて経営に入り、傾いた会社を立て直してきた。

実の両親はそんな私を不憫に思い、会社名義で手を貸してくれた。だからこそ宝槻グループは危機を乗り越えられたのだ。

宝槻夫妻もかつては私に感謝していた。自分の将来を犠牲にしてまで宝槻家を守ってくれた、これから一生大事にすると、そう言っていた。

けれど愛名が現れてから、養父の武志は彼女のために私を会社の経営陣から外した。

「お前は大学すら出ていない。うちの会社で、高卒の人間を管理職になんか置けるか。そんなことをしたら体裁が悪いし、会社の格まで下がるだろう!」
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第1話
夫と私の義妹、宝槻愛名(ほうつき あいな)がイチャついているところを、私はその場で目撃した。ついに彼は開き直った。「夕奈、お前に見られた以上、もう隠すつもりはない。俺はもう愛名を愛しているんだ!お前はもともと愛名の居場所を長年奪ってきたんだ。なら今、愛名が自分のものを取り戻したいと思うのは当然だろう?」息子まで尤もらしく言い放った。「お母さん、愛名さんは優しくて気が利くし、お金もあって仕事もできる。家にこもってばかりで、僕にきつく当たるお母さんなんかより、ずっといいよ。早く出ていって。僕、新しいお母さんのほうが好き!」長いあいだ必死に機嫌をうかがってきたけれど、もう彼らに尽くし続けることに疲れ果てていた。江島家と笹野家、宝槻家の提携を打ち切った私は静かに口を開いた。「いいわ。望みどおりにしてあげる」「だめよ、どうしてそんな連中を好きにさせるの。情けないったらありゃしない!」姑の笹野菜奈子(ささの ななこ)が慌てて駆けつけるなり、大声で私に言い返した。そのあとすぐ、彼女は笹野浩一(ささのこういち)を怒鳴りつけた。「このろくでなし、どうして勝手に女を家に連れ込んだうえ、自分の妻まで追い出そうとするの!あんた、それでも人間なの!?」浩一は言い訳するように言った。「母さん、愛名ちゃんこそ宝槻家の実の娘なんだ。夕奈はただの偽物の令嬢で、彼女の立場を長いこと奪ってきただけだ。夕奈のものは、この別荘も含めて、これから全部愛名ちゃんに返すことになる」愛名は甘えるようなやわらかい声で言った。「ごめんなさい、おじさま、おばさま。私、外でたくさんつらい思いをして、ようやく家に帰ってこられたんです……ここに住むことは、父も母も知っています」「それに、私……浩一さんの子どもを、身ごもっていて……私のものは、これから先は浩一さんのものでもあるんです」そう言いながら、彼女は浩一と見つめ合い、互いの目には情があふれていた。菜奈子の眉は少しずつ和らぎ、ドアの外に立つ私を横目でちらりと見た。迷っているのだと、すぐにわかった。なにしろ結婚してからずっと、私はよくできた嫁だった。決まった時期には必ず生活費を入れ、気前よく金を使い、年長者には礼を尽くした。年寄りが病気になれば、いつも世話をしていたのも私だ。けれど次の瞬間、私は彼女の
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第2話
それまでは失望していただけだった。けれど、実の娘をひいきするのも人情だと思っていたから、私は黙って耐えてきた。今日、ついに彼らは私に手を上げた。これでようやく、完全に見限ることができた。菜奈子は冷たい顔で言った。「やっぱり教養のない高卒の子ね。あんたの実の親、どうせスラム育ちなんじゃないの?そんな家柄で、偉そうに振る舞う資格がどこにあるの」「笹野家も宝槻家も体面を重んじる家なのよ。今までのお嬢様気取りは、いい加減に改めなさい!」息子の辰哉も、口を尖らせて言った。「お母さん、僕の母親にふさわしいのは愛名さんだよ。お母さんはただの専業主婦で、考えが浅いんだ。友だちを家に呼ぶのだって恥ずかしいくらい。いっそパパと離婚したら……」「わかったわ」私はその場にいた全員の前で、ためらうことなく離婚協議書を取り出し、きっぱりと自分の名前を書き込んだ。その場の空気が、一瞬にして凍りついた。浩一でさえ、信じられないものを見るように私を見た。「夕奈、お前……前から離婚協議書を用意していたのか?何を企んでる。何が欲しいんだ?」誰もが知っていた。私が浩一を深く愛していたことを。事故に遭ったときでさえ、自分の命も顧みず、彼をかばって守り抜こうとしたほどだった。そんな私が、いま離婚協議書を彼の前に差し出したのだ。皆が驚くのも、当然だった。