Share

第1090話

Author: 夜月 アヤメ
「それは高峯がしたことです。私には関係ありません......私だって、あの人に無理やり......どうして、私を責められるんですか?」

光莉の声は、震えていた。納得がいかない気持ちが胸の中で渦巻いていた。

―なぜ、こういう女性たちは、男の過ちを男にではなく、女にぶつけてくるのか。

「あんたが無理やりされたって?じゃあ、どうして抵抗しなかったの?本当に嫌なら、誰があんたを無理やりにできたっていうの?あんたはあの伊藤支店長よ、藤沢家の人間。遠藤高峯に何ができるっていうの?」

「......抵抗は、しました。でも......彼には、触れさせたくありませんでした。おっしゃる通り、私は藤沢家の者です。ですが、もしこのことが家に知られたら......きっと高峯と藤沢家は全面対決になります......私はそれを望まなかった。ただ、それだけなんです」

「それだけ?」弥生の目が細くなる。

「......ですから、私は藤沢家には何も話していません。自分で、なんとかするつもりでした」

その時、彼のことを信じた。成之が、「もう高峯には話をつけた」と言ってくれた。

もう大丈夫―そう思った。もう二度と、彼に関わることはないと。

実際、それから高峯からの連絡は途絶えた。ようやく解放された気がして、光莉は胸を撫で下ろしたばかりだった。

......まさか、こんなことになるなんて。

「ふふっ、なるほどね。つまり、あんたは被害者ぶってるわけね?自分が傷ついて、苦しんで、それでも家のために黙っていた―そう言いたいのね?」

弥生の声は、冷たくて、どこか小馬鹿にしているようだった。

その口調が、たまらなく不快だった。

けれど光莉は、ぐっと堪えて言った。

「......間違っていますか?私が苦しまなかったと思っていらっしゃるんですか?私は、高峯の初恋でした。それなのに......彼に捨てられて、それから何年も経って......今度は家庭を持った私に、彼がまた迫ってきたんです。脅されて、強引に、何度も―

あなたも女性ですよね?どうして......どうして、そんなふうに私を責めるんですか?」

「女だからって、間違いを責められないと思ってるの?そんな都合のいい盾、私は認めないわよ。

うちの娘だって、女よ。でもね、あの子は自分が女だからって、それを言い訳にしたことなんて一度もない。
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Comments (1)
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
修母も悪人だし 高峯に無理矢理やられて 嫌なら 呼ばれてホイホイ行かないでしょ 行く時点で嫌ではなくなってるんだよ 無理矢理だからとか 自分擁護しても意味ない
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1099話

    そして―このことは、絶対にお母さんに知られてはならない。知られてしまえば、きっとお母さんの感情はさらに荒れて、もう光莉の件は取り返しがつかなくなってしまう。弥生は静かに目を閉じた。その様子に、少しでも心が動いたと感じた紀子は、すかさず声を重ねた。「お母さん、今すぐ飛行機のチケットを取りますから。私たち、すぐに出発しましょう。お母さんが行きたいところ、どこでもご一緒します。騒ぎが落ち着くまで、しばらく離れていましょう。その間に、兄さんが必ずすべてを処理してくださいます。お母さんには、絶対に何も起こりません。私が保証します。どうか......私のためだと思って、お願いします。たとえ最悪の事態になっても、今の段階なら『誘拐』です。事実が明るみに出たとしても、少しコネを使えば大きな問題にはなりません。でも、もし伊藤さんが......もし本当に命を落としたら、それはもう『殺人』です」「......もういい。そんなこと、私が分からないとでも?」弥生の口調は冷たいが、その声には揺らぎがあった。「お母さんがすべてを理解されていること、私は分かっています。でも、人は誰しも、自分のこととなると正しく判断できなくなるものです」紀子はその場で頭を下げ、心から懇願した。「お母さん......お願いです」弥生は長い沈黙のあと、ゆっくりと携帯電話を手に取った。......漆黒の夜が、息を詰まらせるような重苦しさを漂わせていた。ギィィ―と、大きな鉄の門がゆっくり開く音が響く。すぐさま、鋭い足音が倉庫内に踏み込んできた。パチッ。明かりがついた。光莉は冷たい床に倒れ伏し、全身を震わせながら、砕け散りそうなほどの痛みに耐えていた。そのとき、耳元で、聞き覚えのある声が響く。「光莉」うっすらと瞼を開けると、見慣れた影がこちらへ向かってくるのが見えた。「光莉!」成之が駆け寄り、彼女を抱き上げた。その身体は傷だらけで、服も裂け、無残な姿に変わり果てている。それを見た成之の瞳は、今にも血を流しそうなほどに怒りに染まった。光莉はすでに魂が半分抜けたような状態で、成之の腕に力なく身を預け、呼吸すらも聞こえないほど微かなものだった。成之は歯を食いしばり、怒りの炎をその目に宿しながら、きびすを返して言い放った。「ここを

