FAZER LOGIN「あうっ……」
声を洩らした和彦は、前に這って逃れようとしながら、首を左右に振る。「そこは、まだっ――」「先だろうが、後だろうが、感じまくるのは一緒だろ」 情緒の欠片もないことを言いながら賢吾は、慣れた手つきで和彦の柔らかな膨らみを揉みしだき始める。何度味わわされても、この愛撫の強烈さには慣れない。一瞬にして下肢に力が入らなくなり、愛撫を与えてくる相手に従わされてしまう。「あっ、あっ、あうっ」 巧みに蠢く指に弱みをまさぐられ、弄られる。強弱をつけて揉み込まれると、意識しないまま和彦は腰を揺らし、畳に爪を立てて快感の波に耐えるようになる。 帯を解かれ、愛撫の合間に浴衣を脱がされてしまうと、汗ばんだ肌を賢吾の片手に撫で回されていた。それが、驚くほど和彦の感度を高める。 和彦の息遣いが妖しさを帯びてくる。それを待っていたのか、賢吾の熱く濡れた舌に背を舐め上げられた。「ふっ……」「反応がいいな。もう肌が真っ赤に染ま中嶋の手から逃れようとしたが、次の瞬間、もたれかかってきた体に押されてバランスを崩す。あっという間に和彦はその場でひっくり返り、獣のように素早い動きで覆い被さってきた中嶋が、〈女〉の顔をして言った。「――ここで過ごす最後の夜なのに、三田村さんと寝てないんですね」「あっ……、か、関係ないだろ、そんなこと……」「でも先生、物欲しそうな顔していますよ」「してないっ」 ムキになって言い返すと、不意打ちで中嶋に唇を塞がれた。妖しく蠢く舌先に唇をなぞられ、うろたえながら和彦は中嶋の肩を押し上げようとするが、どこかで危機感は乏しい。それは中嶋が、和彦に少しだけ近いものを持っている男だからだ。 他の男たちのように力強く圧倒してくることなく、触れ合うことを楽しむようにまとわりつき、いつの間にか互いに欲望を煽り、しっとりと絡み合う。それが和彦には新鮮で、興奮もしてしまう。おそらく、それは中嶋も同じなのだ。「この四日間、先生と三田村さんの仲がいいところを、たっぷりと見せつけられましたからね。多少の意趣返しはさせてもらわないと――」 口づけの合間に、冗談とも本気ともつかないことを中嶋が呟く。油断ならない指は、パジャマの上着のボタンを外し始めていた。 これ以上続けると、さすがにマズイと思いながら和彦は、何げなく扉のほうを見る。そこに、人影が立っていた。「三田村っ……」 声を上げ、反射的に体を起こそうとしたが、中嶋がしっかり覆い被さっているため、動けない。その中嶋は、驚いた素振りも見せずに三田村に話しかけた。「三田村さん、そんなところに立ってないで、中に入ったらどうですか」 血相を変えて、中嶋を引き剥がしにかかるかと思った三田村だが、意外なことに、その中嶋の言葉に素直に従い、リビングに入って扉を閉めた。「さすが三田村さんですね。こんなところを見ても、顔色一つ変えない。先生の幅広い人間関係に耐性がついているってことですか」「それについては、俺の考えを先生は知っている」 そう言って三田村が、まっすぐ和彦を見つめてくる。
「別荘を訪れた当初は、総和会から他に人は来ないのかと、やけに気にしている様子でしたが、すぐに警戒を解いたようです。三田村さんは……どうでしょう。あの人のポーカーフェイスから何かを読み取るのは、俺には無理です。もしかすると、先生とは違って、俺の存在を警戒していたかもしれません」 中嶋が話す内容を聞く限り、電話の相手に和彦たちの動向を報告しているようだった。そのことが自分でも意外なほど、ショックだった。 和彦の〈お守り〉という仕事のため、中嶋はこの別荘に滞在している。それは理解しているつもりだったが、夜中に人目を避けるように報告している現場に出くわすと、やはり思うことはある。ここでの言動は、すべて総和会に筒抜けだったかもしれないということで、和彦の中で湧き起こるのは、恥じらいや怒りという感情だった。 そんな和彦に追い討ちをかけるように、さらに中嶋が続ける。