Masuk翌日、朝日の出とともに目覚める。角部屋で窓にカーテンがないためだが、それにしてもまぶしい部屋だなここ。誰だこんな部屋借りたの……俺か。
二度寝を決め込もうとも考えたが、今日は大事な日だったな。これは寝てはいられないし、微妙に日当たりが良すぎて暑くもなってきそうだ。よし、起きるか。
昨日履いたパンツを、井戸の横に設置されていた、桶と洗濯板で洗う。ここで洗い物していいんだよな……? パンツだけは毎日替えないと気分悪いからな。洗ったパンツは後で干しておこう。
パンツの洗濯が終わったところで部屋に戻って縄を使って……多分、こうしておくためのものなんだろう、という形で干しておく。そもそも服をそう数枚も持つような文化でもなさそうだし、着たきりスズメの人も多いだろう。もしかしたら体をぬぐった後の桶の水で洗濯するような横着者もいるかもしれないしな。
パンツを干したらそのまま顔を洗い、すっきりしたら朝食の時間だ。今日の朝は何かな。同じメニューかな。それとも昨日の残りかな。
食堂に入って朝食を頼むと、朝食も変わらず銅貨8枚。そしてメニューは昨日の残り物。だが、パンが違う。朝食をとる人はそう多くないため、そもそも夕食の残りを提供しているだけにしているらしい。その代わり、パンが多めで白パンをつけてくれた。
店としても、あまりものを出してしまうぐらいなら少しでも消費に手伝ってくれたほうが嬉しいし、これでも利益はちゃんと出ているらしい。パンは店で焼いたものでもないらしく、これも一定量を毎日仕入れているので、もしも売れ残ったら捨てる類のものらしい。
昨日の昼と夕食よりも顎をこき使わずに済んだところで、改めて昨日の奴隷商のところへ出かける。目的は、あの女の子の保護だ。名前も種もわからないが、同じ異世界人として見逃せぬ。一緒に暮らしていくことこそできないだろうものの、せめて奴隷の身分からは解放してやりたい。
だが、そこも本人の意思を確認してからだ。もしかしたら奴隷のままの生活のほうがいいと言い出す可能性だってあるわけだからな。その場合はどうするかな。まずは本人の意見を聞いてから……ということにするか。
とりあえず店が開く時間まで宿で過ごしていると、イアンちゃんが宿にやってきた。どうやら、俺を監視する名目で奴隷商についてくるらしい。
「いいですか、タカナシさん。ずっとこの世界に居られるわけじゃないんですよ? それなのに、そんな買い物しちゃって、しかも奴隷なんて買ってみても、面白みなんてないんですよ? 奴隷にもきちんと人権がありますから、買って好き放題できる、というわけじゃないんです。そこをわかってますか? 」
イアンちゃんはおかんむりのようだ。ここは一つ、きちんと説明をして、その上で了解して奴隷を買うんだ、ということをとくとくと話す必要があるな。
「まず、俺の鑑定スキルで見えた昨日の奴隷の話をしよう。その奴隷は……」
◇◆◇◆◇◆◇
「……というわけで俺はこの世界に残された印としてのその子をちゃんと奴隷として買い戻して、その上でどう生きたいかの確認をしたい。そのためにもまずは一度話してみなきゃいけないんだ。わかってくれるかな? 」
イアンちゃんを口説き落とすために舌の限りを尽くして説得を試みた。時に熱く、時に冷静に、だ。その話を聞いた後、イアンちゃんは重い口を開き始めた。
「そんな理由でしたか。それはこっち側の……というより、カンザキさんの手落ち、ともいうべきですね。まさかそんな理由で、とは限りませんが同じ異世界出身者として放っておけないのはわかります。でも、それはタカナシさんがやらなきゃいけない仕事なのですか? 」
「やらなきゃいけない仕事というより、俺だからこそできる仕事、だな。他の異世界転移者がいたとしても、鑑定が付与されてなければ気づくこともできなかったし、奴隷を買い求める気がなければこの子に出会うこともない。つまり、条件がそろってしまったわけだ。なら、相談に乗るぐらいのことはしなきゃいけないだろ、これは」
「そういうことなら……まあ話ぐらいは聞いても仕方がない所ではあります。ですが、買うのはちょっと待っていただきたいですね。せっかくの異世界体験ですのにそこでお金を浪費するのはどうかと思うのですよ。もっと有意義なことにお金を残しておいて、エンジョイしましょうよ、エンジョイ」
「俺のエンジョイの仕方は俺が決める、だからこそ、だ。その子とぎりぎりまで一緒にエンジョイして、最後に開放してあげるか、それが嫌なら奴隷商に売り戻させる。それでお別れ、でもいいんじゃないか? 」
イアンちゃんは腕を組んでうーんと考えている。ケモミミがピクッピクッと動いて、考えをまとめているようだ。
