LOGINあっという間に鷹津もバスタブに入ってきて、和彦は腕を掴まれ引き寄せられる。鷹津も頭から湯を被り、オールバックの髪型は見る間に崩れた。
思わず手を伸ばした和彦は、鷹津の濡れた髪を掻き上げてやる。次の瞬間、鷹津の両腕が体に巻き付いてきて、顔が間近に寄せられた。鷹津の目は、相変わらずドロドロとした感情で澱んでいる。そこに狂おしい欲情が加わり、この嫌な男をひどく人間らしく見せていた。 つい鷹津の目に見入っていると、唇が重なってきた。「あっ……」 唇が擦れ合った瞬間、和彦の背筋にゾクゾクと強烈な疼きが駆け抜ける。体は、この男が与えてくれた快感をしっかりと覚えていた。 噛み付くように唇を吸われながら、荒々しく尻を掴まれ、揉まれる。反射的に和彦は鷹津の肩にしがみつき、そのまま離れられなくなっていた。 湯を浴びながら鷹津の激しい口づけを受け、息苦しさに喘ぐ。そのときには口腔に熱い舌が入り込み、感じやすい粘膜を舐め回され、湯とともに鷹津の唾液が流し込まれる。尻をまさぐられ、内奥の入り口を指の腹で擦賢吾の話を聞きながら、全身の血の気が引いていくようだった。心臓の鼓動も速くなり、背を通してそれが賢吾に伝わりそうで、和彦はそっと体を離す。「……ああ、美味しかった。ちょうど焼きたてが並んでいたから、なおさらそう感じたんだろうな」 そうか、と答えた賢吾に手首を掴まれ、本能的な怯えを感じた和彦は体を強張らせる。有無を言わせず再び布団の上に押し倒され、片足を抱え上げられる。熱をもって蕩けている内奥の入り口に、賢吾の欲望が擦りつけられた。「うっ……」 小さく呻いた和彦は顔を背ける。賢吾が怖いくせに、やはり熱いものが欲しかった。「先生が気に入ったんなら、明日の朝、同じ店で買ってこさせよう。俺は、朝は和食なんだが、少し味見させてもらおうか。それと、美味そうにパンを食う先生の顔も堪能したいな」 焦らすようにゆっくりと内奥を押し広げられ、和彦は身悶えながら賢吾の肩にすがりつく。あとはもう、悦びの声を上げることしかできなかった。**** 翌朝、告げられていた通り、賢吾と朝食をともにした和彦だが、正直、焼きたてのパンの味などわからなかった。パンを千切りながらも、賢吾の反応が気になって仕方なかったからだ。 一体何を言われるかとずっと身構えていたが、和彦が食べていたパンを一欠片食べてから、賢吾は頷いただけで、感想らしいことは言わなかった。パンそのものは確かに美味しいのだが、果たして、和彦があえて遠回りをしてまで買い求める価値があったと、納得したのかどうか――。 昨夜の行為の余韻も引きずっている中、賢吾の言動一つ一つに神経を尖らせていると、朝からぐったりしてしまう。 腕時計で時間を確認してから、和彦は急いでコーヒーを飲み干す。クリニックに出勤するにはまだ早いが、一度マンションに戻り、着替えを済ませておきたかった。そのため少し急いでいる。「じゃあ、ぼくはもう行くから」 イスから立ち上がった和彦が声をかけると、新聞を開いていた賢吾が顔を上げる。ニヤリと笑いかけてきた。「働き者だな。体はまだつらいだろ。せめて午後か
「気持ちいいか、先生? 尻が締まりっぱなしだ」 和彦は何も考えられず、夢中で頷く。賢吾の指が、繋がってひくつく部分を擦り上げてくる。それだけで、鳥肌が立ちそうなほど感じていた。「いい顔だ。先生みたいな色男を、尻で感じさせているのが自分かと思ったら、限界まで奮い立っても仕方ねーよな。俺だけじゃない。先生を抱いている他の男も同じだろう」 一度内奥から引き抜かれた欲望が、すぐにまた奥深くまで押し入ってくる。和彦は思いきり仰け反って、頭の中で閃光が走るような感覚を味わう。「また、イッたのか。こんなにすぐイクなら、こいつはもう、縛ったままでいいか?」 賢吾が怖い声で囁きながら、和彦の欲望に手をかけてくる。きつく縛められているせいで、少し感覚が鈍くなってきている。それでも、精を放ちたいという衝動だけは強くなっていた。「い、や……。イ、きたい……。