Masuk「え…、天使…?」
この人は…何を言ってるんだ…?この部屋に天使と思えるようなものなんて何も…ま、まさか幻覚でも見えてるんじゃ…
「いるじゃんここに」
そう言って私のことを指さした。 「え、わ、私ですか?」 「うん」私が天使…?そして、そんな瞳で私のことを見つめないでください。
「私は天使なんかじゃないですよ、」 こんな言葉人生で初めて言った「ってことは、ここは天国?」
「違います…」さっきからおかしなことばかり言って…頭を強く打ちすぎておかしくなったのか…それとも、ただ私の事をからかってるだけ?いや、湊さんはそんな事をするタイプの人じゃない。
「そっか、えっと…俺達初めましてなのかな?」
「え?」 どういうこと?私と過ごした時間をなかったことにしようとしているのか?「君の名前は?」
「彩花です…み、湊さん、本当に私が誰か分からないんですか?」 どう考えても嘘をついてるようには思えない 「ごめんね、君のことだけじゃなくて、実は俺が誰なのかも分からないんだ」 ーー至急、家にお医者さんを呼んで診てもらった。
「記憶喪失…?」「はい。後頭部を強く打ったことにより脳震盪が起きたのでしょう」
「そんな…湊さんはすぐに記憶が戻るんですよね?」 「今はまだ何とも…」どうして…どうしてあの時我慢できなかったの。いつもの事だからって、聞き流しておけばこんな事にはならなかったのに。
「そうですか、ありがとうございます。」 「はい。では失礼します」私のせいだ。私のせいで湊さんは…どうしよう…け、警察に行くべきなのか…もう少しで人を殺めてしまいそうに…いや、もちろん故意ではないけど殺人未遂…
「彩花ちゃん!ねぇ彩花ちゃんってば!」
「っあ、はい」 名前を呼ばれているのにも気づかないぐらいぼーっとしていたらしい。 「大丈夫?顔色悪いけど」 「大丈夫です。」 嘘だ。大丈夫なんかじゃない。だけど今一番混乱しているのはきっと湊さんの方。「彩花ちゃん…?」
でも、考えれば考えるほど…「湊さんっ…私のせいで、私のせいで…ごめんなさ、」
謝ってすむ問題じゃない。分かってる。だけど私には謝ることしか出来ない。「え、ど、どうしたの?どこか痛い?泣かないで、」
「ごめんなさい、」 泣きたいのは湊さんの方なのに、涙が止まらない「何があったか分からないけど、もう謝らないでいいから」
「湊さんは私のせいでっ、」 私が押したりしたから、「わ、分かった!許す!」
「…え?」
私が何をしたかも知らないのに、どうして、「理由も聞かない。だから一つだけ約束して。このことで心を痛めたり泣いたりしないこと。」
「どうして、どうして許してくれるんですか」 湊さんからしたら私は今初めてあった初対面の人間なのに。「どうしてかな。君が泣いているのを見ると胸がとっても苦しくなるんだ」
「苦しく…?」 前の湊さんなら、私が苦しんでいようが泣いていようがどうでもよかったはずなのに「この話はもうおしまい。ところで、君と僕はどういう関係だったの?初めましてではないんだよね?」
私達の間には愛はなかった。湊さんは私を愛してなかったけど。私はあの日、本気で逃げ出そうとしたけど。
「私は、あなたの妻です。」
それだけは決して変わらない真実だから。
「君と僕が…そうか、だから君が泣いたら苦しかったのか。君のことが好きだから。」
「へ、」
「好きな人にはいつも笑顔でいてほしいでしょ?」
好き…か、湊さんは私を嫌い、というより関心すらなかったと思う。今の彼にこんなことを聞いたところで意味が無い事くらい分かってる。だって前の湊さんと記憶喪失になった今の湊さんは違う人だから。それでも1度ぐらいは湊さんにお前が妻で良かったって言われたい。
今の彼なら…
「湊さんは…私と夫婦だって知って、その…嬉しいですか…?」
だけど、聞いて直ぐに後悔した。こんなこと聞かなければよかったって。記憶を失ったところで、根本的な性格は変わったりしないんだから、どうせまた酷い言葉を言われ続けることになる。
それなのに…
「すごく嬉しいよ?」
「う、れしい?」
自分から聞いといてなんだけど、私の予想をはるかに上回る、嬉しいなんて言葉が返ってくるとは思わなかった。「嬉しいよ。こんな可愛い天使みたいな子が俺のお嫁さんだなんて信じられないぐらいだよ」
どうしてそんなこと聞くの?って不思議そうな目で見てくるのはやめてください。「か、かわいい?」
