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38.初めての夜…

Author: 桜立風
last update publish date: 2026-03-26 10:21:45

そんな笑顔が、一瞬で凍りついた。

「桜ちゃん…ヤッホ!」

背にしたソファから覗く赤い髪…麗香だ。

「ごめんね、龍之介に無理を言って、待ってる間だけって…時間をもらったの。ほら、クラブ櫻川のこともあるし、組のことでもいろいろとね」

「いえ…忙しいのに、すみませんでした」

すぐ後ろにいる龍之介を少し振り返りながら、麗香に頭を下げた。

「じゃあ、お前はもう行けよ」

「早速邪魔者扱い…?まったく、婚約者のくせに冷たいんだから!」

明るい言葉に悪気は感じない。…けれど、少し前ならこんな言い方をしただろうか。桜はそっと麗香の表情を見た。

桜に笑顔で手を振り、ドアの外に消えた麗香。

「ごめんな。櫻川のNo.1ホステスが売り上げを持ち逃げして消えちまってな」

「え、そんなこと、あるんですか?」

「あぁ、よくある話だ。…麗香は若いうちからそういう世界を父親に任されてきたから、危ない嬢を見極めるのは得意だったんだがな」

麗香の座っていた席に、水滴がついた琥珀色の飲み物。これは多分ウイスキーの水割りだ。

お酒を飲みながら、そんなトラブルの対処について相談するの?…納得できない気持ちが、桜の心を固くした。

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Comments (1)
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yuu
龍之介はそれでいいの? 最後の電話は麗香さんだよね… 蔵之介が言っていた通りになってしまうのかな。
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