賢吾さん、早く――」 内奥に収まっている欲望は凶暴に育っているというのに、和彦の顔を覗き込んでくる賢吾の表情は冴え冴えとしていた。「――お前は、俺のなんだ?」 突然の質問に、和彦は目を見開く。思わず口ごもると、欲望に食い込む皮紐を指でなぞられる。その感触に背を押されるように、和彦は震える声で答えた。「あんたの、オンナだ……」「俺は、誰だ?」「……長嶺組、組長」 よく言えた、ということか、唇に賢吾のキスが落とされる。「お前は、長嶺組組長のオンナだ。これは、何があっても変わらない。変えるつもりもない」 皮紐の縛めが解かれると同時に、内奥深くを抉るように突かれる。和彦は声も出せないまま絶頂に達し、賢吾が見ている前でたっぷりの精を迸らせた。「――……お前は、大蛇の大事で可愛いオンナだ。しっかりと、この淫奔な体に刻み付けておけよ。どれだけの男と寝ようが、忘れられないぐらいしっかりと」 大蛇の執着は怖くて淫らだ。そんなことを頭の片隅で考えながら和彦は、賢吾にしがみついて何度も頷いた。*
「刺青の前に、先生にはこっちを可愛がってもらおう。美味そうにしゃぶって見せてくれ」 そう命じられ、全身を羞恥で熱くしながら和彦は賢吾を睨みつける。しかし、逆らうことはできなかった。身を屈め、あぐらをかいたままの賢吾の両足の間に顔を埋めた。 浴衣を捲り上げ、反り返ったふてぶてしい欲望に丹念に舌を這わせる。舐め上げるたびに、自分はこの男の〈オンナ〉なのだという想いが強くなる。愛しいという純粋な気持ちからではなく、快感のために尽くしてやりたいという、身を焼かれそうな衝動に突き動かされていた。 口腔に含んだ欲望が瞬く間に逞しさを増していき、力強く脈打つ。賢吾に頭を押さえられて、和彦は喉につくほど深く呑み込む。苦しさに耐えながら吸引していると、手荒く髪を撫でてから掴まれた。無言の求めに応じてゆっくりと頭を上下に動かしながら、欲望に舌を絡め、唇で締め付ける。 和彦の口淫をじっくり堪能してから、賢吾は口腔で達した。放たれた精を舌で受け止めて嚥下すると、次の瞬間には和彦は、浴衣を剥ぎ取られて布団の上に突き飛ばされる。賢吾も浴衣を脱ぎ捨てて、のしかかってきた。「あっ……」 両足を抱えるようにして大きく左右に広げられ、賢吾が顔を埋めてくる。和彦のものはいきなり熱い口腔に含まれたかと思うと、容赦ない愛撫に晒される。痛いほど強く吸引され、舌先で先端を攻められたかと思うと、括れを唇で締め付けられる。「うあっ、あっ、もう少し、優しく、してくれ――」 和彦は震えを帯びた声で訴えるが、賢吾は聞き入れる気はないようだった。それどころか、加虐的なものを刺激されたのか、先端に歯列を擦りつけてくる。和彦は、感じすぎるからこそ、この攻められ方が苦手だ。 反射的に腰を揺らして愛撫から逃れようとしたが、執拗に先端を攻められると、もう体が動かない。まるで大蛇が牙を突き立てているようだと思った。牙から毒は出てこないが、反対に、和彦の先端から透明なしずくが滲み出てくる。大蛇は嬉々として舌で舐め取り、もっと出せといわんばかりに攻め立ててくるのだ。 和彦の体から力が抜け、愛撫に身を任せるのを見計らっていたように、賢吾が動く。枕の下から何か取り出したのは見えたが、それがな
和彦は勢いよく立ち上がる。覚悟を決めた以上、のぼせそうになるまで湯に浸かっているわけにもいかない。和彦がどれだけ迷い、悩もうが、大事なのは賢吾がどう反応するかなのだ。 なんといっても、和彦を〈オンナ〉扱いした最初の男だ。よくも悪くも、和彦にとって賢吾は、特別な存在だった。 浴衣を着込むと、髪も乾かさずにまっすぐ賢吾の部屋へと戻る。すでに二組の布団を並べて敷いてあった。その中央に、浴衣に着替えた賢吾があぐらをかいて座っていた。 賢吾に軽く手招きされ、和彦は緊張しながら布団の上にあがる。すかさず腕を掴まれて強引に引き寄せられた。よろめき、倒れ込みそうになるが、その前に賢吾の両腕の中に閉じ込められ、背後からがっちりと抱き締められた。力強い腕の感触に和彦は、怯えではなく心地よさを感じた。