LOGIN金の話を終えたところで、外に出て列が延びている様子を見る。みんながみんなマヨを珍しいと買いに来たわけではなく、中にはこれは商売になると見越してマヨを買い付けに来た目ざとい商人も居るだろうが、純粋にうまいものを提供できるとして並んでいる人もいるのだろう。
並んでいる人を見ると、女性と子供も結構いる。店主は店で仕込みをしていて、その間に雑務をやっている奥さんや女中さんや子供のお使いで買いに来ている……ということもあるんだろう。
「しばらくはこの騒ぎも続きそうですね」
「その間にしっかり稼いで、初期投資をしっかり回収しなければいけませんからね。飲食店のほぼ全てにマヨをばらまいた分、かなりの出費になっています。長い目で見る必要はありますが、投資分は確実に回収して新しい商売として続けていくだけの体力も自信もありますからね。必ず儲けさせてみますよ」
「期待してます。俺の懐具合にもよるので大事なところですからね」
「それより、マヨ以外の食べ物で何か思いつくものはありますか? マヨに合う食事だと
メリーさんのところへ行き、次の10日分の宿泊代金である大銀貨1枚を払う。「順調に稼いでるようで何よりだねえ。その調子でいつも通り長く居てくれると嬉しいね」 メリーさんがそろそろ更新日付だということを覚えていてくれたので、次の区切り日までの延長ということになった。メリーさんとしても、親父さんとしても、マヨを安く仕入れることができるということでメリットはあるはずだ。「あと、桶をいくつか借りるね。ちょっと今日は全身ピカピカにしてみたいもんで」「今の時間ならいいさね。お湯を沸かす時間までに帰してくれれば自由に使ってくれていいよ」 許可を得たので、井戸で水を汲んで部屋に持ち込み、部屋の中で火魔法でぬるい湯にまで温度を高める。気持ちいい温度になったところで、服を脱いで全身に水をなじませた後、石鹸で体を洗い始める。「うん、ちょっとビリッとくるが、このぐらいは許容範囲かな。レンモの香りもするし、泡立たないのはそれだけ体が汚れてるってことだろう。スポンジみたいなものがあればより良かったかもしれないな」「すぽんじ……とはなんですか? 」 スポンジを知らないのは当たり前か。ここの周辺には海もないし、海綿も珍しいものになるだろうから説明が難しいか。「泡を立てるのに便利なもの……かな。石鹸を泡立ててから体を磨いたほうが効率的に体を綺麗にできるんだがな。手ぬぐいより便利なものが今のところ手持ちにないから、諦めておくしかないかな」「ぬるぬるしますが、このぬるぬるが大事なんですよね? 」「ちゃんと水で溶いて、泡立ちを……と言いたいが、俺もセルフィも体がそれなりに汚れてるから泡立たないのかもしれないな。毎日定期的に綺麗にしてると、泡が立ってなかなかに気持ちいいんだが」「むぅ、そうですか。じゃあせめて全身綺麗に洗って、その後洗い流してレンモの香りがするようにしましょう」「それだけできれば十分かな。さて、そろそろ洗い流すか……って、桶を複数個借りてて正解だったな。垢で桶の中が凄いこ
どうやら、俺がゴブリンの耳を査定にかけた段階で第一報はフェリクスさんに伝わっていたらしい。そして、査定とカウンターで報酬の支払いと相談をしているうちに情報が伝わって、あらかじめ事前情報を共有。そこまではできているらしい。仕事が早いな。「えっと……このあたりで一匹、その後このあたりでもう一匹、それからここで一匹、この時点で戻ったのでこの先は不明ですね」「なるほど。つまり、この間には巣がある可能性は低い、というわけですね」 俺が通ったルートをたどり、フェリクスさんが書類の上に魔石を置いて場所を絞り込んでいく。「セルフィが一緒に居るので、もし巣に誘い込んで俺を引き離して襲おうとしていた場合、もっと早く仕掛けてくる可能性があったはずです。なのでここまでは安全ゾーンであると考えます」 アライ草を採りに行っていた範囲を丸っと安全圏ではないか? と判断する。