Share

ニ階

last update Dernière mise à jour: 2026-01-06 06:45:36

「でも、君のことは本当に放っておけない」

「……どうして?」

「秘密」

堂々巡りだと思ってると、ミコトが立ち上がった。彼に続き、離れないよう追いかける。

すぐに気付いたが、こちらの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれていた。

「外の世界はどう?」

「え」

「ずっとあの研究施設にいたんだろう? まだ私の家と城しか見てないけど、新世界に発見はあったのかと思って」

「あ、あぁ……」

話の風向きが変わったことにたじろぎ、慌てて無表情を繕う。

新世界か……。

言い得て妙だ。確かに、異世界とは新世界である。

地下にいたから何一つ良いことなんてなかったけど、今は色々見て回ることができる。

「本当に驚いてます。こんな世界があったのか、って」

何で自分みたいな冴えない人間が召喚されたのか心底疑問だけど、リフレッシュだと思おう。ちょっとの間だけ現実からログアウトして、煩悩を取り除く。

実際、この世界は時が止まってるみたいだ。毎日事件が起きてるはずなのに、広報紙を読まないと何一つ耳に入らない。

「街は賑やかだし、皆穏やかだし。天国みたいです」

それは本心だったのだが、ミコトは困ったように眉を下げた。

「それはいけない。本当の天国は、きっと何もない場所なんじゃないかな」

「はあ……」

この国にいる人達は皆同じ行動をして、予測できることしか言わない。まるでゲームのNPC。

そんな中、ミコトは予想外の言動や行動をしてくれる唯一無二の存在だ。

初めて会った時は、鎮静させる為とはいえイかされた。今思い出しても目眩がするけど、嫌ではなかったんだよな。

「あの……外でこんなこと訊くのはどうかと思うんですけど」

「何?」

「ミコトさんは、研究所で、俺が勃っちゃったとき……な、何で躊躇いなく触れたんですか?」

恋愛対象が同性だろうと、知らない人間の性器を触るなんて普通無理だ。

けどミコトは何の迷いもなく、自分を押し倒した。そこに特別な意味はあるのか知りたくなってしまった。

ミコトは足を止め、片手を振る。

「全然嫌じゃなかったよ。可愛いから」

「かわ……そッスか……」

めっちゃ真顔で言われた。自分から訊いたのに、ちょっと後悔した。

「君はこの世界で誰よりも感情豊かで、可愛い」

……っ。

恥ずかしい台詞を平然と吐けるのは、やはり彼が違う世界の人物だからなのか。

でも、俺も相当おかしい。彼に可愛いと言われることが、嬉しくなってきてる。

赤くなってるはずの顔が彼から見えないよう、帰るまで必死に下を向いていた。

ミコトの家に来て初めての夜を迎えた。彼について分かったことは、まだ僅かだ。

元王室直属の騎士団の一人(この世界では警察のようなものらしい)。現在はクロック王子の護衛と、市街の巡視や調査をしている。

年齢は二十九。若輩ながら、国王に厚い信頼を寄せられている。

二十九歳か。先生もそうだったな……。

独身、恋人はいない。

城下町の一等地に大きな屋敷をかまえ、ひとりで暮らしている。勤務時間外はピアノを弾いたり本を書いたり鍛錬をしたり、充実した時間を送っている。

やはり風呂は一緒に入らされたが、トイレは自由に行っていいことになった。これだけでも人としての尊厳を取り戻したようで、大満足だ。

「レア、ご飯にしよう」

夕食はチキンソテーと色とりどりの温野菜だった。

研究所では栄養補助食品しか与えられなかったから高級料理に見える。水を飲むことも忘れ、大きなひと口を運んだ。

「そんなに食べてくれると作り甲斐があるよ。まだあるから、ゆっくり食べな」

「すみません。美味しいから早く食べようとしちゃって。今食べてるものを飲み込む前に次のひと口を食べちゃうんですよね」

「あははっ。そのヤンチャな感じ、まるで男子高こうせ……」

声は、制止の指示を受けたかのようにぴたりと止まった。

一応続きを待ってみたが、彼は頭が痛そうに眉間を抑えている。やがて手元のナプキンを取り、俺の口元に近付けた。

「口についてるよ」

「あ、どーも。……ありがとうございます」

