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第8話

Autor: 甘寧
last update Última actualización: 2025-09-22 16:00:00

仕事を終え、会社を出ると奏が車の中から手を振っているのが見えた。

「お待たせ。待たせちゃった?」

「いいえ。私も今来たところです」

助手席のドアを開け、スマートにエスコートしてくれる。会社の前と言うこともあり、チラホラ知った顔が視界に入る。その顔は、驚きと興味で輝いていた。

(……場所を間違えたな……)

これは週明け面倒くさそうだと、今から頭が痛い。

「ははっ。次、会社に来るのが憂鬱って顔してる」

「……次は場所を考えます」

奏の方は楽しそうに笑っているが、柚の方はとても笑える状況じゃない。本当の恋人ならまだしも、この人は仮初の恋人……下手な誤解は招きたくない。

「僕と一緒なのを観られたらまずい人でもいるの?」

「い、いませんよ!」

「そうなんだ。良かった」

揶揄ったような口ぶりに慌てて否定の言葉をかけると、柔らかな笑顔が返って来た。その表情にドキッと胸が鳴る。

熱くなる顔を誤魔化すように窓の外に視線を向けた。

「あ」

窓越しに煌と目が合った。

煌は驚いた表情をしながら茫然と立ちすくんでいた。

「どうした?」

「いえ、何でもありません。早く行きましょう」

「そうだね」

そうして走り出した車を、煌は見えなくなるまでそのまま見つめていた。

「誰だ……あいつ」

***

「ご馳走様」

柚は目の前の空になった皿を見ながら満足気に微笑んだ。

奏の連れて行ってくれる店はどれも美味しくて良かったんだが、何て言うか庶民の味からはかけ離れていた。料理一つ一つ盛
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