巣があるとしたらその先の可能性が高いだろうと意見を具申する。「確かにそうですね。だとするとこの先にあるかどうか、探しながら行かなくてはなりませんね。本来ここにはゴブリンは生息していないんですよ。仮に住み着いたとしても、街に近すぎますので、駆除対象にしなくてはいけません。これがもっと遠くや、薬草群生地の近くでなければ問題はなかったのですが」 ゴブリンの発生場所について詳しく教えてくれている。今後も似たような場所にゴブリンが出た場合には参考にしろ、ということなのだろう。フェリクスさんのほうをちらっと見やると、こくりと頷く。そういうこと、ということなのだろうな。「一つ質問があります」 早めに聞いておこう。この後数日かけての作業になる可能性もあるからな。「なんでしょうか」「ゴブリンの巣の特定が必要になった場合、我々も特定のためにギルドの指示を仰がなければならないのでしょうか? 」「そうですね、手伝いをしてくれるなら一番ありがたい、というのが正直なところですね。やはり一度現地を知っている人物が追い込みや索敵、追跡をしてくれるほうがありがたいのが確かです」 こっちは初めて出かけた場所だから詳しくない
カウンターへ行く前に、今度はモンスターの査定を行う。ゴブリン二匹分だけだが、金になるならこれもちゃんとした収入。それに、あんまりアイテムボックスに入れておきたいものでもない。 査定カウンターにゴブリンの耳を持っていき、渡す。「ゴブリンの耳ですね……これをどこで? 」 査定嬢の目がぎらつく。ゴブリンがすぐそばに繁殖しているというなら大ごとだろうし、そうでなくても街の近くにいたという話だけでも大事なことだろう。「西門から南西に30分ほど行ったところでゴブリンが最低3匹はいることは確認しています。その内の2匹の分ですね」「残りの1匹はどうされたんですか? 」「こちらを警戒して罠を張ってる可能性があったので、下手に会敵したり戦闘をしないうちに撤退してきました。できるだけ警戒して帰ってきましたが、付いてくる様子はなかったので気づかれなかった可能性のほうが高いですね」「なるほど。その話、帰ってきてから誰かにしましたか? 」 査定嬢が更に確認を重ねてくる。報告はしたか、ということだろう。「ここで話しているのが最初です。誰に報告したらいいのかもわからない新人なので、専門の部署があるならそこへ相談しに行くのですが」「わかりました……と、カウンターで支払いを受ける際にこれをついでに渡してください。担当部署への引継ぎのサインになります。細かいお話はそちらでお願いします」 査定嬢からは耳二つ分の査定金額が記された査定結果書をもらう。 ゴブリン 2 どうやら、シールドゴブリンと普通のゴブリンに差はないらしい。いくらになるかは受け取るまで分からないってところだな。まあ、ダンジョンのモンスターより安いということはないだろう。 カウンターへ行って薬草の査定結果を渡す。カウンターでは薬草査定結果を確認して、銀貨7枚と大銅貨1枚を渡される。これで今日の稼ぎは銀貨9枚と大銅貨1枚となった。最近の稼ぎからすれば多くはないが、7日分の宿泊代金と考えれば安いものだ。 ゴブリンの左耳はどうやら一匹当たり銅貨5枚と
ここまでで出てきたゴブリンは二匹。そもそも偶然ゴブリンが出現した、という可能性はまだ否定できない。初心者冒険者がゴブリン二匹と出会ったからと言ってそれを元に巣ができたかもしれない、と引き返してくるのはありがちかもしれない。 だからといって、このまま次のゴブリンを探して彷徨ってる間にゴブリンの計略にはまって囲まれて……という可能性もある。ここは深追いせずに、薬草採取のついでにゴブリンを探す、という方向を続けているほうが良いな。 もうちょっと街に近い位置にまで戻ってアライ草を探す。そして、そこでゴブリンがもう一匹出てきたら、これはゴブリンが街の近くで繁殖している可能性が高い、と冒険者ギルドに報告する流れのほうが良いだろう。 