Lahat ng Kabanata ng Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─: Kabanata 41 - Kabanata 50

88 Kabanata

第40話:傷だらけの少年

「酷い怪我……。いったい、どうしてこんな薄暗い路地裏に……?」私は崩れるようにしゃがみ込み、ぐったりと横たわる少年に手を伸ばす。衣服はところどころ引き裂かれ、その下から覗く肌には、殴られ、蹴られたであろう生々しい傷跡が無数に刻まれていた。「……まずは、この子を癒さなきゃ」震える指先を、そっと少年の額に重ねる。ひんやりとした肌触りに、胸が締め付けられた。祈るように両手を彼の体の上へと差し出す。「聖なる光よ、その御手にて、傷つきしこの子を癒して……」私の祈りに応えるように、手のひらから淡く、温かい光が溢れ出す。それはまるで、闇夜に灯る蝋燭の炎のように、優しく少年の体を包み込んだ。光に照らされるたび、痛々しい擦り傷や青黒い打撲の痕が、まるで幻だったかのようにみるみるうちに癒えていく。──だけど。どれほど肉体の傷が塞がっても、少年の瞼はぴくりとも動かない。呼吸は浅く、その表情は虚ろ。まるで、魂だけがどこか遠い場所へ囚われてしまったかのように、その瞳が開かれることはなかった。どうして……?そんな時だった。「おっ、見つけたぞ! こんな所にいやがったか!」獣の寝床のような、不快な匂い。ねっとりとした悪意が、路地の奥から滲み出してくる。鈍く響く声と共に現れたのは、十人ほどの男たち。皆、一様にだらしない服装で、その目は欲望と残忍さで濁りきっていた。「よう、嬢ちゃん。そこのガキ……悪いが、俺たちに渡しちゃくれねぇか?」リーダー格と思しき男性が、顎をしゃくりながら言う。その口ぶりは、まるで道端に落ちている石ころでも受け渡すような、あまりに雑なものだった。(……っ。この子は“物”なんかじゃない!)私の胸の奥で、静かだが、確かな怒りの炎が燃え上がる。「…………お断りします」毅然として、そう告げる。「おぉ? 随分と威勢がいいじゃねぇか。だがな──俺たち、見ての通り全員が“魔人”なんだぜ? 聖女様ごっこもいいが、大人しく従った方が、お互いの身のためだと思うがなぁ?」「ちげぇねぇ! これは優しさからの忠告だぜ、ありがたく受け取れや!」男たちは下品な笑い声を上げ、じりじりと包囲網を狭めてくる。その、張り詰めた空気の中。隣にいたミストさんが、平坦な声でぽつりと呟いた。「あのー……あなた達のような存在は、この子の健やかなる成長にとって、著しく悪影響を
last updateHuling Na-update : 2025-07-31
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第41話:ミストの拷問

