Teilen

第2話

呼び声
翌朝、私は団子が激しく痙攣する気配で目を覚ました。

ベランダの床は氷のように冷え切っていた。

団子は床に横たわったまま全身を激しく震わせ、口からは血の混じった白い泡を大量に吐いていた。

その目はすでに焦点が定まらず、うめき声すら出せずにいた。

私は恐怖に全身を震わせながら、転がるようにリビングへ駆け込んだ。

「葉一!葉一ーッ!」

返事はない。寝室にも姿はなかった。

家の中は、不気味なほど静まり返っていた。

私は震える手でスマホを取り出し、SNSを開いた。

タイムラインの一番上には、30分前に沙那が投稿した写真が表示されていた。

位置情報には、郊外の高級温泉リゾートの名前が表示されていた。

写真には、水着姿で露天風呂の縁に腰かける沙那が写っていた。隣からは男の手が伸びて、タオルで彼女の髪を拭いていた。

そこには、こんな一文が添えられていた。

【週末はやっぱり山の温泉だよね~。昨日の夜は怖い思いをしたから、ちゃんと埋め合わせしてくれるんだって】

スマホを握る指に、思わず力がこもった。

けれど今は、傷ついている場合じゃない。

玄関へ飛んでいって車の鍵を取ろうとしたが、靴箱の上のキートレイは空っぽだった。

私の車の鍵がない。

葉一の車は昨日、整備に出したはずだ。

――彼は、私の車に乗って出かけたのだ。

私は慌てて葉一に電話をかけた。

電話に出た葉一の声には、隠しきれない苛立ちがにじんでいた。

「亜沙美、また何のつもりだ?俺がいなくなってから、ようやく謝る気になったのか?昨夜は意地を張ってベランダで一晩明かしたくせに、よく凍え死ななかったな」

私の声は震えていた。

「……団子が危ないの。血を吐いてるの。お願い、車で戻ってきて!団子の薬も車に置いたままなの……っ」

「もういい加減にしろ!」

葉一は冷たく私の言葉を遮った。その声には、明らかな嘲りがにじんでいた。

「お前さぁ、そういうのまだ通用すると思ってんのか?

沙那がいるときに限って、具合が悪いふりをする。前は胃痛、この前は発熱、今度はとうとう犬まで利用する気か?」

「嘘じゃないわ!団子は本当にもう危ないの!」

私はほとんど叫んでいた。

電話の向こうから、沙那の声が聞こえてきた。

「葉一くん、お湯加減ちょうどいいよ。早くおいでよー」

葉一は一瞬黙り込んでから、言った。

「亜沙美、よく聞け。

今日中にちゃんと態度を改めて、昨夜の仏頂面を謝らない限り、今週末は帰らないからな。

犬が死んだら、また新しい犬を買ってやるよ!」

電話は切られた。

かけ直しても、電源が切られていてつながらなかった。

私はその場に崩れ落ちた。手から滑り落ちたスマホが床に転がった。

新しいのを買う?

