「あっ!」
「えっ!?」ふたりで同時に叫んだ。
蓮司は上半身裸でタオルを肩にかけている。きっとトレーニングをしていて汗をかいたからシャワーを浴びに来たんだ。私がここにいるなんて思ってもいなかったに違いない。
「ごめん! 使ってるって気づかなくて」
「い、いえ!私こそすみません!」パニックになった私は、とっさにドライヤーを蓮司に向けて構えてしまった。まるで武器のように。
「落ち着け、ひかり」
「あ…」我に返って恥ずかしさが倍増する。しかも顔にはスキンケアマスクを貼ったまま。見た目は完全に怪しい人だ。
「その…見てのとおりトレーニングしてたから、シャワー浴びようと思って」
「あ、はい。お疲れさまです」蓮司の筋肉質な上半身を見ないようにしなくちゃと思っても、視界に入ってしまう。
(うわあああ、思っていたよりもいい体ですごい…)
「あっ!」 「えっ!?」 ふたりで同時に叫んだ。 蓮司は上半身裸でタオルを肩にかけている。きっとトレーニングをしていて汗をかいたからシャワーを浴びに来たんだ。私がここにいるなんて思ってもいなかったに違いない。「ごめん! 使ってるって気づかなくて」 「い、いえ!私こそすみません!」 パニックになった私は、とっさにドライヤーを蓮司に向けて構えてしまった。まるで武器のように。「落ち着け、ひかり」 「あ…」 我に返って恥ずかしさが倍増する。しかも顔にはスキンケアマスクを貼ったまま。見た目は完全に怪しい人だ。「その…見てのとおりトレーニングしてたから、シャワー浴びようと思って」 「あ、はい。お疲れさまです」 蓮司の筋肉質な上半身を見ないようにしなくちゃと思っても、視界に入ってしまう。(うわあああ、思っていたよりもいい体ですごい…)
「あ、歩けますから…下ろしてください」「なに言っているんだ。危ないだろう。手も怪我しているのに」「もう大丈夫です」 だ、だって…今、蓮司に抱き上げられている状態で、バスタオル一枚隔てた状態とはいえ、私、裸なのよ!?「いいから。捕まってろ」「は…はい…」 そうだよね。私ごときの女性の裸なんか、蓮司は興味ないよね。 彼みたいなハイスペックでイケメン、お金持ちだったら、女性は選びたい放題だもの。 なにも、好き好んで私みたいな庶民のバツイチ女、選ぶわけがない。 自分で自分のことを否定しまくって悲しくなった。「あ…あの、助けてくれてありがとうございます」「このくらい大したことない。夫の務めだろう」 夫の務めで、お風呂場まで心配して来てくれる旦那様なんかそういない。 リビングに出た時だった。2回ほど電気がチカチカしたと思ったら、パッと灯りが点いた。(きゃあぁぁぁ—―――!!!!) どうしようどうしようどうしよう! 暗いから平気だと思っていたのに、電気が点くなんて聞いてない!!「ああああのっ。無事復旧したみたいなので、もう大丈夫です!」 なんとか降りようとして暴れた。「わ、こら、暴れたら――」「きゃああっ」 蓮司がバランスを崩し、私を抱き留めながら床に―― 蓮司が私の下敷きになって、私は、バスタオルがはだけた状態。「あっ、見ちゃダメですっ」 とっさに裸を隠そうとしたら、蓮司にそのまま抱きしめられた。「これで見えない」 確かにぎゅっと抱きしめられたら見えないけれど、それ以上に蓮司が密着していて、どうしていいのかわからない。「これじゃあ動けないな」「め、目をつぶっていてください」「確かに。それなら、ひかりが動けるな」「はい。庇ってくださってありがとうございました」 業務的に淡々と告げ、私はそっとその場を離れた。 何事もなかったように部屋に戻る。 ノロノロと着替えて、お風呂お先でした、とリビングに向かって声をかけた。 パタン、と部屋にひき戻って、ずるずると扉の前にへたりこんだ。 お風呂に入っていたら停電になって、蓮司が助けにきてくれて、なんか裸を見られてしまった感があるけれど、それって…それって――(あれは不可抗力ッッ!! わざとやったわけじゃないもん!) はあ。なにやってんだろ…。 私の裸なんか見
「そうだな。約束したな」 蓮司が一瞬複雑な表情を見せたような気がした。でも、きっと私の見間違いだろう。 片付けを終え、リビングに移る。夜景が美しく広がる大きな窓の前で、蓮司は振り返った。「週末の約束は覚えているか?」「もちろんです。たこ焼きですね」「ああ。楽しみにしている」 そう言って微笑む蓮司を見て、胸が苦しくなった。「では、お疲れ様でした」「ああ、お疲れ様。風呂、先に入ってくれ。ゆっくり休むんだぞ」 妻をねぎらう、まるで本当の夫のような優しい声だった。 お風呂に入って湯船に浸かると、堰を切ったように涙があふれてきた。(どうして…どうしてこんなに切ないの…) 蓮司の優しさが、温かい笑顔が、『俺のひかり』という言葉が、胸の奥で渦を巻いている。