「何もいらない。ただ離婚したいだけよ」浩一は私を信じなかった。警戒の色を浮かべたまま、協議書を取り上げ、何度も何度も読み返した。私が本当に手ぶらで出ていくつもりで、そこに何の罠もないと確認して、ようやく彼は驚いた目で私を見た。「本当に何もいらないのか?息子まで、いらないっていうのか?」辰哉は私が十月十日お腹の中で育み、命がけで産んだ子だ。生まれてからずっと、私は毎日つきっきりで世話をしてきた。身の回りのことは全部この手でやってきた。来る日も来る日も、年を重ねても、一度だって手を抜いたことはない。浩一も、私がどれだけあの子を愛していたか知っている。けれど私にはわかっていた。辰哉は父親と同じで、もうとっくに別の人間に心を向けているのだと。離婚協議書を書いたときから、私はもう決めていた。「何もいらない。人も、お金も、全部いらない」浩一は眉をきつく寄せたが、やがて笑った。
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第3話
「これはあくまで一時的なものだ。今日、愛名ちゃんが江島グループから出資を取りつけさえすれば、俺たち名義の資産は全部戻ってくる。どこかの誰かみたいに、ここで花や草をいじっているしかない人間とは違うんだよ!」彼は私を見ながら、目の奥にわずかな軽蔑をにじませた。私は何も言わなかった。少しでも見る目があれば、私が手を拭く布巾ひとつ取っても最高級品だと気づいたはずだ。私が言い返さないのを見て、彼はまるで私の弱みを握ったかのように、顔に尊大な憐れみを浮かべた。「こうしよう。お前が戻ってきて愛名ちゃんに謝って、文句ひとつ言わず俺たちの世話をして、食事の支度も掃除も全部やるっていうなら、月8万円出してやってもいい。十分高給だろう?」目の前の思い上がった男を見ていると、こんなものに惚れていたなんて、当時の私は本当に見る目がなかったのだと思うばかりだった。私が道具を片づけ、庭を離れようとしたそのときだった。愛名が上品な正装姿で、仲のいい友人たちを引き連れ、こちらへ歩いてきた。「お姉さま、どうしてこんなところにいるの?あなたが出ていってから、私もお父さんもお母さんもずっと心配してたの。あれだけ長い間育ててもらったのに、自分が本当の娘じゃないからって、何も言わずに出ていくなんてひどいよ……」私が宝槻家の養女であることは、そこにいる誰もが知っていた。たちまち周囲は私を責め、恩知らずだと罵り始めた。「そう?」私はスマホを取り出して皆の前に示し、皮肉っぽく言った。「私が出ていったあと、あの人たちは私の連絡先を全部ブロックしたのよ。本気で探す気があったなら、ブロックを解除して一言メッセージを送れば済んだ話でしょう?」嘘をその場で暴かれ、愛名の表情がぴくりと強張った。そしてもう取り繕うのをやめた。「あなたが何のためにここへ来たのかは知らないけど、ひとつ忠告しておくわ。浩一さんも辰哉ちゃんも、心は私のところにあるの。離婚前だってあなたには奪えなかったんだから、離婚した今となっては、なおさら無理よ!」彼女が手招きをすると、少し離れたところにいた辰哉が慌てて駆け寄り、愛名の胸に飛び込んだ。そして顔を上げて私を見た瞬間、それまでの笑顔が急に凍りつき、露骨な嫌悪をにじませて言った。「お母さん、また何をしに来たんだよ?このパーティーがうちにとっ
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第4話
「待て。今、受取人が誰だと言った?」浩一が信じられないという顔で、配送の男に問い詰めた。男は礼儀正しく穏やかに微笑んだ。「宝槻夕奈様です」愛名はすぐさま前に出て受領票をひったくり、差出人がフラワージュエリーだと確認すると、たちまちほっとしたように息をついた。「たぶん発送元の書き間違いね。これは私が買ったジュエリーよ」彼らの目には、私はただの一文無しの専業主婦で、今は苦労ばかりの庭師にすぎない。ハイジュエリーブランドで買い物をするなんて、絶対にあり得ないと思っているのだ。だから答えはひとつ。発送元が名前を書き間違えた。それだけだった。愛名はそう決めつけると、そのまま当然のようにジュエリーを受け取ろうと手を伸ばした。だが、配送の男はきっぱりと身を引いてそれをかわした。「申し訳ありません、お客様。当社ではご本人様へのお渡ししか認めておりません。受取人様のお名前に誤りはございませんので、業務の妨げはご遠慮ください」目の前の数人を見ながら、私は思わず目の奥に皮肉をにじませた。