7年間、一緒に育ててきた団子なのに。彼が「息子」のように大事に可愛がっていたはずの、あの団子なのに……

顔をぬぐって涙を拭き、ベランダへ駆け戻ると、古い毛布を引っ張り出し、団子をくるんだ。

35キロ近くあるその体を、自分でもどこにそんな力が残っていたのかわからないまま、必死に抱き上げた。

外は土砂降りだった。秋の冷たい雨が容赦なく体を打ち、骨まで凍えそうだった。

団子を抱えたままマンションの敷地を飛び出し、雨が激しく打ちつける道路脇に立ち、タクシーを拾おうとした。

けれど雨はあまりに強く、私は全身ずぶ濡れで、腕には今にも息絶えそうな大型犬を抱えていた。

1台、2台、3台……

空車のタクシーが次々と目の前を走り去り、泥水を跳ね上げるばかりで、誰も止まってはくれない。

団子は私の腕の中で弱々しく震えていた。

私はその小さな体を抱きしめたまま、何もできずに名前を呼び続けた。

「団子、怖くないよっ。ママが病院に連れていくからね、もうすぐだから……」

私は雨の中、その場に膝をつき、絶望のあまり泣き叫んだ。

やがて、古びたタクシーが止まってくれた。

運転手は中年の男性で、私たちを見るなり慌てて後部座席のドアを開けてくれた。

「早く乗って!犬が冷え切っちまう!」

私は団子を抱えたまま、倒れ込むように後部座席へ乗り込んだ。全身が小刻みに震えていた。

タクシーは豪雨の中を走り、私は腕の中の団子をきつく抱きしめながら、窓の外にぼやけて流れる街並みをただ見つめていた。

この凍えるような朝、私はようやく、はっきりと悟った。

私をおぶって3駅先の動物病院まで走ってくれた、あの頃の葉一は、もう死んでしまったのだ。

Lies dieses Buch weiterhin kostenlos
Code scannen, um die App herunterzuladen

Aktuellstes Kapitel

  • 遅れた愛が、灰になった日   第10話

    葉一の顔色が、さっと青ざめた。彼は子犬を慌てて足元に下ろすと、ドサッと音を立てて、その場に姿勢を正したまま私の前にひざまずき、すがるように頭を下げた。粘土のついたデニムエプロンの裾を強く握りしめ、顔を上げて私を見つめた。「亜沙美、俺は自分が馬鹿だったって本当に分かってる!前はあまりにひどい男だった。お前が俺のそばにいるのが当たり前になりすぎて、お前が離れていくなんて考えもしなかった……沙那を当て馬にしてお前を苛立たせたのは、お前が俺を気にかけてる証拠が欲しかっただけなんだ。お前が俺のために嫉妬する姿が見たかっただけで……」彼は自分の歪んだ心理を、まとまりもなく語りながら、全身を震わせて泣いていた。「もう一度だけ、チャンスをくれ。たった一度でいい!残りの人生をかけて償うから。頼む、亜沙美、俺を見捨てないでくれ……」街灯が彼の影を長く、そして惨めに伸ばしていた。膝をつくその姿を、私はただ見つめていた。もし1年前だったら。いや、半年前だったとしても。彼がただひと言、優しい言葉をかけてくれさえすれば、私は迷わず彼の胸に飛び込み、すべての過ちを許していただろう。けれど、今は違う。私は手を伸ばし、彼がエプロンを握りしめる指を、1本ずつ、そっと外していった。「実のところ、私はとっくにあなたを許してるの」彼ははっと顔を上げた。充血した目に、一瞬狂喜のような光がよぎった。「本当か?亜沙美……」「でも」私は彼の言葉を遮った。声はあくまで静かだった。「許すことと、やり直すことは別なの」彼を見つめながら、ひと言ひと言、はっきりと告げた。「あの日、団子がベランダで血を吐いていたとき。私がその子を抱いて、土砂降りの雨の中、道路脇に膝をつき、タクシーも拾えずにいたとき。あなたを愛していた亜沙美は、もうあのとき、あの街で死んでしまったの」葉一の目に宿っていた光が、完全に消えた。彼の顔色は、土気色に変わった。口を開けたまま、喉の奥から「カッ、カッ」という音が漏れるだけで、とうとう言葉にならなかった。彼はようやく悟ったのだ。ふたりの関係は完全に壊れてしまったのだと。もう二度と、元には戻らないのだと。私は彼から視線を外した。背を向け、シャッターを下ろして工房に鍵をかけた。いつの

