로그인「そういえば、前に言ってたよね。奏が毎月あなたに給料を渡してるって。今でももらってるの?」とわこが聞くと、ボディーガードはぽかんとした。「わからないです。給料は妻が管理してるので」「まあそれはどうでもいいわ。帰国したらあなたにボーナス出すから」とわこは言った。彼はここに来てからろくに休めず、家族とも過ごせず、ずっと献身的に支えてくれている。安全に帰国できたら、まとまった額を渡すつもりだった。「社長、そんなこと言われたら、逆に帰国を急かしにくくなっちゃいますよ」ボディーガードはおどけてみせた。「食べましょう。蓮を見つけたら、一緒にここを離れることをちゃんと考えるから」とわこは口では彼らの計画を責めつつも、今回の件が大きな気づきを与えていた。今は無事でも、この先何が起こるかわからない。彼女はもうこれ以上、ボディーガードや俊平を巻き込みたくなかった。同じ頃、大貴は家で夕食を済ませ、テーブルから立ち上がって新しいスマホを手に取った。その瞬間、画面が死のカウントダウンに変わった。さっきまで普通に使えていたのに、今はどうやっても抜けられない。さらに恐ろしいのは、そのカウントダウンが朝に出たものと完全につながっていることだった。画面に映っている残り時間は、61時間05分33秒。あと61時間で自分は死ぬのか。大貴は叫び声とともにスマホを床に叩きつけた。娘が恐怖で泣き出し、妻は慌てて娘を抱いて部屋に戻った。「全員ここへ来い」大貴の怒声が屋敷に響く。「家に内通者がいる。今夜のうちに必ず突き止める」技術者は言った。どれほどの凄腕のハッカーでも、本人の情報を手に入れなければ、彼のネットワークにもスマホにも侵入できないはずだと。つまり、大貴の情報は誰かの手で外に漏れている。しばらくして、屋敷の使用人たちが全員リビングに集められ、二列に並んだ。大貴は一人ひとりの顔を舐めるように見ていく。「この中に、俺を売った奴がいる」彼の手には鋭いナイフが握られていた。「今夜、誰も名乗り出ないなら、俺のやり方で片をつけるしかない」全員が血の気を失い、呼吸すら浅くなった。「今夜の零時までに名乗り出なければ、この中から誰かを選んで殺す。この愚か者どもを全員始末しても、俺は一向に構わない」大貴の声は低く重く、部屋中に死の気配
どう見ても、俊平とボディーガードは奏を歓迎していない。それに、どうしても彼にジュースを飲ませたくない様子だった。その理由が、このジュースが特別高級だからというわけではない。奏の中に疑念が生まれた。だからあえてグラスを持ち上げ、そのまま飲むそぶりを見せた。「やめろ」俊平が声を上げ、同時にジュースのグラスをひったくった。とわこの顔が一瞬で冷えた色になる。「どうして飲んじゃ駄目なの」とわこは自分のグラスを見つめ、「まさかジュースに問題でもあるの」と言った。その瞬間、テーブルは水を打ったように静まり返った。俊平もボディーガードも顔を伏せ、言葉が出てこない。健剛は箸を持ったまま聞く。「じゃあ料理は大丈夫ですよね。お腹すきました。これはどれも普通に食べられるんですよね」俊平は「料理は大丈夫だから食べて」と言った。健剛は逆算するように、「料理が大丈夫ならジュースは駄目ってことですよね。まさかとわこさんに毒でも入れたんですか」と問い詰めた。俊平は慌てて、口走った。「毒なんて入れるわけない。ただの睡眠薬だ」真相が露わになると、とわこはすぐ立ち上がり、その場を離れようとした。「とわこ、説明させて」俊平が追い、彼女の腕をつかんで引き戻した。「俺たちは君を連れて帰りたいんだ。君がここにいるから、蓮は君を心配して飛んできた。君がここに残っていたら、もう一人の子だって来かねないだろ」「だからといって、私に黙って睡眠薬を飲ませるわけ」とわこは怒りを抑えきれない。ボディーガードも肩を落として言う。「社長、普通に説得しても、あなたは全然耳を貸さなかったじゃないですか。追い詰められて仕方なくこうしたんです」とわこはまだ怒っていた。すると奏がゆっくりとした声で言った。「彼らは間違っていない。君は本当に帰るべきだ」「今は帰れない。蓮がここにいるのに、どうして私だけ帰るの。帰るなら蓮を見つけて、一緒に帰る。それにあなた、自分のことで手一杯でしょう。私の心配する余裕なんてないくせに」彼女は奏を鋭くにらんだ。俊平は二人が言い争いになりそうなのを見て、深いため息をついた。「とにかく食べよう。料理が冷めてしまう。帰りたくないなら帰らなくていい。今夜のことは全部俺の責任だ。俺の考えた案なんだ」するとボディーガードが慌てて口を挟む。「社
