Share

第11話

Author: Hayama
last update publish date: 2026-04-28 17:00:00

ただソファーに座ってぼんやりと画面を眺めているだけで、時間が溶けていくように過ぎていった。心のどこかで何かしなければと思いながらも、体は動かず、ただ沈んでいくような感覚に支配されていた。

部屋の静けさが余計に孤独を際立たせ、時計の針の音さえ耳に刺さる。

ピンポーン

突然のチャイムに、心臓が跳ねるように大きく動いた。

…あの人が、帰ってきたのかな。

ソファからゆっくりと身を起こし、玄関へ向かうために立ち上がった。

その時、秘書の声が遮るように響いた。

「ひより様は自分のお部屋に」

なぜ止められるのか、理解できない。心臓が早鐘を打ち、胸の奥に不安が広がる。

「え、でも」

戸惑いが声に滲む。何かがおかしい。

疑問と不安が重なり、足がすくむ。

「お願いします」

彼の声は固く、拒絶を含んでいた。私は押し返す力を失い、ただ頷くしかなかった。<
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第114話

    朝倉さんの卑劣な挑発に対し、私は怯むことなく真っ直ぐに彼を見据えた。「あなたが根も葉もない嘘ばかりおっしゃるので、最後まで聞いていられなかっただけです」私の強気な反論を聞いても、朝倉さんは痛痒も感じていないように口角を上げた。自信に満ちたねっとりとした声で、自分が握っている情報が絶対の真実であると仄めかしてくる。「俺の情報網が外れたことなんて、今まで一度もないよ」彼のその自信過剰な態度を打ち砕くように、智哉さんが鼻で笑った。「よく言う。三年前にガセネタを掴まされて、事業を傾かせかけたのはどこの誰だったか」智哉さんの鋭い一撃に、朝倉さんは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐにわざとらしく肩をすくめてみせた。けれど、彼は何か面白いものを見つけたように目を細めた。「それは随分前の話だろ? けど、確かに…二人の雰囲気があの時とは随分変わったみたいだね」彼に突然雰囲気が変わったと指摘され、私は心臓がドキリと跳ねた。契約関係でしかなかったあの頃と違い、今の私と智哉さんの間には、名前のない何かが芽生え始めている。友情と言うには大袈裟だけれど…それ以上に……。私は動揺を悟られないよう小さく首を傾げた。「そうですか?」私の微かな動揺を見逃す朝倉さんではない。「うん。この関係に慣れてきたのかな?」これ以上彼に好き勝手言わせておけば、いつボロが出るか分からない。周囲には他の招待客もいるのに。私は焦りと怒りから、思わず声を少しだけ荒げて彼の言葉を遮ろうとした。「……朝倉さんっ」私が声を尖らせると、朝倉さんは両手を軽く上げて降参のポーズをとった。ただ、その目には微塵も反省の色はなく、むしろ私の反応を面白がっているよう。「はいはい。さっきの様子も見させてもらってたよ」「さっきのって……」朝倉さんは楽しそうに笑った。彼にとって

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第113話

    彼は周囲の招待客たちの視線を気にすることなく、少しだけ私の耳元へと顔を寄せ、どこか面白がるような、感心したような低い声でポツリと呟いた。 「……意外だな」 突然の発言に意味が分からず、私はコロンと小さく首を傾げて彼を見上げた。 「え?」 智哉さんは微かに口角を上げ、目を細めた。 「真正面から食い下がるとは思っていなかった」 彼の言葉に、私は少しだけ気恥ずかしくなって視線を逸らした。 ただ守られるだけの弱い存在でいたくなかったし、何より彼を不当に貶められることがどうしても許せなかった。 私は自分自身に言い聞かせるように、彼の妻となる人間としての覚悟とプライドを込めて、少しだけ胸を張って強がってみせた。 「……私は、智哉さんの婚約者ですよ」 私の言葉を聞いて、智哉さんはひどく満足そうに、柔らかく甘い視線を私に向けた。 「あぁ。それでいい」 彼が私の髪にそっと触れようと指先を伸ばしかけた、その二人だけの親密な空気が完成しようとしたまさにその瞬間。 「……厄介な奴に見つかったな」 智哉さんの手が止まり、背後からひどく軽薄で甘い声が割り込んできた。 「やあ、智哉。それに、ひよりちゃん。今日の主役はすっかり君たちみたいだね。一段と綺麗になったんじゃないかな」 声のした方へ振り向くと、そこにはシャンパングラスを片手に、余裕めいた薄ら笑いを浮かべて立つ朝倉さんの姿があった。 「朝倉さん…」 「気安く俺の妻の名を呼ぶな」 警戒心を露わにする私を見て、朝倉さんは楽しそうに目を細めた。 智哉さんが私に対して執着を見せれば見せるほど、彼にとっては奪い甲斐のある弱点として面白く映るのだろう。朝倉はグラスを揺