私はペンを手に、笑みを浮かべたまま前へ出て、自分の名前を書いた。配送の男は私を見るなり、明らかに安堵した様子を見せた。本人確認書類を照合し、深々と一礼してから、礼儀正しく立ち去っていった。何しろ二億円どころか、それ以上の価値がある宝飾品だ。もし届け先を間違えでもしたら、彼には一生かかっても弁償できないのだろう。「ありがとう」愛名はごく自然に私の手からジュエリーケースを取り上げ、私の了承も得ないまま箱を開け始めた。「わざわざ選んだダイアのイヤリングなの……」そう言いながら箱を開くと、中の宝飾品がそのまま皆の前にさらされた。何人かが怪訝そうに口を開いた。「でも、これダイアのイヤリングじゃないわよね。ルビーのバングルじゃない。しかも二億円どころじゃない高額品よ!」「これって……」愛名と浩一は顔を見合わせた。たしかに、これは彼らが用意したプレゼントではなかった。けれど、このルビーのバングルが、夕奈みたいな専業主婦に買えるものでもない。となれば、夕奈がどこかの大物に取り入ったのか?それとも恥もなく愛人にでもなったのか?だが、大学も中退して、ずっと家で洗濯や炊事ばかりしてきた専業主婦を、いったいどこの大物が相手にするというのか。きっと
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第5話
「よくもまあ、それが自分のものだなんて言えるわね?買い間違えたですって?せいぜい数百万円のダイアのイヤリングと、何億円もするルビーのバングルじゃ、間違い方にもほどがあるでしょう」私は目の前の愛名を見つめ、目の奥に冷たい光を走らせた。その言葉を聞いた浩一と辰哉の父子は、まるで示し合わせたかのようにそろって眉をひそめた。「お母さん、本当に最低だよ。よくそんな次から次へと嘘ばかりつけるね!」辰哉は私に向かって怒鳴った。「追い出されたただの専業主婦のくせに、何億円もするバングルなんて買えるわけないだろ!外でまで僕に恥をかかせないでよ!」「ほんと最悪だ!」浩一は息子を褒めるような目で見てから、いかにも聞かせるような口調で私に言った。「俺と離婚して、腹の中に相当な恨みを抱えているのはわかる。だが、そんなすぐにばれる嘘をつくのはやめろ。この品が愛名ちゃんのものじゃないというなら、まさか本当にお前が買ったとでも言うのか?江島家で庭師として働いているだけで、何億円も稼げるわけがないだろう。夕奈、いい加減にしろ。情けをかけてもらっているからって、つけ上がるな」父子そろって代わる代わる責め立てる声を聞きながら、横に立つ愛名は、いかにも可哀想な顔で涙をこぼした。そして被害者ぶった声で口を開いた。「お姉さまが小さいころから私の立場を奪って、何不自由ない暮らしをしてきたのはわかってる。でも、自分のものじゃないものは、どれだけ欲しがっても手に入らないよ。遅かれ早かれ、返すことになるんだから……」涙がぽろぽろとこぼれ落ちると、周囲の招待客たちはたちまち義憤に駆られたように、次々と私を責め始めた。浩一は私の前に立ったまま、私を見る目を徐々に冷え切らせていった。「夕奈、元妻だからこそ、まだこうして穏便に話してやっているんだ。だが、いい気になるなよ。今日はこんな大事な場なんだ。お前みたいな庭師がここにいるのは場違いだ。さっさと従業員寮にでも帰れ!」彼の責め立てる声を浴びても、私は無表情のまま、その場に立っていた。そんな私のあまりに落ち着いた様子を見て、浩一はなぜか急に落ち着かなくなったらしい。胸の奥に嫌な予感がじわじわと湧き上がっているのが、手に取るようにわかった。この男はきっと、私が自分のもとを離れたあとも、こんなふうに平然としているはず
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第6話
もともとこの宴は、私が江島グループの令嬢であることを皆に披露するためのものだった。主役の私が怪我をしてしまった以上、続ける意味などなかった。呆然自失としている愛名と浩一、そして辰哉の三人を見ながら、私は思わず冷たい笑みを浮かべた。これで宝槻家が息を吹き返す可能性は、完全に潰えたのだろう。人が皆いなくなったあと、私は父の志摩と母の江島麗華(えしま れいか)、それに祖父と一緒に食卓を囲んだ。母は私の手首の擦り傷を見るなり、目いっぱいに心配をにじませた。「あの一家、本当に恩知らずね。うちの娘の良さも見抜けないなんて。でも大丈夫よ。母さんにとって、あなたは大事な宝物で、小さなお姫さまなんだから。