「数えきれないぐらい抱き締めているのに、飽きねーな、先生の体の感触は」 耳に唇が押し当てられ、官能的なバリトンに囁かれる。ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け上がり、和彦は小さく声を洩らしていた。「――先生が旅行に出かけた日、この感触をオヤジが味わっているのかと思ったら、さすがの俺も胸の奥がザワザワした」「えっ……」 思いがけない賢吾の言葉に反射的に和彦は振り返ろうとしたが、耳朶に歯が立てられて動けなかった。一瞬感じた痛みは、すぐに肉の疼きへと姿を変える。湯上がりの和彦の体は、熱が冷めるどころか、燃えそうなほど熱くなっていく。「先生の存在は、オヤジにとっても特別なようだ。いままであの〈化け狐〉は、俺が誰と寝ようが興味を示したことはなかった。それこそ、息子のオンナに手を出すなんざ、天地がひっくり返ってもありえないことだった。――先生が現れるまではな」 話しながら賢吾の手は油断なく動き、浴衣の裾を割って、両足の奥へと入り込んでくる。内腿を撫でられたかと思うと、無遠慮な手つきで下着を脱がされる。さすがに和彦は拒もうとしたが、もう片方の手が喉にかかり、軽く圧迫される。それだけで和彦の抵抗の意思は潰えた。「俺も、自分の息子の〈恋人〉に手を出して、体よく取り上げたんだ。しかも、千尋と違って、単なる色恋だけで行動したわけじゃない。先生に利用価
「それと、旅先でおもしろい話をしてやると言われていたんだ。あんたと千尋も知らない話を……」 ほお、と賢吾は声を洩らす。どんな話かと聞かれなかったが、隠すほどのことではないので、和彦は端的に告げた。「昔会長は、ぼくの父親が抱えた揉め事を解決したんだそうだ。会ったのはほんの数回らしくて、ぼくのことを調べたときに、父親のことを思い出したと言っていた」 守光が言っていたことは本当だったようだ。賢吾は驚きを隠そうともしなかった。しかしすぐに、意味ありげに目を眇めた。「本当に、食えないジジイだ。千尋が先生とつき合い始めて、それで俺が先生に目をつけたときも、オヤジは何も言わなかったんだが、そのときにはいろいろと企んでいたんだろうな」 どんな企みなのか気にはなったが、尋ねることはできなかった。なんとなく、毒気が強そうな話を聞かされそうだと思ったからだ。 自覚もないまま和彦が軽く眉をひそめていると、揶揄するように賢吾が問いかけてきた。「父親のことを聞いて、長嶺との見えない縁を感じたか?」「……ああ、嫌になるほど物騒な縁を」「気分転換がしたいからという理由で、総和会会長との旅行について行った先生が、物騒なんて言葉を言うのか?」 賢吾の物言いは柔らかだが、和彦の神経をチクチクと刺激してくる。愚鈍ではないつもりの和彦は、賢吾が言外に含んだ皮肉を感じ取っているし、自身の罪悪感の痛みであることも知っているのだ。「もし、ぼくが事前に旅行のことを相談したら、あんたは引き止めたか?」 上半身裸のまま賢吾が目の前を通り過ぎる。惜しげもなく晒された大蛇の刺青に和彦の目は釘付けになったが、じっくりと眺める前に隣の部屋へと行き、姿が見えなくなる。ただ、賢吾の声だけは耳に届いた。「しっかりオヤジを骨抜きにしてこいと言って、送り出しただろうな」 和彦は苦笑しつつも、賢吾らしい――いや、長嶺の男らしい発言だと思った。長嶺の男は、三人とも見事に食えない。 賢吾が再び姿を見せたとき、すでにセーターを着込んでおり、大蛇の刺青を見ることは叶わない。それを残念だと思った和彦は、次の瞬間
