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第4話

ผู้เขียน: 栄子
「パパ、聞いてる?」

辰は圭吾の手をぶんぶん振った。

「辰くん、チョコレートケーキが食べたいの!」

圭吾は咲良から視線を逸らし、足元の辰を見下ろして低く落ち着いた声で言った。「熱が下がったばかりだろう。まだチョコレートは駄目だ」

辰はあからさまにしょんぼりして、唇を尖らせて黙り込んだ。

圭吾はその小さな頭をポンポンと撫でる。「風邪が完全に治ったら、パパがまた買ってやるから」

「……うん、わかった!」

辰は素直に頷き、駄々をこねることはなかった。そしてすぐにショーケースを指差して声を弾ませた。「じゃあ今日は、ママが一番好きなイチゴのケーキを一つ買って帰ろうよ!」

「ああ、そうだな」

圭吾は短く応じると、店員にショートケーキのテイクアウトを頼み、スマホで会計を済ませた。

その間、彼はただの一度も咲良の方へ視線を向けることはなかった。

咲良は席に座ったまま、瞬きもせずにその光景を見つめていた。

子供をなだめる圭吾の姿は、ひどく忍耐強く、優しさに満ちており、まさに非の打ち所のない「理想の父親」そのものだった。

――もし私の子供たちが生きていたら、彼もあんな風に優しく微笑みかけてくれたのだろうか?

以前の咲良なら、すぐに席を立ち上がって彼の前に飛び出し、問い詰めていたはずだ。しかし、今の彼女はそんな真似はしない。

彼の「徹底した無視」こそが、咲良に対する最も残酷で明確な答えだったからだ。

辰という名のあの小さな男の子が、圭吾の父親としての愛情をすべて独占している。

彼はとっくに亡くなった双子のことなど忘れ去り、新しい家庭と新しい子供を手に入れ、もはや咲良の知る「良き夫・御堂圭吾」ではなくなってしまったのだ。

二人の結婚は、すでに中身のない腐りきった残骸に過ぎない。今さら何を問い詰め、どれだけ罵り合ったところで、何の意味もない。

ただ、あの子供をこれほどまでに慈しむ夫の姿を見せつけられて、恨まないでいられるはずがなかった。無念のうちにこの世を去った自分の子供たちを想うと、血の涙が流れるほど悔しかった。

一体どうして、彼はあんなにも平然としていられるのか。

咲良の胸中で渦巻く怨念に、圭吾は気づく素振りすら見せなかった。

彼は片手にケーキの箱を提げ、もう片方の手で辰と手を繋いでカフェを後にした。

すらりと背筋の伸びた長身の男の隣で、辰が弾むような足取りで歩いている。日の光を浴びながら、路肩に停めたマイバッハへと歩いていく父と子の姿。

誰の目から見ても、それは絵に描いたような心温まる親子の風景だった。

カフェのカウンターの中で、その背中を見送っていた若いアルバイトの女性が、頬に手を当ててうっとりとため息をついた。

「はぁ〜、結婚するなら絶対あんなイケメンがいいよね。パパが超絶イケメンで、息子も天使みたいにかわいいとか、遺伝子どうなってんの!? 一体前世でどんな善行をすれば、あんな旦那さんと結婚できるんだろ……」

店内に流れるボサノバのBGMでさえ、彼女のその無邪気な感嘆の声をかき消すことはできなかった。その一言一言が、今の咲良にとっては鋭い嘲笑となって突き刺さる。

琴音はビクビクしながら咲良の顔色を窺った。「咲良……大丈夫?」

咲良は血の気のない唇を固く引き結び、テーブルの下で爪が手のひらに食い込むほど拳を握りしめていた。

彼女の記憶の中の圭吾は、冷徹なまでのワーカーホリックだった。性格は冷淡だが、夫としての義務は果たし、記念日には必ず秘書に手配させた高価な贈り物をくれ、「御堂の妻」としての体面と尊厳は十分に守ってくれていた。彼女は、圭吾とはそういう不器用な愛情表現しかできない人間なのだと、ずっと信じてきたのだ。

だが、この二日間の出来事が、そんな彼女の甘い幻想を容赦なく打ち砕いた。

五年間という夫婦の絆も、失われた双子の命も。結局のところ、愛人の執念と、あの男の子が呼ぶ「パパ」という甘い声には敵わなかったのだ。

その時、バッグの中でスマホが短く震えた。

取り出してみると、一通のメッセージが届いていた。

送信者は、圭吾。

【今夜は帰る】

言い訳でも謝罪でもない、たった一言の絶対的な命令。

その短い文字列を見つめ、咲良は氷のように冷たい笑みを唇の端に浮かべた。

ふっと漏れた自嘲の吐息には、彼女がこれまで流してきた血の涙と、筆舌に尽くしがたい絶望が滲んでいた。

琴音はそんな親友の姿を見て、もうどんな慰めの言葉も紡ぐことができず、ただ痛ましそうに目を伏せた。

その時、琴音のスマホが着信を告げた。

橘湊からだ。

「あ、橘先輩……えっ!?熱を出した? いえいえ、全然大丈夫です、子供のことが最優先ですから! こちらの事情は私から友達にうまく説明しておきますので……はい、お大事に」

