LOGINたっぷり食べて、お腹もいっぱいになった。マヨもきっちり使い切って、満足してブタハシュッカテイを出る。帰り道の涼しい風を身に受けながら、胃袋では今必死にボア肉を消化しているからか、少し体が熱っぽい。
消化のための全身の熱を抑え込んでくれるにはちょうどいい具合の風を受けて、鼻歌でも歌いながら帰りたい気分になっているが、へたな鼻歌を歌ってどこのどんな歌なんですか? とセルフィに問われると、ちょっと説明が面倒くさくなるので今は鼻歌はなしだ。
セルフィも軽くお腹を膨らませて、ポッコリとまではいかないが、服の上から少しわかる程度のふくよかな感じになっている。明日になれば胃もたれもせずに平気な顔して起きてくるんだろう。
そういえば、若返った分だけ油分の消化もマシになっているんだな。43歳の体ではうまく消化しきれなかったであろう豚の丸焼きも、しっかり胃袋に入れてこうして今一生懸命消化しているのだし、若返り万歳といったところか。
「また食べに来ましょうね! 丸焼きを一部分ずつ分解していくのが楽しいです! 」
セルフィは
どうやら、俺がゴブリンの耳を査定にかけた段階で第一報はフェリクスさんに伝わっていたらしい。そして、査定とカウンターで報酬の支払いと相談をしているうちに情報が伝わって、あらかじめ事前情報を共有。そこまではできているらしい。仕事が早いな。「えっと……このあたりで一匹、その後このあたりでもう一匹、それからここで一匹、この時点で戻ったのでこの先は不明ですね」「なるほど。つまり、この間には巣がある可能性は低い、というわけですね」 俺が通ったルートをたどり、フェリクスさんが書類の上に魔石を置いて場所を絞り込んでいく。「セルフィが一緒に居るので、もし巣に誘い込んで俺を引き離して襲おうとしていた場合、もっと早く仕掛けてくる可能性があったはずです。なのでここまでは安全ゾーンであると考えます」 アライ草を採りに行っていた範囲を丸っと安全圏ではないか? と判断する。巣があるとしたらその先の可能性が高いだろうと意見を具申する。「確かにそうですね。だとするとこの先にあるかどうか、探しながら行かなくてはなりませんね。本来ここにはゴブリンは生息していないんですよ。仮に住み着いたとしても、街に近すぎますので、駆除対象にしなくてはいけません。これがもっと遠くや、薬草群生地の近くでなければ問題はなかったのですが」 ゴブリンの発生場所について詳しく教えてくれている。今後も似たような場所にゴブリンが出た場合には参考にしろ、ということなのだろう。フェリクスさんのほうをちらっと見やると、こくりと頷く。そういうこと、ということなのだろうな。「一つ質問があります」 早めに聞いておこう。この後数日かけての作業になる可能性もあるからな。「なんでしょうか」「ゴブリンの巣の特定が必要になった場合、我々も特定のためにギルドの指示を仰がなければならないのでしょうか? 」「そうですね、手伝いをしてくれるなら一番ありがたい、というのが正直なところですね。やはり一度現地を知っている人物が追い込みや索敵、追跡をしてくれるほうがありがたいのが確かです」 こっちは初めて出かけた場所だから詳しくない
カウンターへ行く前に、今度はモンスターの査定を行う。ゴブリン二匹分だけだが、金になるならこれもちゃんとした収入。それに、あんまりアイテムボックスに入れておきたいものでもない。 査定カウンターにゴブリンの耳を持っていき、渡す。「ゴブリンの耳ですね……これをどこで? 」 査定嬢の目がぎらつく。ゴブリンがすぐそばに繁殖しているというなら大ごとだろうし、そうでなくても街の近くにいたという話だけでも大事なことだろう。「西門から南西に30分ほど行ったところでゴブリンが最低3匹はいることは確認しています。その内の2匹の分ですね」「残りの1匹はどうされたんですか? 」「こちらを警戒して罠を張ってる可能性があったので、下手に会敵したり戦闘をしないうちに撤退してきました。