久しぶりとは言うが。おそらくこちらの情報は何もかも把握しているのだろう。苑は自然に鞄を置き水を一杯淹れてテーブルの上に置いた。「大川さん、どうぞお座りください」来た者は客だ。たとえ招かれざる客であったとしても。「白石君はここ数年、順調に過ごしているようだね」大川太平は自然にソファに腰掛けた。「まあまあです」苑も謙遜はしない。「ですが大川さんには及びません。今やあなたは飛ぶ鳥を落とす勢いですものね。それに……絶大な権力をお持ちで」大川太平はもともと飛び込みチームのコーチだった。その後指導者となりさらにとんとん拍子で政界入りし今や首都で権勢を振るう大物だ。その経歴は順風満帆と言えた。だがその人柄は劣悪で色と金を貪る。完璧な人間などいないと言うが、大川太平がその典型的な例だ。ただ大川太平は取り繕うのがうまくいかにも善人ぶった偽善者だった。以前大川太平が佳奈にしたことを知る前は、苑の彼に対する印象はとても良かった。かつて大川太平は苑を何度も助けてくれた。苑に父親のような感覚さえ抱かせた。だが大川太平が佳奈をあのように虐待したと知った時、苑は大川太平が自分に示した様々な気遣いや、気遣いだと思っていた些細な仕草が、ただ彼の卑猥な下劣な手段であり苑が若く無知なのをいいことに彼女を利用しようとする手口だったと知った。そう思うと苑は全身にまるで細菌が這い回るかのような吐き気を感じた。「白石君。君は今すべてを知っている。私に対しては悪意しかないだろう。弁解はしない」大川太平は潔かった。「弁解に来たのでないのでしたらご用件をお聞かせください」苑はふとこの部屋の空気が新鮮でなくなったように感じた。苑は直接リモコンを手に取り部屋の空気循環システムを作動させ室内の空気を浄化した。大川太平の鋭い瞳が苑を見ていた。「君は分かっているはずだ」苑は確かに分かっていた。苑も大川太平を見つめ返した。「もし私が今日それを渡さなければあなたはどうしますか。天城蒼真を殺しますか」「ほう」大川太平は笑った。「君は今が百年前の旧社会だとでも思っているのかね」「今の闇は百年前よりずっと黒いですが」苑は皮肉を言った。「白石君、君は賢い人だ。私はただ自分の将来と名声を守りたい
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