じっとして、口周りを拭いてもらう。

「あれ。そういえばミコトさん、今何て言おうとしたんですか?」

「何でもないよ。忘れてくれ」

ミコトは水を飲み、苦笑している。

疲れてんのかな。いきなり知らない男と同居しなきゃいけなくなったわけだし。

「美味しかったです、ご馳走様でした! お皿洗いますね」

「ああ、後で洗うから置いといていいよ」

「大丈夫です。疲れてるんでしょう? 心配しなくても逃げたりしませんから、向こうで休んでてください」

「ほお……」

一応世話係に任命されたし、家賃として家事は率先してやろう。現実でも毎日していたから、大変とは思わない。

「薬の調合しかしたことないって言ってたけど、随分手際がいいね」

「え。そ、そうですか?」

洗浄剤を使ってシンクの周りを綺麗にしてると、ミコトは真隣で興味深そうに頷いた。

「うん。俺が教えるまでもなく」

「そんなことないです。あっ、それにその、本でも読みました」

城の中には巨大な書庫がある。日中そこも出入りできたので、本で知識を得たことにした。幸いミコトは納得してくれたが、かなりヒヤヒヤした。

異世界から来たことを言っても良い気がするんだけど……何かが胸に引っかかって、打ち明けることができない

「ミコトさんって、この世界が全てだと思います?」

「ん? どういう意味?」

「パラレルワールドみたいな。異世界の存在とか、あると思いますか?」

ただの興味と好奇心だったのだが、ミコトが一瞬見せた瞳の輝きに目を奪われた。

「……っ」

時間が止まったかのように、静寂の中で見つめ合う。

まるでこの世界に自分達しかいないような錯覚に陥った。とんでもない秘密を共有したかのような、高揚に近い動揺。

息を殺して返事を待つ。

ミコトは、吐息混じりに短く答えた。

「あぁ」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Latest chapter

  • 異世界半分自惚れしっかり   #2

    昨日は今日の昔という言葉が思い浮かんだ。桜の花びらを見ると改めて痛感する。誰にも言えない体験をしたことは、薄れはしても消え去ることはない。まだ少しチョークの跡が残ってる黒板に触れ、瞼を開ける。窮屈なネクタイを外し、御代は誰もいない教室を後にした。時間の大切さは分かっていたつもりなのだが、この世界に戻ってからは光の速さで日々が流れた。コンクールや入試はともかく、卒業式なんて体感的には十五分だった。今は廊下の窓から、校門に集まっている卒業生達を眺めている。保護者と一緒に帰る者、後輩に囲まれる者、友人と遊びに行く者。皆これから大きな世界へ飛び込んでいく。後輩達から貰った色紙を鞄に仕舞い、階段を降りる。壁にかかった姿見に映る自分は、なんてことない黒髪の青年だった。……いや、それも違うか。世界でひとりだけ。ありふれてるけどここにしかいない、唯一無二の存在だ。眼鏡を外し、昇降口を抜けた。青い空に舞う桜を見上げながら、ふと、自分の髪に触れた青年のことを思い出していた。「現状維持は最悪の選択……か」腕を組み、うーん、と首を捻る。俺は不変大好き人間だから現状維持が最善だと思ってしまう方だ。でも、こと恋愛に関しては違うのかな。お節介で優しいカミサマの言うことは忘れないでおこう。「御代!」校門に続く道に入ると、後ろから名前を呼ばれた。振り向くと、そこには息を切らした中都先生がいた。「連絡したんだけど、見てないな……?」「え? あ、ほんとだ。すみません」スマホを開くと、先生から今どこにいる? とメッセージが届いていた。朝からずっとミュートにしていたから気付かなかった。「あはは、でも会えて良かったです。先生、今日は忙しいのかなって思って」「気遣いありがと。でもどんなに忙しくても時間はつくるさ。大切な日なんだから」先生は呼吸を整えると、ゆっくりこちらへやって来た。「お前とここで会えるのは最後か。寂しいな」「寂しいですねー」「何か軽くないか?」「いや、寂しいですよ!」はい。実は、来たる大学生活の方に俄然気持ちが入ってる。なんて正直に言ったら絶対ど突かれるから隠しておこう。中都先生は訝しげに見つめてきたが、やがて笑いながら自身の腰に手を当てた。「はは。ごめんな。白状すると、俺はこの日をずっと待ってた」寂しいのは本当だけど。と、目の

