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かわいい訪問者

Penulis: うみたたん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-17 22:39:30

アレックスは口が悪く、本当に気性が荒くてがさつだ。一言で言えば野蛮。

だけど本当の彼女はとても美しいの。

前髪を少し垂らし、長い黒髪を後ろで一つに縛っている。綺麗な形の額と切れ長の二重の目にはいつも釘付けになる。

本人に言うと怒るので黙っているけど、スタイルも魅力的だ。大きめのだぼっとした服で隠しているけど。それでもわかってしまうのよね……。

初めて出会ったときの、あの感触を思い出してしまった。思いっきりアレックスの豊満な胸を触ってしまった……。

しかも叫びながら。

あのときはなぜ、あんなにも恐ろしく見えたのか? 同じ人物とは今でも思えない。

私たちはスナカミ王国の南西地方カラバーンに住んでいる。ここ数年で大きくなってきた町なの。

アレックスと私が暮らしているのは、若者が比較的多いメープル通り。新しい安いアパートが並んでいる。

数年前に大きな工場ができて、その恩恵を受けようと問屋ができ、商店ができた。

活気のある町に必要な人材を集めようと、新しい住宅地もできたのだ。

木造にレンガを配した作りの三階建ての建物。そこに私たちは住んでいる。並んでいるアパートの中では、格安の方。

二階に私が住んでいて、その真上の三階がアレックスの部屋。

出会ったとき、アレックスは取り込んだ仕事のせいで二日間食べておらず、ほとんどおかしくなっていた。

どうせなら最高においしいもので空腹を満たしたいと思っていたそうだ。

そこが彼女の不器用なところなの。そうしたいと思ったら、そうしないと気が済まない。たとえ空腹で倒れそうでも。

そんなとき、私がありえない依頼で訪ねてしまった。アレックスは激昂した。

今、冷静になって思い出すと、料理を作っている人間に対しお願いすることではなかった。

ゴキブリをすぐ退治してくれと言ったことも、彼女が生きとし生けるものの中でゴキブリが一番嫌いだったってことも、深夜十一時に訪ねたことも、人を馬鹿にしたような依頼だったことも全て私が悪いのだ。

でもあのときは、ああするしか思い浮かばなかった。

だって、彼女はなんでも屋なのだから−

本当はなんでも屋と言うのは違っていて、彼女は探偵らしかった。

ペット探偵……らしい。

ペット探偵なんて職業があるなんてね。まあブームもあるのかしら。

だから犬だか猫の毛が落ちていたりするのよね、最初は掃除が大変だった。

『 アレックス商会

営業時間 朝の10時から夜の10時まで

後は要相談 』

建物の入口の東側に、住人の小さなポストが並んでいる。そこの彼女用のポストにもそう書いてあったし、彼女の部屋の扉にも書いてあった。

「たいだい深夜十一時に来るなよ」

「だ、だって要相談とあるじゃない」

バカ野郎、商売文句だろうが。と、アレックスは吐き捨てた。

今までそんな非常識な時間に来た客などいないと。それはそう。

私はとんでもなく迷惑な客だった。普通の人間なら寝ている時間。それに真夜中に出歩くのは危険だ。最近は特に治安が悪い。

いくらこの国が、隣国と比べ温厚な国だとしても、深夜に歩いていたら誘拐してくださいと言っているようなものだ。

裏通りに朝までやっている酒場もあるが、そこはほぼ常連の集まりだ。

でも朝まで外に出ないなら、逆に危なくないのかもしれないけど。

あれから数日が経ち、私はアレックスに頼まれれば、買い物、掃除、洗濯などをするようになっていた。

料理に関しては、彼女のこだわりがあるので手を出さなかった。東洋の食べ物を作ろうとするくらいだから、確かに口は挟めない。

そして何より、黒くて四角い意味不明の食材を大きな舌でベロベロとなめていた彼女。

めちゃくちゃ不気味だった。あれ思い返すとやっぱり食材には触れたくない。

*****

朝の十時を回った頃、どーんどーんと雷なのか地震なのかわからないような凄まじい音がした。

「きゃ!」

爽やかな朝のティータイム。

ベランダに咲いたカモミールを乾燥させ作った紅茶をいただこうと、カップを手にした時だった−

茶色い液体が、波打ってカップからこぼれた。私は天井を見上げる。

私の部屋のリビングの真上からだ。地鳴りのような音が続く。

アレックスー

私はすぐに部屋を飛び出し階段を駆け上り、アレックスの部屋の呼び鈴を押した。

「遅いぞ! なにやってた?」

ドアを開けたと同時に、叱責に近い口調で言われる。

「アレックス! なにをしたらあんな音が出るの?!」

「レベッカ、お前、留守番しろ」

よく見るとアレックスは痩せ細った猫を片手に抱いている。アレックスと同化して暗めの色をしていて見逃すところだった。

「今の音はなにって聞いてるの!」

「十キロの小麦粉だ」

十キロの小麦粉を床に落として、音を出していた? すごい嫌がらせよね?