「わかりました。ただし、私も同行します。そして、彼女の意向を無視するような形でタカナシさんが買い戻そうとするなら、私は止めます。それでいいですか? 」
「わかった。それでいい。俺が暴走する可能性もあるからな。さて、話し合いをしている間にいい時間になった。さっそく向かうとするか」
これからやる仕事に対して少しドキドキしている。人を買う仕事、という風に受け止めれば反発は大きそうだがこの世界ではどっちかというと人事面接のようなものに近いそうなので、一気に張り詰めた気が薄れてきた。それでも、イアンちゃんは反対らしい。単純に労働力としての奴隷購入でもいいんだが、それにしてもコストが高すぎる、ということらしい。
二人で活動できるならモンスター退治もできるし薬草採取も二倍の速さで進むことになる。片方が採取しながら片方がモンスター討伐、ということもできる。今人が増えるのは確実に仕事を増やせることになるので俺としては歓迎……ということにしておいた。実際にどれだけの仕事が増やせるのかはわからないが、やれるだけのことはやっていこう。
奴隷商の前に立ち、中に入る。少しむせるような香の焚かれているような香りと、清潔にされた床と壁、そして昨日の昼間話した男がカウンターに座り込んでいた。
「あんたは昨日の……どうやらお気に入りの奴隷を見つけたようだな。さて、いきなり商売の話もなんだ。少し話そうか。その間に昨日の奴隷を準備しておこう。まずは茶でも飲まないか」
翌日、朝日の出とともに目覚める。角部屋で窓にカーテンがないためだが、それにしてもまぶしい部屋だなここ。誰だこんな部屋借りたの……俺か。 二度寝を決め込もうとも考えたが、今日は大事な日だったな。これは寝てはいられないし、微妙に日当たりが良すぎて暑くもなってきそうだ。よし、起きるか。 昨日履いたパンツを、井戸の横に設置されていた、桶と洗濯板で洗う。ここで洗い物していいんだよな……? パンツだけは毎日替えないと気分悪いからな。洗ったパンツは後で干しておこう。 パンツの洗濯が終わったところで部屋に戻って縄を使って……多分、こうしておくためのものなんだろう、という形で干しておく。そもそも服をそう数枚も持つような文化でもなさそうだし、着たきりスズメの人も多いだろう。もしかしたら体をぬぐった後の桶の水で洗濯するような横着者もいるかもしれないしな。 パンツを干したらそのまま顔を洗い、すっきりしたら朝食の時間だ。今日の朝は何かな。同じメニューかな。それとも昨日の残りかな。 食堂に入って朝食を頼むと、朝食も変わらず銅貨8枚。そしてメニューは昨日の残り物。だが、パンが違う。朝食をとる人はそう多くないため、そもそも夕食の残りを提供しているだけにしているらしい。その代わり、パンが多めで白パンをつけてくれた。 店としても、あまりものを出してしまうぐらいなら少しでも消費に手伝ってくれたほうが嬉しいし、これでも利益はちゃんと出ているらしい。パンは店で焼いたものでもないらしく、これも一定量を毎日仕入れているので、もしも売れ残ったら捨てる類のものらしい。 昨日の昼と夕食よりも顎をこき使わずに済んだところで、改めて昨日の奴隷商のところへ出かける。目的は、あの女の子の保護だ。名前も種もわからないが、同じ異世界人として見逃せぬ。一緒に暮らしていくことこそできないだろうものの、せめて奴隷の身分からは解放してやりたい。 だが、そこも本人の意思を確認してからだ。もしかしたら奴隷のままの生活のほうがいいと言い出す可能性だってあるわけだからな。その場合はどうするかな。まずは本人の意見を聞いてから&he
ちゃんと日が落ちる前に南門から街中へ帰る。「お、ちゃんと帰ってきたな、えらいぞ」 門番からはちゃんとお使いできてえらい! と褒められた。40過ぎのおっさんが、だ。でも、新人冒険者には違いないからな。言われたことをきちんと守るのも冒険者の務めなら、今日一日は立派に過ごせたということになる。 にしても、腰を痛めなくてよかったな。最近は歳のせいか、ぎっくりの気配が近寄ってくると、察知できるようになってきたが、今日は中腰仕事を半日してもいつもなら現れるであろうぎっくりの気配がかけらも来なかった。これも異世界転移特典だったりしてな。わはは。 さて、冒険者ギルドに戻って仕事の報告だ。今日の成果をきちんと提出して、その分の報酬をいただかなくてはいけない。 冒険者ギルドに戻り、カウンターへ今日の成果である薬草類とホーンラビットの死体を受付に提出する。「はい、では鑑定していきますね。薬草類は……はい、丁寧に根っこから抜いてくれてありますね。量もそれぞれ問題ありません。ホーンラビットは……綺麗に処理してくれてありますね。