**** 長嶺の本宅に足を踏み入れたとき、和彦は奇妙な違和感を覚えて一瞬戸惑っていた。玄関の風景も、出迎えてくれる組員たちの顔ぶれも変わっていない。だが、何かが変わっていると感じた。 持っていたコートとアタッシェケースを組員に預けて靴を脱ぐ。廊下を歩きながら中庭に目を向けると、きれいに手入れされた庭木たちが、ずいぶん成長しているように感じた。春が近づきつつある証か、色づき始めている。 ほんの何日か本宅へ立ち寄らなかっただけなのだが、こうして中庭の様子を目にすると、ずいぶん足が遠のいていたように思えてくるから不思議だ。 そこで和彦は、自分が感じた違和感の正体をわかった気がした。 総和会会長の〈オンナ〉という立場になって初めて、この家を訪れたのだ。後ろめたさと羞恥が、和彦の心をざわざわと落ち着かなくさせる。覚悟を決めてきたはずだが、それでも、冷静ではいられない。 夕食の準備で慌しいダイニングを素通りして、まっすぐ賢吾の部屋へと向かう。 今日は、賢吾から呼ばれて本宅に立ち寄ったわけではない。クリニックからの帰りに、和彦が言い出したのだ。自分なりに気持ちが落ち着いたと判断し、これ以上、賢吾と顔を合わせない不自然さに耐えられなくなったためだ。 賢吾は、ただ和彦からの反応を待っていた。大蛇の化身のような男らしく、じっと身を潜め、しかし獲物から目を離すことなく――。 冷たい蛇の目が脳裏に浮かび、和彦は小さく身震いする。たまらなく賢吾が怖いくせに、同時に胸の奥では、無視できない妖しい衝動がうねっていた。 賢吾の部屋の前まで行き、呼吸を整えてから声をかける。中からの返事を待って障子を開けると、賢吾はちょうどジャケットを脱いだところだった。反射的に歩み寄った和彦は、賢吾の手からジャケットを受け取る。「帰ったばかりなのか?」「いや、三時頃には戻っていたんだが、客と会ったりしていたら、なんとなく着替えるタイミングをなくしてな」 賢吾と自然な会話を交わせるだろうかと、頭であれこれ考えていたのだが、いざとなると身構えるまでもない。いつも通りの会話を交わせていた。和彦はほっと息をつくと
** 気が高ぶっているせいで、おとなしく書斎に閉じこもる気にもなれず、冷蔵庫を開ける。食料は大して入っていないのに、飲み物の種類は豊富だ。外食が主の和彦の生活パターンに合わせて、この部屋に通ってくる組員たちがよく飲み物を補充してくれるのだ。 グラスに氷を放り込み、オレンジジュースを注ぐ。しばらくアルコールは自重したかった。 和彦はソファに腰掛け、グラスに口をつけながらテレビのニュース番組をぼんやりと眺める。だが、ある暴力団の幹部が撃たれたというニュースが流れると、無意識に眉をひそめてチャンネルを替えていた。 こんな生活に
縫った跡を消毒してから、しっかりとガーゼを当てて包帯を巻く。風呂には入るなと言いかけたが、この体では入りたくても不可能だろうと思い、和彦は別のことを口にした。「中嶋くんが戻ったら、体中に湿布を貼ってやる。多分今夜、熱が出るぞ。それと、胸も圧迫して固定するから、しばらくは不自由するだろうな」「それで、先生が通ってきてくれるんですか?」「一度だけだ。これで、彼に対する義理は果たした」「わたしに対しては、何もなしですか」 和彦が睨みつけても、秦は薄い笑みを浮かべるだけだ。肋骨が折れている辺りを殴りつけたい衝動に駆られたが、そんなこと
** 夜、中嶋の部屋に向かう手順は前回と同じだ。二度目とはいえ、さすがにマンションの前からタクシーに乗り込むまでは、緊張のあまり指先が冷たくなって痺れていた。 しかも、いざ中嶋の部屋の前まできても、違う緊張感が和彦を襲う。 秦がまた、何か仕掛けてくるのではないか――。 それを予期していながら、こうして部屋を訪れるのは、まるで自分が何かを期待しているようで、嫌でたまらなかった。だが、中嶋と約束したため、いまさら引き返すわけにもいかない。 これが、和彦の甘さだろう。ヤクザにいいように利用されるとわかっていても、持
「んうっ」 内奥に太い部分を呑み込まされ、それだけで和彦は乱れてしまう。「なんか、この格好、すっげー卑猥。俺が先生をイジメてるみたい。先生が俺に逆らえなくて、恥ずかしい姿にされて、こんなもの尻に入れられて――」 一度は引き抜かれた千尋のものが、ゆっくりとまた内奥を犯し始める。触れられないまま和彦のものは反り返り、先端から透明なしずくをはしたなく垂らしていた。 和彦がシーツを握り締め、押し寄せてくる快感に耐えていると、緩やかに腰を動かしながら千尋がネクタイを解き、首から抜き取る。次に和彦の両手首に、そのネクタイを巻きつけて結んでしまった。