  • 異世界半分自惚れしっかり   #1

    死後の世界に来てしまった以上は、死んだも同然じゃないか。不安が頭をよぎったけど、今はただ信じるしかない。世界で一番大好きな人を。自分の決意を。やり直すというのは、それまで築き上げた過去をボロボロに叩き割る行為なのだ。それは楽だけど、とても哀しい。神様はずっと俺の恋愛を応援してくれていた。そう自惚れてもいいんだろうか。「……御代さん? 御代さん、聞こえますか?」深い水底から引き上げられるように、意識が鮮明になっていく。重たい瞼を開けると、見慣れない天井が広がっていた。傍には医療機器があり、白い服を着た女性が驚きながらこちらを見下ろしている。「ちょっと、先生に連絡して。あぁ、良かった……」驚きながらも胸を撫で下ろす彼女を見ながら、頭を横に向ける。見れば病室のような場所で、窓の外は雲一つない青空が映っていた。「生きてる。本当に……」片手を上げ、掠れた声で呟く。自分の本当の名前を呼びかけられて、現実に帰ってこられたのだと理解した。全身が痛いし、起き上がる気力もないけど、今なら迷いなく言える。 生きてるって、すごい。涙が零れるほど感動してるのに、頭に浮かんだ言葉は最高に薄っぺらかった。でも、これ以上なく満たされている。俺はまた、改めて生きる力を貰えたんだ。少しして担当の先生や家族、友人が代わる代わるやってきた。驚いたのは、俺が眠っていた期間は三日だけということ。向こうでは半年以上いたから、告白もとてつもなく遠い過去のように思えた。意外にも、父は無事に俺が目覚めたことで安堵していた。目元は腫れていて、親戚に声を掛けられるまで傍にいてくれた。階段から落ちた経緯を伝えてないから、何か申し訳ないな。幸い外傷は大したことはなくて、脳機能も今のところ問題はない。何事もなければ、週末には退院していいと言われた。病室から誰もいなくなった夕暮れ時。真っ白な廊下をゆっくり進み、目的の部屋を探した。そこは個室だったが、患者の名前を見た後もしばらく佇んだ。何を言うか定まらないまま、ドアをノックする。心臓は破裂しそうなほど大きな音を立てていた。わ。俺ってやっぱチキンだ……。嬉しいはずなのに、怖い、という感情の方が沸き立つ。必死に呼吸を整えようとしてると、「はい」という低い声が聞こえた。「……失礼します」引き戸を開けて、最奥のベッドに視線を向け

  • 異世界半分自惚れしっかり   地上

    腕を掴む力は痛いぐらい強くて、振り払うことができない。雨に打たれ、うなじにかかる温かい吐息を感じていた。「……何が大丈夫なんですか。全っ然大丈夫じゃない」ここまでくると、彼の優しさもおかしく思えた。乾いた笑いを込め、足元の河に沈んだ街を見つめる。「全部思い出した。俺死んだんだろ? 先生も、俺のせいで……!」感情のまま叫ぶと、彼は驚いた顔を浮かべた。迷いながらも手を離し、俺を正面に振り向かせる。「それは違う。俺のせいでお前は階段から落ちた。俺がお前を助けられなかったんだ」どっちが悪いかは明白だろ、と彼は続ける。でもきっかけは全部俺にある。謝っても謝りきれない。ただでさえ悪い視界がぐにゃぐにゃにうねっていく。多分、ずっと泣いてるせいだ。嗚咽しながら、途切れ途切れでも言葉を紡いだ。どうしたらいい。何が正解なんだ。「俺……先生にフラれること分かってた。なのに勝手に傷ついて、階段から落ちたりして。こんなことになるなら告白しなければ良かった。本当に、本当にごめんなさい……っ!!」足元の水位は上がっていた。それでも構わず、床に両膝をつける。「大丈夫」先生は俺と同じ位置まで屈み、破顔した。「俺にも謝らせてくれよ、御代。お前の言う通り、俺はこの世界でたくさん隠し事をしてたんだから」彼は人差し指を俺の唇に当てる。もうどうしたらいいのか分からなかったので、大人しく彼の話に耳を傾けた。「俺は確かに階段から落ちた記憶があるから、ここがあの世だってことは最初から気付いてた」そして、必ず俺も一緒に来ていると。「大丈夫だって。あの世にいる神様は優しいんだ。俺達の記憶を保ったまま魂を繋ぎ止めてくれたんだから」「……繋ぎ……止める?」「そう」御代のぬれた前髪を持ち上げ、中都は自身の額を擦り合わせた。「安心しろ。俺達は死んだわけじゃない」真っ暗だった世界に、光芒が見えた。しかし納得いかない部分もあり、慌ててかぶりを振る。「で、でもここはあの世だって」「あぁ。だから、まだ死んでない……って感じかな。生死の境を彷徨ってるのは確かだ」聞けば聞くほど混乱して、立ち尽くす。すると彼は俺の手を取り、微笑んだ。「お前は、告白をやり直したいと思ったんだろう? だから神様は、俺達にチャンスをくれたんだ」現実で目を覚ます前に。そう言い、中都は御代を抱き起こした