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1098話

    その言葉の冷酷さとは裏腹に、彼女の目には涙が滲んでいた。「もし彼がふさわしくないというのなら......私も、そして成之兄さんも、お母さんの子どもにふさわしくないということになります。そうであれば、私たち三人とも、お母さんの子どもではなくて結構です!」「あんたたち......みんな......」弥生の手が震えながら、紀子を指差す。「親不孝者ばかり......たかが他人の女、そんな狐みたいな女のために、みんなして母親を責めて。私はこの家のためにどれだけ尽くしてきたと思ってるのに......!」紀子は静かに言葉を紡いだ。「もし『幸せ』のために人を殺すというのなら、その『尽くし』を私は受け取りたくありません。それは私にとって、喜びではなく、ただの恐怖と苦しみです。お母さんが私の母である以上、私はその過ちに胸を痛めるしかありません」弥生は目を伏せ、ベッドに腰を下ろすと、かすれた声で言った。「あんた......本当に母親にそんな態度を取るつもり?」「お母さんが、私や兄さんにこうして接してこられるなら......娘として、不孝者と呼ばれても仕方ありません」「......っ」弥生は言葉を失っていた。紀子はその場にひざまずき、静かに頭を下げた。「お母さん......私を娘だと思ってくださるなら、どうかこのお願いを聞いてください」「彼女はただの藤沢家の人間ではありません。もし何かあれば、藤沢家は必ず真相を突き止めます。お母さんが藤沢家をどう思っていようと、兄さんのことは大切なはずです。彼女は兄さんにとって、とても大切な方なのです。彼女を失えば、兄さんはきっと、一生心の傷を抱えたままになるでしょう。兄さんはその痛みに耐えきれず、自ら命を絶ちました。今、私には......兄さんしか残っていないのです」弥生は虚ろな笑みを浮かべて、壊れたように笑い出した。「その女......いったいどんな魔法をかけたの?夫も、息子も、今度はあんたまで。関わりのないあんたまで、なぜ彼女を庇うのよ」紀子は両膝でじわじわと弥生の前ににじり寄る。「お母さん......私たちは彼女を助けているのではありません。私たちは、お母さんを守りたいんです。お願いです、どうか伊藤さんを解放してください。このままでは、私は一生安らげません。夢にうな