  • 遅れた愛が、灰になった日   第9話

    冬のある夕方、冷え込みが一段と厳しくなった。海風にも、刺すような冷たさが混じっていた。工房の作業台に並べたヘラなどの道具を片づけ、シャッターを下ろそうとして、ふと振り返った瞬間――私は動きを止めた。扉の外、街灯の下に、ひとりの人影が立っていた。葉一だった。一瞬、誰だか分からなかったほどだ。すっかり痩せ細っていて、かつて体にぴったりと合っていた黒いコートが、ひどくだぶついて見えた。目は落ちくぼんで充血し、顎には濃く無精髭が伸びていた。かつての、自信に満ちて余裕たっぷりだったエリートの面影は、もうどこにもない。彼は冷たい風の中に立ち、小刻みに震えていた。そして、そのコートの胸元には、何やらもこもことしたものを抱えていた。私が振り返ったのに気づくと、彼は大股で近づいてきた。コートのジッパーを開け、懐から小さな子犬を取り出した。ゴールデンレトリバーの子犬だった。生後1、2か月ほどだろうか。ふわふわの毛並みで、幼い頃の団子にそっくりだった。葉一は私を見つめ、みるみるうちに目を潤ませた。声はかすれきっていて、ひどく鼻にかかっていた。「……亜沙美、やっと見つけた……」彼は一歩前に出て、小さなゴールデンレトリバーの子犬を私の前に差し出した。まるで宝物を捧げるように。「見てくれ。丸1か月かけて、ブリーダーを10軒以上回って、ようやくこの子を見つけたんだ。団子の子供の頃とそっくりだろ。耳のところにある白い毛まで同じなんだ。亜沙美、また一緒にこの子を育てよう。な?」彼はすがるような目で私を見つめながら、この数か月の自分の変化を、まとまりもなく話し続けた。「沙那とはきっぱり縁を切った。もう二度と会わないと誓う。会社の持ち株もすべて売った。もうあの仕事からは手を引いたんだ。こっちで庭付きの家を買おう。お前は陶芸が好きなら続ければいい。俺がそばにいるから。もう一度やり直そう、な?」彼は見捨てられた子供のように泣いていた。涙がこけた頬を伝って流れ落ち、子犬の頭にぽたぽたと落ちていった。彼はこの犬を差し出し、自分がどれだけ犠牲を払ったかを並べ立てて、私の心を揺さぶろうとしていた。私は工房の入口の一段高くなった床に立ち、静かにその様子を見つめていた。落ちぶれて、惨めなその姿を。

  • 遅れた愛が、灰になった日   第8話

    葉一のもとを去って2か月。私は海沿いの、時間がゆっくりと流れる小さな町に落ち着いた。ここには身を切るような寒風もなく、あるのはただ、塩気を帯びた温かい潮風だけだった。手元の蓄えを使って、海辺に庭付きの小さな平屋を借りた。庭には大きな木が1本立っている。団子の遺灰は、家主の了承を得て、その木の根元に埋めた。毎朝起きると、きれいな水を汲んで、木の根元にそっと注ぐ。「団子、おはよう。今日は海風が暖かいよ。たっぷり日向ぼっこしてね」ざらついた木の幹を撫でながら、小さな声で語りかけた。もう、泣くことはなかった。私はこの平屋を少し改装し、自分の陶芸工房を開いた。7年間手放していた陶芸用のヘラと土を、私は再び手に取った。長年伸ばし続けていた腰まで届く髪も切った。それは、葉一が一番気に入っていた長さで、「おしとやかに見える」からだと言っていた。キャリーケースの中にしまい込んでいた、地味でおとなしい印象のワンピースはすべて捨てた。代わりに身につけるようになったのは、ゆったりとしたリネンシャツと、粘土のついたデニムのエプロン。足元は履き古したスニーカーだ。隣でカフェを営む青木葵(あおき あおい)とは、すぐに友達になった。彼女は明るく物怖じしない性格で、毎日アイスコーヒーを片手に工房へ遊びに来る。私は自分で作った、少しいびつな形の陶器のマグカップを彼女に贈った。葵はそのカップを両手で包むように持ちながら、私を見て笑った。「亜沙美、ここに来たばかりの頃のあんたって、まるで抜け殻みたいだったよ。生気がなくてね。でも今は、笑うと目にちゃんと輝きが戻ってるよ」私は一瞬きょとんとして、思わず自分の目元に触れた。そうなのだろうか。あの街で過ごした7年間を思い返す。あの頃、私は毎日不安に苛まれていた。葉一がその日も時間どおりに帰ってくるか、彼の胃痛がぶり返さないか、彼のスマホにまた沙那からのメッセージが届いていないか。そんなことばかり気にしていた。まるで彼の母親代わりになって、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えながら暮らしているようだった。私は自分の喜怒哀楽のすべてを、ひとりの男に委ねていたのだ。けれど今は違う。毎日気にかけているのは、粘土の水分が足りているか、窯の温度が適切かどうか、夕焼け

