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第26話
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碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第387話
今年は「伝統楽器イヤー」と呼ばれ、多くの映画やドラマが伝統楽器を取り入れ始めている。バラエティ番組も例外ではない。この番組もまた『輝け！伝統楽器』は、伝統楽器のプロモーションをテーマにしたバラエティ番組で、人気スターがレギュラー出演し、毎回数人のゲストが参加するようになっているのだ。今回、番組は4人のゲストを招待した。遥と綾もその中にいる。他の2人のゲストのうち1人は、最近の青春アイドルドラマで少し人気が出た新人女優――入江若美（いりえ わかみ）だ。もう1人の男性ゲストはまだ到着していない。漢方の先生で、伝統楽器の愛好家でもあるそうだ。バラエティ番組は収録放送で、台本はない。撮影期間は2泊3日。収録場所はM市のリゾート地。このリゾート地はもともと小さな町だったが、その後、政策の支援を受けて、半セルフサービス式のリゾート地に改装された。ここはM市の伝統音楽と伝統的な人形劇で名を知られている。特に伝統音楽は、M市が近年重点的に推進しているプロジェクトだ。遥が今回このバラエティ番組の収録に参加することになったのは、恒が独断で決めたことで、事前に遥に相談はなかった。そのため、今回のテーマがM市の伝統音楽のプロモーションだと知った時、遥は内心少し不安になった。初日の収録は、基本的にレギュラー出演者がゲストを町に案内し、地元の人々と交流することだった。遥は終始無難な態度を心がけ、目立たないようにしていた。その態度を誰もが深くは考えることなく、ただ彼女を人気女優なのに控えめで謙虚なんだなと思っていた。夜、出演者全員が番組が手配した一戸建ての宿泊施設に戻った。収録は一時中断だ。遥はすぐに恒を探しに行った。「木村さん、ちょっと気分が悪いから、残りの収録は出られないって番組スタッフに伝えてくれない？」恒は彼女の様子を伺い、眉をひそめて尋ねた。「どこが悪いんだ？医者を呼ぼうか？」「大丈夫」遥は気分が悪いわけではない。M市の伝統音楽を知らないことがバレるのではないかと不安だったのだ。「少し風邪気味なだけなので、この番組はもう収録したくない」しかし、恒は困った顔をした。「この番組は社長があなたを指名したんだ。今になって収録しないと社長にどう説明すればいいんだ？」これを聞いて、遥も少しイライラしてき
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第386話
「そうね」「お父さんは、赤ちゃんが死んだのは母さんのせいだって言ってた......赤ちゃんがいなくなって、お父さんはきっと辛かっただろうね」悠人は、満月館で誠也が激怒していたことを思い出し、今でも恐怖を感じていた。「僕は母さんの子なのに、お父さんが今母さんを嫌ってるから、すぐに僕のことまで嫌いになるんじゃないかなあ......」それを聞いて、柚は、瞳をきらりとさせた。そして、悠人の頭を撫でながら、優しく言った。「そんなことないわよ、悠人くん。どうしてそんな風に思うの？小さい頃から今まで、お父さんにひどいことを言われたこと、一度でもある？」悠人はじっくりと考えてから、首を横に振った。「今日以外、お父さんに怒られたことはない。いつも優しくしてもらってる」「じゃあ、どうして今日、お父さんが悠人くんを叱ったのか、考えてみて」悠人はハッとした。そして、柚を見つめた。柚は悠人の目を見て、優しく言った。「お父さんに内緒でお母さんに会いに行って、しかも嘘をついたからよ」悠人はうつむいて、小さな声で言った。「だって、今、綾母さんも僕のこと要らなくなったから、僕は、母親がいない子になりたくないんだ」「悠人くんがお母さんに愛して欲しいことはわかっている。それに、綾さんが5年間、悠人くんを一生懸命育ててくれたことも聞いている。悠人くんは立派に育っているし、彼女はずっと良いお母さんだったじゃない」悠人は話を聞くうちに、胸が締め付けられる思いがした。「でも、今はもう、僕のことを愛してくれていない」「だけど、綾さんの立場に立って考えてみて。彼女も間違ったことはしてないのよ。あなたのお母さんに傷つけられたのに、どうしてあなたを実の子のように扱えるっていうの？先生から見て、彼女はあなたのお母さんへの憎しみや恨みを、悠人くんにぶつけていないだけでも、すごいことだと思う。悠人くん、顔を上げて、先生を見て」悠人は顔を上げて、柚を見つめた。柚は悠人の顔を優しく撫でながら、甘い声で言った。「女の人にとって、自分の子を失うことがどれほど辛いことか、悠人くんには分からないかもしれない。その痛みは、一生消えることはないの。だから、綾さんの気持ちを理解してあげて」悠人は頷いた。「柚先生、前は分からなかったけど、先生に言われて、やっと分かった」