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第112話

    会場の扉が開くと、眩いシャンデリアの光と豪奢な空間が広がっていた。 行き交う招待客の視線が、智哉さんに一斉に集まる。彼は私の腰にそっと手を添え、優雅にエスコートしながら、このパーティーの主催者である東条家のもとへと歩み寄った。 「本日は、盛大なレセプションにご招待いただき感謝いたします」亮介の父親が、顔いっぱいに愛想の良い笑みを浮かべて出迎えた。 「これはこれは、篠原社長ではないですか。お越しいただき光栄の至りです」 彼の背後から、見覚えのある男が姿を現した。 亮介は智哉さんを一瞥した後、ねっとりとした視線を私へと絡みつかせ、馴れ馴れしい笑みを浮かべて距離を詰めてきた。 「ひよりさん、お久しぶりですね。一段と美しくなられた」 背筋に冷たいものが走る。私たちの過去を、なかったことにしようとしているのだろうか。 腰に添えられた智哉さんの手に微かに力がこもるのを感じ、私は彼を安心させるように堂々と微笑み返した。 「東条様、この度はおめでとうございます。お招きいただき光栄です」 私の隙のない挨拶が気に入らなかったのか、わざとらしく眉を下げてみせた。 智哉さんという婚約者が隣にいるにも関わらず、まるで二人だけの秘密があるかのような、嫌らしい声で囁きかけてくる。 「そんな他人行儀なご挨拶、ひどいじゃないですか」 智哉さんを挑発しようとする彼の浅はかな意図が透けて見え、私は内心で呆れ果てていた。 ここで私が動揺すれば彼の思う壺だ。 「そうですか? 東条様に対する礼儀として、当然の振る舞いかと存じますが」 私の冷たい反応を余裕の表れと捉えたのか、亮介はさらに一歩近づき、周囲の客にも聞こえるようなわざとらしい声で爆弾を落としてきた。

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第111話

    「はい。覚悟はしてます」 「まともな味方をつけるまでに相当な時間がかかるだろう。篠原の妻と分かれば、お前から甘い蜜だけを吸おうと群がってくるハイエナのような奴らばかりだからな」 彼が日々、そんな相手に一人で戦っているのだと思うと、ますます私がしっかりしなければという思いが強くなる。 私は恐怖を飲み込み、覚悟を決めるようにギュッと膝の上のドレスを握りしめると、彼を安心させるために力強く頷いてみせた。 「心配しないでください。上手くやってみせます」 私の固い決意を聞き届けた智哉さんは、小さく頷いて納得したようだった。 けれど、彼はふと何か引っかかっていたことを思い出したように眉をひそめ、訝しげな視線を私へと向けてきた。 「そもそも、そのサロンの話をどこで聞いたんだ」 急に話題が変わったことに私は小さく瞬きをした。 「サロンの話ですか? さっき、お仕度をしてもらっている時に、佐々木さんが教えてくれたんですけど…」 私が佐々木さんの名前を出した瞬間、車内の空気が一気に数度下がったような錯覚を覚えた。 「智哉さん…?」 「あまり、あの家政婦と親しくするな」 「え、どうしてですか」 初日に彼自身が彼女を評した言葉と、今の彼の態度がどうしても結びつかない。 「適度な距離を保て」 彼女の人柄まで否定するような言い方に、私は戸惑いを隠せずに反論の声を上げてしまった。 「でも、初日に智哉さんご自身が、『彼女は信頼できる人間だから間違いない』って、そうおっしゃっていたじゃないですか」

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第110話

    「でも、あそこでは各界の裏の繋がりとか、有益な情報がたくさん集まるって……」 私の必死の反論を遮るように、智哉さんはひどく呆れたような深いため息をついた。 「あんな場所で飛び交う、嘘か本当かも分からない無責任な噂話を鵜呑みにしてどうする気だ」 彼の冷ややかな正論に、私はぐっと言葉に詰まった。 「智哉さんは、それが嘘でも真実でも巧みに利用できる方なのだと思っていました」 私の口から出た生意気な言葉に、智哉さんは怒るどころか、自信に満ちた薄い笑みを口元に浮かべた。 「俺は、世論や権力を使って嘘を真実に変えることができる側の人間だ」 「それなら」 「だからこそ、他人が流した安っぽい嘘をわざわざ拾って信じる必要など、どこにもない」 住む世界が違いすぎる彼の言葉に、私は完全に返す言葉を失った。 私なんかが小手先の情報収集をしようと身を粉にしたところで、何でも思い通りに動かせる彼には、本当に何の役にも立たないんだ。 「すみません。少しでも智哉さんのお役に立てればと思ったんですけど。ただの余計なお節介でした」 完全に心を閉ざして俯く私を見て、智哉さんは「チッ」と小さく舌打ちをした。 少しだけバツが悪そうに顔を背けながら、彼は不器用すぎるフォローの言葉を付け加えた。 「俺のために無理をしてあんな場所へ行くというのなら、必要ないと言っているんだ」 「はい。分かりまし─────」 私の言葉に被せるように、智哉さんは窓の外の夜景を睨みつけたまま口を開いた。 「だが、お前があそこで交友関係を広げて楽しみたいというのなら…勝手にすればいい」 結局のところ、私が傷つかないように遠ざけたかっただけなのかもしれない。

