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4.女囚 風蘭《フェンラン》

last update 게시일: 2026-02-13 17:00:00

「京、待って…… ! 」

    涼が慌てて立ち上がると、長髪の男の取り巻きが押さえ込んだ。

「離せ ! 痛ぇな !! 」

    口をついて出たセリフに自分で驚く。

(痛い !? 本当に痛覚がある !? 人形の体なのになんで感覚まで再現されてるんだっ !? )

「お前は商品だ。下層まで来い ! 」

    凶悪そうな人形だ。自分の染髪された姿を考えると、この連中も生前を模して作られているはずだ。もし街中でこんな奴がいたら涼は絶対に近寄らないだろう。いかにもな髪の剃り込みにピアスだらけの顔。

「行く ! 行くってば !! 触んな !! 」

    涼の頭を掴んで引き摺ろうとする。元より京と離れたら、こんな奴ばかりかもしれない場所に置き去りにされるのはごめんだ。

    京も京で涼には既に目もくれず、さっさと一人で下層へ降りてしまった。

「あんたら、やめときな」

    抵抗を諦めそうになった時、涼の背後から女の声で呼び止められた。

    ピアス男は涼を掴んだまま睨み返す。

「下層に連れて行きゃいいんだろ ? わたしが連れて行くから、乱暴はおやめなさいな」

「ぐぅぅ〜っ ! 生意気な女ボス ! 翡翠様に言って罰則を食らわすぞ !! 」

    女は煙管を咥えると、ツゥッと口に煙を吸い込み、その煙を何でもない顔でピアス男に吹きかける。

「臭ぇ ! 」

    この時、涼の目には異質が視えていた。大声で吠えるピアス男より、煙管を咥えた女ボスは恐ろしく、そして珍しい気質。感情の色だ。

    着物姿の女性は激しく強い『怒り』の感情を纏っていたのだ。その色は真っ赤で、心臓から燃えるように吹き出す血のような赤色だ。

「そいつとの同居を主人は望んでんだろ ? 景品に傷をつけるわけにいかないだろうにさぁ……」

「わ、分かってる。

いいか ? 一番下に来い ! ここに逃げ場はねぇんだからな !? 」

    ピアス男は階段へ逃げて行く。

「全く、しょうもないねぇ」

    一瞬。

    一瞬だ。

    ピアス男がいなくなると同時に彼女の赤色がスっと消える。

    怒っていたのは演技か ? 

    否、感情の起伏が激しい故の現象である事を涼は生前の経験から知っている。階段に逃げ込んだピアス男の方が余程人間らしい感情構造なのだ。この女は癇癪で何をするか分からない。

    しかし、助け舟を出されたのは事実だ。

    涼は乱れたシャツと髪を直すと女を見上げる。

「ありがとう……ございます」

「別にいいよ」

    艶かしい目尻の紅色に林檎のような艶のある唇。べっ甲の簪と纏め上げた黒髪。闇夜に昇る金の龍を連想させる強烈な和装。

    切れ長で鋭い瞳の睫毛が、涼の全身を何往復も見回す。

「あんた、京と同じ部屋なのかい ? 」

「そうみたいです。あ……申し遅れました、俺は一ノ瀬  涼と申します」

「0点の自己紹介だね」

「 ??? 失礼しました」

    涼が頭を下げようとするのを、女は目を逸らし、煙を吐きながら周囲を探る。

「わたしは、風蘭《フェンラン》。

ここじゃ個が個である以外何もない。特に苗字なんていらないんだ。

    ただ『涼』と名乗ればいい」

「フェン……ラン……。フェンって苗字じゃないの ? 」

「今言ったろ。

腕っ節に自信があれば好きにしな。そもそも、京だって『紅』なんて苗字、なかなかいないでしょうに。あれも偽名だろ」

「あ……そうなんですね……」

「その態度もやめるんだね。

    わたしはあんたを助けたんじゃない。次に京とわたしが戦って、あんたと同室を申し入れようかしら……と言えば分かるかい ? だってお前、気が弱く無害そうだ。わたしに危害を加えそうに見えないから、安心して眠れそうだし」

「そ、そんな理由で !? 」

「ふふふ。冗談だよ。でもここはそういう場所。気をつけなって事。

    でも始まっちゃったものは仕方が無いね。下層へ行くよ、ついてきなさいな」

    フェンランが動き出すと涼は瞬く間に周囲の 女性陣に囲まれる。

    ムッとする香水の香り。

「痛覚や嗅覚があるなんて……」

    絶望する涼を尻目にフェンランは小馬鹿にするように小さく微笑む。

「そりゃあ、何も感じない世界なら罰にならないじゃないか」

    壁をそっと撫でながら鉄の階段を降りる。

フェンランの下駄や女達のヒールの音が煩いほど鳴り、その姿を見たいのか牢にいた男たちもこぞって外へ出てくる。手摺から落ちんばかりに身を乗り出し、この集団を見下ろしていた。

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   2.棲み分け

     食事は朝晩二回。 体感時間で皆、なんとなく食堂へ向かうだけだ。 涼と京は二人向かい合って座る。 食べるものは選べない。 食堂にいるシェフ姿の人形が勝手に囚人のトレイに皿を置く。乱雑で、無言。目も合わない。 実に作業的な流れだ。 しかし、その皿に乗った食事に涼は言葉を失っていた。「食べねぇの ? 」 京が固まったままの涼を不思議そうに見た。「いや……監獄的なイメージがあったから……もっと自由度の少ない飯が出てく

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