通話を終えた琴音を、咲良は静かに見つめた。「どうかしたの?」

琴音はスマホを下ろし、困ったような顔で言った。「先輩の娘さんが急に熱を出したらしくて、今から病院に連れて行かなきゃいけないんだって。だから、今日の打ち合わせは別の日にお願いしたいって」

「橘弁護士って、結婚してたの?」

「してないわよ。その子はね、先輩の初恋の元カノの子供なの」

琴音は声をひそめ、テーブル越しに身を乗り出してきた。

「元カノがガンで亡くなる前に、先輩にその子を託したらしいのよ」

「それじゃあ、血は繋がっていないの?」

「当たり前じゃない!」

橘の事情を話す琴音は、感心したように、そして少し呆れたように首を振った。「二人は大学卒業と同時に別れ、先輩は海外のロー・スクールへ、彼女は別の男と結婚したの。でも、妊娠中にガンの宣告を受けてね。しかもお腹の子が女の子だったから、婚家の連中からは厄介者扱いされて、実家の親も面倒を見切れなくて見捨てたらしいのよ。それを知った先輩が、昔のよしみで莫大な治療費を肩代わりしてあげたの。でも結局彼女は亡くなって、残された子供を引き取る人間が誰もいなかった。だから、先輩が養子として引き取ったのよ」

それを聞いた咲良は、無意識のうちに自分の平らな下腹部にそっと手を当てた。

琴音はさらに言葉を続ける。

「その女の子、未熟児の早産で生まれてきたらしくて、生まれつき体がすごく弱いの。前に先輩の恩師の家で開かれた食事会で一度だけ会ったことがあるんだけど、もう五歳になるのに、二、三歳くらいにしか見えないくらい小さくてガリガリだったわ。将来は美人になるだろうなってぐらい顔立ちが父に似てるんだけど、お母さんには全然似てなかったな……とにかく、しょっちゅう体調を崩すらしくて。向こうの主治医から、海外の環境が合わないんじゃないかって言われて、先輩は悩んだ末に、その子のためにわざわざ帰国して拠点を移したのよ」

血の繋がらない養子のために、そこまで自己犠牲を払える男。

咲良は素直に感嘆した。少なくとも、琴音の話を聞く限り、橘湊という人間の「人柄」に疑いの余地はない。

腕前に関しては、言うまでもなく超一流だ。

咲良は、橘湊にこの離婚訴訟を託すことを心の中で決めた。

「琴音。先輩に、まずはお子さんの看病を最優先にしてくださいって伝えて。私はいくらでも待つからって」

琴音はホッとしたように親指を立てた。

「了解! すぐメッセージ入れとくわ」

カフェを出た後、咲良は琴音と別れた。

彼女はそのまま自宅へは帰らず、行くべき場所があった。

都心にそびえ立つ『S&Kジュエリー』の本社ビル。

その地下駐車場に車を停め、咲良はバッグを手に降り立った。

ここは、六年前――咲良と圭吾が共同で立ち上げたジュエリーブランドの本社だ。

株式の保有率は、咲良が六十一パーセント、圭吾が三十パーセント。残りの九パーセントは他の少額株主が保有している。

咲良は創業者兼チーフデザイナーとして、設立一年目から驚異的な売り上げを叩き出し、またたく間に『S&Kジュエリー』を世界的なジュエリーブランドのランキングに押し上げるという快挙を成し遂げた。

彼女は、当時まだ学生だった紬を手取り足取り育て上げた。そして自分が妊娠五ヶ月に入った時、紬を異例の若さで副社長に抜擢し、自身は第一線を退いて産休に入ったのだ。

あの日、紬は感極まったように涙を流しながら咲良の手を固く握りしめ、こう誓った。「咲良さん! 私、絶対に咲良さんの期待と恩を裏切りません! 安心して元気な赤ちゃんを産んでください。私がみんなと一緒に、この会社を立派に守ってみせます。咲良さんが戻ってきたら、また一緒に最高のブランドを作り上げましょうね!」

――そして現在。

この会社の筆頭株主であり創業者であるはずの咲良は、一階の広々としたエントランスロビーで、二人の警備員に立ち塞がれていた。

「関係者以外の立ち入りは固くお断りしております!」

警備員が冷酷な声で威圧する。

咲良は冷ややかな目で二人の警備員を見据えた。

五年という月日は、あまりにも長すぎた。変わるべきものも、変わってはいけないものも、すべてが変質してしまったのだ。

咲良が口を開きかけたその時。

ロビーの奥にある専用エレベーターの扉が、静かに開いた。

中から降りてきたのは、取り巻きの役員たちを引き連れた紬だった。

彼女は迷うことなく、真っ直ぐに咲良のいる方へと歩いてきた。
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