月光だけが、無慈悲に勝敗を照らし出す。 夜風が頬を撫で、辺りにはもはや、呻き声一つなかった。折り重なるように倒れる男たちを一瞥し、私は静かに息を吐く。 (……さすがだね、エレン) (……手応えのない連中だったな) 彼の静かな思考に、わずかな物足りなさが滲む。 その時だった。沈黙した戦場の向こうから、一つの気配が急速に近づいてくるのが分かった。 (む……この気配は) (え、どうしたの?) (代われ、エレナ。ミストが来る) (本当!? うん、わかった!) 意識が切り替わる寸前、彼の思考がわずかに揺れた。 (気にするな。君を守るための、務めのようなものだ) ────── エレナ視点 ────── 「ごめんね、エレン。せっかく代わってもらったばかりなのに……」 (……問題ないさ) 彼のぶっきらぼうな、けれど確かな信頼がじんわりと胸に広がる。 その温かさをかみ締めていると、夜の闇を切り裂くように、弾むような声が届いた。 「エレナさーーん!! ご無事ですかぁっ!!」 「ミストさん! はい、私は大丈夫です! そちらこそ、ご無事で!?」 駆け寄ってきた彼女は、私の無事を確認すると、すぐに足元に広がる惨状に気づき、その目をまんまるに見開いた。 「はい! 私は全員、眠っていただいただけですので……って、わっ!? エレナさん、この方たちは……まさか、ぜんぶお一人で?」 「あ、いえっ! ち、違います! たまたま通りかかった、見知らぬ方が助けてくださって……!」 「で、ですよねぇ! いやはや、それにしても……これはとんでもない手練れの仕業ですよ〜!」 「は、はい……。本当に、息を呑むほどお強い方でした……」 (ふふっ。君もずいぶん、嘘が上手くなったじゃないか) (も、もう! エレンまでからかわないでよ!) 心の中でぷんすかしていると、ミストさんはふむふむと一人で納得したように頷いていた。 「さて、エレナさん。これからどうしましょうか。私としては――なぜ、あの子が狙われていたのか、きっちり情報を引き出したいところなんですけど」 ミストさんの視線が、倒れている男たちへと注がれる。そうだ、忘れるところだった。 「うん……私も、それが一番気になる。それに、あの子がどうしてあんなに傷だらけだったのかも……。ちゃんと、説明してもらわないと」
last updateHuling Na-update : 2025-08-01
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第42話:メモリスの闇

「ふむ……では、最後の質問です」男性の絶望を映す月光の下、ミストさんはにっこりと、しかしその瞳は笑わずに問いを重ねた。「ま、まだ何かあるのかよ……!」男の顔が恐怖に引きつり、声が哀れに裏返る。「ええ、一つだけ。――“あの子”を追いかけていた理由を、教えていただけますか?」(……! そうだ、それが一番聞きたかったこと……! なんであの子は、あんな酷い怪我をさせられてたんだろう。理由が分からなきゃ、本当に助けてあげることなんてできないもん……!)私の心の中で、消えかけた怒りの火が、悲しみと共に再び燃え盛る。「そ、それは……俺も詳しくは知らねぇんだ……! ただ、依頼されて……実験室から逃げ出したから、少し痛めつけて連れ戻せって、そう言われただけで……!」(ひどい……っ! 人の命を、何だと思ってるの……!それに……実験って……!?)怒りに身体が震える。その激情は、エレンにも伝わっていた。(……“消される”という言葉と、今の発言。領主が裏で糸を引いているとなれば、この街の上層部そのものが腐っていると考えるべきだろうな)(そんな……街の偉い人たちが、みんな……?)「ふむふむ……これはこれは……思った以上に、なかなかに深ーい闇の匂いがしますねぇ」ミストさんが軽やかな口調で言いながらも、その瞳には一切の笑みがない。彼女は男性に向き直ると、静かに告げた。「あなた、“消される”と仰いましたね? ならば、ここから北にある魔法研究所の支部へ向かって下さい。私から話を通しておきますから、ひとまずは匿ってもらえるはずです」「……! ほ、本当か……!? す、すまねぇ……!」思いがけない救いの手に、男性の声が安堵に震えた。だけど──ミストさんの声は、次の瞬間には氷のように鋭く、冷たくなっていた。「ですが、勘違いしないように。自由気ままな暮らしができるとは思わないでくださいね。あなたはあくまで“保護されるべき証人”であり、同時に“罪を犯した犯罪者”なのですから」「っ……!」「……まあ、誰かに消されてしまうよりは、随分とマシでしょう?」「……あ、ああ……その、通りだ……」
last updateHuling Na-update : 2025-08-01
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第43話:黒い噂

