Share

第6話

Author: カンカンドド
澄人は、とても長い夢を見た。

時は五年前――彼が初めて瑠璃と出会った日へ戻る。

そのころ、彼はまだ視力を失っておらず、いちばんの楽しみはアウトドアでの冒険だった。

その日、瑠璃が険しい山道で足を踏み外し、脚を折って高熱にうなされ、今にも命が尽きそうになった。

彼は持っていたすべての保存食と水、それに薬まで差し出して、なんとか彼女の命を取りとめた。

瑠璃が目を覚ましたのは三日後のことだった。そのとき、澄人はすでに力尽きて倒れていた。

彼女は自分の手首を切り、十度にわたって血を飲ませ続け、救助隊の到着まで二人で持ちこたえたという。

瑠璃が澄人を追い求めていた頃、彼女はよく言っていた。

あの山を生きて出られたのは、きっと前世からの宿縁。運命に結ばれた生死を共にする絆なのだ、と。

だが、場面はふいに反転する。

目の前で瑠璃は、俊也を守るために、澄人を猛獣の前へと突き放していた。

澄人は思わず叫び声をあげ、はっと目を見開く。

だが手足は固く縛られ、視界は黒い布で覆われており、何ひとつ見えない。

ただ、かすかに人の声が聞こえる。

「藤堂社長、あなたがうちの土地を奪ったせいで、うちは破産寸前だ。このまま何もなしってわけにはいかないだろう?」

「夏川沙耶(なつかわ さや)、あんた、私を拉致するなんて正気じゃないわね。命が惜しくないの?」

それは、瑠璃の声だ。

そして、沙耶――彼女の宿敵である。

沙耶は高らかに笑い、狂気じみた調子で言う。

「死ぬのも構わないわ。あんたを道連れにしてやる。でも、あんたをただ殺すだけじゃ安すぎるのよ」

彼女はしばらく澄人と俊也を眺め、口元を不気味に吊り上げて、笑った。

「ゲームをしようか」

瑠璃は手をぎゅっと握りしめ、目に殺気を宿して言う。

「無駄口はやめて。彼らを放す条件を言いなさい」

「お仕置きは三つ。あんたが選びなさい。どちらを助けるか」

そして、彼女の合図ひとつで、澄人と俊也は沙耶のそばへと引きずり出される。

「ううっ!」俊也は怯えて必死にもがく。

澄人は歯を食いしばり、砂利が背中に食い込む痛みに耐える。

瑠璃はその光景を目にして、額に青筋を浮かべる。

「彼らを放して。私とあなたのことなら、ほかの人を巻き込む必要はない」

だが沙耶は耳を貸さない。

「一つ目は――海に投げ込むことよ」

瑠璃は息をのんで震えながら言う。

「あなたが望むものなら何でも差し出す。だから彼らを放して」

沙耶は目を鋭く光らせて言う。

「余計なことを言うんじゃない!選ばないなら、二人とも海に投げ込んでサメの餌にしてやる!」

このとき、俊也は沙耶に、ほとんど気づかれないほどの合図を送った。

沙耶の瞳がきらりと光り、澄人を一瞥して言う。

「じゃあ、こっちから」

言葉と同時に、澄人は蹴り飛ばされ、冷たい海へ叩き込まれた。

「だめ!」瑠璃の悲鳴が裂ける。

一瞬にして海水の塩辛く生臭い匂いが鼻と口を突き抜け、澄人は窒息感に覆われる。

彼は水中でもがき、肺が引き裂かれるような痛みに襲われる。

落とされ、引き上げられ――それを三度も繰り返された。

澄人はすでに息も絶え絶えだ。

沙耶は冷ややかに笑い、恐がっているふりをしている俊也を見つめて、わざとらしく脅すように言う。

「こっちも、いってみる?」

「やめなさい、夏川沙耶!」

瑠璃は目を真っ赤にし、声をかすらせながら叫んだ。

「わかった、私選ぶわ」

「おや?藤堂社長は誰を助けるつもり?安部澄人、それとも井上俊也?」

瑠璃の視線は澄人と俊也の間をしばらく行き来する。

「私が選ぶのは……」
Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 春風は尽きず、愛は静かに永く   第23話