「しかし、こんな夜更けにまさか、南郷さんが電話に出るとは思いませんでした」『南郷』と聞いた途端、和彦はビクリと体を震わせる。このとき、心臓の鼓動も大きく跳ね上がった。わずかな空気の震えを感じ取ったのか、なんの前触れもなく中嶋が扉のほうを見て、軽く目を見開いた。が、動揺した素振りも見せずに電話を続ける。「とにかく、事件も事故も起こらなかったと報告できて、ほっとしています。もちろん、明日先生たちを見送るまで、気を抜くつもりはありませんが」 それから二、三言話してから、中嶋は電話を切った。意識しないまま息を詰めて立ち尽くしていた和彦は、この瞬間、ふっと糸が切れたように体から力を抜く。中嶋が悪びれた様子もなく笑いかけてきたので、今さら立ち去るわけにもいかず、リビングに足を踏み入れた。「いつもこの時間、隊に連絡を入れていたんです。せっかく先生がのんびりと過ごしているのに、目の前で無粋な話なんてできませんから」 こういうとき、中嶋の気質というのは得なのかもしれない。悪びれたふうもなく説明をされると、和彦としてはそうなのかと頷くしかない。立ち去るタイミングを失い、中嶋に手で示されたこともあり、スリッパを脱いでラグの上に座る。「――南郷さん、先生のことを気にしていましたよ」
思いがけない三田村の言葉に、きつい眼差しを向ける。「どうしてだ?」「……明日、長時間車に乗るんだ。体に負担がかかる」「いまさらだな。ぼくがそんなに柔じゃないのは、知ってるだろ」 和彦の眼差しを避けるように、三田村がわずかに顔を伏せる。その反応で薄々とながら、実は三田村が何を気にかけているか推測できた。夕方かかってきた賢吾からの電話だ。「もしかして、あんたにも、組長から電話がかかってきたのか?」「いや……」「でも、組長のことを気にしているだろ」 三田村は少し困ったような笑みを浮かべ、和彦の額に唇を押し当てた。「先生は鋭い」「鋭くなくてもわかる」 和彦を抱き締めたままじっとしていた三田村だが、深く息を吐き出したのをきっかけに、ぽつりと洩らした。「――……俺の〈痕跡〉をつけた先生を、組長の元に返すことが、いまさらながら怖くなった」 和彦は、三田村の頭を撫でながら応じる。「ここに来てから、あんたの本音をいくつも聞けた気がする。嫉妬したり、怖がったり……。ずっと、三田村将成という男は、寛容で優しくて、強いと思っていた」「がっかりしたか?」 まさか、と答えて和彦は笑う。「俺は、先生に嫌われたくない。そう思えば思うほど、自分のみっともないところを先生に見せていないことを痛感するんだ。先生を騙しているみたいで……」「ぼくなんて、あんたに初めて会ったときからずっと、みっともない姿を晒し続けている。そのうえ今じゃ、厄介で複雑な立場だ。それでもあんたは、こうして側にいるし、ぼくに触れてくれる」「……俺にとって、先生は特別だ。どんな姿だろうが、しっかりと目に焼き付けておきたいぐらい、貴重なんだ」「『どんな姿』でも?」 和彦の声に滲む猜疑心を感じ取ったのか、三田村は怖いほど真剣な顔となって応じた。「ああ」「だったら、信じる。その代わりあんたも、ぼく
『先生は薄情だ。離れてしまうと、もう目の前にいる男以外、どうでもよくなるんだろ』 ドキリとするようなことを言う賢吾だが、口調はあくまで楽しげだ。電話越しの和彦の反応をおもしろがっているのだろう。『四日間、のんびりできたようだな。その辺りは、自然だけはたっぷりあるが、言い換えるなら、それぐらいしかないような場所だ。退屈はしなかったか?』「いや……。三田村や中嶋くんに、ずいぶん気をつかってもらったから、楽しかった。連休中だから、車で少し出かければ、あちこちで何かしらイベントもやっていたし」『なんだったら、連休が終わるギリギリまでそこに滞在してもいいぞ』「その口ぶりだと、もしかして部屋の工事は終わったのか?」『とっくに。