こっちは二人しかいないんだ、集団戦に持ち込まれたらあっという間にのされてしまうだろう。いくら剣聖だとしても、ゴブリンが十数匹、数十匹と現れてくるような状況では限界もある。まだ剣聖としてのレベルが高いとは言えないセルフィでは手に余るだろう。 そして、ゴブリンによって攫われてあーんなことやこーんなことに……うむ、許せん。ゴブリンはすべて殲滅しなければならないな。そのためにはきちんとした手順を踏まないといけない。 俺とセルフィの力をもってすればゴブリンなどたかが低級モンスター……と言い切れるほど腕に自信があるわけでもない。世の中の流れや手順、ルールにはできるだけ従うべきである。 もしも、ここで討伐をしなかったり巣を放置したせいで少なからず損害が出るんだとしても、街の西側なら何もないし、あえて言うなら採石場があるのみ。 ゴブリンが石に興味を示すとは思えないので、ゴブリンがより繁殖してから襲ってくるか、通りかかる民衆を襲うのがせいぜいだろう。 その前に短期決戦でゴブリン退治をする、というほうが期待に応えることができるだろう。その為には報連相、無理に自分たちだけで解決しようとせず、冒険者ギルドに報告する。 そして、俺たちより使える安全なパーティーが偵察を行い、ゴブリンの巣を発見して駆除の流れをきちんと作ってもらうほうが大切だ。
西門にたどり着き、外に出る。出るときに衛兵がいつも通り話しかけてきた。「冒険者が西門に用事があるのか? 」「薬草を採りに行くんですよ。西門からのほうが近くて」「そうか、夜の鐘には遅れないようにな」 納得したらしく、そのまま見送ってくれた。ちゃんと仕事をしていてえらい。そのまま西門から南西方向に道を外れて、採石場とは道を挟んで反対側に行く。 まだ採石場として稼働していないが、今稼働している採石場から石を取り切ったら、こっち側が今度は採石場になるんだろうな、というようなイメージの岩場を歩く。道はないので適当に岩に昇って……そして、岩陰にこっそりと生えている草を鑑定する。 草からは「僕アライ草です、こんにちは。良く育ってます」と返事が返ってきた。アライ草はこんなに近くでも取れてくれるのか。ただ、鑑定で調べる感じ……と、お? 今ので鑑定のレベルが上がったらしい。 範囲鑑定ができるようになって、周辺の地形の中にどんなものがあるのかが遠距離でもわかるようになってきた。ついでに、さっきの鑑定結果のアライ草の返事を見る感じ、状態変化も把握できるようになったらしい。「セルフィ、鑑定のレベルが上がったぞ。これで離れててもどこに薬草が生えてるのかわかるようになった。いちいち近づいて見たり抜いて観察しなくていいのは楽だな」「おめでとうございます。これで楽に稼げますね」「そうだな、しっかり育ったアライ草だけを抜いていくことにしよう。アライ草の育ち具合も見られるようになったからそこも楽になった」「鑑定だけで食べていけるようになったんじゃないですか? これでお休みを増やしてもいい感じになりましたね」 セルフィはニコニコと嬉しそうにしている。お休みが増えるのを楽しみにしているらしい。確かに、自分の自由になるお小遣いも増えたし、お休みに買い食いするとか楽しみたいことはそれなりにあるだろう。「それだと鑑定やってる婆さんの商売敵になっちゃうしな……鑑定で飯を食っていくつもりはないよ。それに、レアなスキルを持っ
セルフィと冒険者ギルドに戻る。ご飯は報酬を受け取ってから決めることにした。そのほうが、午前の仕事をきっちり終えた、という気分になってちょうどいい。 冒険者ギルドで確認書を渡し、婆さんの署名があることを確認してもらい、銀貨2枚を受け取る。昼食には多すぎるし、今日一日分生きるためには十分な稼ぎではあるものの、今日一日分でしかないのもまた確か。 余裕のある生活を送るには、午後ももうちょっと誰かの助けになることをしなければならないだろう。さて、午後からは何をするかな。「とりあえず、どこかでお昼を食べましょう。