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【第39話】臨界

last update آخر تحديث: 2025-12-14 23:50:10

夜は深く、しかし時間そのものが鈍っているかのように、どこまでも静かだった。

シュアは隣にいなかった。

どこかに出たのか近くにいるのか。

身体の一部がわずかに透けて見えるその奇妙な光景を、琉苑は動かないまま見つめていた。触れようとしたら消えてしまうかのような輪郭が、そこにあるのにないようで、世界の外側へと引きずられていく気配。

その時、空気が浅く震え、世界の奥の方から低い音が漂ってきた。風とは違う、空間そのものがひび割れるような音。

琉苑の視線はその不協和音の方へ流れ、そしてそこに、マースがいた。

マースはいつものように立っているが、その姿はどこか精彩を欠き、影が濃く落ちていた。目の奥に浮かぶ光は、冗談めいた色を含みながらも、どこか静かな焦燥を帯びている。

「呼ばれた気がしてね」

その声は遠くから聞こえるように、しかし確かにそこに存在していた。

「……そうだな。呼んだかも」

琉苑の声音は低い。胸の奥で、言葉よりも先に感覚がうずく。自分の身体が世界から薄れていくのを、ひどく実感していた。

「正確には、もう時間がないって知らせが来たんだよ」

マースは歩み寄り、琉苑の透けていく指先をじっと見下ろした。

その視線は悲観とも諦観ともつかない静けさを持っていて、琉苑の胸に小さな棘を刺した。

「……俺は、何をすればいいんだ」

琉苑は問う。問いながら、それが自分自身への呼びかけでもあることに気づいていた。身体の熱は消え去る気配と拮抗し、魂はどこで終わり、どこから始まるのかをさまよっていた。

「方法はある。だが、今からじゃ間に合わない」

マースは淡い光を背にして言った。その声はやけに静かで、しかし重みを欠いていなかった。

「……魂の輪郭が崩れすぎている」

シュアが側にいないのに、その名前が胸の奥で震えた。琉苑は息を吸い、重みのある空気を吐き出す。

「じゃあ……俺はどうなるんだ?」

震えるのは恐怖ではなく、問いそのものの形の不確かさだった。シュアと過ごした時間の熱と冷たさが、身体の奥で渦を巻く。

「ひとつだけある」

マースは手をかざし、空間の奥から淡い器を取り出した。形の定まらぬ何かが柔らかく揺れ、光と影が混じり合っている。

「これに魂を保存することができる。だが、これは君という存在の痕跡を留めるだけのものだ」

琉苑の胸に、冷たい沈黙が重なる。

「……その代償は?」

問いはまっすぐだっ
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