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第6話  

Author: むぎゅ
朔哉はひどく頭が痛くなった。清陽を一途と言うべきなのか、薄情と言うべきなのか分からなかった。ため息をつき、震えているスタッフに救急セットとガーゼを持ってこさせた。

飛び散ったガラスで、清陽の手のひらは血まみれになっていた。スタッフは恐る恐る血を拭い、消毒してから包帯を巻いた。

手当てが終わると、朔哉はふと思い出したように、感慨まじりに口を開いた。

「そういえば、最近ずっと澄音を見てないな。お前、あいつとは本当に切れたのか?

俺から見れば、澄音のほうが舞衣よりずっといい女だ。3年前のこと、覚えてるか。あいつは身を挺して、お前に向かって飛んできた酒瓶を何本も受け止めたんだぞ。

額から血を流していたのに、一言も文句を言わなかった。まったく、どれだけお前のことが好きだったんだか」

朔哉が話す出来事に、清陽はまったく覚えがなかった。わずかに眉をひそめた。

「何の酒瓶だ?」

「覚えてないのか?3年前、舞衣が交際を公表したとき、お前はバーで浴びるほど酒を飲んだだろ。ボディーガードもつけずに行って、たまたま柄の悪い連中に絡まれた。

店の中は大騒ぎになって、怪我人も何人も出た。お前は酔いつぶれていたくせに、澄音に守られて、かすり傷ひとつ負わなかったんだ。

お前に心配をかけたくなかったのか、目が覚めたあとも適当な理由をつけて長めの休みを取っていた。

なのにお前は、あのころ機嫌が最悪だったから、あいつが仕事を放り出したと思い込んで、3か月分の給料を減らしたんだよ。澄音はそれでも一言も説明しなかった。あいつ、本当にお前に尽くしてたんだな」

清陽は初めてその話を聞いた。胸の奥が、不意にどくりと跳ねた。

朔哉は話し出すと止まらず、そのままぼやき続けた。

「なあ、どうして舞衣ひとりにそこまでこだわるんだ?澄音は本当にいい相手だろ。お前も少しはちゃんと見て、大事にしてやれよ」

清陽はそれ以上聞いていられず、冷たく遮った。

「俺が好きなのは澄音の顔だ。あいつ自身じゃない。それに、澄音はもう退職して出ていった!」

清陽の表情は冷えきっていた。だが朔哉は、呆れたように舌を鳴らした。

「あれだけお前のことが好きだった女が、本気で離れられるわけないだろ。どうせお前に引き止められるのを待ってるだけだ。信じられないなら電話してみろよ。絶対すぐに飛んでくる」

朔哉はそう言うと、清陽のスマホを手に取り、連絡先を探し始めた。

清陽は眉を寄せたが、止めはしなかった。

朔哉は続けて10回以上電話をかけた。だが、そのたびに切られた。

最後のほうには、朔哉の額にも汗が滲んでいた。朔哉はごまかすように笑い、次で最後にすると言った。

冷たい自動音声が、部屋の中に響いた。

「おかけになった番号への着信は、相手側の設定により拒否されています」

「マジかよ!」朔哉は信じられないという声を上げた。「澄音、お前を着信拒否にしたのか!?」

一方そのころ。

澄音は病院の救急処置室の前に立ち、扉の上に灯る赤いランプをじっと見つめていた。

澄音は両手をきつく握りしめていた。顔には焦りがにじみ、じっと座っていることもできなかった。

父は、見合いが駄目になったことにひどく腹を立てていた。澄音は時間を見つけて実家へ戻り、説明しようとした。だがそこで、父がリビングで意識を失って倒れているのを見つけた。

澄音は慌てて父を病院へ運び、救急処置を受けさせた。

ほどなくして、処置室の扉が開いた。

澄音が急いで駆け寄り、状況を尋ねると、医師は父にすぐ手術が必要だと告げた。ただし費用は高額で、2000万円以上かかる。早く決めてほしいと言われた。

澄音の頭の中で、張り詰めていた糸がぷつんと切れた。

2000万円以上もの大金など、自分には到底用意できなかった。周りに貸してくれる友人もいなかった。

清陽を除いては。

父の命が危ない今、自分にはほかのことを気にしている余裕などなかった。妊娠のこともすべて打ち明けて、ひとまず助けを求めるしかないと思った。

澄音は急いで清陽を着信拒否から外し、電話をかけた。声を絞り出すように言った。

「もしもし、社長ですか?少し事情があって、2000万円ほどお借りしたいのですが……」

言い終える前に、清陽の冷たい声が遮った。

「20分以内にバー『ノクターン』の10階へ来い」

それだけ言って、電話は切れた。

気のせいかもしれないが、今回の清陽の声は、いつも以上に冷たかった。何か怒りを押し殺しているようにも聞こえた。

けれど澄音には、深く考えている時間はなかった。

澄音は急いで医師に手術に同意すると伝え、そのまま一息つく間もなく階下へ降りてタクシーを拾った。

20分の期限が切れる前に、澄音はバーに到着した。

息を切らして扉を押し開けると、荒れ果てた個室が目に入った。朔哉もそこにいた。

朔哉は澄音が来たのを見るなり、すぐ清陽の耳元へ寄って小声で言った。

「ほら、来ただろ。清陽、あいつは本当にお前を大事に思ってる。絶対に馬鹿なことして傷つけるなよ」

そう言うと、朔哉は清陽の顔色も見ず、さっと個室を出ていった。

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