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第3話

呼び声
団子は集中治療室へ運ばれていった。

獣医師から、危篤状態だと説明された。複数の臓器が機能不全に陥っており、できる限りの処置をするしかないという。

受付で必要な書類に記入し、預り金を支払うと、私は廊下のプラスチック製の椅子に腰を下ろした。

全身ずぶ濡れで、髪からも服からも水が滴っていた。ひどい有様だった。

私のスマホが震えた。

葉一の友人である滝井雄太(たきい ゆうた)からのメッセージだった。

メッセージには、高級レストランの位置情報が添えられていた。

【亜沙美さん、昨日は誕生日だっただろ。葉一がわざわざ店を貸し切って、埋め合わせのサプライズを用意したんだ。

あいつ口は悪いけど根はいいやつなんだから、早く来てくれよ。みんな待ってるからさ】

画面の文字を見つめながら、あまりのばかばかしさにめまいがした。

さっきまで温泉にいたはずなのに、いつの間に街へ戻って、店を貸し切ったというのか。

おそらく沙那が温泉を十分に楽しんだところで、ようやく思い出す気になったのだろう。7年付き合ってきた恋人の30歳の誕生日を、昨日すっぽかしたことを。

私は処置室の固く閉ざされた扉をちらりと見やった。

獣医師に、何かあればすぐに電話をもらうよう頼んでから、立ち上がって病院を出た。タクシーを拾い、レストランへ向かった。

個室の扉を開けた瞬間、中の賑わいがぴたりと止んだ。

全員の視線が、一斉に私へ集まった。

泥と雨水にまみれた服。濡れた髪が顔に張りつき、見るに堪えない姿だった。

その部屋の中央、本来なら私が座るはずの上座には、沙那が腰かけていた。

上品なミニドレスを着て、首元ではもともと私のものだったのネックレスが輝いていた。

私より、よほど主役らしく見えた。

隣に座る葉一は、このみすぼらしい私の姿を見るなり、眉間に深い皺を寄せた。

「亜沙美、何のつもりだ?みんなお前の誕生日を祝いに集まってくれたっていうのに、こんな格好で来て場をぶち壊す気か?」

隣で雄太が、取りなすような、それでいてどこか面白がっているような口ぶりで言った。

「亜沙美さん、葉一は亜沙美さんを焦らせたくて沙那を温泉に連れてっただけだって。そんなに怒るなよ。

ほら、沙那にも1杯お酒を注いでやって、それで水に流そう。さあ、こっち座れよ」

皆が待っている。

葉一は椅子の背にもたれかかり、見下すような目で私を見つめていた。これまでの5年間、ずっとそうしてきたように、すべての悔しさを呑み込み、体裁のために私が折れるのを待っているのだ。

沙那が立ち上がり、しおらしい態度で強い酒が入ったグラスを手に取ると、私の前まで歩み寄った。

「亜沙美さん、葉一くんを怒らないであげて。私がわがまま言って、付き合わせちゃっただけだから。

本当にごめんね。よかったら、1杯だけ付き合ってくれる?」

そう言って、彼女はグラスを差し出してきた。葉一がすぐさま立ち上がり、沙那の手からグラスを奪い取った。

「何バカなことしてるんだ?お前、胃が弱いのに酒なんて飲めないだろ」

その口調には、明らかな気遣いがにじんでいた。

振り返ると、彼は強い酒がなみなみと入ったグラスを、私の前のテーブルに乱暴に置いた。

「亜沙美、沙那がせっかく折れてくれたんだ。飲めよ。飲んだら許してやる」

私は彼をじっと見据えた。

部屋の中は、水を打ったように静まり返っていた。

彼は忘れている。

私が、アルコールアレルギーだということを。

起業して1年目、彼の事業への大口出資を取りつけるために、私は彼の代わりに強い酒を3杯飲み干した。

あの夜、私はアナフィラキシーショックを起こし、救急外来に運ばれ、一晩中、懸命な救命処置を受けたのだ。

彼はベッドの脇に膝をつき、私の手を握りしめて泣きながら誓った。

「亜沙美、俺がこの先お前に酒を1滴でも飲ませたら、人間失格だ。絶対にそんなことはさせない」

テーブルを囲む誰もが私を笑いものにしていた。私が酒を飲めないことなど、誰一人覚えていなかった。

私もまた、しばらく彼を見つめ返した。

それから、皮肉な笑みを浮かべた。

手を伸ばし、そのグラスを取り上げた。

葉一の目に、一瞬得意げな満足の色がよぎった。

次の瞬間――

私は手首を返し、グラスの酒を、彼の目の前に置かれた取り皿に一気にぶちまけた。

酒が跳ね、彼の服にまで飛び散った。

「亜沙美ッ!」

葉一が顔色を変えて勢いよく立ち上がった。

「もう、水に流す必要なんてないわ」

私は彼を見つめたまま、静かに言った。

「私たち、終わりにしましょう」

そう言い残し、私は踵を返して個室を出た。

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Aktuellstes Kapitel

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