    次の瞬間、瑠璃のスマホに立て続けにメッセージが届く。画面を埋め尽くす通知――【藤堂グループ資金繰り崩壊、時価総額九割蒸発】女はハイヒールを鳴らし、振り返りざまに言い残す。「もう私と夫の邪魔はしないで。じゃないと、残りの一割もすぐに消えるかもしれないわ」瑠璃はその場に凍りつき、目も眉も氷の粒に覆われている。彼女の視線の先で、車からすらりとした影が降り立ち、ソフィアの手を絡め取る。瑠璃の胸の奥に、いやな確信が芽生える。これが、生涯で最後に見る澄人の姿かもしれない。この先、彼女の世界に、あの自信に満ちあふれた少年はもういない。遥か海の向こうから、ただ幾度となく願い、憧れ、澄人の名を呼ぶことしかできなくなるのだ。瑠璃はよろめき、力の限り澄人へと駆け出す。「澄人!澄人!」男の影がふと立ち止まり、その気高い横顔は雪に照らされ、いっそう冷ややかに映える。「澄人、お願い。一度でいい、振り向いて」せめて、これから償い続ける日々に、ひとつだけ思い出を残してほしいの。瑠璃は息を詰め、期待を胸にその背が振り返るのを待った。だが男の歩みは一瞬だけ止まったきり、何事もなかったようにソフィアの手を取り、そのまま前へ進んでいく。澄人は一度も振り返らなかった。背筋を伸ばし、背筋をまっすぐに伸ばし、迷いも未練もなく、歩み去っていったのだ。――瑠璃、僕は言ったはずだ。もう二度と君を愛さない。もう二度と君のために立ち止まったりはしない。雪は静かに舞い落ち、彼とソフィアの肩を白く染めていく。二人はそのまま歩みを揃え、寄り添いながら果てしない時の先へと歩んでいく。……澄人がプロポーズをしたのは、穏やかであたたかな春の日だった。きっかけは、ソフィアが何気なく口にした一言――「人生の大切な日に、美しいドレスを着ていたい」だからこそ彼は、この特別な日をアマルフィ海岸の春に捧げたのだ。このプロポーズの式に招かれたのは、二人にとってかけがえのない親友たちだけだ。夕陽に照らされた海は茜色に染まり、ふたりの頬にも自然な朱が差す。澄人は指輪を手に、片膝をつく。琥珀色の瞳はソフィアだけを映し、瞬きさえ惜しむほどに見つめている。彼の心にあるのは、ただひとつ。愛おしい姫を生涯守り抜きたいという想い――誠実に、敬意を込めて、そして限りない

