Masuk欲望の先端を爪の先で弄られて息が弾む。その瞬間を見逃さず、賢吾がゆっくりと腰を進める。最初は意地を張っていた和彦だが、すぐに賢吾の肩にすがりつき、両腕を広い背に回す。てのひらに馴染んだ肌の感触に、官能の泉が一気に湧き出す。
「うっ、ううっ――。はあっ、はあっ、あっ、あぁっ……」 思うさま大蛇の刺青を撫で回し、ぐっと背に爪を立てる。興奮を抑え切れないように、賢吾に内奥深くを抉るように突かれ、和彦はビクビクと体を震わせていた。「いい、イキっぷりだ。やっぱり俺の肉は美味いだろ」 賢吾が力強い律動を刻むたびに、奥深くまで入り込んでいる飴玉が蠢き、擦れ合う。「あうっ、うっ、賢吾っ……」「先っぽに、コツコツと飴玉が当たるのは、妙な感じだな。お前も、腹の奥で味わってるか?」 答えたくないと、和彦は顔を背ける。すると欲望がズルリと引き抜かれ、その拍子に、内奥から何個かの飴玉が外に押し出されてきた。なんともいえない感触に和彦は呻き声を洩らし、賢吾にしがみつきな**** 和泉家の屋敷での家族揃っての朝食は、ひたすら静かなものだった。和彦は昆布入りのおにぎりを黙々と食べる。正面に座る俊哉は一見いつも通りに見えるが、少し離れた席につく綾香のほうは違う。憔悴しきった様子で、食欲がないのか味噌汁を一口、二口啜っただけで、箸はとまったままだ。 和彦は、昨夜はほとんど夕食が喉を通らなかったが、現金なもので今朝は、大皿にのる大量のおにぎりを見た途端に空腹を自覚した。他の器にはきんぴらごぼうや、牛肉のしぐれ煮、小松菜の卵炒め、ポテトサラダといった総菜が盛られており、好きなものを自分で取り分ける形式になっている。夕方からの通夜の準備で朝から慌ただしくしているため、手が空いている人から朝食をとるよう言われていた。今のところ食堂には和彦たち家族三人の姿しかない。 だからといって家族だけの会話があるわけではなく、俊哉は持ち込んだスマートフォンが点滅するたびに確認している。忙しい身ながら、少なくとも二泊する予定を立てる程度には、和泉家を尊重しているとも言える。 気を使い続けると沈黙したままになるため、和彦はおずおずと口を開く。「……父さん、兄さんから連絡は……?」「夜中にあった。やはり、仕事で身動きが取れないそうだ。子供じゃないんだ。来られるなら来る。無理なら来ない。それぐらい自分で判断するだろう」 俊哉ですらこちらに来ている中、英俊はもしかすると自分と顔を合わせたくないのだろうかと、ふと和彦は考える。わずかながら罪悪感を覚えなくもないが、たった今俊哉から言われたように、判断するのは英俊だ。 食堂の窓の外で、葬儀会社のスタッフたちが慌ただしく何かを運び込んでいる姿がちらちらと映る。通夜はこの屋敷で、葬儀は近所にある和泉家の菩提寺で執り行うことになっている。年明けに、和彦が紗香の墓参りのため訪ねた寺だ。生前の正時の希望だそうだ。 ガタッとイスを引く音がする。振り返ると、綾香が立ち上がったところだった。「少し……、部屋で休むわね。昨夜は全然眠れなくて」「…&hellip
「ご両親が到着しましたよ。広間に行かれましたが、和彦さんはどうしますか?」「……ぼくも、行きます」 九鬼とともに広間に向かう。一声かけて襖を開けると、すでに両親は、正時の遺体と対面していた。傍らでは気丈な様子で総子が見守っている。 賀谷は一旦自宅に戻ったと、背後から小声で九鬼が教えてくれた。あとはご家族だけでと言い置いて、静かに襖が閉まる。和彦は遠慮しつつ総子の側に腰を下ろした。 綾香は、苦しげな表情でボロボロと涙を流していた。滅多に感情を露わにせず、泣いたところなど子供の前で見せたことのない母親が。「優しいお父さんだった……。ずっとわたしの心配をしてくれて――。もっと会って、話せばよかった。優しくすればよかった。……お父さんにだけは」 恨み言とも取れる綾香の言葉を聞いても、総子は表情を変えなかった。母と娘の間にどんな葛藤や諍いがあったのか、和彦は何も知らない。それでも側で聞いていてヒヤリとしてしまう。 俊哉はじっと目を伏せていた。何か思索しているようにも見え、話しかけるのをためらわれる。しかしどうしても気になることがあった。「……兄さんは、まだ?」 小声で尋ねると、ふっと視線を上げた俊哉が一瞬不快げに唇の端を動かした。「仕事があって来られないそうだ」「でも――」「いいのよ。今生きている人間は、背負って果たす義務がある。忙しいのでしょう、英俊は」 こう応じたのは総子だった。何かが断ち切られたように沈黙が訪れ、誰も身じろぎしない中、線香の煙だけが緩やかに立ち昇っていく。 誰か、会話のきっかけを作ってくれないだろうかと願っていると、ふと思い出したように総子が和彦を見た。「お風呂の準備ができているから、和彦さんが先に入ってきなさい。わたしはこれから、お寺や葬儀会社の方たちと相談することがありますから。それと、綾香と俊哉さんとも話したいことがあります」 あなたには聞かせたくないと、総子の眼差しが言っている。過去に重いものを背負い過ぎた三人でしか話せないこともあ