  • 遅れた愛が、灰になった日   第7話

    葉一は、がらんとしたマンションに戻った。明かりはつけなかった。窓から差し込む街灯の光だけを頼りに、ソファにどさりと身を投げ出した。部屋の中は、静まり返っていた。ポケットを探り、タバコを取り出そうとしたが、箱が空なのに気づいた。ローテーブルの引き出しに身を乗り出し、予備のタバコを探した。タバコは見つからなかったが、代わりに分厚いハードカバーのノートに手が触れた。葉一はそのノートを取り出し、スマホのライトを頼りに最初のページを開いた。それはスクラップブックだった。切り抜いた紙片や印刷した資料がびっしりと貼られ、脇には亜沙美の整った字で書き込みが添えられていた。最初のページには、葉一の好物のレシピが細かく書かれていた。【葉一は長ネギが苦手。入れるなら大きめに切って、取りやすいようにすること。肉じゃがが好き。でも甘すぎる味つけは苦手だから、砂糖は控えめに】ページをめくっていくと、今度は胃の調子が悪いときの対処法が細かく記されていた。【胃薬は指示された服用時間を守ること。仕事の付き合いでお酒を飲んだ日は、翌朝すぐ食べられるように雑炊を作っておく。飲みすぎると、夜中に胃が痛くなることがあるから】葉一の指先が震え始めた。ページを1枚1枚めくり、最後のページにたどり着いた。そこには、すっかり黄ばんだ応募用紙が挟まっていた。【セーヌ芸術学院・若手芸術家研修コース】応募用紙に記された名前は亜沙美、日付は5年前のものだった。用紙の右下には、赤い「辞退」のスタンプが押されていた。葉一の息が止まった。思い出した。5年前、亜沙美はこの研修プログラムの推薦枠を手に入れていた。それは、彼女が幼い頃からずっと抱いてきた夢だった。けれどあの頃、彼が会社を立ち上げたばかりで資金繰りが行き詰まり、彼は毎晩ろくに眠れず、ストレスで髪が抜け落ちるほど追い詰められていた。亜沙美は海外へは行かなかった。航空券をキャンセルし、推薦枠を辞退し、留学のために用意していた100万円の保証金を全額引き出して、彼の会社につぎ込んだのだ。彼女はそのとき、こう言った。「葉一、絵ならいつでも描ける。でも、あなたが潰れていくのを黙って見ているなんてできない」ぽたり。涙が、その黄ばんだ紙の上に落ち、文字をにじませ

