渾身の力を込めた私の回し蹴りが、寸分の狂いもなくシオンの顎を捉え、その衝撃で彼の意識を刈り取った。鍛え上げられた彼の身体は、力なく闘技場の硬い床へと崩れ落ちる。 ──そして、数瞬の静寂の後、彼が再び起き上がる気配はなかった。 『しょ、勝者ぁぁぁぁ!!!! エレンゥゥゥ!!!! またしても圧勝! 魔法なき剣士、その強さ、底が知れなぁぁい!!!!』 実況の絶叫が闘技場に木霊した瞬間、静寂は破られ、会場全体が地鳴りのような大歓声に包まれた。それはもはや称賛というよりも、畏怖と熱狂が入り混じった、人間離れした者への賛歌のようだった。 数秒後、白い制服の治療班が、慌ただしく担架を持って舞台下から駆けつけてくる。 「おい、意識確認! 大丈夫か!?」 「すぐに動かすぞ! 肩を貸せ!」 しかし、屈強そうなスタッフ2人がかりでシオンの身体を運ぼうとしたが、その見た目からは想像もつかない重さに、彼らの顔が明らかに苦悶に歪んだ。 「……お、おもっっ!? なんだこれ、鉄塊でも抱えてるみたいだぞ!?」 「だ、ダメだ、これじゃ運べん! もっと人を呼べ!」 (……それは、さすがに口に出して言ってやるな) 私は内心で苦笑する。恐らく、彼のあの流麗かつパワフルなトンファー捌きを可能にしていたのは、この異常なまでに高められた筋肉の密度なのだろう。常人のそれとは比べ物にならないレベルに達しているに違いない。 (先ほどの攻防で彼の攻撃を受け流した際、いまだに手のひらが痺れている。あの細身のどこに、これほどの質量が隠されているというのか) 結局、スタッフがもう一人加わり、三人がかりでようやく担架に乗せられ、完全に白目をむいたシオンが運び出されていった。その姿に、観客席からは労いの拍手が送られている。 私はその光景を静かに見送ると、ただ静かに闘技場の舞台を後にした。 (エレン、今日も本当に素敵だったよ! ハラハラしたけど、最後はやっぱり圧巻だったね!) 控室へ向かう通路を歩いていると、エレナが心の底から嬉しそうに、そして少し興奮した様子で私に笑いかけてくる。彼女の声は、どんな万雷の拍手よりも心地よい。 (ふっ、こうして純粋に褒められるというのは、存外、悪くないものだ) (だが、あのシオンという男、なかなかに手強かったぞ。洗練された体術に加え、遠隔操作のトンファー。厄介な相手
Last Updated : 2025-05-19 Read more