俊平は落ち着かない様子だった。「君は痩せすぎだ。それに、今日は俺がご馳走する。明日は君がご馳走しろ」「分かった」とわこは席に座った。俊平はすぐにジュースポットを手に取り、彼女のグラスにジュースを注いだ。ボディーガードはビールの缶を開けた。俊平は酒もジュースも飲まず、代わりにココナッツミルクのパックを開けた。とわこは少しお腹が空いていたので、箸を手に取り、声をかけた。「さあ食べよう。ご飯のあと、また外に出て散歩するつもり」「一日中歩いてきたんですよね。足は疲れていないんですか」ボディーガードがからかった。「大丈夫。もしあなたが疲れたなら、後で一人で行くけど……」「あの事件のこと、忘れたんですか」ボディーガードは彼女の勇気を称賛した。「まずは食事です。食べ終わってから考えましょう」「うん」とわこは一口料理を口に運んだ。その時、俊平はグラスを掲げた。「乾杯しよう。これからすべてうまくいきますように」とわこもジュースのグラスを掲げ、彼に合わせた。「俊平、今日は誕生日じゃないよね。なんだか今夜、様子が変だよ」俊平はココナッツミルクを飲み、慌てて首を横に振った。「誕生日なら、必ず知らせてプレゼントを買わせるよ」とわこは思わず笑ってしまった。ジュースを飲もうとしたその瞬間、見覚えのある影が突然目に飛び込んできた。奏は午後、三郎と会ったあと、蓮を探して近くを回っていた。ちょうど食事の時間になり、ボディーガードと一緒にレストランに入ると、とわこを見かけた。ボディーガードの健剛は彼らを認識し、先にとわこのテーブルに着いた。こうして奏と健剛は、彼らのテーブルに座った。俊平とボディーガードは固まった。とわこはウェイターに二人分の食器を持ってくるよう頼んだ。俊平とボディーガードはさらに固まった。食器が運ばれると、とわこは奏のグラスを取り、ジュースを注いだ。俊平とボディーガードは顔を歪めた。助けてくれ。ジュースには睡眠薬が入っているのだ。彼らはとわこに睡眠薬を飲ませ、直接連れ出すつもりだった。すべて順調に行くはずだったのに、なぜ奏が来るのか?この辺りにはレストランがいくつもあるのに、なぜわざわざここを選んだのか?しかも空席がいくらでもあるのに、なぜこのテーブルに座るのか?俊平
俊平は言葉を失った。もし真帆の言う通りにして、とわこを無理やりY国から連れ出したら、とわこが目を覚ました時に激怒するだろう。最悪の場合、もう二度と口をきいてくれないかもしれない。だが従わなければ、とわこはここで命の危険にさらされる。何度も考えた末に、俊平は航空券と睡眠薬を受け取った。「あなたならそうすると思っていた。あなたはとわこのことが好きだから、今の私の苦しみを少しは分かっているはず」真帆は水を一口飲んだ。「真帆、人の悲しみは同じじゃない。俺は俺と仲間の痛みなら理解できる。でも君のことは分からないし、とわこと俺は君の想像しているような関係でもない」俊平は静かに訂正した。二人は何年も連絡が薄かったのだ。男女の感情などあり得ない。ただ後輩としての縁は永遠に消えない。「まあ私が分かっていないということにしておけばいい。あなたたちがY国を離れるなら、その後のことはどうでもいい。私は自分の居場所だけ守れればいい」彼女がグラスを置いた。俊平は、「成功するとは限らない」と告げて立ち上がった。「連絡先を残して」真帆が言う。「困った時には助ける」俊平には、彼女に頼る必要があるとは思えなかった。彼の目には、真帆はどこか幼い少女に見えた。幼い顔なのに、大人ぶった口調を真似する様子が少しおかしい。二人は番号を交換し、俊平は別荘を後にした。ホテルへ戻り、とわこのボディーガードの部屋の呼び鈴を押した。ちょうどボディーガードはとわこと昼食を終えて部屋へ戻ったところだった。午後は一緒に蓮を探しに行く約束をしていた。俊平がドアの前に立っているのを見ると、ボディーガードは少し驚いた。「菊丸さん、俺を探しに来たんですか」「うん」俊平は部屋に入り、ドアを閉めた。「とわこは今日どうだ」「今日は元気です。昼までずっと寝ていました。今は部屋に戻って昼寝しています」ボディーガードが答えた。「でも、きっと眠れないと思います。俺が午前中ずっと蓮を探していたのを見て、少し休ませようとしているんでしょう」「それじゃ、君の休憩を邪魔してしまったな」俊平は顔を赤らめた。「特別に俺を探しに来たということは、何か用事があるんですか」ボディーガードは彼を観察した。俊平の心は不安でいっぱいだった。しかし、とわこに直接頼む勇気はない。だ