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第109話

    窓の外の夜景が静かに後方へと流れていく中、私はふと、隣に座る智哉さんの強い視線が、先ほどからずっと私に向けられていることに気がついた。「あの、智哉さん? どうかしましたか?」流れる街灯の光が車内を定期的に照らし出し、彼の整った顔立ちを仄暗く浮かび上がらせる。「…いや」「ど、どこかおかしいですか? メイクが派手すぎるとか」私が不安になって身を縮めながら尋ねると、智哉さんは微かに眉をひそめ、ふっと短く息を吐き出した。そして、私から一切視線を外すことなく口を開く。「ただ、それなりに見えるようになったから少し驚いただけだ」素直じゃない彼の言葉に、私はポカンと目を丸くしてしまった。それなりに見えるなんて、さっきのよく似合っているという褒め言葉から随分と格下げされている。「もう…。でも、一応は褒めてくれているんですよね。ありがとうございます」私が少し不服そうにお礼を言うと、智哉さんは喉の奥でくくっと低く笑った。「それにしても、あの家政婦といつの間に仲良くなったんだ。メイクを任せるとは」私は彼を怒らせないよう、彼女の厚意を必死に弁解すべく慌てて口を開いた。「佐々木さんがメイクアップアーティストの資格を持っているらしくて、お願いしたんです」私が身振り手振りを交えて懸命に説明すると、智哉さんは疑り深い目を向けたまま、微かに眉間へ皺を寄せた。 そして、深くシートに背中を預け直し、不満げな低い声で短く応じた。 「そうか」智哉さんはそれだけ短く吐き捨てると、興味を失ったように視線を窓の外へと向けた。これ以上彼女の話題を続けるのは得策ではないと悟り、私は少しだけ車内の張り詰めた空気を変えようと試みる。「あの、智哉さん。ご婦人方が定期的に集まる社交サロンというものをご存知ですか?」私が恐る恐る尋ねると、窓の外を見ていた智哉さんはピクリと反応し、微かに眉をひそめてこちらを振り返った。

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第6話

    車に揺られながら実家へと向かう道のりは、やけに長く感じられた。玄関の前に立つと、胸の奥がざわめき、手が震える。ドアノブに触れる指先は冷たく、開ける瞬間をためらう。けれど、深く息を吸い込み、意を決して扉を押し開けた。足を踏み入れると、リビングのソファーに母が座っているのが目に入る。「お母さん…」母の姿を目にした瞬間、胸の奥に押し込めていた感情が一気に溢れ出す。背もたれに身を預ける姿はどこか疲れ切っていて、私の視線を受け止めると小さく肩を震わせた。

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第5話

    妻…結婚……。 それは人生を根底から変える決断だった。けれどなぜ一年なのか、なぜ私なのか。「私とあなたが結婚…?それに1年というのは一体…」結婚という現実味のない響きと、一年という不可解な期限。その両方が私の心を揺さぶり、理解を拒む。「契約結婚だ。それ以上でも以下でもない」その言葉はまるで判を押された契約書の一文のようだった。結婚という言葉が持つはずの温もりや未来への希望はそこにはなく、ただ期限付きの取引の匂いだけが漂う。愛ではなく契約

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第4話

    「どうして私が…それより、どうして私の名前────」 言葉を最後まで続けることはできなかった。 胸の奥から湧き上がる疑問と恐怖を、声にしようとした瞬間、彼の腕が私の腰を強く引き寄せた。 近すぎる距離に心臓が跳ねる。抗う間もなく、彼の唇が私に重なった。 問いかけは宙に消え、答えを知る前に沈黙が支配する。 彼は唇を離すと、ただ静かに微笑んだ。その笑みは優しさとも冷たさとも取れる曖昧なものだった。 「何をしている……

  • 捨てられた私が、契約結婚で冷徹な彼に愛されるようになるまで   第3話

    この日が、とうとう訪れてしまった。私はパーティー会場の端で、ワインを片手に静かに佇んでいた。煌びやかなシャンデリアの光が眩しく、笑い声とグラスの音が絶え間なく響く中、心だけが冷たく孤立している。扉が開いた瞬間、亮介が園田家の令嬢を伴って登場する。その姿はまるで見せつけるための演出のようで、私の胸を鋭く抉った。周囲から「お似合いだわ」という声が漏れ聞こえ、華やかな祝福の空気が広がる。この場にいること自体が罰なのだと、痛感せずにはいられなかった。「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆さまに改めてご報告申し上げます。私どもはこのたび、婚約いたしました」その言葉が響い

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status