千尋だけじゃなく、俺もそろそろ先生の顔が見たくなった』 こういう場合、なんと答えればいいのだろうかと考えている間に、タイミングを失ってしまう。結局黙り込んでしまうと、電話の向こうで賢吾が低く笑い声を洩らした。『先生はそうでもないだろうが、やっぱり、側にいないと落ち着かないもんだ。――明日、戻ってこい』「……ああ」 電話を切った和彦は、いつの間にか自分にとって、長嶺の男の側が〈戻る場所〉になったのだと、唐突に実感していた。 連休が終わるまで別荘に滞在していいと言ったすぐあとに、当然のように、明日戻って来いと命令する賢吾の傲慢さに、ちらりと苦い表情を浮かべる。「ぼくの反応を、試したな……」 ギリギリまで滞在したいと和彦が言ったとしたら、賢吾はどう返事をしたのか、興味がある。もちろん、大蛇の化身のような男の反応を試す度胸は、和彦にはないが。 携帯電話をパンツのポケットに突っ込んだところで、気配を感じる。デッキチェアから身を乗り出して窓のほうを見ると、三田村が立っていた。窓は開けていたため、和彦が電話で話している声は聞こえていただろう。「――明日帰ってこいと言われた」 和彦が話しかけると、三田村もテラスに出て、側にやってくる。「先生のおかげで、のんびりと過ごせた」
連休中はどこかに出かけるのかと尋ねられ、まさか今のような状況になるとは思ってもいなかった和彦は、自宅でのんびりと過ごすと返信したのだ。一方の里見は、仕事が忙しくて休みどころではないらしい。 のんびり過ごすと返信した手前、いつ里見から連絡がきても応対できるようにと、こうして携帯電話を持ってきたのだが、三田村もともに過ごしているこの場所で、果たしてこれは正しい行動だったのだろうかと思わなくもない。「本当にぼくの生き方は、そういうことで成り立っているな。厄介で物騒な男たちの事情に雁字搦めになって、受け入れて、身を委ねて……」「そんなふうに言われると、俺の目の前にいる人は、自分の意思がなくて、弱いのかと思えますが、違いますよね。先生は、したたかでタフだ」「昔から、鍛えられているからな」 自分でもわかるほど素っ気なく応じて、携帯電話をナイトテーブルの上に戻すと、仰向けで再びベッドに横になり、窓の外に目を向ける。「……今は、甘やかされていると思っている。それに、いろいろと不便で窮屈なところもあるが、少なくとも、佐伯和彦という存在は認識されているし、必要ともされている」「その言い方だと、認識すらされていないときがあったみたいだ。――総和会も長嶺組も、徹底して先生のことは調べ上げているはずなのに、先生には秘密があるんじゃないか、なんてことを考えてしまいますよ」「そうだ。ぼくには、大きな秘密がある」 軽い口調で応じた和彦は、ニヤリと中嶋に笑いかける。虚をつかれたように目を丸くした中嶋だが、同じような笑みを返してきた。「聞いたところで、教えてくれないんでしょう。その様子だと」「冗談だ。本気にしないでくれ。ぼくは、長嶺の男に目をつけられるまでは、普通の暮らしをしていた、遊び好きの美容外科医だった。それだけだ……」 ふうん、と意味ありげに声を洩らして、中嶋が和彦の隣に横になる。ごろりと転がってうつ伏せになると、やはり窓のほうを見て目を細めた。「昼寝するには最高の陽気ですね。午前中は体を動かしたし、昼メシも食ったあとだし。俺も、釣ってきた魚の下処理
