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第12回:説得

作者: 大正
last update 公開日: 2026-04-24 07:00:18

 翌日、朝日の出とともに目覚める。角部屋で窓にカーテンがないためだが、それにしてもまぶしい部屋だなここ。誰だこんな部屋借りたの……俺か。

 二度寝を決め込もうとも考えたが、今日は大事な日だったな。これは寝てはいられないし、微妙に日当たりが良すぎて暑くもなってきそうだ。よし、起きるか。

 昨日履いたパンツを、井戸の横に設置されていた、桶と洗濯板で洗う。ここで洗い物していいんだよな……? パンツだけは毎日替えないと気分悪いからな。洗ったパンツは後で干しておこう。

 パンツの洗濯が終わったところで部屋に戻って縄を使って……多分、こうしておくためのものなんだろう、という形で干しておく。そもそも服をそう数枚も持つような文化でもなさそうだし、着たきりスズメの人も多いだろう。もしかしたら体をぬぐった後の桶の水で洗濯するような横着者もいるかもしれないしな。

 パンツを干したらそのまま顔を洗い、すっきりしたら朝食の時間だ。今日の朝は何かな。同じメニューかな。それとも昨日の残りかな。

 食堂に入って朝食を頼むと、朝食も変わらず銅貨8枚。そしてメニューは昨日の残り物。だが、パンが違う。朝食をとる人はそう多くないため、そもそも夕食の残りを提供しているだけにしているらしい。その代わり、パンが多めで白パンをつけてくれた。

 店としても、あまりものを出してしまうぐらいなら少しでも消費に手伝ってくれたほうが嬉しいし、これでも利益はちゃんと出ているらしい。パンは店で焼いたものでもないらしく、これも一定量を毎日仕入れているので、もしも売れ残ったら捨てる類のものらしい。

 昨日の昼と夕食よりも顎をこき使わずに済んだところで、改めて昨日の奴隷商のところへ出かける。目的は、あの女の子の保護だ。名前も種もわからないが、同じ異世界人として見逃せぬ。一緒に暮らしていくことこそできないだろうものの、せめて奴隷の身分からは解放してやりたい。

 だが、そこも本人の意思を確認してからだ。もしかしたら奴隷のままの生活のほうがいいと言い出す可能性だってあるわけだからな。その場合はどうするかな。まずは本人の意見を聞いてから……ということにするか。

 とりあえず店が開く時間まで宿で過ごしていると、イアンちゃんが宿にやってきた。どうやら、俺を監視する名目で奴隷商についてくるらしい。

「いいですか、タカナシさん。ずっとこの世界に居られるわけじゃないんですよ? それなのに、そんな買い物しちゃって、しかも奴隷なんて買ってみても、面白みなんてないんですよ? 奴隷にもきちんと人権がありますから、買って好き放題できる、というわけじゃないんです。そこをわかってますか? 」

 イアンちゃんはおかんむりのようだ。ここは一つ、きちんと説明をして、その上で了解して奴隷を買うんだ、ということをとくとくと話す必要があるな。

「まず、俺の鑑定スキルで見えた昨日の奴隷の話をしよう。その奴隷は……」

 ◇◆◇◆◇◆◇

「……というわけで俺はこの世界に残された印としてのその子をちゃんと奴隷として買い戻して、その上でどう生きたいかの確認をしたい。そのためにもまずは一度話してみなきゃいけないんだ。わかってくれるかな? 」

 イアンちゃんを口説き落とすために舌の限りを尽くして説得を試みた。時に熱く、時に冷静に、だ。その話を聞いた後、イアンちゃんは重い口を開き始めた。

「そんな理由でしたか。それはこっち側の……というより、カンザキさんの手落ち、ともいうべきですね。まさかそんな理由で、とは限りませんが同じ異世界出身者として放っておけないのはわかります。でも、それはタカナシさんがやらなきゃいけない仕事なのですか? 」

「やらなきゃいけない仕事というより、俺だからこそできる仕事、だな。他の異世界転移者がいたとしても、鑑定が付与されてなければ気づくこともできなかったし、奴隷を買い求める気がなければこの子に出会うこともない。つまり、条件がそろってしまったわけだ。なら、相談に乗るぐらいのことはしなきゃいけないだろ、これは」

「そういうことなら……まあ話ぐらいは聞いても仕方がない所ではあります。ですが、買うのはちょっと待っていただきたいですね。せっかくの異世界体験ですのにそこでお金を浪費するのはどうかと思うのですよ。もっと有意義なことにお金を残しておいて、エンジョイしましょうよ、エンジョイ」

「俺のエンジョイの仕方は俺が決める、だからこそ、だ。その子とぎりぎりまで一緒にエンジョイして、最後に開放してあげるか、それが嫌なら奴隷商に売り戻させる。それでお別れ、でもいいんじゃないか? 」

 イアンちゃんは腕を組んでうーんと考えている。ケモミミがピクッピクッと動いて、考えをまとめているようだ。

「わかりました。ただし、私も同行します。そして、彼女の意向を無視するような形でタカナシさんが買い戻そうとするなら、私は止めます。それでいいですか? 」

「わかった。それでいい。俺が暴走する可能性もあるからな。さて、話し合いをしている間にいい時間になった。さっそく向かうとするか」

 これからやる仕事に対して少しドキドキしている。人を買う仕事、という風に受け止めれば反発は大きそうだがこの世界ではどっちかというと人事面接のようなものに近いそうなので、一気に張り詰めた気が薄れてきた。それでも、イアンちゃんは反対らしい。単純に労働力としての奴隷購入でもいいんだが、それにしてもコストが高すぎる、ということらしい。

 二人で活動できるならモンスター退治もできるし薬草採取も二倍の速さで進むことになる。片方が採取しながら片方がモンスター討伐、ということもできる。今人が増えるのは確実に仕事を増やせることになるので俺としては歓迎……ということにしておいた。実際にどれだけの仕事が増やせるのかはわからないが、やれるだけのことはやっていこう。

 奴隷商の前に立ち、中に入る。少しむせるような香の焚かれているような香りと、清潔にされた床と壁、そして昨日の昼間話した男がカウンターに座り込んでいた。

「あんたは昨日の……どうやらお気に入りの奴隷を見つけたようだな。さて、いきなり商売の話もなんだ。少し話そうか。その間に昨日の奴隷を準備しておこう。まずは茶でも飲まないか」

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