近くにお腹にたまる店があればいいですが」「どこもまだ入ったことのない店だからな。ある意味でどこに入っても一緒……ということにはなる。かといって歩き回ったり悩み抜いたりするぐらいなら、銀の卵亭まで戻って食事にしたほうが効率的だ。ここは一番近そうで気軽に入れそうな店にしよう」 食べ物を売ってそうな店を探すと、店構えがそこそこよく、ちゃんと屋根があって座れる店を見つけた。名前は「マヨイネコノスープヤ」と書いてある。迷いネコのスープ屋か。迷って入ってこい、ということなのだろう。 名前からして、スープに自信がある可能性が高い。塩辛い燻製肉と豆をぶち込んだだけのスープを売っているような雰囲気ではないので、ここで一食食べていくほうが良いかな。「よし、こういう時はインスピレーション……思い付きと思い切りが大切だ。ここに入ってみよう」「はい、ついていきます」 店の中に入ると、コンソメのようないい香りが漂っている。ガラスを使えない地方のため、石の据え付けられた壁にも香りが移っているらしく、店全体から何とも言えない腹の空くようないい匂いが詰まっていた。「いらっしゃい、空いてる席にどうぞ」 二人掛けの席があったのでそこに座り、早速店員に聞く。「初めてなんだけど、何がある? 」「今はランチと、基本メニューにスープが三種類。どれも白パンがつくよ。値段は全部大銅貨1枚」 銀の卵亭よりは割高に感じるが、黒パンじゃなくて
町の中に入り、様子を見る。よく踏み固められた地面に、石造りの建物。およそ地震対策などが考えられていない、単純な造り。日本なら確実に揺れでつぶれているであろうその建物は、明らかに地震なんてものとは無縁であろうことが感じられる。 異世界の空気を胸いっぱいに吸い込む。酸味がかった、誰かの体臭にも似たその香りは、実際に誰かの、いうわけではなく、この世界の人々の衛生概念がそのぐらいであるか、こちらの世界の人々の体臭がひときわ濃いのか。とにかく酸っぱい匂いが少しだけ漂っていた。この匂いにも慣れていかなきゃいけないんだよな。「では、まずは冒険者登録しましょう。市民証も
翌日、俺は再びアザーワールド社に来た。異世界のしおりによると、こちらとあちらで荷物の持ち込みはできないらしい。が、唯一現金だけは持ち込み、持ち出しが許されるらしい。実際に説明された通り、現金だけはやり取りできるらしいのでまさに身一つで異世界に旅立つことになる。 会社について、受付で小鳥遊です、有休消化しに来ました、と告げると、太客を案内するモードに入ったのか、豪華な応接室に連れられてお茶と羊羹まで出てきた。せっかくなのでいただくことにする。 程よい苦みのお茶と、甘くしっかり砂糖が析出するまで練り込まれた羊羹。これでしばらくこっちの世界の甘味も味わい収めか
「面白そうですね。早速行ってみたいのですが、日程はどうなってますか? 」「ご興味あります? 異世界。詳細聞いちゃいます? 」「聞いちゃう。詳細、聞いちゃう」「じゃあ……少々お待ちください。今現地での行動のしおりを持ってきます」 溜めて……言わずに、現地での行動のしおりみたいなものがあるらしい。なんか修学旅行を思い出すな。 しばらくして、真新しい印刷したてのインクのにおいはするが、古めかしい紙に書かれた冊子を持ってきた。「えっとですね、まず
有給休暇開始一日目。早速有給休暇消化案内所。横文字でハローホリデイ、通称ハロホに行ってみることになった。ハロホには公共のものから私的なものもあり、様々なサービスを受けることができるようになっている。 もちろん、有給休暇であるのでその間も給料は出ている。ここぞという時のためにお金も有休も溜めて一気に使い切る豪快な使い道もあるらしいが、そこまで高い給料をもらっているわけではない俺としては自分の給料でできる範囲で休みが楽しめるならそれに越したことはない。 それに、何より休みは仕事と違って何をするにも金がかかる。何でもかんでも過剰労働の対価が有給という数字にカウントされるようになって以来、ぎり