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第385話
柚は悠人を見て、微笑んだ。「悠人くん、どうしてお父さんがあなたをお母さんと会わせてくれないのか、分かる？」悠人は首を横に振った。「あなたがお母さんに悪影響を与えられるのを恐れているからよ」悠人はハッとした。「私が南渓館に来た時、あなた何歳だったか覚えてる？」「覚えてるよ。僕が5歳の時だ」「ええ。じゃあ、私が来たばかりの頃、あなたがいつも悪夢を見ていたこと、覚えてるかしら？」悠人は一生懸命思い出そうとした。かすかな記憶があったので、頷いた。「でも、どうして悪夢を見ていたのか思い出せない」「あの頃、あなたはまだ小さかったから、覚えていなくても当然よ」柚は優しく説明した。「あの時、あなたは夜中にいつも泣き叫んでいたのよ。私が理由を聞くと、全部話してくれた。でも、相手はあなたのおばあちゃんとお母さんだったから、私が口を出すべきではないと思ったの」「柚先生、僕、どんなことを話したんだっけ？」「あなたはおばあちゃんから『魔法の石』をもらって、綾さんのベッドの下に置くように言われた、って言ってたのよ。そうすれば綾さんのお腹の中にいる赤ちゃんが天国に行ってしまうって」それを聞いて、悠人は動揺を隠せなかった。幼い頃の記憶は歳を重ねるにつれて薄れていくものだ。しかし、強い印象を受けた出来事なら、誰かに言われたら思い出すこともある。まさにその時、柚の言葉を聞いた悠人の頭には、自分がベッドの脇に這いつくばって「魔法の石」を綾のベッドの下に置いた光景が自然と思い浮かんだ。悠人は緊張した様子で言った。「じゃあ、お父さんが言ってた、綾母さんにもう一人赤ちゃんがいたのに、亡くなってしまったっていうのは......もしかして、あの魔法の石のせい？」「そうじゃないけど」柚はため息をつきながら首を横に振った。「でもね、あれは魔法の石なんかじゃない。私の予想だと、あれはパワーストーンよ」悠人は眉をひそめた。「パワーストーンって何？」「強い放射線を持つ石のことよ。国内では厳しく取り締まられているから、おばあちゃんは海外から手に入れたんだろう」悠人は驚きを隠せない。「強い放射線って、体に悪いんだよね？」「もちろんそうよ」柚は根気強く説明した。「あんな石に長時間触れていたら癌になってしまうの。それに、あの時綾母さんは赤ちゃんを身
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第384話
だから、綾が優希を連れて戻ってきた時、彼はそこまで驚かなかった。もちろん、少しの落胆はあった。それは、綾が優希だけを愛していて、自分には目もくれなかったからだ。だから彼はずっと、綾が冷たくしてきているのは、彼女自身に子供ができたから、もう自分という息子は必要なくなったからだと思っていた。でも、父親が今言った言葉は何なんだ？悠人は尋ねた。「綾母さんには優希がいるんじゃないの？」誠也は悠人を見て言った。「彼女は当時、双子を妊娠していたんだ。難産で一人死んでしまった。悠人、君には弟がいたはずだったんだが、遥に殺されたんだ」悠人は驚き、遥の方を見た。遥は首を振り、声にならないほど泣いた。「違う、そんなんじゃない、悠人。お願い信じて。私、本当に彼女を傷つけてないの。あの子の死は事故だったのよ......」悠人は眉をひそめて遥を見た。誰を信じたらいいのか、分からなくなってしまった。「悠人、言ったはずだ。遥はもう君と関係ない」本当のところ誠也も、悠人にこんなことを知らせたくなかった。彼に心の負担をかけたくなかったからだ。しかし、今日の遥の行動は、彼を完全に怒らせた。「4年前、彼女が何も言わずに姿を消したのは、俺の報復を恐れたからだ！」「違うの！そんなんじゃないわ、誠也、お願い、お願いだからもうやめて。悠人は私の子よ。もし私を恨んでるなら、悠人を返して。私が一人で育てるから......」「お前には無理だ」床に座り込んで泣きじゃくる遥を見て、誠也は冷たく言った。「お前みたいな人間は、母親になる資格がない」そう言って、誠也は悠人の手を引いて玄関へ向かった。悠人は父親に引っ張られ、よろめきながら歩いた。背後には、遥の泣き声が響いていた。「悠人、悠人――」その泣き声を聞いて、悠人は胸が締め付けられた。車に乗ると、悠人はもう何も聞けず、うつむいて静かに涙を流した。今回、誠也は彼を慰めなかった。アクセルを踏み込むと、マイバッハは轟音を立てて走り去っていった。......西園寺館。柚は車の音を聞いて、急いで出迎えた。しかし、誠也は車から降りなかった。助手席のドアを開けて降りてきたのは、悠人だけだった。彼が降りた後、黒いマイバッハはUターンし、そのまま走り去った。柚はこの雰囲気を見て、す