できるだけ警戒して帰ってきましたが、付いてくる様子はなかったので気づかれなかった可能性のほうが高いですね」「なるほど。その話、帰ってきてから誰かにしましたか? 」 査定嬢が更に確認を重ねてくる。報告はしたか、ということだろう。「ここで話しているのが最初です。誰に報告したらいいのかもわからない新人なので、専門の部署があるならそこへ相談しに行くのですが」「わかりました……と、カウンターで支払いを受ける際にこれをついでに渡してください。担当部署への引継ぎのサインになります。細かいお話はそちらでお願いします」 査定嬢からは耳二つ分の査定金額が記された査定結果書をもらう。 ゴブリン 2 どうやら、シールドゴブリンと普通のゴブリンに差はないらしい。いくらになるかは受け取るまで分からないってところだな。まあ、ダンジョンのモンスターより安いということはないだろう。 カウンターへ行って薬草の査定結果を渡す。カウンターでは薬草査定結果を確認して、銀貨7枚と大銅貨1枚を渡される。これで今日の稼ぎは銀貨9枚と大銅貨1枚となった。最近の稼ぎからすれば多くはないが、7日分の宿泊代金と考えれば安いものだ。 ゴブリンの左耳はどうやら一匹当たり銅貨5枚と
ここまでで出てきたゴブリンは二匹。そもそも偶然ゴブリンが出現した、という可能性はまだ否定できない。初心者冒険者がゴブリン二匹と出会ったからと言ってそれを元に巣ができたかもしれない、と引き返してくるのはありがちかもしれない。 だからといって、このまま次のゴブリンを探して彷徨ってる間にゴブリンの計略にはまって囲まれて……という可能性もある。ここは深追いせずに、薬草採取のついでにゴブリンを探す、という方向を続けているほうが良いな。 もうちょっと街に近い位置にまで戻ってアライ草を探す。そして、そこでゴブリンがもう一匹出てきたら、これはゴブリンが街の近くで繁殖している可能性が高い、と冒険者ギルドに報告する流れのほうが良いだろう。 こっちは二人しかいないんだ、集団戦に持ち込まれたらあっという間にのされてしまうだろう。いくら剣聖だとしても、ゴブリンが十数匹、数十匹と現れてくるような状況では限界もある。まだ剣聖としてのレベルが高いとは言えないセルフィでは手に余るだろう。 そして、ゴブリンによって攫われてあーんなことやこーんなことに……うむ、許せん。ゴブリンはすべて殲滅しなければならないな。そのためにはきちんとした手順を踏まないといけない。 俺とセルフィの力をもってすればゴブリンなどたかが低級モンスター……と言い切れるほど腕に自信があるわけでもない。世の中の流れや手順、ルールにはできるだけ従うべきである。 もしも、ここで討伐をしなかったり巣を放置したせいで少なからず損害が出るんだとしても、街の西側なら何もないし、あえて言うなら採石場があるのみ。 ゴブリンが石に興味を示すとは思えないので、ゴブリンがより繁殖してから襲ってくるか、通りかかる民衆を襲うのがせいぜいだろう。 その前に短期決戦でゴブリン退治をする、というほうが期待に応えることができるだろう。その為には報連相、無理に自分たちだけで解決しようとせず、冒険者ギルドに報告する。 そして、俺たちより使える安全なパーティーが偵察を行い、ゴブリンの巣を発見して駆除の流れをきちんと作ってもらうほうが大切だ。
西門にたどり着き、外に出る。出るときに衛兵がいつも通り話しかけてきた。「冒険者が西門に用事があるのか? 」「薬草を採りに行くんですよ。西門からのほうが近くて」「そうか、夜の鐘には遅れないようにな」 納得したらしく、そのまま見送ってくれた。ちゃんと仕事をしていてえらい。そのまま西門から南西方向に道を外れて、採石場とは道を挟んで反対側に行く。 まだ採石場として稼働していないが、今稼働している採石場から石を取り切ったら、こっち側が今度は採石場になるんだろうな、というようなイメージの岩場を歩く。