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1097話

    「母さん、もし本当にそんなことしたら―俺は、一生あんたを許さない」成之の声は、低く鋭く、まるで刃のようだった。そこには、静かな怒りと、決意が滲んでいた。その一言に、弥生の心がわずかに揺らいだ。「......成之。あんた、誰が産んで育てたと思ってるの?私よ。私が苦労してここまで―」「もういい!」彼は母の言葉を鋭く断ち切った。「母親だからって、何をしても許されると思ってるのか?『母親』は、罪の盾じゃない!俺は本気で言ってる。もし光莉が死んだら―俺は一生、母さんを憎み続ける。もう会わない。俺にとって母親は、あんた一人だった。でもそれも、今日で終わりにする」言葉の一つひとつが、凍えるように冷たく、重かった。「兄さんはもう死んだ。もし母さんがそれでも『もうひとり』の息子まで失いたいなら―勝手にやればいい。だけど俺は、その代償を、命を懸けて払わせてもらう。光莉を殺せば、その瞬間から―俺は母さんの息子じゃない」弥生の手が震えていた。「......あんた、母親まで捨てる気なの?たかが、あんな女のために......!いいわよ、だったら―母親なんて、いらないって言いなさいよ!」そう言い捨てて、彼女はスマホの通話を一方的に切った。そして、紀子のスマホを床に叩きつけた。続けざまに、自分のスマホを取り出し、どこかに電話をかけようとする。「お母さん、やめてくださいっ!」紀子はすぐにその手をつかんだ。「放して!今すぐ、あの女を消してやる。まだ間に合うのよ、死体を処理してしまえば、何もかも終わるのよ!」「ダメです!お願い、そんなことしないでください!」「離しなさい!」弥生は眉をひそめ、怒鳴った。「紀子、あんたって子は、ほんとに......このこと、もっとうまくやれたはずなのよ。誰にも知られず、跡も残さずに―そうできたのに!それなのに、なんで成之に話したのよ!?事態をもっと悪化させて、どうするつもり?!あんた、母さんを裏切ったの。母さんを危険にさらしてるのよ。でも、今ならまだ間に合う。あの女、母さんが始末する。跡形も残さずに殺してやる―誰にもバレない。母さんはあんたのためにやってるのよ、紀子。母さんは、あんたの無念を晴らしてあげたいだけなのよ」「お願いです......そんな気持ちいりません......私は

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1096話

    紀子は泣きじゃくりながら、必死に母の手を取って懇願した。「お母さん、お願いです。もうこれ以上、無茶なことはしないで......もし伊藤さんがまだ生きてるなら、どうか解放してあげてください。まだ間に合います、お願いします......!」「ほんとに、あんたって子は......」弥生は眉をひそめ、苛立ちを隠そうともしなかった。「どうして、そんなにも弱気なの?」「弱いんじゃないんです。ただ、もう過去に縛られたくないだけ......お願いです、今ならまだ引き返せます。そうじゃないと、取り返しのつかないことになります」紀子の声は震えていた。「彼女は、ただの一般人じゃありません。もし何かあったら、お母さんだって―」「黙りなさい!」弥生が怒声で遮った。「誰が知るっていうの?あんたさえ黙ってれば、それで済む話でしょう。私がやることに、穴なんてない。で、正直に言いなさい―さっき私の部屋で何を見たの?」外の物音に気づいて目を覚ました弥生は、灯りを点けたとき、自分のスマホが画面を上にして置かれていたのを見つけた。息子が突然やってきたことも思い出され、その様子がどうにも普通じゃなかったことも頭をよぎる。一気に疑念が膨らみ、娘の部屋へと足を向けた。そして、予感は当たっていた。「......私は、何も見てません。ロックがかかってて、スマホは開けなかったんです」紀子が涙を拭いながらそう言った、瞬間―弥生は突然、彼女の背後にあるスマホを掴みにかかった。「やめて!」紀子も必死に奪い返そうとしたが、弥生は強く彼女を突き飛ばした。ちょうどそのとき、スマホが鳴った。―成之からの着信だった。弥生はすぐに応答ボタンを押した。「紀子、どうした?電話出ないから心配した。あの写真、やっぱり光莉だった。彼女は母さんの手の中にいるんだろ?他に何か―」「兄さん、言わないで!やめてっ!!」紀子の悲鳴にも似た声が、スマホの向こうに響いた。その瞬間、成之の胸に鋭い不安が走った。スマホの向こうから弥生の冷たい声が聞こえた。「成之、あんたは私の息子、紀子は私の娘。ふたりとも、母さんが産んだ我が子よ。それなのに......ふたりして、母さんを裏切るつもり?」その言葉に、成之はすべてを察した―母さんは、すでに気づいている。