ボディーガードはそう言い終えると、足早に外へ出た。レストランを出たところで、蓮を大股で追いかける。「蓮!お父さんもお母さんも、ずっと君を探してるよ。昨日なんて、夜中の二時まで探し回ってたんだ」ボディーガードは彼をとわこの元へ連れて行こうとする。「離して」蓮はもう、大貴を終わらせると心に決めている。ボディーガードは彼にもとわこにも遠慮があり、困ったように言った。「お母さんがね、君を見つけたらすぐ連れて来いって言ったんだよ。連れて行かなきゃ、俺クビになるよ」「放さないなら、俺だってママに言ってあんたをクビにできるけど」その一言で、ボディーガードの手が一気にゆるむ。「蓮様。頼むから行かないで。お父さんとお母さんは、大貴は危険だから近づくなって、あいつに捕まったら……」「誰にも捕まらない。大貴を片付けるまでは、もう追ってこないで」蓮は低く吠えるように言う。「俺を信じて」ボディーガードは言葉を失った。蓮は奏にそっくりな顔立ちで、自信家で誇り高く、気性も激しい。まるで奏の縮小版のようだ。彼の放つ圧倒的な自信と支配力に、ボディーガードは飲み込まれてしまう。ほんの一瞬意識が揺れた隙に、蓮の姿は消えていた。意気消沈しながらホテルへ戻ると、ちょうどエレベーターからとわこが降りてきた。「奏と一緒に蓮を探しに行ったの?」とわこはしっかり睡眠を取ったので、顔色も良く元気だ。「さっき蓮に会ったんですけど、逃げられました」ボディーガードは項垂れ、叱られる覚悟を決める。「正直、あの子が怖いです」「じゃあ私のことは怖くないわけ?」「考えてみたんですけど、多分あの子の方が怖いです」ボディーガードは正直に言う。「奏さんでもあの子には手を焼くと思います。蓮を落ち着かせられるのは、社長だけですよ」とわこは悔しさに眉を寄せた。「寝過ごすんじゃなかった」「そんなこと言わないでください。今日、顔色すごく良くなってます。蓮は自分に信じろって言ってました。大貴はすぐ片付けて、社長に会いに行くって」「本当にそう言ったの?」とわこは事態がどんどん手に負えなくなっていく感覚を覚えた。「はい、あの子を信じます。社長も信じてあげてください。蓮は確信がなきゃ動かない子です」別荘。真帆は数日ベッドで横になっていたが、もう我慢できず起き上がった。
奏が立ち上がり、蓮を捕まえに行こうとした瞬間、レストランの入口から数人が入ってきた。先頭に立っていたのは大貴だ。奏が彼に気づいたのと同時に、大貴も奏を見つける。銃撃事件以来、二人が正面から顔を合わせるのは初めてだ。宿敵同士が再会し、空気が一気に張り詰める。大貴の目には露骨な殺気が宿る。だが二人の間には剛と真帆が挟まっているため、表面上の平穏は保たれていた。蓮は大貴が入ってきたのを見るや、すぐに椅子へ座り直した。彼が大貴を見るのは初めてだ。この男が、ママを傷つけた張本人。ママの機転がなければ、今ごろママは酷い目に遭っていた。こんなやつに再びママを害させるわけにはいかない。だから大貴のことは絶対に許さない。「今日はおじさんと会うはずじゃなかったのか。どうしてここで食事しているんだ」大貴が奏に声をかけながら、さりげなく健剛へと視線を流した。健剛は奏の側にいるボディーガードであり、見方を変えれば剛が奏につけた監視役でもある。大貴は、短期間で健剛が買収されるとは思っていない。だが奏がなぜここにいるのか理由が分からない。健剛の頬はわずかに赤くなり、落ち着かない様子だ。その時、奏が先に口を開いた。「彼は今朝、手が離せなかった。時間を変えて午後に会うことになった」「そうか、納得した。で、こいつは誰だ」大貴はどかっととわこのボディーガードの隣に腰を下ろし、奏に尋ねた。ボディーガードはすぐに大貴へ手を差し出した。「大貴さん、こんにちは。とわこさんのボディーガードです」大貴はその言葉を聞いた瞬間、顔色を怒りで濁らせた。「お前、どうしてここにいる。まさかとわこも来ているのか」彼は辺りを見回し、蓮の横顔と目が合いそうになり、一瞬視線が止まった。奏は蓮が気づかれるのを恐れ、すぐに言い訳をした。「とわこのボディーガードを呼び出したのは、彼にとわこを日本に戻してもらうためだ。昨夜、真帆と話したんだが、彼女はとわこにはこれ以上ここにいてほしくないらしい」大貴は鼻で笑った。「やっと真帆の気持ちを考えるようになったか。とわこを説得できないなら、三郎おじさんに頼めばいいだろう。あの女は彼の女でもあるんだからな。ふっ」奏は水を口に含み、静かに飲み込んだ。「奏、お前らが裏でそんな楽しみ方してるとはな。ふっ。それ