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5.地獄寸前

last update 公開日: 2026-02-14 17:00:00

「ねぇ、フェンラン。女性の方はここにいる方だけ ? 」

「ああ。他にもいたけれど。わたし達と群れるのが嫌な子、一緒にいても男どもに気を許した子。そういう女から消えていくの」

「消える……。ここから抜ける……死ぬ方法があるのか !? 」

涼の問いにフェンランが立ち止まり、冷たい顔で見下ろす。着物の昇り龍と目が合った涼は、その奥から再び吹き出す赤色に気まずさを隠せない。

「あんた、自殺者かい ? 」

「……そうです」

「……」

女豹等と生易しいものでは無い。フェンランの持つ『怒り』の強襲はまるで雷のように、晴れていても不自然に起きる天候のようだ。

「ふん。他の連中に言わないことだね。「『自殺』したいなら殺してもいいんだろ ?」ってね。これがここにいる奴らの思考回路さ。

でも、無理なのさ。この『城』には意思がある。神のようなものでさ。『城』が決めるまで、体は与え続けられる」

「『城』に出てもいいと認められるにはどうしたらいいんだ ? 」

「黙りな。そんな話はしていない。

ここには罪を犯したくてウズウズしてるサイコパスの巣窟。そこに「殺してください、死にたいです」なんて自ら言う羊が来たらどうなるか……見せてやるよ」

そういうとフェンランは涼の腕を抓るように強く掴み、階段を降りたキリのいい階の牢へ連れていった。

「ご覧よ」

その牢には二人の人形がいた。片方は小柄だが薄汚れた眼鏡の男の人形。彼は自分の腕や額をひたすら壁にゴリゴリと擦り続けている。ストレスか……自傷行為に近いものなのだろうか ? どちらにせよ、話が通じると思えない。

その男が立つベッドの上に、もう一体の人形が座っていた。

座らされている、と言うのが正しいだろう。

俯き、とめどなく溢れる絶望の色。涼の視界にゾッとする程の黒い霧がかかる。この絶望は二体の人形それぞれから出ている。

「っ ! 」

思わず顔をしかめる。

そしてよく見ると、ある不自然な部分を見つける。

「あのベッドの人形……。彼は……いや、彼女…… ? 」

胸がある。

確かに顔は青年。身長も180はあるだろう。程よく筋肉質な体の人形だ。生前は相当な色男だっただろう。だがその胸部だけが不自然に膨らみがあるように見える。何よりその部分だけドレスのような露出的な服を着せられていた。

「あの本来の胸の持ち主はわたし達の仲間だった。沙弥乃って美人な女でね。

そこの細い眼鏡野郎。あいつとの勝負に沙弥乃は負けたのさ。その勝負に加勢した男がいる。あのベッドの男さ。でも結果は……中途半端に勝負に巻き込まれ、負けた女の胸部をカスタマイズされ、ここで眼鏡野郎のペットになったってわけ」

「……カスタマイズ……」

京が涼の髪色を危惧していた事を思い出す。

「いいかい ? 強い男に従うんだ。囲いになって、そして波風立てず生き残る。決して正義感なんて持つんじゃないよ」

フェンランが吐き捨てるように呟いた。

「そんな……」

牢を後にし、再び階段を降りる。

「あんたには不本意なんだろうが、まぁそれでもさ。ほら」

フェンランは涼に、仲間の女達を見るよう誘導する。

取り巻きの女達は皆、強く頷き、涼に微笑んでみせる。

「仲間が出来ない孤独な世界じゃない。上手くやってきゃ、それなりに楽しく生きていける」

「うん……」

そして遂に辿り着く。

『城』の最下層。

上を見上げるととてつもない牢の数だ。極小ブロックのように並べて積み重ねてを繰り返し漏斗状になっている。

そして天井はあの薄気味悪い紫色に光る、針が何本も付いた時計盤がある。

最下層の牢は風変わりな物を並べている人形の牢があった。ここで朽ち果てたか、奪われたかした腕や足のパーツを売る店だ。服や、嗜好品を売る雑貨屋もあるようだ。

と、なれば当然、金か、それに変わるナニカがあるということだ。

「涼〜、遅ぇよ。……来て早々女の相手か ?

フェンラン、困るぜ〜俺の同居人を誑かすなよぉ」

京は有刺鉄線で囲われた場所に、先程の長髪の男と共に入っていた。

「人聞きの悪い。ねちっこいのに絡まれてたから、わざわざわたしが連れてきたんだ。感謝しな」

「あ、そっか」

京はヘラヘラと涼を見て笑う。一方相手の長髪の男は涼と目が合うと、まるで獲物を狙う犬のように涎を垂らしてニヤリと口角を上げる。

「お前がいいなら俺は戦わないけど……もしかしてお節介だったか ? 涼、ペコラとペットごっこしたかったか ? 」

「はぁ !? ゼッテー無理だよ。頼むよ京。俺、あいつと同室だけはやだよ !! 」

「そっか。じゃあ、任せな」

京は軽くジャンプすると、踊るような足取りで闘技場の真ん中へ躍り出る。

その瞬間、『城』全体から歓声が湧いた。

Foooooooooo !!!!!

「うっ ! 煩……」

思わず耳を塞ぐ涼を見てフェンランが笑う。

「ここじゃこれくらいしか娯楽がないからね。でも、京が相手じゃ誰も賭けをしないけどねぇ」

「フェンラン、聞こえない ! なんて言ったの ? 」

フェンランは煙管に新しい葉を詰めると再び火をつける。

「よく見てろって事さ」

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