「苦情が来るわ。私たち追い出されるわよ! あ、私は関係ないわ。あなたがよ」

アレックスに睨まれる。

「お前は状況が読み込めないのか! あたしはこいつを飼い主に渡さなくちゃならない。だからお前を呼んだ」

抱えている猫をチラっと見る。薄汚れた灰色の猫は不信感いっぱいで威嚇してきた。

なにこの猫。全く可愛くない。

「勝手に行けばいいでしょう」

「客がいるのにか?」

え?

改めてアレックスの部屋を見渡す。あまりの出来事に声も出せず、固まっている女性が一人、椅子にちょこんと座っていた。

お人形?

彼女は微動だもしない。まるで可愛らしい人形のよう。昔、大切にしていたビスクドールを思い出した。

つぶらな瞳に真っ白な肌。栗色の長い髪。ロングスカートにブーツを履いて、クリーム色のブラウスを着ている。歳は私たちよりも若く見える。二十歳位だろうか?

「初めてまして、私はマーゴと言います」

「あっ、初めまして、レベッカと申します。すみません、お客様がいると思わなくて」

私は慌ててお辞儀をし、少し居心地が悪くなり、着ていたトゥニカを整えるような素振りをした。

「お前はいつも変な格好しているから、意味ないぞ」

カチンー!! ときたが、こんな若い女の子の前でさらにみっともないところは見せたくないので、ぐっと堪えた。

素敵な彼女は話し出した。

「朝早くすみません。時間を間違えて……出直しましょうか?」

困ったようにマーゴは言った。

「いや、あんたはそのままそこにいて」

「そうですよ、朝の十時開店なんてちょっと遅いですよね。普通は九時ですよねぇ」

「……朝は苦手でして。偏頭痛持ちで」

「夜行性なのよ」

「レベッカ、黙れ。お茶を出してくれ。あたしは今からこいつを届けて、戻って……」

アレックスが薄汚れた猫の額を、指でトンと軽く触った。猫は必要以上に驚き、急にアレックスの腕の中から飛び出してしまった。

「あ、キャンディ!」

見た目からはかけ離れたキュートな名前の猫は机の上に飛び乗った。

それを追うアレックス。興奮して、猫は椅子に移り、窓を伝って外に出ようとする。だけど窓は閉まっていて出れない。後ろから近づくアレックス。

「おい、キャンディ!」

「アレックス……落ち着いて」

そしてこともあろうに、猫は訪問者マーゴの膝の上に乗ってしまった。

「あ…………」

固まるマーゴ。彼女は猫が怖いのか、目を閉じてしまう。

猫の方はアレックスに睨まれ震えてるように見える。

「あの、私どうしたら……」

「動かないでお嬢さん、今捕まえ……そら!」

そう言った瞬間、猫はマーゴの膝からトンと降りた。アレックスは勢いよく飛びかかり、マーゴのロングスカートの中に突進してしまった。

「きゃあぁぁぁぁ!」

マーゴがスカートを押さえた。

「なにしているのー!?」

バカなの? 見てるこっちが恥ずかしい。アレックスはまるで自分が猫にでもなったかのように、マーゴのロングスカートの中で暴れていた。

「ガッ」

「いやぁ! ちょっ! やめてぇ」

マーゴがスカートを押さえ、真っ赤になって叫ぶ。アレックスはスカートをバサっとめくって這い出てきた。

「ヒャッ……」

「くそっ!」

マーゴに謝りもしないアレックス。本当になにをしているのよ!

