振り下ろしの軌道の、内側へ。 「……見事な技だ」 炎の熱が、頬を炙る。 「だが——」 もう半歩。 「まだまだ、改良の余地があるな」 その瞬間。 時間が、止まった。 観客の目には、そう映ったはずだ。 頭上から落ちる炎の剣。それを真正面から受けようとする白銀の影。両者の距離は、もはや一足。グレンの剣が、振り抜かれる寸前。あと一拍——いや、半拍で、すべてが終わる。 その、半拍。 エレンの剣が、下から、すうと持ち上がった。 刃ではなかった。 切先でもなかった。 エレンの剣身の腹が、グレンの両手で握りしめられた剣の——柄頭、その真下を、下から打ち上げた。 たった、それだけだった。 パァン、と。 乾いた音が、闘技場の中央で、ひとつ、弾けた。 上から振り下ろす、グレンの全体重。 下から打ち上げる、エレンの一点突き。 ——力の方向が、真正面から、衝突した。 てこの支点が、ずれる。 握りこんだ指の、その僅かな隙間に、力の逃げ場が走る。 次の瞬間。 グレンの両の手のひらから——剣が、すっぽ抜けた。 「……んなッ!?」 間の抜けた声が、グレンの口から漏れる。 刀身は、彼の頭上を越えていた。 炎の柱が、ぐにゃりと歪み、空中で形を失う。刃に纏わりついていた魔力の輪郭が、夜空にぶちまけられた火の粉のように、ばらばらと宙へ霧散していく。 炎の熱が、急速に冷えていく。 観客の頬を撫でていた熱気が、ふっ、と消える。 太陽の光だけが、無防備に、闘技場へ戻ってきた。 グレンの両の手のひらは、もう、何も握っていなかった。 「勝負アリだ」 エレンの声が、その耳元で落ちた。 「楽しかったぞ」 返事をする時間は、なかった。 短く、鋭い風の音が、グレンの首の裏を切る。 エレンの手刀が、首筋の一点を、寸分の狂いなく打ち抜いていた。 力ではなく、角度。 角度ではなく、位置。 ただ、そこを叩けば人は意識を失う、その一点だけを、迷いなく。 膝が、抜ける。 視界が、傾ぐ。 最後にグレンが見たのは、頭上から落ちてくる、自分自身の剣の刀身だった。 意識は、そこで途絶えた。 観客の喉が、いっせいに詰まった。 誰も、声を上げられなかった。 頭上から振り
Last Updated : 2025-05-19 Read more