  • 異世界半分自惚れしっかり   #5

    知っているのは、先生のことだけ。でもその先生のことすら信じられなくなってしまった。途端に全てが歪み出した。ここに居場所はないと告げるように、道が狭まっていく。一目散に走り出す。何から逃げているのかも分からないが、とにかくここから離れたいと思った。やり直す機会を与えられたのに、それすらもやり直したいと思った。この崩壊はその代償だと気付けなかった。次第に雨も降り、地面を叩きつける豪雨に変わる。建物を挟んだ道は瞬く間に川となり、腰の当たりまで達した。このペースで雨量が増えたら、本当に溺れる。「何だよ……俺が何したって言うんだよ……!」恐怖はやり場のない怒りに変わり、怒りは哀しみに変わる。こんな目に遭う筋合いはない。現実世界では普通に生きて、普通に暮らしてただけだ。それとも本当は罪深いことでもしていたのだろうか。ずぶぬれになりながら、重たい一歩を踏み出す。夜のような暗さ。凄まじい水音。足をとられないよう何とか建物の扉に辿り着き、中へ入った。階段を上り、最上階を目指す。命からがら屋上へ出て、目の前に広がる景色を見つめた。────河ができている。何故か、ここはいつか誰もが行き着く場所だと思った。異世界なんかじゃない。あの世の一歩手前にある場所。「何で……?」あの世とこの世の境にある、河の畔。ここには死者しかいない。行く手を阻む見えない桎梏が、押し殺していた記憶の箱を開けた。『……ごめんな、御代。気持ちは嬉しい。けど』放課後、学校の渡り廊下で告白した。中都先生は熱でもあるかのように頬を赤くしながら、辛そうにかぶりをふった。フラれた。考えるまでもなく分かっていたけど、それなりにショックだったのだろう。彼の返答に頷いてる最中、立ちくらみを覚えた。『ですよね。あは……変なこと言ってごめんなさい』窓を貫く夕陽の光が、俺の胸も突き刺している。真っ赤で、血を噴き出してるように。ああ、やり直したい。欲しいものはあっても、ねだったことは一度もなかった。欲がないことを本当に感謝した人生だけど、中都先生と出逢って全てがひっくり返ってしまったんだ。襟元に落ちる雫に気付いて、驚いた。本当の本当に、彼が好きで仕方なかったのだと。『あ……明日からは普通にします。ので、今まで通り接してもらえると嬉しいです。部活もあるし』『あぁ。それは、もちろん』掠れ