** せっかく用意してもらった夕食はあまり喉を通らなかった。和彦は前回と同じ客間に案内されてから、落ち着かない時間を過ごす。何か手伝えればいいのだが、この家や地域のやり方を一切知らない人間はかえって足手まといになるだろう。総子からも、休んでいてくれと言われてしまった。 一方の九鬼たちのほうは、総子と別室に移動するのを見かけた。広間に残ったのは賀谷だけだ。広間を出るとき、その光景を目にした和彦は、やはり賀谷は和泉家にとって特別な存在なのだと実感した。 賀谷とはもう一度会って、いろいろと話したいと考えてはいたが、こういう形での再会は望んでいなかった。 部屋でじっとしているのも落ち着かなくて、思いきって客間を出る。外はもう暗くなっているが、廊下には煌々と電気がついており、おかげでいくらか外の様子を見ることができる。年明けには鮮やかな赤い花をつけていた山茶花の木は、枝を刈り込まれてさっぱりとしていた。 ぼんやりと眺めていると、ふいに山茶花の木の根元近くで何かが蠢く。ぎょっとして目を凝らせば、全身灰色の猫だ。「この猫……」 ついガラス戸を開けると、和彦を見上げた灰色猫はのんきな鳴き声を上げる。ここで和彦は、この家の異変にいまさらながら気がついた。年明けにはあれだけあちこちで見かけた猫たちの姿がないのだ。 ニャア、ともう一度鳴いた灰色猫が身軽に廊下へと乗り上がってくる。勝手に入れてしまっていいのだろうかとおろおろする和彦にかまわず、灰色猫は人懐こく足元にまとわりついてくる。この猫も正時に可愛がられていたのだろうなと思ったら、堪らない気持ちになった。廊下に膝をつき、ぎこちなく灰色猫を抱き上げる。 特に嫌がる素振りも見せない灰色猫をしっかり抱きながら、廊下に座り込む。琥珀色の瞳でじっと見上げてくるので、なんとなく和彦は語り掛けていた。「お前、おじい様に可愛がられてたか? ふふ、少し肉付きがよすぎるみたいだ。美味しいものをいつも食べさせてもらってるんだろ」 言葉がわかるはずもないのだが、返事をするように灰色猫は小さく鳴く。腕の中の猫の温かな感触が愛しいと同時に切なくて、和彦はそれ以上何も言えなくなる。
高速道路を下りてからもう一度休憩を取ったあと、ひたすら車は走り続けた。そのうち見覚えのある景色が外を流れるようになる。 背もたれから体を起こした和彦はウィンドーに顔を寄せていた。すでに通り過ぎた小さな駅を振り返って眺める。寒い中、缶コーヒーで手を暖めながらバスを待っていた場所だ。 貯水湖にかかる橋に差し掛かったときには、夕日が水面に反射していた。ここまでくると、和泉家まではもう少しだ。 和彦の胸を重苦しい感覚が塞いでいく。正時の死を直視する瞬間がもうすぐ訪れるのだ。そして、総子になんと言葉をかけ、どう振る舞えばいいのかと思い悩む。 そんな和彦の苦悩を察したのか、九鬼が口を開いた。「諸々の差配は、和泉家と馴染みの深い人たちがやってくれるでしょうし、事務的な手続きや処理も総子さんだけじゃなく、必要があればあなたのご両親がやるでしょう。あなたは孫として、静かに総子さんに寄り添えばいいと思いますよ。あなたが駆け付けてくれたことが、総子さんの支えになる。……正時さんも喜んでくれるでしょう」 和泉家の敷地を囲う土塀が見えてくる。九鬼と烏丸がぼそぼそと何かを相談したあと、車は立派な数寄屋門を通り過ぎてから、駐車場へと入った。かつて人の出入りが多かった頃の名残りなのか、駐車場は広く、数台の車や自転車などが停まっていてもまだ余裕がある。 今日は開け放たれている門から中を覗くと、駐車場の様子が見えていたのか、ちょうど玄関から、和泉家に住み込みで働いている君代が出てきたところだった。前回会ったときは明るく溌剌としていたが、今は目が真っ赤になって明らかに憔悴していた。和彦を見るなり、無理したような笑顔を浮かべる。「遠いところを、お疲れになったでしょう。さあ、中に入ってください。奥様がお待ちになっています」 玄関に入ると、高齢の男性が丁寧に頭を下げたあと、荷物を部屋に運んでおくと手を出してきた。戸惑う和彦とは対照的に、九鬼は前に出て自分が持っているバッグだけでなく、和彦の手からも荷物一式を取り上げて男性に渡す。スリッパに履き替えながら小声で教えてくれた。「古くから和泉家で働いていた人です。もう引退されていますが、手が必要なときにはこうして
