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第四話

작가: 深海 涙
last update 게시일: 2026-03-12 09:14:42

咄嗟にわたくしは、ツェーザルと踊ったことを咎められると思った。気づかぬふりで、お兄様とは反対方向へ体を向け、足早に歩きはじめた。

次の曲が始まった。ダンスを楽しむ招待客達の合間をすり抜け、壁際を目指す。しかし、大広間には隠れられるような場所もない、逃げても無駄だとわかっていた。

わたくしは急に、自分の意思とは関係なく足を止めた。動かそうにも、一歩も足を進められない。

「アナスタシア」

お兄様から愛称ではなく名前で呼ばれた。相当怒っているようだ。

まだ体を動かせない。お兄様がわたくしの前に回り込んできた。

「どうして、休憩室からいなくなった」

お兄様が怒っているのは、ツェーザルとは別のことだった。しかし、休憩室から出て行った理由を『一度目の人生で愛していた男を捜すため』だと正直に話したところで信じてはもらえない。

「一応舞踏会の主役ですから、あまり席を外すわけにはいかないかと……」

「もっともらしい言い訳をしても無駄だ」

わたくしも通じるなどと思っていなかった。そもそもお兄様がわたくしの足を踏まなければ、休憩室に入る必要もなかった。責められるのは納得がいかなかった。

「ナーシャの治療をしてもらおうと、せっかくウーテを連れてきたのに、いなかったから」

お兄様はわたくしの不機嫌な様子を見て、言い訳をした。聞き覚えのある名前だったが、お兄様との関係は思い出せない。

「ウーテ……様とは?」

「私の友人の魔法師だ」

お兄様の後ろから、小柄な美少年が現れた。美しい銀髪と、紫水晶のような瞳を持ち、右耳には魔法師が好んでつける房飾りのピアスをしている。紺色のコートには髪色に合わせた銀糸の刺繍が施されている。

「お前がジェラルドの妹か」

鈴を転がすような声をしている。わたくしは十年後には魔塔主となるウーテ・ヘルメルだと気づいた。

「女性なのですね」

わたくしがそう言うと「僕を語るのに、性別は重要なことだろうか?」と返ってきた。実力を認められ将来魔塔主となる人物に失礼なことを言ってしまった。

「大切なことだろう。男に大切なナーシャの体を触らせたくないからな」

わたくしが謝ろうとしているうちに、お兄様が代わりに応えた。

「お前の心配はわかる。散々可愛いと聞かされてきたが、ジェラルドの言葉では、本人の愛らしさの百分の一も伝わっていなかった」

ウーテから真っ直ぐとみつめられ、わたくしはついときめきを感じた。

「僕も、ナーシャと呼んで良いか?」

ウーテが微笑みながら訊いてきた。わたくしはつい見蕩れてしまった。

「愛称は家族にしか許されない」

お兄様が勝手に断ってしまった。

「婚姻を結べば家族になれるな?」

お兄様が耳まで赤くなった。

「婚姻はそう簡単には決められない。家同士のことなのだから……」

お兄様が口ごもっていると、ウーテがわたくしに向かって手を差し伸べてきた。わたくしはその手を取った。

「アナスタシア嬢、婚姻はすぐには決められないようなので、まずはお付き合いいただけないだろうか」

指先にキスをされた。ウーテから上目遣いで見つめられ、わたくしはお兄様にまで鼓動が聞こえてしまうのではないかと心配になった。

「ナーシャをからかうのはやめてくれ」

お兄様がわたくしとウーテの間に割り込んできた。からかわれているのはわたくしではなくお兄様だと感じたけれど、指摘しなかった。

わたくしは、この二人が結ばれなかったことを知っている。ウーテはもうすぐ魔塔に入り、魔塔主となる日まで塔から出てこない。ウーテが魔塔にこもっている八年の間に、お兄様は別の令嬢と政略結婚をした。

