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第14話

Auteur: 簡図
莉子は、新垣海斗(あらがき かいと)がまさか結婚式に現れるとは思っていなかった。

彼女の認識では、こういう放蕩な富豪の子息は、何も気にせずに生きているものだと思っていた。

自分の結婚すら興味がないだろうし、海斗が彼女にプレッシャーをかけないだけで充分だと考えていた。

だが彼は、来ただけでなく、清潔感のある正装できっちりと現れた。

涼介は彼女の手を握り、とても嬉しそうだった。

「莉子、やっとお前を迎えられたな」

「お前も大きくなったら、海斗みたいにいい加減になるかと思ってたけど、まさかこんなに教養があって、立派な子になるなんてな」

「せっかく来てくれたんだから、これからは海斗のことをよく見張ってやってくれよ」

莉子は表面上は素直にうなずきながらも、内心では彼が人を見る目がないなと感じていた。

礼儀正しく伝統を守る「良い彼女」を演じるのも、もう十分やりきったと感じていた。

今は嫁いだばかりで風見市の事情も何もわからない。

けれど、本当に厄介なことをやるときは、海斗より先に自分が動いてやろうと決めていた。

そうすれば、今後自分が不利な立場になることも避けられる。

莉子は結婚後、孤独になるのが嫌で、式が終わった足で富裕層向けの女性会員制クラブに行き、男のモデルを八人も指名した。

その男たちは大輝よりもよほど気が利いていた。

モデルたちは透けるタンクトップにキツネの尻尾をつけ、皆が親しげに彼女をもてなした。

莉子はとても上機嫌で、たまらず彼ら全員に二百万円ずつ業績をチャージしてしまった。

注文した酒も山のように積み上がり、莉子は一晩中飲み、完全に酔いつぶれた。

朝日が昇る頃になって、ようやくスタッフに送られて新垣家の新居に帰った。

帰宅した莉子はそのまま意識を失い、翌朝まで眠り続けた。

目覚めたとき、莉子は頭がガンガンしていて、手を伸ばした先に正体不明のものを触った。

ぼんやりと目を開けると、海斗がベッドの上であぐらをかいて座っていた。

海斗は結婚式の日に着ていたパジャマ姿のままだった。

そして、彼女はまさにその太ももを撫でているところだった。

莉子は一瞬で飛び起きた。

「なんであんたがここにいるの?」

海斗は目の下が赤くなっていた。徹夜したのか、それとも泣いていたのかはわからない。

「おかしいな、ここは新婚の部屋だろ。俺
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