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11.あまみや③

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2025-08-20 06:17:16

「ま、そんなところに突っ立ってないで、とりあえず座れよ」

 雨宮《あまみや》さんに促されて、奏芽《かなめ》さんが「ああ」と言って、私に「おいで」と声をかけてくれる。

 奏芽さんの妹さんや幼なじみさんのお話、もう終わりなのかな?

 私の知らない奏芽さんのことをもう少し知りたくて、誘われるままにカウンター席に座りながらも、催促するみたいにちらりと雨宮さんを見つめる。

 雨宮さんはその視線を、私が手にしたままだった荷物の置き場に戸惑っていると受け取ったらしい。

「カウンター下が棚になってる……」

 ポツンとそれだけ言って、黙ってしまった。

 う〜。残念。

 私から水を向けるのも変な話だし……奏芽さんもあれ以上はさっきのことを話すつもりはないのか、ふっつりとその会話は途切れてしまったの。

***

「凜子《りんこ》、苦手なものとか食えないものとか、ある?」

 聞かれて、私はフルフルと首を横に振った。

 幼い頃からアレルギーなどに悩まされることもなく、母からまんべんなく色んな物を食べさせてもらったからか、幸いにして私には嫌いな食べ物がない。

 でも逆に、すごく好きなものもなくて面白味がないなって思っていたりもするのだけれど。

「そっか。じゃあさ、雨宮にテキトーに見繕ってもらうんでいい?」

 言いながらも、「あ、お品書き、見る?」って聞いて下さる奏芽さんは、やっぱり大人の男性だなって思ってしまった。

 優柔不断で無知な私が困らないよう、さり気なくこれがいいかも?と提案して下さいつつも、それとは他に、何か欲しいものがあれば、という配慮も決して忘れたりしない。

 さっき雨宮さんが奏芽さんのことを「遊び人の鳥飼《とりかい》」って揶揄《やゆ》していらしたけれど、そういう浮き名が通っていたのも分かる気がした。

 こういう、趣《おもむ》きのあるお店が、どんなものを提供してくれて、一体ひとつひとつの料理がおいくらぐらいの金額設定になっているのかしら?とふと気になった私は、「見てもいいですか?」と奏芽さんに差し出されたお品書きを手に取った。

 別に奏芽さんが言った通り、雨宮さんのお勧めで一向に構わないのだけれど……ちょっとした好奇心。

 はらりと広げたお品書きは、店主さんの立ち居振る舞いそのままに、手でちぎったみたいな風合いの耳付き和紙。

 厚手のそれを二つ折りにして、墨でさらりと
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