道はないので適当に岩に昇って……そして、岩陰にこっそりと生えている草を鑑定する。 草からは「僕アライ草です、こんにちは。良く育ってます」と返事が返ってきた。アライ草はこんなに近くでも取れてくれるのか。ただ、鑑定で調べる感じ……と、お? 今ので鑑定のレベルが上がったらしい。 範囲鑑定ができるようになって、周辺の地形の中にどんなものがあるのかが遠距離でもわかるようになってきた。ついでに、さっきの鑑定結果のアライ草の返事を見る感じ、状態変化も把握できるようになったらしい。「セルフィ、鑑定のレベルが上がったぞ。これで離れててもどこに薬草が生えてるのかわかるようになった。いちいち近づいて見たり抜いて観察しなくていいのは楽だな」「おめでとうございます。これで楽に稼げますね」「そうだな、しっかり育ったアライ草だけを抜いていくことにしよう。アライ草の育ち具合も見られるようになったからそこも楽になった」「鑑定だけで食べていけるようになったんじゃないですか? これでお休みを増やしてもいい感じになりましたね」 セルフィはニコニコと嬉しそうにしている。お休みが増えるのを楽しみにしているらしい。確かに、自分の自由になるお小遣いも増えたし、お休みに買い食いするとか楽しみたいことはそれなりにあるだろう。「それだと鑑定やってる婆さんの商売敵になっちゃうしな……鑑定で飯を食っていくつもりはないよ。それに、レアなスキルを持っ
セルフィと冒険者ギルドに戻る。ご飯は報酬を受け取ってから決めることにした。そのほうが、午前の仕事をきっちり終えた、という気分になってちょうどいい。 冒険者ギルドで確認書を渡し、婆さんの署名があることを確認してもらい、銀貨2枚を受け取る。昼食には多すぎるし、今日一日分生きるためには十分な稼ぎではあるものの、今日一日分でしかないのもまた確か。 余裕のある生活を送るには、午後ももうちょっと誰かの助けになることをしなければならないだろう。さて、午後からは何をするかな。「とりあえず、どこかでお昼を食べましょう。近くにお腹にたまる店があればいいですが」「どこもまだ入ったことのない店だからな。ある意味でどこに入っても一緒……ということにはなる。かといって歩き回ったり悩み抜いたりするぐらいなら、銀の卵亭まで戻って食事にしたほうが効率的だ。ここは一番近そうで気軽に入れそうな店にしよう」 食べ物を売ってそうな店を探すと、店構えがそこそこよく、ちゃんと屋根があって座れる店を見つけた。名前は「マヨイネコノスープヤ」と書いてある。迷いネコのスープ屋か。迷って入ってこい、ということなのだろう。 名前からして、スープに自信がある可能性が高い。塩辛い燻製肉と豆をぶち込んだだけのスープを売っているような雰囲気ではないので、ここで一食食べていくほうが良いかな。「よし、こういう時はインスピレーション……思い付きと思い切りが大切だ。ここに入ってみよう」「はい、ついていきます」 店の中に入ると、コンソメのようないい香りが漂っている。ガラスを使えない地方のため、石の据え付けられた壁にも香りが移っているらしく、店全体から何とも言えない腹の空くようないい匂いが詰まっていた。「いらっしゃい、空いてる席にどうぞ」 二人掛けの席があったのでそこに座り、早速店員に聞く。「初めてなんだけど、何がある? 」「今はランチと、基本メニューにスープが三種類。どれも白パンがつくよ。値段は全部大銅貨1枚」 銀の卵亭よりは割高に感じるが、黒パンじゃなくて