  • 春風は尽きず、愛は静かに永く   第22話

    幕が下りると、観客が三々五々ロビーへ流れ出ていく。誰もが余韻の笑みを頬に残している。瑠璃は街灯の温かな光に背を預け、マフラーで顔を覆いながら、もう一度だけ彼を見ようと目を凝らす。彼女の耳に、数人が澄人の舞台を惜しみなく称える声が届く。――五年の沈黙を経て、むしろ鋭い剣のような強靭さを身に宿している、と。気づけば口元がわずかに上がり、わけもなく胸が温かくなる。ほどなくして、あのすらりとした姿が視界に現れた。澄人は舞台衣装を脱ぎ、厚手のカシミヤのマフラーに顔をうずめて、大雪の中へ駆けだしていく。「ソフィア、ほら、また雪だよ!」彼はソフィアの手を取り、雪の中でくるくると回った。「この街が、すごく好きだ!」ソフィアはやわらかく微笑んで問う。「いつも雪が降るから?」澄人は振り返り、少し驚いたように首を振る。「もちろん、それだけじゃない。ここが好きなのは、君がいるからだ」街灯の陰で、それを聞いた瑠璃の肩がびくりと震える。ソフィアは一瞬きょとんとする。「澄人」彼は口元にやわらかな笑みを浮かべて、口を開く。「さあ、ソフィア、僕の彼女になってくれる?」「澄人、私……」ソフィアの瞳が大きく見開かれた。心のどこかでそうなる予感は抱いていた。けれど、彼女はあくまで選択を澄人自身に委ね、少しも強いられていると感じさせたくはなかった。「澄人、これは夢なの?」だが、その彼の口から、望んだ言葉がまっすぐに届くとは全然思わなかった。澄人は小さく首を振り、彼女の頭に額を寄せてそっとすり寄る。「ソフィア、君が夢を追うよう背中を押してくれた。君が、ありのままの僕を受け入れてくれて、もう一度歩き出す勇気をくれたんだ」「違うわ。あなた自身よ」ソフィアはそっとつま先立ちになり、彼の唇の端に軽いキスを落とした。だが次の瞬間、澄人の腕にしっかりと抱き寄せられ、その口づけは深く重ねられていく。男の体から漂う白檀の香りと、彼女の纏うジャスミンの香りが溶け合っていく。雪は静かに、ゆっくりと舞い落ち、まるでこの美しいひとときを邪魔するのをためらっているかのようだ。瑠璃は顔を覆い、ゆっくりとしゃがみ込む。指の隙間から涙がこぼれ落ちる。今、彼女の胸を満たしているのは、もう占有欲ではない。ただ果てのない悔恨だ。

  • 春風は尽きず、愛は静かに永く   第21話

    パレルモ劇場。公演を観に来た人々が絶え間なく流れ込み、その多くは――五年の沈黙を破って復帰するジャズダンスの天才の澄人を目当てにしている。瑠璃は片足を引きずりながら、一歩一歩と劇場の中へ向かう。ようやく人波をかき分けて案内口に辿り着いたとき、案内係に行く手を遮られた。「このお客様、あなたはこちらから先へはお入りいただけません」「どうして?」瑠璃は不機嫌そうに眉をひそめた。これが、澄人にもう一度会える唯一の機会なのに。この劇場に招待状の決まりはない。チケットがあれば誰でも入れるはずだ。ところが案内係は一枚の写真を取り出し、瑠璃の顔とじっくり見比べたのち、表情を引き締めて告げる。「当劇場の団員に対する悪質なつきまといの疑いにより、あなたは当劇場への入場禁止となっています。どうかお引き取りください」瑠璃はその場に凍りつく。まるで暗闇の中で光を求めていた者が、唯一の蝋燭を吹き消されたかのように。「違う、違うのよ。聞いて。私は澄人のことをちゃんと知っている。私は彼の妻なの!」給仕はその言葉に、いっそう侮るような目つきを向ける。「安部様のパートナーはソフィア様だ。私を馬鹿だと思っているのか?」きついフランス語の抑揚が、ことさらに刺さる。瑠璃は慌ててスマホを取り出し、澄人とのウェディング写真を見せる。「見て、私は本当に彼の妻なのよ!」「ははは!こちらはとっくに調べがついてるんだ。この男の名は井上俊也だ。まさに石と玉を取り違えるってやつだな!」給仕は笑い崩れ、瑠璃をますます蔑む目で見下す。「どきなさい。他のお客様のご迷惑だよ!」乱暴に脇へ押しやられた瑠璃は、劇場の窓枠にしがみつく。せめて、もう一度だけ澄人の姿を目に焼きつけようとする。劇場の舞台裏。澄人はすでに舞台用の衣装に着替え、専門のスタッフが舞台化粧を施している。五年ぶりに立つ劇場の舞台。胸の奥には、やはり少しの緊張が残っている。深く何度か息を吸い込み、彼は頭の中で振り付けとリズムを繰り返し思い描く。扉が押し開けられ、そこに現れたのは、この世のものとも思えぬほど艶やかな顔だ。「ソフィア?どうしてここに」澄人の顔がぱっと明るくなる。ソフィアは、うっすら汗ばんだ彼の手のひらを握りしめる。「前で待っているうちに不安になって、心