ちょっと毛が血で濡れてますけど、このぐらいなら許容範囲です。五体ありますから……はい、OKです。では、ホーンラビット5体、ホルム草16束、ハププ草5束で合計銅貨228枚分になりますので……銀貨2枚、大銅貨2枚、銅貨8枚での支払いになります。問題はありますか? 」「いえ、思ったよりお金になったなと」「そうですね。薬草の品質が良いのと、ホーンラビットが綺麗に血抜きされてるのが高い買取料金の理由ですね。普通は適当に抜いてきていたり、毛皮がボロボロだったりでお金にならないケースがあるんですが、今回はそれらの事情は一切なし、ということでこの金額になります」「そうですか、ではありがたく受け取ります」 食事が三食銅貨8枚として、一泊銀貨1枚だから銅貨80枚分の儲けか。6日繰り返せばショートソード代も捻出できそうだな。いや、明日は奴隷商のところへ行ってあの子を……彼女を救い出す&he
30分待つことなく、武器だけ買いそろえた俺は南門へ向かった。その場で先に待っていたイアンちゃんと合流する。イアンちゃんはさっきより一枚二枚多く着込んだような服装で、頭には軽めの帽子をかぶっていた。 腰にはしっかりナイフを持ち、戦う準備は万端という感じだ。 実際にはもっと重苦しい装備もできたんだろうが、薬草採取ならこのぐらいで大丈夫だろう、という感じだな。「早かったですね。そういえば、武器も持たせずに待ち合わせに来てしまいました。今から急いで武器だけでもそろえに行きますか? 」「いや、アイテムボックスに入れてある。この通り」 アイテムボックスから手の中に滑らかな動きでショートソードを取り出すと、それで納得したのかおおっという声を出して反応する。「あんまり人前でアイテムボックス使いだって見せないほうがいいです。隠しておくほうがいいです」「そうか。あんまり使う人が多くないってことだな」「それもありますが、スリや盗みの犯人だと難癖をつけられることもありますからね。注意してください」 なるほど、俺の財布はこいつのアイテムボックスの中だ、と言いつけるわけか。そのやり口は確かに効果的だな。「じゃあ、外に出ようか。冒険者証を見せれば通行料はいらないんだよね? 」「はいです。私も冒険者証を持ってますから、問題なく通り抜けることができます」 南門を抜け、門を出る際に冒険者証を見せると、登録したてであることを確認される。「日が沈んだら門は閉まるからな。それまでに帰ってくるんだぞ」「はい、お気遣いどうも」「新人が毎回やらかすんでな。新人を見かけたときは一声かけることになっている」 なるほどね。注意喚起ご苦労様。さて、薬草が生えているという茂みのほうまで、少しピクニックと行くか。 行くまでの道中で、冒険者のシステムについてレクチャーしてもらう。冒険者ランクはSSSからFまでの9段階あり、SSSランクには常に一つの冒険者パーティーしか到達できないという厳しい掟と、現段階ではSSSランクは空席であり、空いた椅子をめぐって今S
奴隷の中の一人の少女の鑑定を行ってみる。その鑑定の中身には驚くべき一つのスキルと一つの称号が書かれていた。「ケンセイ」「イセカイテンイシャノシソン」 片方は剣聖、もしくは拳聖、後は健聖という可能性もあるが、あまり健康そうには見えないので最後のはありえないだろう。どちらにせよ何かしら強そうなイメージが与えられる。問題はもう一つのほうだ。 異世界転移者の子孫。これはあれだろうか。俺以外の異世界転移者がこの世界に過去に存在していて、その転移者が残していった種が畑に植えられて、実った結果、ということなのだろう。おそらくはこの子は借金奴隷なんだろうな。母親が食うに困って売った、というところだろう。 同じ異世界転移者として気になるな。しかし、俺が助けたところでどうにかなるものなのか。俺だってあと319日たてば自分の世界に帰るのだ。そこまで責任を取れと言われても難しいし、しかし、これを見逃すのも……同じ有休消化者として、それはもっと難しい。 檻に近づいてその子をじっと見る。俺を見返すその子の目は深く沈んでいて、悲しみをたたえるだけになっていた。どれだけの間この子は奴隷として過ごしてきたのだろう。そして、いったいどれだけの間、この子に銀貨一枚の価値すら見出さず、普通の奴隷として売ろうとしてきたのだろう。 ほんの銀貨1枚。それだけの費用をかけるだけで、この子は剣聖か拳聖としての素質を見込まれて、より高い金額で販売されている可能性もあったわけだ。逆に言えば、それだけ期待をかける奴隷商がいたならば彼女は俺の前に現れることはなかったということでもあるな。そして異世界転移者である俺でなければ、彼女の価値を見出すこともなかったということになる。 これは、買えといわれているのと同じではないか。こんなイベントまで用意されているのだとしたら、神崎さんは趣味が悪いが、確かに異世界あるあるではないか。彼女を購入するためにはどうすればいいんだろう。「なあ、こいつらはいつ売りに出されるんだ? 」「明日の朝には。今は見せの時間だ。どうしても欲しけりゃ明日の朝一で店に来な。そうすりゃせめて人に見せられる服装をさせて店先に並
