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私を投獄した後、クズ夫は後悔に狂った
私を投獄した後、クズ夫は後悔に狂った
Penulis: 笹しぐれ

第1話

Penulis: 笹しぐれ
刑務所の門を出た瞬間、冷たい風が吹き抜け、枯れ葉がカサカサと舞い落ちた。

真冬だというのに、瀬戸夕凪(せと ゆうなぎ)は目を閉じ、外の空気を貪るように胸いっぱいに吸い込んだ。

三年前、裁判長から重々しく非情な判決が言い渡され、殺人の罪で懲役三年が確定した。

そして今日、ようやくその刑期を終えたのだ。

ふと視線を上げると、遠くの路肩に艶やかな漆黒の高級車が停まっていた。見覚えのある一台だった。

心臓が、大きく跳ねた。

――あの人だ。御堂峻(みどう しゅん)。

途端に、三年前の光景がまざまざと脳裏に蘇る。

法廷で、峻は夕凪が彼の初恋の相手――涼風清音(すずかぜ きよね)を殺害したとする証拠を提出した。

あの時すでに、二人は結婚して三年になるれっきとした夫婦だった。

それでも彼は、冷たく言い放った。「人を殺したなら、命で償え」

最終的に裁判所は、夕凪が主犯だと断定するには証拠不十分だと判断し、量刑は懲役三年にとどまった。

夕凪は法廷で峻の元へ駆け寄り、その手にすがりついた。

「峻……!私、殺してない!清音さんを殺したのは、私じゃない!峻、お願い、助けて……私、刑務所になんて行きたくない……!」

しかし、どれほど泣いてすがっても、峻の顔は凍りついたまま、微動だにしなかった。

女性の刑務官が夕凪を引き剥がして初めて、彼は懐からハンカチを取り出した。

そして、先ほど夕凪に触れられた箇所を、まるで汚物でも払うかのようにゆっくりと拭ったのだ。

仕立てのいいスーツに身を包み、長い脚を組んで法廷の席に座るその姿。金縁眼鏡の奥の瞳は深く沈み、何を考えているのか誰にも読めなかった。

石畳を打つ氷雨のような、冷ややかな声。そこに温もりは微塵もなかった。

「夕凪。お前が殺していないなら――なぜ、あの車に轢かれて死んだのが、お前じゃなかったんだ?死ぬべきだったのは、お前のほうだ!」

夕凪の叫びが、ぴたりと止んだ。

涙に濡れた顔のまま、ただ呆然と――彼を見つめていた。

……

一枚の枯れ葉が風に乗り、肩にふわりと落ちた。その感触に、夕凪はふいに我に返った。

足元には枯れ葉が一面に散って、まるで大樹に見捨てられたようだ。身を切るような寒風に、夕凪は思わず首をすくめ、両手をコートのポケットに押し込んだ。

三年間、あの陽の差さない場所で――何より耐えがたかったのは、孤独だった。

夕凪は瀬戸家の令嬢である。かつては飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、ここ二年ほどで静かに没落しつつある一族だ。幼い頃から家族に甘やかされ、悔しい思いひとつせずに育った。

けれど獄中で夕凪が毎日繰り返していたのは、数字を数えることだった。朝から晩まで、ただ無意味に数字を数え続けていた。

最初は出所までの日数を指折り数えていた。やがてそれすら意味を失い、ただ機械のように、「一日は八万六千四百秒」と唱え続けるだけになった。

果てのない孤独は、闇の中に潜む魔物のようだった。大きく口を開け、彼女の中にあった明るさも、無邪気さも、少しずつ呑み込んでいった。

そして――幼い頃からずっと抱いてきた、峻への熱も愛も、すべて燃え尽きさせたのだ。

今、刑務所の門をくぐり抜けた。けれど心の中はただ静かで、さざ波ひとつ立たない。

夕凪は幼い頃からずっと彼の背中を追いかけ、親しみに「峻」とすがりついては冷ややかな目を向けられてきた。

あの男への想いは、もう完全に死んだのだと、夕凪は悟っていた。

過去は風と同じだ。吹き去ってしまえば、塵ひとつ舞い上がりはしない。

夕凪は路肩に立ち、あの車をじっと見つめた。

ほんの二秒の間をおいて、彼女は潔く踵を返し、反対方向へ歩き出した。

……

車内の峻は、何晩も続いた残業の疲労から、シートに深くもたれて目を閉じていた。

運転手の青柳忠(あおやぎ ただし)は何度も腕時計に目を落とした末、ついに口を開いた。「若様、若奥様は……まだ出てこられないのでしょうか」

峻がふいに目を開けた。

視線の先で、刑務所の重い鉄扉がゆっくりと閉ざされていくところだった。

峻の眉間に深い皺が刻まれる。

「聞いてこい。どうなってるんだ」

「はい」

忠は小走りに向かい、程なくして戻ってきた。

「若様……確認いたしましたが、若奥様はもうとっくに出られたそうです」

忠は恐る恐る報告した。

峻の瞳に、すっと冷たい光が走った。

――わざと俺を避け、目の前をすり抜けて逃げたというのか。

以前の夕凪なら、ありえない。俺の姿を見つければ、すぐにでも後を追ってきて、振り払っても離れなかったはずだ。

刑務所で、つまらない駆け引きでも覚えたのか。

だが、あいつは思い違いをしているようだ。

三年前だろうと三年後だろうと、あいつに興味を持つことも、情が湧くことも――絶対にないのだから。

忠はルームミラー越しにちらりと峻を窺い、慎重に言葉を選んだ。ビジネス界で「冷徹無比な帝王」と恐れられるこの男を、不用意に怒らせるわけにはいかない。

「若様……若奥様は、どこへ行かれたんでしょう」

若様は御堂グループの次期当主として、毎日目が回るほどの激務をこなしている。それでも大事な会議をひとつ蹴ってまで、若奥様の出迎えに来たのだ。

それなのに若奥様は、わざと若様を避けるとは。三年も服役していたのに、あのわがままな気質はまるで変わっていない。

駆け引きのつもりか?若様はビジネスの修羅場で百戦錬磨、どんな謀略も手管も見抜いてきたお方だ。

虎の尾を踏むようなものだ――自分から墓穴を掘っているとしか言いようがない。

峻は金縁眼鏡を押し上げ、意に介さない口調で言い放った。「家に帰る以外、行くあてなどあるはずがない」

三年間、夫婦だったのだ。あいつのことは誰よりわかっている。

幼い頃から、一日会えないだけで生きていけないとすがるような女だ。

だから、仮に駆け引きのつもりだとしても、先に帰って身なりを整え、俺を驚かせようとしているに決まっている。

――この姿では俺に顔向けできない、余計に嫌われると思ったのだろう。

そこまで考えて、峻はまた眉根を寄せた。あの女がまとわりついてくる姿を思い浮かべるだけで、胸の奥に苛立ちがこみ上げる。

よりによってこんな時に、忠が空気を読まなかった。「若様、ではご自宅へお送りいたしましょうか」

峻が冷ややかに一瞥した。

忠の背筋が瞬時に凍りつき、体が強張った――自分の失言を悟ったのだ。

「会社に戻れ」

峻の声は氷そのものだった。窓の外へ冷たく視線を流すその横顔には、血の通った温かさなど微塵もなかった。

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