「ひかり?」「あ、ごめんなさい! すぐ持って行きますね」 いけない。「うまそうだ」 しっかりしなくてどうするの。「いただきます」 一口食べて、蓮司が満面の笑みを浮かべる。 まずい。ドキ、ドキ、と、心が高鳴ってしまう。「これはうまいな!」「よかったです」 別のソースを勧め、お味噌汁を渡した。それを渡す時、彼の長い指に触れた。(あっ…) 彼の方はなにも意識していない。ぜんぶ、私だけ。 こんな…どうしよう。蓮司を意識しすぎておかしいよ。 これ以上私の中に入ってこないで。 入れてあげないって思っていたのに、容易く割り込まないで。 球児から守ってくれて、無防備な笑顔を見せて、私の心を乱さないで。「難しい顔をしていないで、ひかりも食べたらどうだ」「そうですね。いただきます」 蓮司の言う通りだ。今、あなたのことを考えていても仕方がない。 まずは蓮司の契約妻を見事にやり切って、お祖父様を納得させて、それから――…「うまいだろう?」「ふふ。そうですね」「俺のひかりが作ったんだから、当然うまいに決まってる」(また…) 俺のひかりってどういうつもり? 意識させようとして、わざと? …そんなわけないよね。蓮司になんのメリットがあるの。 私なんかを意識させたって、しょうがない。 蓮司は私を球児から守ってくれて、
食材を買い込み、私たちは帰路に着いた。私には不釣り合いな豪華絢爛のホテルのようなエントランスを通り抜け、庶民の激安ギョムースーパーで買った買い物袋を提げて部屋に入る。 お買い物も、きっとこのマンションにお住いのお金持ちの人たちは、優雅な高級紙袋か、もしくはブランドものの買い物バッグに入れて持ち帰っているはず。こんなビニール袋はないでしょう。「さあ、俺はなにをすればいい?」 スーツから私服に着替えてリビングに集まった。時間は19時半を回ったところ。蓮司は手伝う気でいてくれている。 時短で手早く料理するにはひとりでぱっぱとやった方が効率いいんだけど…。「座って待っていてくれたらいいですよ」「そういうわけにはいかないだろう。俺がリクエストをしたんだ」「一緒にやりたいのですか?」「まあ、そうとも言えるな」 さっきも楽しそうにセルフレジを打っていたし、私が普通だと思っていることは、蓮司にとって初体験なのかも。「じゃあ、一緒にやっていただけますか? お願いします」「任せろ」 手を洗って早速スタンバイする蓮司。「まずはなにからやればいい?」「先に白ご飯を炊きます。その間に玉ねぎの皮を剝きましょう。やっていただけますか?」「わかった」 剥き方を教え、私から玉ねぎを受け取り、早速蓮司は皮を剥いた。結構うまい。器用なのね。 ご飯を仕掛けて、剝いてもらった玉ねぎをフードプロセッサーで小さくした。軽く炒めて塩コショウ。冷やして作ったつなぎと合わせて、調味料を加えてミンチと混ぜる。「これを混ぜていただけますか?」「わかった」「それが終わったら、手でこねます」「こうか?」「上手です! そう、優しく作ってくださいね」 蓮司は手際よくハンバーグをこねてくれた。その間に付け合わせやサラダを作り、味噌汁を
真白さんの家でお母さまと蓮司が監修のもと、花嫁修行に励んだ。30分で退席すると伝えてあったので、難なく帰る。仕事でどうしても今日中にやらなければならない事案がある、と蓮司は真顔で言っていたけれど、ほんとうはハンバーグを作るというミッションがあるだけ。 いいのかな…。 嘘はついていない。このミッションも立派な『仕事』であることに変わりはない。 でもなぁ~~~~~。「さあ、スーパーはどこがいい? 案内してくれ」「別に近所のスーパーでいいですよ」「そうなのか」「どうせなら、安いスーパーにしましょう。おいしいものが安く売っている、ギョムースーパーがいいですね」 業務・店舗用の大きなお肉や調味料が豊富に、しかも激安で売っているスーパーがある。全国展開していて、どこにでもあるものだ。「行きましょう」 店舗検索すると、車で10分ほどの距離にいちばん近くの店舗があるので、そこに行ってもらうことにする。駐車場が無いので近くで待ってもらうことにして、私と蓮司がそのスーパーに向かう。 狭い入口前から、激安品が積み上げられている。「わあ、安い♡」 目がハートになるくらい、ティッシュからキッチンペーパー、ラップ、なんでも安い!!「すごい所だな…」 蓮司は狭さと混雑具合に若干ヒいているみたい。「庶民の味方のお店ですから! さあ、買うわよ~」 カゴを持って合い挽きミンチのお得パック、玉ねぎ、食パン、牛乳、玉子、デミグラスソース、照り焼きソース、もみじおろし、ポン酢、調味料類、チーズ、バンズを買った。他にも欲しい調味料があるので、どんどんカゴに入れていく。途中で蓮司にカゴを取り上げられた。重いから持ってくれるとのこと。優しいな。 球児(元夫)なんか、カゴすら持ってくれたこと無いよ。「たくさん買うんだな」「蓮司の家は全然調味料なんかが揃っていないから、買っておかなきゃ」「それはこれからも家で飯を作ってくれるというこ