今回の別荘の滞在で、中嶋は世話係として本当にうってつけの人材だと、改めて感心する。一応、一人暮らし歴は長かったため、料理以外のことはソツなくこなせる和彦だが、三田村も中嶋も、器用さとマメさのレベルが違う。「君と三田村が側にいると、ぼくは一人暮らしでなんの経験を積んできたのか、という気になる……」 和彦の言葉に、中嶋は楽しげに声を上げて笑いながら、針に餌をつける。釣り竿を差し出されたので仕方なく受け取ると、無様な姿勢で湖に向けて仕掛けを投げた。「――先生は、それでいいんですよ。てきぱきと患者を治療して、クリニックの切り盛りまでして、そのうえ家事まで完璧にこなされると、世話を焼く人間がつまらない。少しぐらい隙があるほうが、かえって周囲から愛されるものです」 だったら自分は隙だらけだなと言いかけた和彦だが、それがとんでもなく自惚れた発言になることに気づく。寸前のところで別の言葉に言い換えた。「周囲にいるのがデキる男ばかりで、たっぷり甘やかされてるよ」 和彦の背後で中嶋が、クスッと笑い声を洩らした。もしかすると三田村も、唇を緩めるぐらいはしたかもしれないが、浮きの動きに集中する和彦には、そこまで確かめる余裕はなかった。** 開けた窓から入ってくる風があまりに心地よくて、スリッパを脱いだ和彦はベッドに転がる。そこで視界に飛び込んできたのは、ゆっくりと雲が流れていく青空と、緑豊かな山々だ。 ぼんやりと眺めていると、日ごろの多忙さや、自分の厄介な立場すらも遠いことのように思えてくる。今こうしてのんびりできるのは、その多忙さや、厄介な立場があってこそのものなのだが。 マンションの部屋の工事は進んでいるだろうかと、ふと気になった和彦は、寝返りを打った勢いで起き上がり、ナイトテーブルに置いた携帯電話に手を伸ばそうとする。このとき、部屋の前に立っている中嶋に気づいた。一方の中嶋も、驚いたように目を丸くしている。「……すみません。ドアが開いていたので」「風通しがよくなるから、開けておいたんだ。さすがに知らない人間がウロウロしているなら気をつかうが、そうじゃないし
ヤクザなんて食えない男たちばかりだと思っていたが、自分も立派にその一員だ。半ば自嘲気味にそう思った和彦だが、このしたたかさは賢吾によって磨かれたものだと感じ、感慨深さも覚える。 賢吾はきっと、中嶋と関係を持つことを許してくれると、確信があった。あの男は、和彦の淫奔さとしたたかさを愛でている。「――それで手を打とう」 和彦が答えると、まるで契約を交わすように中嶋がそっと唇を重ねてきた。** ジムでシャワーを浴びるたびに、中嶋の体は見ていた。細身だがしなやかな筋肉に覆われて、いかにも機能的に鍛えており、鑑賞
湯気の向こうに姿を現したのは、禍々しくも艶かしい、大蛇の刺青を背負った男だ。「な、んで――」 思わず和彦が声を洩らすと、賢吾はニヤリと笑った。「仕事が終わって、寛ぐために一風呂浴びに来たんだ」 和彦は慌てて湯から上がろうとしたが、千尋にしっかりと抱きつかれ、肩まで湯に浸かってしまう。湯の中でもがいている間にも、賢吾は桶で汲み上げた湯を、悠々と体にかけている。「二人揃って、たっぷり雪遊びをしてきたようだな。雪だるまみたいになって戻ってきたと聞いたぞ」「……人を、子供みたいな言い方しないでく
凝った首筋を揉みながら、総和会の組員とともにエレベーターを待つ。上の階から降りてきたエレベーターの扉が開くと、すでに一人の男が乗っていた。その男の顔を見て、和彦は大きく目を見開く。「お疲れ様です」 和彦と一緒にいた組員が頭を下げた。すると、エレベーターに乗っている男が鷹揚に頷く。「おう。怪我人が運び込まれたって、えらい大騒ぎになってたが……、そうか、長嶺組の先生の世話になったんだな」 そんなことを言いながら、男がこちらを見る。反射的に会釈をした和彦は、その男の姓を心の中で洩らした。南郷、と。 元日に
内奥の感触を確認するように慎重にまさぐり、襞と粘膜を指の腹で擦られる。 両足を開かれ、中嶋が腰を割り込ませてくる。高ぶった欲望同士を擦りつけながら、二人はしっかりと両手を握り合った。 もどかしい快感に息を弾ませて、唇を吸い合い、緩やかに舌を絡める。「先生、犯していいですか?」 口づけの合間に、荒い息の下、中嶋がそう囁いてくる。和彦はすかさず囁き返した。「君が秦に犯されたあとなら……」 中嶋は目を丸くしたあと、笑った。普通の青年の顔をしながら、眼差しは〈女〉のものとなっている。秦に抱かれる