「うん。すごーく可愛いよ。だけど、今の感じだと…僕たちあんまり仲良くなかったみたいだね」 仲良くないというか…まぁ、最悪でしたね「湊さんはとても忙しい人だったので、ゆっくりお話する時間…というよりそもそも2人で過ごす時間がなかったんです。」
「そっか…寂しい思いをさせちゃってたんだね。」私はむしろ貴方が家にいない時間の方が大好きでした。なんて今は口が裂けても言えない。
「しょ、しょうがないですよ、」「…ふふ、」
「え、どうして笑うんですか、」
湊さんが笑った顔初めて見た… 「ごめんごめん、彩花ちゃんが分かりやすすぎてつい」「え?」
「俺がいない方が良かったって顔してる」
「なっ、ち、違いますよ」 なんでバレてるの、そんな顔に出てた?「どっちにしろごめんね?」
「いえ、謝らないでください。湊さんは何も悪くないですから」 私が至らないせいだから…迷惑ばっかりかけて…「ところで…いつも敬語なの?」
「え?はいそうですけど…」 「敬語で話すのやめない?」 「はい?」私が湊さんにタメ口…?ダメだダメだ。想像しただけでも…恐ろしい
「だって、俺達夫婦なんだよ?敬語ってなんか距離感じない?」
そんなこと言われましても… 「努力してみます…」「ん?」
タメ口で言えって圧力がすごい「努力してみ…ますね、」
「あー、言ってくれないんだ。そっか、そうだよね。俺の事あんまり好きじゃないもんね。そんな相手と距離縮めるなんて嫌だよね」なにそれ、ずるい…
「あーもう!分かった!分かったから!」
「ふふ、怒った顔も可愛いね」 「な、ふざけないでください」 私はこんな湊さん知らない。私に可愛いなんて言ってくれたこと…「ふざけてないのにー、ま、次敬語使ったらキスするから」
「き、キス!?」 今サラッと問題発言したよね。湊さん…ちょっとチャラくなった?これが素なのか?そんなことより。これからどうなっちゃうの、私の結婚生活!?
「え、そんなに驚くこと?キスの一つや二つぐらいもうとっくの昔にしてるでしょ?」「し、してる訳ないじゃないですか!」顔を見るのも嫌だって言われてるぐらいなのに「あ、」「へ?あ…っ…!」い、今、キスされた…?「敬語やめてって言ったでしょ。あ、もしかして初めてだった?」一度も恋なんてしたこと…彼氏さえ出来ないまま結婚したんだから当たり前だ。「別に…」恋は湊さんと出会った時に、初めてした。初恋が実らないって言うのは嘘だけどほんとなんだ。「強がっちゃって」キスなんてしたこと無かったけど、私だって見栄を張りたい時ぐらいある。今がまさにそう。「ほんとに、初キスじゃないです…っ、ちょ、ちょっと!やめてくださ…っ、んん、湊さ…、湊さん!」キスなんて何年も一緒に過ごしてきて、一回たりともした事なかったのに…たった一日で何回するのよ。一生分した気分。「…ムカつく」「へ?」「俺以外とキスしたとか、」独占欲…強い…「そんなこと言われても…」「ねぇ、ほんとの事を言わないと、今よりもっとすごいキスするけど」今よりもっとすごい…?って、そんなの無理に決まってるじゃん!「湊さんが…初キス、だよ、」「っ、」正直に言ったんだから、これでもうキスしないだろう「湊さん…?っんん、ちょっ…んっ」どうして…こんなの、約束とちがうじゃない!「…これは、俺に嘘をついた罰」「何を…んっ、ちょっと待って、」「…これは沙耶ちゃんが可愛すぎる罰」「ちょっ…もうやめ、っ、んん、」「まだまだあるけど…これ以上したらいろいろと耐えられない気がするから、ここら辺でもうやめといてあげる」「正直に言ったらキスしないって言ったのに…、」「本当のこと言ったら、今よりすごいキスはしないって言ったけど、キスをしないとは言ってないよ」「な、そんなの…」ずるくない?「はっ…!」今度はなんだ「この怪我は何!?」あぁ、この怪我はお皿を割ってしまって、片付けようとした時にできた傷。だけど、それほど傷も深くないし、絆創膏を貼る必要もないと思ったからほっておいたのに、「大丈夫?お医者さんに見てもらった方が…」心配症すぎるよ…前の湊さんならきっと、傷を作ったお前が悪いって気にもとめなさそう「大丈夫だから。そんなに大袈裟にする事じゃないよ、」「大袈裟なんかじゃないよ!どんな