マーゴはひと口紅茶を飲んで、心を落ち着かせた。小さな丸いテーブルを挟んで、アレックスとマーゴが向き合って座っている。マーゴが恥ずかしそうに言う。

「てっきり男の人だと思って、あんな悲鳴をあげてしまって……すみません」

「いや、大丈夫だ」

いや大丈夫だ、じゃなくて……。

そりゃ、悲鳴をあげたくなるわ。あんなことになったら。それは間違ってない。なんでマーゴが謝罪してるのよ。

「仕事柄、男と思われた方が都合がいいからな。しかしさっきのは女と白状しないと、捕まってしまうな」

「そりゃそうよ、スカートに潜り込んだんだから」

私が横から口を出す。凄い目でアレックスに睨まれた。

「…………それで、あなたの依頼は?」

マーゴは気を取り直し、背筋を伸ばして話し出した。

「はい。隣に住んでいる老夫婦から聞いたんです。迷子になった犬や猫を探すのが上手な人が、数軒先の通りにいると。ちょっと変わった人だけど、料金も高くないと」

ちょっと? いや、相当変わってますよ?

わかりましたよね?

「探して欲しいのは、犬や猫ではありません。人間の男の子なんです。前に子供を探したことがあると聞いて」

猫はミルクをたっぷり飲んで、床の上の古い毛布の上で寝てしまった。猫を見守る係に任命された私は、その隣に腰を下ろしていた。

「何歳だ? 場合によっては無理だ」

そっけないアレックス。

「歳は関係ありますか?」

「迷子になった子供を探すならすぐに探すが、別れた男を探すんだったら断る。無駄だからな」

それを聞いて彼女は深くうなずいた。

「私の方が未練がましくて、怖い女になってしまいますね」

アレックスは無表情でマーゴを見ていた。マーゴは未練がましい女性には見えない。

つぶらな瞳に、栗色の長い髪。肌の露出を抑えた服装。一言で言うなら清楚だろうか。

小さな豆のような目で(アレックスにそう言われる)短いくせっ毛髪の私からしたらとても羨ましい。

「会いたいわけじゃないです。無事かどうか、知りたいのはそれだけです」

きっぱりと言うマーゴ。アレックスはため息をついた。

「まぁ、みんな最初はそう言うんだが。でも居場所がわかったら会いに行きたくなるんだよ」

「いえ、私が探しているのは恋人ではなくて、小さい頃に一緒に遊んだコリーと言う少年なんです」

もう十年も昔に遊んだきり、会っていないと。彼に恋愛感情など持つはずがないと彼女は言った。

「最初は、お互いに名前すら知らないまま遊んでいました。私の家からは少し遠くにある、その……貧民街……その言い方は嫌なんですけどね。その境目にある小さな公園で初めて会いました。公園に行くと、彼は派手に転んでしまったと、足が傷だらけで泣いてました。

とりあえず水道の水で足を軽く洗いました。一つ一つの傷はそこまで深くなかったので、その場で乾かしながら、家族のことや学校、住んでいる場所のことなどを話しました。私のハンカチを包帯代わりにして、脛に巻いてあげました。彼はとても安心したようでした。それが私たちの出会いです」

アレックスは黙って紅茶を一気に飲んだ。

「それで?」

「彼と二回目に偶然会ったとき、その公園で次に会う時間を決めました。また会えてとても嬉しかったので」

彼女は想い出に浸っているのか、遠くの方を見て懐かしんだ。少し寂しそうに微笑む。

「コリーは必ず先にいて、私を待っていました。早く遊びたいから、約束の時間より早く来ちゃったと言っていました」

「可愛らしいお話ね。そういえば私も子供の頃、公園で約束したわけでもないのに、よく会う女の子がいたわ」

「レベッカ、黙ってろよ」

一蹴される。

「そうなんです。学校から帰って公園に行けば、どの子も同じくらいの時間になりますしね」

マーゴにフォローされる私。アレックスが疑問を口にした。

「でも貧民街、今は旧市街と言われている。そことカラバーンの学校だと、終わる時間に差はあるんじゃないのか? そもそも向こうに学校はあるのか?」

「ありますよ。学校の話をよく教えてくれましたし。私たちはお互いの学校が終わった後、週に二、三回会って遊びました」

「働かされている子とかいるんじゃないか?十年前だったら」

「はい。実はコリーも、恵まれた環境ではなかったので、母親の仕事を手伝っていました。それが大変だと。まだ十歳くらいでしたけど」

少し前まで貧民街などと言われていた街の子供なら、そういった子は多いと想像できた。

「父親があまり家に帰って来ないので、ほとんど母親と二人で暮らしだったそうです。コリーは、近くに住んでいる祖母のお世話も任されていると」

なんて辛い境遇なの……。

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