アイテムボックス以外にどんなスキルが付与されているのか。それを確かめに行く必要があるな。「どこかでスキルを確認することはできないのかい? 」「それなら、そこの露店の占いばあさんに頼むといいです。各地にネットワークを広げていて、ばあさんはみんな鑑定の技能を持ってる凄腕ばかりなのです。なのに、銀貨1枚で鑑定してくれる格安便利ばあさんなのです」 そんな街に一人はいるセーブデータを記録してくれる教会の司祭、みたいな存在がこの世界にも存在するらしい。ただ、田舎にまではさすがに足を伸ばしていないらしく、このボコマズの町ぐらいの中都市には一人はいるようだ。そして、その占いばあさんの前までくる。「鑑定かい? 」 ばあさんが上目遣いにこちらを見る。「ああ、頼むよ。自分が何のスキルを持っているかよくわかってないんだ」「銀貨1枚だ、先払いだよ」 アイテムボックスから銀貨を出し、ばあさんに渡す。「アイテムボックスを持ってるのはわかってるんだねえ。じゃあしばらく待ちな」 ばあさんが俺の顔を見ながら目を光らせる。しばらくした後、ばあさんの目が光るのが終わり、結果がばあさんの手によって書き出されていく。「御同輩じゃないか。なんで自分のスキルも知らずにあたしに依頼するかねえ」 そう言われながら書き始められたスキル欄には、カンテイの文字が。鑑定。つまり、俺も鑑定スキルを持っているということなのだろう。確かに、異世界転移じゃ定番中の定番だ。それを持たせておいてくれたということか。神崎さん、隅々まで至れり尽くせりの異世界旅行をありがとう。俺、こっちでもしばらくたくましく生きてみます。 鑑定以外には、タイジュツ、ケンジュツ、ソウジュツ、アンキジュツ……などと並んでいき、どれもレベル1のものが付与されていた。それぞれ体術、剣術、槍術、暗器術などだろう。カタカナだけなので、同音異義語を含んでいる可能性はあるが、おそらくは冒険者としてある程度必要不可欠なものはインストールされている、と考えてみてもいいんだろうな。 スキルの中にアールエムティーというものが存
サイバルさんとの会食が始まる。サイバルさんの白パンはよくトーストされた、こちらで言う六枚切りの食パンのような弾力で、馴染み深いものではある。それが160円で食えるとなると、やはり十分物価は安いな。これでも世間が回っているということは、よほどの経済的な格差があるのか、それとも果てがない上が存在するのか。 まあそれはさておき、食事だ。温かいスープにパンを浸して食べ、パンの酸味を抑えつつも、決して柔らかくないそのパンをかみ砕き、咀嚼して胃に入れる。80円の食事ならこんなものか……現世でも、298円でハンバーグ弁当が食えるスーパーも確かにあったが、あれに比べればこっちのほうが少なくとも量はあるし腹は満たされる。量が足りなければ二つ頼めばいいだけだ。しかし、そろそろ顎にガタが来る年齢にこの黒パンの表面の硬さはちょっと来るな。 サイバルさんは白パンを優雅に食べ、そしてスープのほうもこちらより少し肉が多い。やはりお高いセットはそれだけ価値がある、ということだろう。 温かさと量だけはあるこの食事を無事に胃に詰め込み、顎が痛くならないかどうか心配する間に、サイバルさんも食べ終えて、ようやく腹と顎が落ち着いたところで商談に入る。「うむ、私の話はシンプルだ。その服を売ってほしい。おそらく、何かしらの取引で手に入れたものだとは思うのだが、その素材を研究してより良い服造りをするためにも物そのものが必要だ。ぜひとも協力していただきたい」「では、こちらの条件を。上から下まであなたのお店で、最高級品でなくてもいいのでそろえさせていただきたい。私はこれが一張羅なもので、これを渡してしまっては裸で生活しなければいけなくなる。その点はまずよろしいですか? 」「うむ! それぐらいは喜んで出させてもらおう。手付金代わりに受け取ってもらいたい。服の値段についてはまた別で……と考えているぐらいだ。そんな話でよければいくらでも乗ろう。それで、いくら出せば君のその服、譲ってくれるのかね? 」 うーん……実際問題どのぐらいなんだろう? 二度と手に入らないという意味ではそれなりに高級品であることに間違いはないのだろうが