**「――わたし、新幹線や電車が苦手なんですよ。あと飛行機も」 助手席で書類に目を通しながら、ふいに九鬼がそんなことを言う。車酔いしないのだろうかと気になりながらも、そうなんですかと和彦は応じる。 新幹線からの乗り換えの時間など心配する必要もなかった。九鬼は車で和泉家に向かうと言い、実際今、高速道路を走行している最中だ。 マンションのロビーで千尋と南郷と別れたあと、出発は慌ただしいものとなった。ひとまず準備はしておいたものの、何か忘れてはいないかと気が気でない。お金は下ろせたし、必要なものを買えはしたが、時間とともに今度は、大事な場で自分は粗相をしてしまわないかと、和彦の心配は尽きない。 和泉の名が重いのはもちろん、何より総子に迷惑をかけたくないのだ。 さきほど寄ったサービスエリアで買ってもらったペットボトルのお茶を一口飲む。「大勢の他人が一緒に乗っていて逃げ場がない状況って、不安じゃありません?」「考えたこと……、ないです」「〈前職〉のとき、一緒に電車に乗っていた身内に大事がありまして、それ以来トラウマになりましてね。足を洗って関西から出てくるときも、新幹線や飛行機を使いたくなくて、ずっと車を運転してきたんです。追手がかかっているおそれもあったんで、ひたすら車をかっ飛ばしました」 どんな人生を歩んできたんだろうと疑問ではあるが、尋ねるのは怖い。そんな話を聞きながら、ハンドルを握る烏丸は黙ったままだ。相変わらず無口な男だ。さきほどからずっと、和彦と九鬼だけが話している。「で、今回は、和彦さんをわたしのトラウマに単につき合わせているわけじゃないんですよね」「ぼくは車移動でも不満はありませんよ?」「それはよかった。――攪乱です。新幹線で移動するとギリギリまで思わせて、実は……と。和彦さんには心配症の保護者が何人かいて、どうしても護衛をつけたがりますからね。ぞろぞろ引き連れて、今の和泉のお屋敷には向かいたくなかったんです」 その気持ちは理解できると、和彦は頷く。ここでふっとため息をついた九鬼が、低く抑えた声で言った。
本当に最低限の情報だけを聞かされて、慌ててやってきたようだ。予定では、そろそろ〈彼ら〉もやってくるはずだ。「お前だけなら、新幹線の時間まで少し余裕があるから、部屋に上げられたんだけど……」「組の車で駅まで送るって話も、なしになったんだろう? 一体何があったの」 矢継ぎ早に質問してきた千尋だが、悠然とアプローチを歩いてくる男の姿に気づき、眉をひそめた。「ああ……。そういうこと。あの男を部屋に上げたくなかったわけか。俺だけ部屋に上げて、あいつを――南郷を玄関先で追い払うなんてできないもんね。今の和彦の立場だと」「お前の察しがよくて助かるよ」 エントランスに入ってきた南郷から目を離さないまま、和彦は小声で応じる。千尋がやってくる前に、今近くまで来ていると連絡があったのだ。 和彦の傍らに立つ千尋に向けて、南郷が仰々しく頭を下げる。一瞬苦い顔をした千尋だが、挨拶で応じた。「先生、大変なときに、慌ただしいことになって申し訳ないな」 和彦に向き直り、南郷がそう切り出す。「いえ……。こちらこそ、お気遣いをありがとうございます」 南郷から香典を受け取ったところで、沈黙が訪れる。用が済んだからと、すぐに場を辞すつもりはないようだ。和彦はひとまず二人にソファを勧める。「先生、出発の準備は?」「和彦、新幹線の時間は? 駅まではタクシーなの?」 千尋と南郷から質問をぶつけられて、言葉を濁す。心配なのでやはり誰か付き添わせると言い出しかねないほど二人とも真剣だ。 タイミングがいいのか悪いのか、アプローチに新たな車が入ってくる。千尋と南郷が同時に気づき、素早く立ち上がった。当然、組員たちも反応している。 車から降りた人物は、ガラス越しに和彦に向けて軽く会釈をすると、颯爽とした足取りでエントランスからロビーにやってこようとして、組員に止められる。「大丈夫だ。その人は、和泉家がつけてくれている人で――」「どうも。九鬼と申します」 あらかじめ用意してあったのか、素早く名刺を取り出した九鬼