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1095話

    部屋に戻った紀子の体は、冷や汗でぐっしょりと濡れていた。まさか母が、あんなことをしていたなんて。震える手でさっきの写真をもう一度見直す。......あの女性、あれはきっと伊藤さん。こんな扱いを受けてるなんて、一体どれだけの恐怖と痛みに晒されてるの?母は、母は一体どこまで狂ってしまったの―紀子は唾を飲み込み、すぐに自分のスマホから写真と番号のスクショを成之に送信した。【これ、お母さんのスマホから撮った怪しい番号と写真。写真の女性、多分あの伊藤さん】メッセージを送った直後。成之から、すぐに着信があった。彼女が応答しようとした、そのとき―ガチャッ。突然、ドアが開いた。弥生が、無表情でそこに立っていた。紀子は息を呑み、慌ててスマホを背中に隠す。目を見開き、恐怖がその奥に浮かんでいた。「お母さん、どうされたんです?まだお休みじゃなかったんですか?」「あんたの音で目が覚めたの......まだ起きてたの?」弥生はゆっくりと部屋に入ってくる。その一歩一歩が、まるで獣のように重く感じられる。「―さっき、母さんの部屋に入ってきたでしょ?」「えっ......な、何をおっしゃってるんです?私、行ってないですし、きっとお母さん、寝ぼけて夢でも見たんじゃないでしょうか」「......そう?」弥生は冷たい声で返した。「でもね、私のスマホ、本当は画面を下にして置いてたの。なのに、起きたら画面が上になってたのは―どう説明する?」「え、それ......もしかして、お母さんの記憶違いじゃ?そんな小さなことで、私が部屋に入る理由ないじゃないですか」その瞬間。弥生が、紀子の顔をぐっとつかんだ。「私たちは親子なのよ、あんたは絶対に裏切っちゃいけない。母さんと手を組まないと、生きていけないの......何をしたのか、正直に言いなさい!」「お母さん、ほんとに何もしてないです、私......ほんとにっ―」ビンタが飛んだ。パァンという音が、部屋に響き渡った。頬に激痛が走る。「私は母親よ!あんたが何を考えてるか、見抜けないと思ってるの?どうして母さんに、そんなことができるの......」弥生が手を伸ばして命じる。「スマホを出しなさい」紀子は、母のビンタで頭がぐらりと揺れていた。

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1094話

    「でも、それだけ心配だったんでしょうね。だから自分で車を運転して来たんですよ。お母さん、心配しなくても大丈夫です。兄さんに何かあるわけないですから」そう言って笑いかけると、弥生も小さく頷いた。母娘ふたり、ゆっくりと屋敷の中へと入っていく。弥生は玄関で上着を脱ぎ、それをそっと使用人に手渡した。どこか疲れたような表情で、「冷たいお水を持ってきて」と一言。「お母さん、なんだかお疲れのように見えますけど?」「ちょっと踊ってきたから、体がだるくてね......紀子、あんたももう休みなさい。母さんも部屋に戻るわ」「はい。お母さんも、ゆっくりお休みください」紀子は階段を上って自室に入り、ドアを閉めてから鍵をかけた。そしてバスルームに入り、ポケットからスマホを取り出して成之に電話をかける。「紀子、どうだった?母さんの様子に変わったところは?」「兄さん、まずは落ち着いて。お母さんのことは、私の方でなんとかするから。なにか分かったらすぐに連絡するね。伊藤さんの方も、そっちで探してみて。もしそっちで見つかれば一番だし、見つからなくても、こっちでお母さんの話を引き出せるように動く。何かしらの手がかりは見つけてみせる」成之は大きく息を吐いた。「......分かった。紀子、母さんのこと、頼んだぞ」「うん、任せて」電話を切った紀子は、ゆっくりとバスルームを出た。そして静かに、待ちの時間が始まる。―夜半。紀子は冷たい水で顔を洗い、気持ちを引き締めた。そしてそっと部屋の扉を開け、音を立てないように足を運ぶ。目的地は弥生の部屋。ドアの前に立ち、慎重に隙間を開け、中を覗き込む。部屋は真っ暗だった。しかし窓の外には月光が差し込み、かすかに室内の輪郭が浮かんでいた。紀子はスマートフォンの画面をタップし、画面の微かな光だけを頼りに部屋の中へと進む。懐中電灯は使わない。あまりに明るすぎると、弥生を起こしてしまうかもしれないからだ。―そして。ベッドサイドの小さなテーブルの上、うつ伏せに置かれた一台のスマホを発見。紀子は慎重にそれを手に取り、画面を点けた。......画面には指紋認証のロックがかかっていた。ベッドの上、弥生は熟睡していた。その様子を一瞥した紀子は、静かに窓際へと移動し、膝をカーペットにつけ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status