  • 遅れた愛が、灰になった日   第6話

    葉一は狂ったように車を走らせ、亜沙美の会社へ向かった。警備員の制止も振り切り、まっすぐデザイン部に駆け込んだ。亜沙美のデスクはきれいに片づけられていて、見覚えのない新人がすでに座っていた。「亜沙美はどこだ!今すぐ呼んでこい!」葉一は血走った目で怒鳴り散らした。人事部の責任者が近づいてきて、眉をひそめながら言った。「社長、永瀬亜沙美さんは1週間前に退職届を提出し、3日前にはすべての引き継ぎを終えて退職されています」葉一はその場で立ち尽くした。1週間前。つまり、団子のことが起きるよりも前、30歳の誕生日を迎えるよりも前から、彼女はすでに去る準備を進めていたのだ。意地を張っていたのではなかった。彼女は計画的に、一歩ずつ、葉一の人生から自分の存在を完全に切り離そうとしていたのだ。葉一は魂が抜けたような足取りでビルを出て、薄暗い地下駐車場へ歩いていった。いつの間にか沙那が後をついてきていた。ヒールを鳴らしながら小走りで追いつき、再び彼の腕に絡みついた。彼女は葉一の様子にまったく気づいていないらしく、相変わらず甘えた声で不満を漏らしていた。「なーんだ。亜沙美さんも本当に分からず屋だよねー。仕事まで辞めちゃって。気を引きたくて隠れてるだけでしょ?もう放っておこうよ。数日もすれば戻ってくるって。お腹空いちゃった。新しくできたお店に行かない?ね?」葉一は振り返り、沙那の顔をじっと見つめた。以前、沙那を連れてあちこちで食事をしたり買い物をしたりしていたのは、写真を撮らせるためであり、亜沙美が嫉妬し取り乱す様を見るためだった。亜沙美が取り乱せば取り乱すほど、問い詰めれば問い詰めるほど、彼の心にはどこか歪んだ満足感が広がった。彼は沙那を鞭のように使い、何度も亜沙美の心を打ちのめし、彼女が自分なしでは生きられないことを証明しようとしていた。けれど、今はもう観客がいない。亜沙美は去ってしまった。振り向きさえしなかった。この茶番は、途端に滑稽で、笑うに笑えないものになっていた。その後、ふたりで入った店の個室では、温かみのある淡い黄色の照明がテーブルを照らしていた。沙那は厚切りのサーモンの刺身を箸でつまみ、わさびをつけると、甘えた笑みを浮かべて葉一の口元へ運んだ。「はい、あーん」生魚特有の匂

  • 遅れた愛が、灰になった日   第5話

    葉一は、亜沙美がただ意地を張っているだけだと思っていた。この5年間、彼女は何度も別れを切り出してきた。一番激しかったときには、スーツケースに荷物を詰めて、マンションのエレベーターホールまで飛び出したこともある。けれどあのときも、彼はただ玄関のドアの前に立ち、冷たく一言だけ告げた。「今日このエレベーターに乗ったら、もう二度と戻ってくるな」その瞬間、亜沙美の目から涙があふれた。彼女はスーツケースを引きずって部屋に戻り、泣きながら夕飯を作ったのだ。だから今回も、葉一は少しも動じていなかった。むしろ、レストランで酒をぶちまけたあの行動すら、自分を折れさせるための強引な手段にすぎないと思っていた。「数日間放っておけば、勝手に戻ってくるさ」彼は雄太に笑って言った。あれから3日間、彼はわざとマンションに帰らず、亜沙美にはメッセージの1つも送らなかった。3日目の午後。沙那がオフィスで宅配の荷物を開けていたとき、うっかり指先を切ってしまった。沙那は血のにじんだ指を見せ、甘えた声で痛みを訴えた。葉一は眉をひそめ、家に置いてある救急箱を取りに、沙那を連れてマンションに戻った。扉を開けた瞬間、彼は反射的にこう呼びかけた。「亜沙美、救急箱持ってきてくれー!」返事はなかった。部屋の中は静まり返っていて、玄関の壁掛け時計の秒針の音だけが聞こえた。葉一は靴を脱ごうとした動きを止めた。顔を上げ、あたりを見回した。リビングのローテーブルには、いつもなら亜沙美が用意してくれていた、温かいゆず茶の入ったマグカップは置かれていなかった。ソファの上には、亜沙美が気に入っていたクッションも、1つ残らずなくなっていた。勢いよく靴箱を開けると、中にあったはずの亜沙美の靴は、1足残らず消えていた。葉一の胸が、嫌な予感にざわついた。大股で寝室へ向かい、クローゼットを勢いよく開けた。中はもぬけの殻だった。亜沙美の服も、バッグも、化粧台の上の化粧品一式まで、すべてきれいに消え失せていた。彼はさらにベランダへ駆けつけた。あの大きな、いつも犬の毛がついていた犬用ベッドも、餌皿も水入れも、何もかもなくなっていた。「亜沙美さん、もしかして引っ越しちゃったの?」沙那が後ろからついてきて、嬉しさを隠しきれない様子で言

Weitere Kapitel
Entdecke und lies gute Romane kostenlos
Kostenloser Zugriff auf zahlreiche Romane in der GoodNovel-App. Lade deine Lieblingsbücher herunter und lies jederzeit und überall.
Bücher in der App kostenlos lesen
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status