「え…、天使…?」この人は…何を言ってるんだ…?この部屋に天使と思えるようなものなんて何も…ま、まさか幻覚でも見えてるんじゃ…「いるじゃんここに」そう言って私のことを指さした。「え、わ、私ですか?」「うん」私が天使…?そして、そんな瞳で私のことを見つめないでください。「私は天使なんかじゃないですよ、」こんな言葉人生で初めて言った「ってことは、ここは天国?」「違います…」さっきからおかしなことばかり言って…頭を強く打ちすぎておかしくなったのか…それとも、ただ私の事をからかってるだけ?いや、湊さんはそんな事をするタイプの人じゃない。「そっか、えっと…俺達初めましてなのかな?」「え?」どういうこと?私と過ごした時間をなかったことにしようとしているのか?「君の名前は?」「彩花です…み、湊さん、本当に私が誰か分からないんですか?」どう考えても嘘をついてるようには思えない「ごめんね、君のことだけじゃなくて、実は俺が誰なのかも分からないんだ」ーー至急、家にお医者さんを呼んで診てもらった。「記憶喪失…?」「はい。後頭部を強く打ったことにより脳震盪が起きたのでしょう」 「そんな…湊さんはすぐに記憶が戻るんですよね?」「今はまだ何とも…」どうして…どうしてあの時我慢できなかったの。いつもの事だからって、聞き流しておけばこんな事にはならなかったのに。「そうですか、ありがとうございます。」「はい。では失礼します」私のせいだ。私のせいで湊さんは…どうしよう…け、警察に行くべきなのか…もう少しで人を殺めてしまいそうに…いや、もちろん故意ではないけど殺人未遂…「彩花ちゃん!ねぇ彩花ちゃんってば!」 「っあ、はい」名前を呼ばれているのにも気づかないぐらいぼーっとしていたらしい。「大丈夫?顔色悪いけど」「大丈夫です。」嘘だ。大丈夫なんかじゃない。だけど今一番混乱しているのはきっと湊さんの方。「彩花ちゃん…?」でも、考えれば考えるほど…「湊さんっ…私のせいで、私のせいで…ごめんなさ、」謝ってすむ問題じゃない。分かってる。だけど私には謝ることしか出来ない。「え、ど、どうしたの?どこか痛い?泣かないで、」「ごめんなさい、」泣きたいのは湊さんの方なのに、涙が止まらない「何があったか分からないけど、もう謝らないでいいから」
「きゃっ!あぁ、またやっちゃった」お皿が割れた音に反応して来てくれたみたいなんだけど…「彩花!大丈夫!?怪我してない?」そんなに慌てなくても大丈夫なのに、「私は大丈夫だけど、ごめんね、お皿無駄にしちゃった」お皿を片付けようと伸ばした手を「駄目だよ」そう言って掴まれた。「え、でも」「俺が拾うから、彩花は触らないで。また指切ったりしたら俺が嫌だから」「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」心配症だなぁ。なんて呆れた顔で笑ってみたけど、本当はすごく嬉しかった。前までは心配するどころか、むしろ…「きゃっ、」早く片付けないとこんなのバレたらまた…「何やってんの」「湊さん…」彼はいつもゴミを見るかのように私のことを見下す。その目を見る度に私は…「はぁ、」なんて、わざとらしくため息を吐くから「ご、ごめんなさい…」私はそうとしか言えなくて「皿洗いもろくに出来ないのか」「ごめん、なさい、」皿洗いもまともに出来ない私が悪い。「お前は何もできないんだな」「ごめんなさい、」何も出来ない私が悪い。「はぁ、ごめんなさいはもう聞き飽きたんだよ」「っ…」それでもやっぱり、私にはごめんなさいしか言えなくて、「もういい、怪我でもしたら危ないから、…お前がちゃんと掃除しておけよ」「はい…」「はぁ、お前を見てるとため息が出る。顔も見たくない」こんな事を言われても、それでも耐えるしかない。これは私が決めた事じゃなくて、私の両親が決めた事だから。そう言って言い訳して、本当は…自分でも分かってる。だから余計に辛いんだって。「ほんとお前は何をやっても駄目だな」あの日もいつものように私に暴言を吐いていた。だけど、何故かあの時だけは無性に腹が立って、言い返してしまった。今思い返してみても、本当にどうしてなのか分からない。ただ、これ以上我慢したら、壊れてしまいそうだった。「私だって、結婚なんてしたくなかった!毎日毎日、そんな事しか言えないんですか!?」対抗なんてすると思わなかったのか、一瞬だけ驚いた表情をした。ような気がした。「っ、…お前が、出来損ないだから悪いんだ。誰に歯向かってるのか分かっているんだろうな」「両親のためとはいえ…もう、耐えられません。我慢の限界。私達、もう終わりにしましょう」「は、何言って、」「今まで迷惑ばかりかけてし