誰にもいじめさせたりしないわ!」母の優しさに触れた瞬間、張り詰めていたものが一気に切れてしまった。私は彼女に抱きつき、鼻の奥がつんとして、そのまま泣き出してしまった。宝槻家にいたあの年月、私は育ててもらった恩に報いるためだけに学業を捨て、来る日も来る日も働きづめだった。食事を取る暇すらないことも珍しくなかった。やがて結婚してからは、今度は家庭を背負わなければならなかった。浩一は家に他人を入れるのを嫌っていたから、妊娠中の私でさえ家中の掃除を一人でこなしていた。子どもが生まれてからは、私を気にかける者は誰もいなくなったのに、私が担うものだけはますます増えていった。こんなにも長いあいだ、誰一人として私の苦しさを理解してくれなかった。返ってくるのはいつも、学のない専業主婦だの、たまたま家柄に恵まれただけだの、そんな言葉ばかりだった。そして自分が偽物の令嬢だと知れ渡った途端、その「運がいい」というわずかな長所さえ、私から奪われた。父もそばで優しく私を慰めてくれた。「うちの娘はもう十分すぎるほど頑張ったよ。これから先、またつらい思いをしたら、ちゃんと父さんと母さんに話しなさい。父さんたちは何でもできるわけじゃないが、会社の一つや二つ潰すくらいなら朝飯前だ」私はしゃくりあげてまともに声も出せず、しばらくしてようやく口を開いた。「ごめんなさい……あのとき私が意地を張って、どうしても宝槻家に残るなんて言わなければ……」おじいちゃんはからからと笑った。「それはお前が善い子だからだ!善良であることの、どこが悪いんだ?うちの孫娘は恩を忘れ
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第7話
「私は、自分の時間も気力も全部注ぎ込んで、あなたを育てて、勉強だってずっと見てきた。それなのにあなたは、私は教養のない専業主婦で、勉強のことも人生のことも何もわかっていないって言ったのよ……だから愛名が優しく見えたんでしょうね。だってあの人は、あなたに勉強しろなんて一度も言わないもの。あなたの将来なんて、最初からどうでもいいんだから。でも、今の私も、もうどうでもいいの」私の言葉を一つひとつ聞きながら、辰哉は涙をぼろぼろ流して、必死に謝ってきた。「お母さん、本当にごめんなさい。お願いだから、僕を見捨てないでよ。宝槻家はもう完全に破産したんだ。来年の学費だって払えない。こんなときにお母さんまで僕を見放したら、僕どうしたらいいの」私は笑って、辰哉の本音をはっきりと言い当てた。「あなたは、自分の間違いを本当に悔いているんじゃない。ただ貧しい暮らしが怖いだけよ。でも残念だったわね。あなたが私に向かって、母親失格だと言ったあの日から、私の中であなたはもう完全に死んだの」そのとき、宝槻夫妻も慌てた様子で駆けつけてきた。二人は私の前まで来るなり、一枚の書類を私に叩きつけ、不機嫌さを隠そうともせず言い放った。「こんな恩知らずに育つなんて、夢にも思わなかったよ!江島グループとの提携が、どうしてあんなに都合よくお前の離婚した日に全部打ち切られたのかと思っていたが、今になってみれば、お前が最初から仕組んでいたんだろう!うちはお前をあそこまで育ててやったんだ、恩がないわけじゃないだろう。それなのに今じゃ、外で食事をして少し買い物をしようとしても、カードから一銭も引き落とせないんだぞ!」愛名は顔いっぱいに驚きを浮かべ、武志と芳美を見た。「えっ、お父さま、お母さま……一円も残ってないの?そんなはずない、そんなはずないわ!没落しかけているとはいえ、名家には違いないでしょう。あれだけ大きな会社だった宝槻家が、破産したからって、本当に無一文になるなんてあり得ないじゃない!」そう言いながら、その場にいた何人かは同時に私のほうへ顔を向けた。「夕奈、これ全部、あんたの仕業なの?」私は冷たく笑った。「私はただ、この数年、宝槻家に回していた便宜や資金援助を全部引き揚げただけよ。でも、私も知らなかったわ。宝槻家って、私の支えだけでどうにか生き
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第8話