俺一人分の体積ぐらいは優に超えているであろう薬草の山がそこには鎮座していた。「薬草をまとめて仕入れたはいいが、仕入れの価格が折り合わなくてな。安く仕入れた代わりに、納品した薬草をめちゃくちゃにして置いていきおったんだ。一応一人でできなくもないが、その間薬草の調合の手が止まっちまうんでな」 確かに、婆さん一人で店を切り盛りするときにこれをついでにやれ、というのは難しいだろうな。納品した後に価格でごねたのは婆さんなのか、それとも納品した業者か冒険者なのかはわからないが、面倒くさい嫌がらせをしていったものだな。「とりあえず、種類と量は大まかにはわかっとるから、薬草ごとに分けて並べて、できればギルドに納品するときの規定量で束ねとくれ」 一束ごとに仕分けろってか。それはセルフィに任せるかな。とりあえず……鑑定で薬草の種類を見分けていく。見える範囲で確認できるのは5種類か。表面にないだけでもっと種類がある可能性はあるが……とりあえずわかるもので取り出しやすいものから順番にやっていくしかないな。「じゃあセルフィ、俺が名前を言いながら渡していくから、いつもの薬草採取の束ね方でそれぞれ分けていってくれ。婆さん、この辺のテーブルは自由に使ってもいいんだよな? 」「ああ、最終的に全部仕分けできていて、それぞれの薬草でわかりやすく置きなおしてくれていたら文句は言わんよ」 婆さんからの了解も取れたところで、早速作業に入ろう。まずは全体の中で最も取りやすいホルム草からだな。ホルム草を鑑定でパパパパッと見渡すと、それぞれセルフィに渡しながら、一定量ごとに「ホルム草」と伝えて渡す。 受け取ったセルフィが一束ごとにまとめていき、ホルム草の置き場を仮決めしたところに並べていく。どんどん薬草の山からホルム草をはじき出していき、セルフィがそれを束にして並べていく。そして並べ始めて、全ての薬草を綺麗に横に並べるだけでは足りないと判断したのか、ピラミッド積みを始めた。 ホルム草を一区切り選別し終わったところで、次はキズナオ草の選別に入る。これもホルム草と同じぐらいの量がある。名前からして傷薬に使いそうな名
話し合いが終わり、さっきまでいた店員を呼びに奥へ顔を出す。「すまない、話し合いが終わった。この子を買い取ることにしたい。いくらだ」「そうですか。お決めになりましたか。この子は……正直なところ性格も暗く、まだ幼いのでこれから育つ分も考えると……金貨4枚というところでしょうかね」 指を4本、差し出してきた。「ちなみになんだけど、人が一年間生活するのにいくらぐらいかかる? 」 小声でイアンちゃんに確認する。「そうですね、家がある前提だと金貨2
奴隷商で茶を出される。ちゃんと商売をしている以上飲み物に何かを混ぜられたりはしていないし、鑑定で鑑定してもただの茶葉……といってもそれなりに値段はするらしいので、これは客だ、と見込まれて出されたことになる。普通なら水か白湯、というところだろう。「さて、まずは奴隷を探しに来た理由を聞こうか」「知り合いの子が昨日奴隷として売られていたのを見た……では理由として薄いか? 」 知り合いではないし、一方的に知っているわけでもない。ただ、出自は俺と同じだろう、ということだけがわかる。そんな微妙な
翌日、朝日の出とともに目覚める。角部屋で窓にカーテンがないためだが、それにしてもまぶしい部屋だなここ。誰だこんな部屋借りたの……俺か。 二度寝を決め込もうとも考えたが、今日は大事な日だったな。これは寝てはいられないし、微妙に日当たりが良すぎて暑くもなってきそうだ。よし、起きるか。 昨日履いたパンツを、井戸の横に設置されていた、桶と洗濯板で洗う。ここで洗い物していいんだよな……? パンツだけは毎日替えないと気分悪いからな。洗ったパンツは後で干しておこう。 パンツの洗濯が終わったところで
ちゃんと日が落ちる前に南門から街中へ帰る。「お、ちゃんと帰ってきたな、えらいぞ」 門番からはちゃんとお使いできてえらい! と褒められた。40過ぎのおっさんが、だ。でも、新人冒険者には違いないからな。言われたことをきちんと守るのも冒険者の務めなら、今日一日は立派に過ごせたということになる。 にしても、腰を痛めなくてよかったな。最近は歳のせいか、ぎっくりの気配が近寄ってくると、察知できるようになってきたが、今日は中腰仕事を半日してもいつもなら現れるであろうぎっくりの気配がかけらも来なかった。これも異世界転移特典だったりしてな。わはは。







