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第4話

作者: 夕子
温かな血がどくどくとあふれ出し、内臓をかき回されるような激痛が紗季を襲った。

あまりの痛みに息もできず、全身が痙攣し、呼吸はだんだん弱くなっていく。

視界は真っ暗で、じわじわと押し寄せる脱力感に、意識は少しずつ沈んでいった……

どれほど時間が経ったのかわからない。再び目を覚ましたとき、紗季は看護師がほっと息をつくのが聞こえた。

「目が覚めてよかった……このまま意識が戻らなかったら、彼氏さんまで倒れてしまうんじゃないかと思うくらいでしたよ。

昨日運ばれてきたときは本当に危なくて、輸血用の血液も足りなくて大変だったんです。でも彼氏さんが必死に手配してくれて、なんとか助かりました。一晩中、眠らずにそばについていましたよ。すごく大事にされているんですね」

紗季は黙って聞いていた。やがて、かすれた声で口を開いた。

「彼氏ではありません」

言い終わるより早く、颯真がドアを開けて入ってきた。こちらを見る目には、心配の色がにじんでいた。

「紗季、ごめん。俺が悪かった。昨日、俺がそばについていれば、君が酔って事故に遭うことなんてなかったのに」

颯真の姿を見た瞬間、紗季は昨夜耳にした言葉を思い出し、無意識に手を握りしめた。

颯真は紗季がまだ怯えているのだと思ったのか、慌てて紗季をきつく抱きしめ、なだめるように囁きながら、何度も口づけた。

バーで、紗季を「あんなの何でもない」と切り捨てた男と、目の前で必死に彼女を気遣う颯真は、まるで別人のようだった。

胸がひどく痛んだ。紗季は胸元を強くつかんだまま、しばらく息をすることもできなかった。

それから数日、紗季の回復が思わしくないと見るや、颯真は仕事をすべて後回しにし、病室にこもるようにして彼女のそばにいた。

さらに特別病棟のワンフロアを丸ごと貸し切り、専属の医師や看護師を手配し、二十四時間体制で紗季を看てもらった。二度と紗季に何か起きないよう、細心の注意を払っているようだった。

周りの人たちは皆、紗季は幸運だと言った。こんなにも一途で深く愛してくれる恋人に出会えたのだから、と。

けれど紗季は、ずっと無表情のままだった。

「どうしたの?気分が晴れない?入院が長くて退屈になったんだろう?あと二日したら退院できるから、そしたら気晴らしに連れていってあげる。欲しいプレゼントがあるなら、何でも買ってあげるよ」

紗季にはわかっていた。颯真がここまでしているのは、ただこの芝居をもっと本物らしく見せるためだ。

そうすれば、紗季が真実を知ったとき、もっと深く傷つくから。

紗季が首を横に振り、何か言おうとしたそのとき、颯真のスマホが鳴った。

ちらりと見ると、相手は莉緒だった。

まもなく颯真は適当な理由をつけ、慌ただしく部屋を出ていった。

「ちゃんと休んでいて。急ぎの仕事を少し片づけてくる。すぐ戻るから」

紗季は颯真の言葉に従わず、気配を消して後を追った。

階下の庭園まで来ると、花壇の向こうで莉緒が颯真の胸に飛び込むのが見えた。泣きそうな顔で、声まで震わせている。

「颯真、紗季が事故に遭っただけで、あんなに大騒ぎして、何日も病院に付きっきりで……まさか、本当に紗季に情が湧いたんじゃないでしょうね?」

颯真は莉緒の腰を抱き寄せ、軽くため息をついた。

「何を考えてるんだ。全部、芝居に決まってるだろう?」

莉緒は唇を軽く噛み、半信半疑のまま涙のにじむ目で颯真を見つめた。

「本当に?じゃあ、どうして最近ずっと私に会いに来てくれなかったの?」

「あの事故、お前が仕組んだんだろう?頼んだ相手がしくじって、あちこちに証拠を残していた。この数日、俺は監視カメラの映像を消して、車を処分して、そいつを海外へ逃がすのに追われてたんだ。もし足がついて、お前まで捕まったら、俺は耐えられない」

颯真の目に浮かぶ本気の心配そうな色を見た瞬間、莉緒は堰を切ったように泣き出した。

「ごめんなさい。またあなたに面倒な後始末をさせちゃって……でも、もうすぐ母の命日なの。紗季が憎くて仕方なかった。生きているだけで許せなかったの。だから殺してやりたかった。本気で、死ねばいいと思ったの!」

颯真はティッシュを取り出し、莉緒の涙を拭った。その声はやさしかった。

「わかってる。お前はしたいようにすればいい。俺がいる。誰にもお前を傷つけさせない。お前の気が少しでも晴れるなら、後始末くらいいくらでもしてやる」

二人の言葉が耳に入るたび、紗季の胸の奥が少しずつ冷えていった。

颯真が莉緒の嫌がらせを見逃してきたのは、どれも命に関わるほどのことではなかったからだ。紗季は、そう自分に言い聞かせていた。

けれど違った。

紗季は車に轢かれ、病院に運ばれ、生死の境までさまよった。颯真はその真相を知っていながら、莉緒を庇った。それどころか、監視カメラの映像を消し、車を処分し、実行犯を海外へ逃がすことにまで手を貸していた。

颯真にとって、自分の命など、少しも大切ではなかったのだろうか。

莉緒を愛しているから、彼女のしたことを、そこまで許せるのだろうか。

その瞬間、紗季の心にかろうじて残っていた最後の愛情が、跡形もなく燃え尽きた。

紗季は虚ろな目のまま身を翻し、立ち去ろうとした。けれど感覚のない足先が、空き缶を蹴ってしまった。

音を聞いた颯真が振り返り、紗季を見た瞬間、彼の目が大きく見開かれた。彼は初めて取り乱した。

「紗季?どうしてここにいるんだ?!」

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