「前みたいに、子どもの面倒を見るって言って夫婦そろってうちに来たくせに、実際は一日たりとも世話なんてしなかった。それどころか、そのまま家に居座って、追い出そうとしてもびくともしなかったでしょう」図星を突かれたのか、菜奈子はたちまち口をつぐんだ。屈強な男たちのボディガードをあれだけ見せつけられ、しかも浩一が地面に押さえつけられているのを目の当たりにして、愛名も怯えきってその場に立ち尽くし、何も言えなくなっていた。私は震え上がる愛名を二、三度見やった。「あなたたち、真実の愛だなんて言っていたわよね?自分の夫がこんな目に遭っているのに、あなたは遠くで見ているだけ。それが愛っていうの?」浩一はこの期に及んでも、男としての体面だけは守りたかったのだろう。私に向かって怒鳴った。「夕奈、何か言いたいことがあるなら俺に言え!俺の妻と、まだ生まれてもいない子どもをいじめるな!」浩一がなおも自分をかばってくれるのを聞いて、愛名はすぐさま便乗した。「お姉さま、私だって浩一さんが心配じゃないわけじゃないの。ただ私は今、お腹に赤ちゃんがいるの。ここで私まで飛び出していって、ボディガードに突き飛ばされて子どもに何かあったら、その責任はあなたが取るの?お金があるからって何?この男の心は結局、私のところにあるのよ!」私は冷たく笑い、そのまま愛名の前まで歩み寄った。「前に、あなたは江島グループのデザイナーだって聞いたわ。でも社員名簿や資料を調べても、うちの会社で働いていた痕跡は一つも見つからなかった。なのに、その収入や口座の動きは不自然なくらい高い。あなたの車や家は、いったいどうやって手に入れたのかしら?」私は手を伸ばして愛名の腹にそっと触れようとした。けれど、その手は浩一の父親の笹野健児(ささの けんじ)に遮られた。腹の中の、まだ生まれてもいない跡取りのこととなると、もう私が金づるかどうかなど、どうでもよかったのだろう。健児は私を力任せに突き飛ばした。「うちの孫に近づくな!」浩一の両親は、孫に対して異様なまでに執着していた。今では愛名の腹の子を守るためなら、私に手を上げることすらためらわなかった。あれほど必死な様子を見ても、私は腹が立つどころか、かえって滑稽に思えた。私はそのまま、地面に押さえつけられたままの浩一に声をかけ
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第9話
すべては、まるでなるべくしてそうなったかのように、自然な流れで進んでいった。私はボディガードに命じて、あの一家全員を叩き出させた。それから数日後。宝槻グループはついに正式な破産清算に入り、税務当局による再調査も行われた。その結果、宝槻グループの会長夫妻には、不適切な資金処理や脱税行為が数多く見つかり、そのまま税務当局に連行されて取り調べを受け、懲役三年の実刑判決が下った。その後も毎日のように、浩一は私の実の息子である辰哉を連れて江島グループ本社の前に現れ、うんざりするほどしつこく言い訳を並べ立てた。「お願いだ、俺が悪かった!全部ただの行き違いだったんだ。あの女に騙されていただけなんだよ。許してくれ、もう一度だけやり直すチャンスをくれ!今度こそ、義父さんと義母さんを支えて、江島グループをもっと大きくしてみせるから!」その魂胆が見え見えすぎて、笑えてくるほどだった。私は冷たく彼らを見下ろした。「今さらそんなことを言っても、もう何の意味もないわ。辰哉が私の息子なのは事実よ。だから養育費として毎月数万円はあなたたちの口座に振り込む。それだけ。今後二度と、私の前に現れないで」それでも、彼らは諦めなかった。何しろ江島グループは全国に名を轟かせる巨大財閥だ。毎月たった何万円だけで満足できるはずがないのだろう。やがて彼らは毎日のように江島グループの門前で騒ぎを起こし、しまいには辰哉に動画配信サイトで配信までさせ、私が夫と子どもを捨てたのだと泣きつかせ始めた。会社への悪影響を避けるため、私はためらいなく訴状を提出し、あの一家をまとめて法廷に引っ張り出した。その後の判決で、彼らは公の場で自らの非を認め、私に謝罪するよう命じられた。それだけでなく、精神的苦痛に対する慰謝料として6000万円を私に支払うよう命じられた。裁判所を出たあと、浩一は声を枯らして私に怒鳴り散らした。「お前はあんなに金を持ってるくせに、まだ俺に金を払わせる気か!俺たちに生きるなって言うのか、死ねってことかよ!」背後でわめき立てる声など、私は気にも留めなかった。そのまま振り返りもせず、スターライトルーフ仕様のマイバッハに乗り込んだ。だって、困るほど貧しいのは私じゃないもの。もともと浩一の一家は、誰かに寄生して生きることしかできない人間たちだ
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