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第383話
「お父さん」悠人は慌てて立ち上がり、誠也の目の前に歩み寄った。「お父さん、怒らないで。僕が、自分で来たかったんだ」それを聞いて、誠也は悠人を見た。「悠人、君は自分が小さいからと言って、何でも許されると思うな」悠人は固まった。父親が自分に怒鳴るのは初めてだった。信じられない思いで、じっと誠也を見つめた。「お父さん......」涙が目に溜まり、「母さんに会いたかっただけなのに......」と言った。遥は立ち上がり、悠人を自分の後ろに隠した。「誠也、お願い。悠人はまだ子供よ。何も知らないの。全部私のせい。私に何をしても構わないから、悠人に八つ当たりしないで」遥に守られ、悠人は初めて母親の愛を真に受けた。「母さん......」「悠人、怖がらないで！」遥は優しい声で、悠人をなだめた。「お母さんとお父さんは、ちょっと誤解してるだけなの」悠人は鼻をすすり、誠也を見た。「お父さん、母さんはまだ病気で、手首も怪我してるんだよ......」誠也は悠人を見て、「もう一度だけ言う。こっちへ来い」と言った。悠人は少し迷ったが、俯いたまま誠也の前に歩み寄った。誠也は冷たく言った。「車の中で待ってろ」悠人は少し迷った後、頷いて、俯いたまま外へ出て行った。「悠人......」追いかけようとした遥を、誠也は腕を掴んで引き止めた。「遥、言ったはずだ。悠人とお前はもう、何の関係もない！」掴まれた腕に激痛が走り、遥は泣きながら訴えた。「悠人は私が産んだ子よ。命懸けで産んだ子なの。誠也、お願い、こんな残酷なことしないで」「俺が残酷だと？」誠也の目は陰りを帯びた。「お前が俺の息子を殺したことと比べて一体どっちが残酷なんだ？」「違うの......」遥は首を振った。「あの日、確かに二宮さんに会いに行ったわ。でも何もしてない。彼女が自分で転んで、流産したのよ。会いに行ったのは、ただ悠人に優しくしてほしいって頼むためだったの......」「今になってもまだ嘘をつくのか！」誠也は遥の腕を掴む力を強めた。「遥、お前は本当に変わらないな！」誠也は遥を強く突き放した。「ああ――」遥は悲鳴を上げ、バランスを崩して地面に倒れた。手首の傷口が開き、血が溢れ出て、ガーゼを染めた。「母さん！」駆け寄ってきた悠人は、しゃがみ込んで
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第382話
-雲水舎、2階の書斎。綾はアニメのイラストを描いていた。ふいに、机の上に置かれた携帯が振動し始めた。柚からだった。綾は筆を置き、電話に出た。「こんな夜遅くに申し訳ございません」柚の柔らかな声が聞こえてきた。「何か用事？」「実は、どうしても奥さんに伝えなければならないことがありまして......」「うん、どうしたの？」「今日の午後、桜井さんが悠人くんを迎えに来たのですが、悠人くんは陣内さんに嘘をついていました。碓氷さんが帰宅して、桜井さんが悠人くんを連れ出したことを知り、とても怒って、今、悠人くんを迎えに行っているようです」綾はそれを聞いて、軽く唇をあげた。「柚先生、そういうことはわざわざ私に言う必要ないから」冷淡な声で言った。「でも、あなたはこの家の奥さんじゃないですか！」柚は無邪気な口調で言った。「桜井さんは悠人くんを利用して碓氷さんに近づこうとしているんだと思います。私は桜井さんが奥さんの家庭を壊すのではないかと心配なんです。使用人として、もしお伝えしなければ、申し訳なくて......」さすが高級ベビーシッターだ。その甘い声は人を丸め込むのに最適だな。「私と誠也は、いずれ離婚するから、桜井だろうと誰だろうと、私は気にしないから」綾は少し間を置いてから、さらに言った。「柚先生、今後、そういうことは私に伝える必要はないし、誠也が誰とどうなろうと、私の知ったことじゃない。悠人のことなら、なおさらだ」柚は驚いた。「本当に、桜井さんや他の女性が碓氷さんに近づいても気にしないんですか？」「愛があればこそ、相手の事を気にしたりするものでしょ。私と誠也は、愛し合ったことはないし、今はせいぜい、交渉がうまくいかず、こじれている契約夫婦でしかないんだから、もし誠也に心から離婚してまで一緒になりたい女性が現れてくれるなら、むしろ感謝するくらいよ！」そう言って、綾は電話を切った。電話の向こう側で、柚は興奮しながら携帯を握りしめていた。綾は本当に誠也のことが気にならないのだろうか？もしそうなら、自分が誠也を好きになっても、道徳に反することにはならない。柚は一気に自信を深めた。産んでも育てていない遥より、きっと自分の方が悠人の母親にふさわしいはず。たとえ将来、自分と誠也の間に子供がで
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