  • 春風は尽きず、愛は静かに永く   第20話

    北欧。ソフィアは澄人と手を繋ぎ、ミラノの街をゆったりと歩いている。舞い落ちる大粒の雪は、彼の差す傘に遮られ、ソフィアの高価で贅沢なウールのコートには一片たりとも触れることがない。「澄人、このあと何を食べたい?」澄人はこのところ続いていたフレンチのことを思い出し、端正な眉をわずかに寄せた。「フレンチは、もういいかな。食べたいのは……」けれど、その言葉はついに口に出せなかった。彼の瞳には薄く翳りが差す。少年はうつむき、不安げにまつげを震わせる。「特に食べたいものなんてない」彼はふと、祖母が作ってくれた肉じゃがや桜餅の味を思い出した。ずっと恋しく思っていたが、もう口にすることは叶わない。ソフィアが彼の耳にそっと触れ、微笑む。「まあ、せっかく空輸でじゃがいもと桜の葉を取り寄せておいたのよ。本当は作ってあげようと思っていたのに――」「本当に?どうして僕が食べたいって分かったの?」澄人の顔に笑みが広がり、その瞳には無数の星々が瞬くような輝きが宿った。彼の目は細く弧を描き、まるで三日月のように笑みをたたえている。「ええ。本場の作り方を特訓したの。あなたの前で披露しても恥ずかしくないくらいにはね」ソフィアは明るく笑い、軽く揖をしてみせる。「どうか、お付き合いくださいませ」澄人はその仕草に思わず口元を押さえて笑い、慌てて彼女を支え起こす。「もちろん」こうして並び立つ美男美女の姿は、道ゆく人々の視線を引き寄せる。雪景の中、その光景は一枚の絵のように美しかった。――ただ、ある人間の目には、ひどく刺々しく映った。「澄人!」瑠璃が駆け出し、澄人の手をつかもうとする。「どうして他の女なんかと親しくしてるの。あなたは私の夫よ!」けれど、彼のコートの裾に触れるより早く、二人に付き従う護衛が瑠璃を一メートル先で抑え込む。「放して、放して!」瑠璃は必死にもがく。だが、その抵抗は虚しく、むしろ気高い気配はみじめに砕け散る。澄人とソフィアは遠巻きに立ち、冷ややかに見ている。「お嬢さん、人違いじゃなくて?これは私の夫よ」ソフィアは流暢なフランス語で、冷ややかに嘲った。まるで彼女の言葉を裏づけるかのように、澄人の手がソフィアの手をぎゅっと握りしめる。瑠璃へ向けられるまなざしは、氷のように

  • 春風は尽きず、愛は静かに永く   第19話

    雪は激しく降りしきり、瑠璃は回廊の手前に立ち、羊水検査の報告書を手にしている。【井上俊也との血縁関係は認められません】大きく印字されたその一行が、鋭い氷の矢のように瑠璃の目に突き刺す。間もなく、邸宅のポストに残っていたという証拠一式を、さらに秘書が運んでくる。瑠璃はその発狂を誘発する成分が検出された粉の検査報告書を、いつまでも見つめ続けていた。胸の奥では、見えない大きな手に心臓を何度ももみ潰され、ねじ切られるような痛みに苛まれている。あの償いの名目で用意された猛獣の出し物など、最初から澄人を葬るために仕組まれた周到な罠だったのだ。なのに、瑠璃は彼の拒絶や抵抗を顧みることなく、無理やり澄人を「刑」にかける場へと引きずり下ろした。そのせいで、愛する人は猛獣に襲いかかられ、地面に押し倒されて肋骨を踏み折られ、命さえ危うくした。その間ずっと、彼女は少し離れた場所で、俊也だけを庇っていたのだ。だが、彼女が澄人に背いてきたことは、こんなものひとつにとどまらない。俊也と、そして腹の子――俊也とは血のつながりのないその子のために、彼女は何度も会社の用件だと幾度となく偽りを口にし、さらに医師に命じて澄人の目を決して治させなかった。そのせいで彼は、恐怖と不安に満ちた五年間を、闇の中で過ごさねばならなかったのだ。俊也と彼女が絡み合っていたその時、愛する少年は山に置き去りにされ、崩れ落ちる雪に呑まれていた。そして彼女自身は、俊也との激しい交わりの果てに、澄人との最初の子を自らの手で葬り去ってしまったのだ。女の細く凛とした立ち姿がふいに折れ曲がり、顔には灰白の色がさっと広がる。彼女はページをめくるように視線を落としたが、そこで目にしたのは、さらに彼女を打ち砕き、絶望へ突き落とすものだ――それは健康診断報告書の内容、そして、録音と録画の機能を備えたあの指輪のことだ。瑠璃はその内容を余すところなく読み終え、ついに心が完全に打ち砕かれる。「どうして、こんな……」膝の力が抜け、瑠璃はそのまま地面に滑り落ちる。あのとき、沙耶の拉致は、澄人の腎臓を俊也に移植させるための罠で、そして彼女自身が、その企みに加担し、澄人を傷つけることを許してしまったのだ。「っ……」瑠璃の口から鮮血が勢いよくほとばしり、白雪をたちまち赤に染める。祈は息

