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第422話

Author: ちょうもも
まったく肝を冷やす話だ。

どうやら史弥はまだ悠良に未練があるらしい。

そうでなければ、あそこまで怒るはずがない。

それにしても悠良という女、前世で一体どんな因果を背負ったのか。

二人の男がここまで彼女に執着するなんて。

五年ぶりに戻ってきても、伶の隣には誰もいない。

それどころか、この二人の間には今もなお繋がりがある。

だがそれで構わない。

史弥が悠良と伶の関係を知った以上、彼が彼女を簡単に放すはずがない。

史弥が彼女を絡め取ってくれるなら、悠良は自分に構っている余裕などなくなる。

その間に、自分は五年前に使ったあの人物を探し出す手を考えればいい......

翌朝。

悠良は目を覚まし、気づけばベッドの上にいた。

思わず反射的に布団をめくり、自分の服が乱れていないか確かめる。

衣服がそのままだと分かり、やっと胸を撫で下ろした。

隣に伶の姿はない。

だがシーツに触れるとまだ温かい。

ほんの少し前に起きたばかりだ。

つまり、昨日は二人で同じベッドに一晩中眠っていた、ということになる。

悠良は自分を平手打ちしたい気分だった。

人のことを寝かしつけに来たはずが、まさか自分まで眠り込んでしまうなんて。

慌てて布団を出て、スマホを手に取る。

着信履歴には葉からの電話が何度も。

いつの間にかマナーモードになっていたらしい。

急いで折り返すと、電話口から焦った声が飛んできた。

「ちょっと!どうして電話に出ないのよ。心配で警察に駆け込むところだったんだから!何かあったんじゃないかと思って......」

「ごめん。ただ寝ちゃってただけ」

どう説明すればいいのか悠良にも分からない。

まさか「寒河江さんを寝かしつけていたら自分が寝ちゃった」なんて言えるわけがない。

「まあそれはいいけど、今夜のこと忘れないでよ。招待状、ちゃんと手に入れておいたから」

「本当?ありがとう、葉!」

今日あたり昔の取引先に電話して頼もうと思っていた矢先だった。

電話の向こうで、葉が笑う。

「私たちの仲でお礼なんて要らないわよ。じゃあ後でそっちに行くね」

「うん」

「朝ごはんできてるぞ」

背後から男の声がした。

低くて、少し掠れたような、目覚めたばかりの響き。

普段よりも落ち着いていて、不思議と耳に残る声だ。

もしこれを「モーニングコールサ
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