  • 異世界半分自惚れしっかり   #4

    先生はああ言ってくれたけど。自分が抱えているのは、いつかは報われる恋なんだろうか。「やり直したいな」ぽつりと零した。先生に告白した時に強く願ったこと。「……っ?」その言葉を口にした直後、雲が黒くうねりだした。嵐でも来そうな空に、胸がざわざわする。御代は白衣を羽織り直し、館の屋上階で洗濯物を取り込んだ。この世界に来てから一ヶ月近くが経った。地下施設から出た後は毎日が晴天だった為、こんな天気は初めてだ。独りでいるのが嫌で、足は自然と彼の部屋へ向かった。「中都先生? 雨が降りそうなので、洗濯物取り込んでおきました。中で干しておきますね」「あぁ。ありがとう、御代」書斎で書き物をしていた中都は、慌てて振り返った。正体は別世界の人間でも、やはり仕事はしないといけない。今日も忙しそう……。先生は目的を達していると言うし、もう現実に戻っていい。戻る手はずも整っていると教えてくれた。それを一旦断ったのは御代だ。何故だか怖かった。こんな得体の知れない場所にいる方が恐ろしいのに、いざ帰ると思うと足がすくむ。このまま中都とこの世界で暮らした方が幸せなんじゃないか。( そんなわけないだろ…… )ここは自分達のいるべき場所ではない。分かってるのに、急に例えようのない不安に襲われた。進路はどうなるだろう。父は、俺が消えて良かったと思ってるかもしれない。ただの教師と生徒に戻り、中都先生とは距離が遠のくだけ……。良いことって一つもなくないか?ここにずっと留まっていたい。そう言ったら、先生はどんな反応をするだろう。「御代? どうした」「っ!」ぼーっとしていたせいで、彼が近付いてきたことに気付けなかった。不意に額に手を与えられ、ビクっと震えてしまう。「顔色が悪いぞ。気分は?」「あ……すみません。大丈夫です」しどろもどろになりながら、彼の手から逃げる。そして白衣の裾をぎゅっと掴んだ。「先生。この世界に来る直前のこと、覚えてますか?」「急にどうした?」「全然思い出せないので。先生に告白した後のこと。……家に帰った記憶がないんです」ため息まじりに肩を落とす。すると先生の顔は曇った。しかしそれは本当に一瞬のことで、よく見る前に頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。「そっか。……そうだったんだな」「…………っ?」先生は少し苦しそうに頷いている。ますま

  • 異世界半分自惚れしっかり   #3

    押し殺さないといけない願望が、水面のすぐそこまで上がってきている。顔を出す前に突き放さないと。だが、御代はゆっくり首を横に振った。「偶然でもいいし、気まぐれでもいい。それでも俺は救われたんだから……それが全てじゃないですか」 それ以上の理由を求められても困る。むしろ、恋愛ってそういうものじゃないか。御代は可笑しそうに、そう言った。 「仲良くないけど何か気になるとか、気付いたら好きになってたとか。他人からすれば中身ゼロの理由ですけど、そんな始まりのカップルは星の数ほどいます。俺は、きっかけよりもその後の方が大事なんじゃないかと思うんです」「……」 正直、少し驚いていた。昔から御代は自分といる時は特に多弁だったが、ここまで自分の意見を伝えてきたのは初めてだ。無理に明るく振舞おうとしていた時とも違う。純粋に、中都に惹かれた理由を話している。 「俺は先生を幸せにする自信もあります」「ちょっ。すごい飛躍したな」 付き合いたい理由を聞いていたはずだが、結局プロポーズに戻ってしまった。御代は堪えきれない様子で、あどけない子どものように吹き出した。 「ごめんなさい。何年も頭の中でシミュレーションしてたから気持ちばかり先走っちゃうんですよね」 彼も分かっているらしく、目元を擦りながら頷いた。 「現実世界から飛ばされて、次元が変わっても先生に対する“好き”は変わらなかった。それが一番嬉しいのかもしれない」「……っ」 御代のホッとした笑顔を見た瞬間、胸の中が熱くなった。いてもたってもいられず、彼を強く抱き締める。 「わ、せんせ……」「好きだ。俺も……お前が好きで好きでたまらない」 一方的な好意をぶつけている。御代はそんな風に思っているのだろう。でもそれは半分正解で、半分不正解だ。俺も無意識に、彼を手に入れようとしていたのかもしれない。 初めて会った時のよそよそしい一年生の彼も、三年生になり、頼りないが一所懸命なときも。 常になにかに押し潰されそうになりながら、ひたむきについてくる彼が可愛くて仕方なかった。 俺はとっくに彼に落ちていたんだろう。この世界に来て、その事実に布を被せて隠したかっただけだ。御代は笑いながら瞼を擦った。 「はは。両想いなのに付き合うのは駄目って、困りますね」「そうだなぁ」笑いながら、また御代の額に口

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status