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風待ちて、君は還らず
風待ちて、君は還らず
Penulis: 白団子

第1話

Penulis: 白団子
子どもを持たないと決めていた五年間。それがある日、夫の桐島 時臣(きりしま ときおみ)が突然、双子の赤ちゃんを養子に迎え入れた。

それだけではない。彼は葉山 綾乃(はやま あやの)に、その双子を「実の子ども」として育ててほしいと言い出し、将来、自分の莫大な遺産をすべて彼らに継がせるつもりだというのだ。

もしかして、時臣は気持ちを変えて子どもを望むようになったのかもしれない。そう思った綾乃は、避妊リングを外し、妊娠の準備をするため病院を訪れた。

ところが、医師から告げられたのは――あまりにも衝撃的な事実だった。綾乃の子宮は、五年前にすでに摘出されていたのである。

……

「生まれつき子宮がない女性もいますが、綾乃さん、あなたはそのケースではありません。あなたの子宮は手術で切除されたのです」

綾乃は完全に呆然とした。五年前、彼女が受けた手術は、たった一度きりだった。

それは避妊リングを装着するための手術で、夫の時臣が付き添ってくれたときのことだった。

それも、全身麻酔は不要のはずだったのに、時臣が痛がらせたくないと言って、病院に強く頼んで最高額の全身麻酔を受けさせた――

まさか。あの時に、子宮を……

いや、そんなはずない。時臣は手術中、ずっと手術室の外にいた。病院側だって勝手なことをするはずがない。

混乱と不安に押しつぶされそうになっていたその時、遠くから聞こえてきたのは、義姉・桐島 瑶奈(きりしま ような)の怒りに満ちた声だった。

「時臣、あんた本当に最低よ。あの私生児たちを家に連れて帰っただけでも酷いのに、今度は望月 美月(もちづき みづき)まで家に入れる気? 綾乃の目の前で不倫でもするつもりなの?」

「姉さん、誤解だ。俺と美月はそんな関係じゃない。彼女は……命の恩人なんだ。ただ、それに報いたいだけだ」時臣は顔をしかめて反論した。

「はあ!恩返しって言って、美月に男女の双子を産ませたのか?時臣、男ってのはやることにはちゃんと限度を持つものよ」

「それは俺の望みじゃなかったんだ」と時臣は怒りを込めて言った。「彼女の父親が重病になった時、死ぬ間際の唯一の願いが、娘が結婚して子どもを持つ姿を見たいってことだった」

「それを叶えたんだよ。彼女の恩に報いるため、俺は彼女に子どもを与えた。仕方なかったんだ」

「また恩返し?じゃあ、綾乃に内緒で美月と結婚式を挙げたのも、恩返しってやつ?式の後、綾乃を騙して避妊手術を受けさせて、その間に子宮を切除させたのも?」

その言葉は、まるで頭上に落ちてきた雷のようだった。

――切ったのは、時臣?

視界が真っ暗になり、身体の力が抜けていく。

「姉さん、綾乃は痛みに弱い。出産なんて無理だ。俺には、あいつにそんな思いをさせることができなかった」と時臣は続けた。「それに当時、病院の検査で子宮筋腫が見つかったんだ。放っておくと命に関わるって医者が…」

「今はもういいだろ?美月が双子を産んでくれた。俺たち桐島家には後継ぎができたんだ。綾乃は出産の苦しみからも命の危険からも解放されたんだ」

「それに、美月は不治の病にかかってる。余命、あとわずかなんだ……」

「彼女は何よりも、俺に男の子と女の子を産んでくれた。だから、一人ぼっちで死なせるわけにはいかない。最後の時間を一緒に過ごせるように、家に連れて帰ろうと思ったんだ」

時臣はどこまでも冷静に、計算されたような口調で続けた。「俺も自分のやってきたことが無茶だってのはわかってる。でも、これはみんなにとって一番いい方法なんだ」

「お願いだから、姉さん、誰にも言わないでくれ。美月にはもう一週間しかない。その一週間さえ終われば、すべて終わるんだから」

どうやって家に戻ってきたのか、綾乃には記憶がなかった。

ただ、ひたすら寒かった。いつもなら温もりに満ちているはずの家が、今はまるで氷のように冷え切っていた。

壁には、時臣との思い出の写真がずらりと並んでいた。――彼は、世界でいちばん自分を愛してくれている男だと思っていた。

彼らは、オーロラの下でそっと唇を重ね、何千メートルもの空から手をつないで飛び降りたこともあった。そしてある日は、深い海の底へと潜り、星空のように瞬く光を見上げながら、静かに抱き合っていた――

彼は名家の跡取りで、本来ならそんな危険なことなど許されない立場だった。でも、私のためなら何だってしてくれた。

「お前のためなら、たとえ命を落とすことになっても構わない」かつて時臣は、綾乃を優しく抱きしめながら、深く真剣なまなざしでそう言った。「お前さえそばにいてくれれば、死ぬことになったって、俺は迷わず受け入れる。この人生で愛したのは、お前ひとりだけだ」

その言葉は、今となってはただの虚しい記憶だった。

涙が止まらなかった。息もできないほどの痛みが胸を締めつけた。綾乃は、ストーブに火を入れ、思い出の品をひとつずつ、そこに投げ込んでいった。――すべて、終わらせたい。

まさにその時――玄関が開く音がした。帰ってきたのは時臣だった。彼の後ろには、患者服姿で顔色の悪い美月がいた。

「綾乃、彼女は覚えてるよな。俺の大学時代の恩師の娘、美月だ」時臣は、綾乃が何を燃やしていたかなど気に留める様子もなく、優しい笑みを浮かべながら、軽々しく嘘をついた。

「先生も奥さんももう亡くなって、美月はひとりきりなんだ。しかもリンパ癌の末期で……余命はそう長くない」

「どうしても、彼女を病院にひとり置いておけなくてさ。だから、家に連れてきた。看護師も雇ってる。お前は何もしなくていい。彼女の存在も、気にしなくていい」

そう言って、時臣はすでにすべてが決まっているかのような口ぶりだった。綾乃は、黙って最後の写真を火にくべた。

ぱちっ、と音を立てて燃え上がった写真は、すぐに灰になった。

まるで、時臣との結婚生活そのもののように――完全に、跡形もなく、燃え尽きていった。
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