「冗談はさておき、怪我をみてやる。休憩室は遠いからテラスでいいな?」

わたくしは「お願いします」と、返した。

三人で、テラスに向かった。ふと視線を感じ顔を向けると、ツェーザルと目があった。わたくしは心の中でツェーザルに対し、ウーテは女性だと言い訳をした。

テラスに出るとすぐに、お兄様がカーテンを閉めた。促され、椅子に腰掛ける。

ウーテはわたくしの前に跪くと、ドレスの裾をまくり靴を脱がせてくれた。

「こちらではないのか?」

「そちらで合っています」

ウーテは「魔法の痕跡があるな」と呟いた。

考えてみると、ツェーザルと踊っているとき、急に足の痛みがひいた。わたくしはウーテにそのことを話そうとして、やめた。

ツェーザルは5年ほどのちに戦争の英雄となるが、魔法師だという情報はなかった。ということは、隠している可能性がある。

「ウーテ様、魔法についていくつかお訊ねしてもよろしいでしょうか?」

「構わない。僕ほど魔法に対する質問に上手く答えられる人物もそういないからな。ナーシャは幸運だよ」

わたくしはまず、相手に自分の顔を覚えられなくする魔法があるかを訊いた。

ウーテはしばらく考えて、「実際には使ったことはないが、いくつかのアプローチで、可能だろう」と、真剣な顔をした。

ウーテから、顔の前あたりで空間を歪める魔法を使う方法と、相手の記憶に働きかける方法を説明された。

わたくしは男と一緒にいた時のことを思い浮かべ、記憶に働きかけられたのだと判断した。

「では、時を戻す魔法はありますか?」

ウーテは「今はまだない」と言った。

「時を戻す魔法は、長年研究されてきた……が、段々と魔力を持って生まれてくるものが少なくなっているから、実現されないまま終わるかもしれない」

ウーテはそれから、一人でブツブツと何かを言い始めた。

「理論上は可能なんだ。ただ膨大な魔力を消費する。数百人の魔力をかき集めて発動させるか……例えば、魔法石に魔力を蓄積させ……いやいや、魔法石自体が稀少なのだから無理だな」

ウーテはわたくしが目の前にいるのを忘れてしまったように見える。

顔をあげお兄様を見る。

「しばらくは、止まらない」と、肩をすくめた。

お兄様とウーテをテラスに残し、わたくしは大広間に戻った。

家族以外では、ツェーザルとだけ踊ったとなると迷惑をかけてしまう。適当に数人と踊って誤魔化す必要がある。

一度は断ったが、デニスでも構わないと思い探す。デニスは別の令嬢と密着してなにやら楽しそうにしていた。ほかを当たった方が良さそうだ。

この広い会場内で、塔の男かもしれない人物を洗い出すのは至難の業だ。わたくしは名案を思いつき、侍従に声をかけひとつ指示を出した。別の侍従にはマルガレータを探すよう頼んだ。

10年も塔に閉じ込められていたせいで、使用人に仕事を頼むという当たり前の手順を忘れていた。

曲が終わると、指揮をとっていた初老の男性がこちらに向き直り、拡声の魔道具を使い、話始めた。

「皆様、踊りを十分に楽しまれたかと存じます。これからしばらくはご歓談いただくお時間となります。そして、本日の主役アナスタシア様より、次にあげる条件を満たす男性に差しあげたいものがあると伝言を賜っております」

突然の告知に、会場にざわめきが起こる。

「条件、一つ目。公爵家のご長男、ジェラルド様よりも背が高い方。二つ目、アナスタシア様との年齢差が、上下に三歳以内の方。三つ目、ダンスの上手な方。四つ目、本日、夜の湖のように深い青の宝石を身につけている方となります。すべての条件を満たしている男性は、こちらへお越しください」

会場にはたくさんの男性が来ているが、すべての条件を満たすのは数人にとどまるだろう。

少し離れた場所から、指揮者のいた場所を眺めていた。段取りを頼んだ侍従が、わたくしに指示を仰ぎにきた。

「ジェラルド様の身長はどのくらいかという質問が多く寄せられています」

お兄様はまだテラスでウーテを見守っているようだ。目の前にいる侍従も結構背が高い。

「それなら、あなたより背が高ければいいわ」

「承知しました」

侍従は、すぐに去って行った。入れ替わりに、真っ赤なドレスが視界に飛び込んできた。マルガレータはしかめっ面をしている。

「あなた何を考えているの? 愛人でも作るつもり?」

マルガレータの言葉を聞いて、またひとつ名案が浮かんだ。

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