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第75話

Author: 雨の若君
素羽は司野の世話を終え、バスルームの掃除まで済ませ、最後にようやく自分の番になった。

すべて終えたときには、もうへとへとだった。

こんなにも疲れるのは、やっぱり自分の推測が当たっているからだ、と素羽は確信した。司野は美宜を大切に思っているのだ。彼女に苦労をさせたくないのだ、と。

布団をめくってベッドに横になると、すぐに司野が腕を伸ばし、素羽の腰を引き寄せて自分の胸元に抱きしめた。

彼の力強い心音が耳元で響く。

司野は顎を彼女の頭に乗せ、髪を優しく撫でながら呟いた。「叔父たちが狙ってた美味しいところ、俺が全部いただいたよ」

もがこうとした素羽の動きは、その言葉でぴたりと止まった。司野の気だるそうな声の奥に、確かな喜びがにじんでいる。

「三ヶ月かけて、彼らには何も残さなかった」

司野は素羽の顔を両手で包み込み、鼻先を擦り合わせるようにして言った。「今夜は本当に、楽しかった」

肌と肌が重なり、息遣いが混ざり合う。これまでになかった親密さだった。どれほど情熱的な夜でも、こんな風に心まで触れ合うことはなかった。

司野の瞳は漆黒で、まっすぐに素羽を映しこんでいる。まるで彼の世界
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maasa16jp
この主人公 気持ちがふらふらして 読んでてうんざりイライラする どうしたいんかわからん もうちょっと強い女がいいなぁ
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