  • 春風は尽きず、愛は静かに永く   第18話

    瑠璃はその声に足を止め、脇に下ろした指先がわずかに丸くなる。「俊也、どうしたの?」彼女は背を向けたまま、瞳の奥には冷ややかな空虚が広がっている。「話がある!夏川沙耶のことだ」俊也の声は震えている。瑠璃は振り向き、やわらかな笑みを浮かべる。「いいわ、話してちょうだい」その後の一時間、彼女は椅子に腰掛け、俊也がでっち上げた――自分が沙耶に「強要され」、「脅され」、「威圧された」という一部始終を黙って聞いていた。彼女は、土下座し涙で顔をぐしゃぐしゃにした男を一瞥もしない。まぶたは気だるげに伏せられ、手の中のお守りを無造作に弄ぶだけだ。もし俊也がほんの少しでも心を落ち着け、彼女の手の中のお守りをよく見ていたなら――それが、かつて澄人が瑠璃のために、山頂の春日神社の九百九十九段の石段を、一段のぼるごとに額を地につけて祈り続け、ようやく授かったものだと気づけたはずだ。やがて俊也の泣き声は細り、彼は瑠璃のスカートの裾をつかんで恨みがましく吐き捨てる。「彼女は僕にあんな仕打ちをするとは……瑠璃、頼む。僕のために仇を討ってくれ」その言葉が終わるか終わらないうちに、背後で「ガコンッ」と重い機械ドアが開く音が響く。反射的に振り向いた俊也は、次の瞬間、恐怖に満ちた悲鳴をあげる。「うあ――っ!」沙耶が、首を吊られ天井からぶら下がっている。顔は鬱血で青紫に変わり、眼球は今にも飛び出しそうだ。「夏川社長、聞こえたわね。うちの夫が、あなたにいじめられたと言ってる」沙耶は必死に首を振り、震える指で俊也を差す。「その人が……嘘を……」瑠璃はすっと眉を上げ、合図するようにして「下ろして」と目で示した。「俊也、よくも私に濡れ衣を着せたわね!」沙耶は叫び声を上げながら俊也に飛びかかり、胸ぐらをつかんで激しく拳を打ちつける。たちまち部屋の中は怒号と悲鳴で渦を巻き、今にも天井が吹き飛びそうな騒ぎとなった。「俊也、あなた、私のベッドで裸になって『お願いだ』って泣きついたこと、忘れたの?」「でたらめ言うな!」俊也は怒鳴り声をあげて遮り、瑠璃の足首にすがりつく。「夏川沙耶が僕を買収して瑠璃を害そうとしたんだ。僕は断った!信じてくれ、瑠璃!」瑠璃の口元に、ごくかすかな笑みが浮かぶ。「私はあなたの子を身ごもっている。も

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status