「領主に……実験室だと?」その視線が私を射抜いた瞬間、喉がひゅっと鳴る。ただの噂話じゃない。私たちは、もっとずっと危険な何かに触れてしまったのだと、本能が警鐘を鳴らしていた。「……はい。そう、言ってました」私が頷くと、シイナさんは固く唇を引き結び、何かを吟味するように深く思考の海へ潜っていく。シイナさんの沈黙が、シオンさんの俯いた横顔が、この場の空気を鉛のように変えていく。その時だった。ふと視線を向けたシオンさんの様子が、いつもと違うことに気づいたのは。彼の瞳の奥に、今まで見たことのない澱みが広がっていた。まるで、凪いだ湖の底に沈んでいた古い記憶が、不意にかき混ぜられてしまったみたいに。「シ、シオンさん……? どうかしましたか……?」壊れ物に触れるみたいに、そっと尋ねる。彼は「……あ」と短く息を漏らし、私に気づくと、慌てていつもの穏やかな仮面を貼り付けた。「……すみません。なんでもないんです」だけど、その微笑みは、まるで痛みを堪えるかのように歪んでいた。彼は小さく息を吐くと、意を決したように、私たち一人ひとりの顔をゆっくりと見渡す。「いえ、皆さんには……話しておいた方がいいでしょうね」シン、と場の空気が凍てつく。これから語られる言葉が、この街の輝かしい印象を根底から覆してしまう……そんな確かな予感が、胸騒ぎとなって私を揺さぶった。「先ほど、領主という言葉が出ましたが……実はごく一部の間で、この都市《メモリス》には、黒い噂があるのです」「黒い……噂?」シイナさんが、訝しげに問い返す。シオンさんは静かに頷き、記憶の糸をたぐるように、遠い目をして語り始めた。「はい。私も、かつてこの街で数年ほど傭兵業をしていたことがありまして。その頃から……時々、人が“消える”ことがあったのです」人が、消える? こんなに綺麗で、光に満ちているように見えるこの街で? 嘘だ、って思いたいのに、シオンさんの言葉には、それを冗談だなんて思わせない、ずっしりとした重みがあった。ミストさんも、シイナさんも、何も言わない。二人の沈黙が、逆にものすごい勢いで頭を働かせていることを教えてくれるみたいだった。「そして
last updateHuling Na-update : 2025-08-02
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第44話:戦士の定義

メモリスの宿は、どこか秘密を隠しているみたいに、しんと静まり返っていた。窓枠から差し込む月明かりが、床に淡い模様を描いている。外の喧騒が、まるで遠い世界の出来事のようだ。「エレナさん、何かあったらすぐに呼んでくださいね! 隣の部屋で、ちょっとした実験の続きをしてますから!」嵐のように言い残して、ミストさんが元気いっぱいに部屋を出ていく。ぱたぱたと遠ざかっていく足音を聞きながら、私は小さく息をついた。(……本当に、変わらないなぁ。ちょっとだけ、羨ましいかも)シイナさんとミストさんがグレンさんを探しに行って、宿に残されたのは私とシオンさんだけ。落ち着こうとすればするほど、心の湖にさざ波が立っていく。(いくら噂だって言われても……あんな話を聞いたあとで、普通に眠れるわけないよ……)(現に、シオンさんのパーティ仲間は、今も行方が分からないままなんだし……)ぎゅっと、寝台のシーツを握りしめる。冷たい汗がじわりと滲んだ。(……落ち着かないようだな。では、気を紛らわせるために、少し昔話をしようか)不意に、心の奥からエレンが語りかけてくる。その声は、いつもと変わらない静かな響きを持っていた。(え? 昔話……?)(そうだな……私がいつ生まれたのか、自分でも定かではない。だが、一人の女の子が、私を“育てて”くれた)(……)私は黙って、その声に耳を澄ませる。(自我が芽生え始めたのは、確かその女の子が生まれて、四年ほど経った頃だったか)……そうだ。私の中には、物心ついた時から、もう一人誰かがいた。小さい頃、それが当たり前だと思って、お父様やお母様にその“存在”を話したこともあった。でも、誰も信じてくれなくて、「そんな子はいないのよ」って優しく諭されて。悲しくて、一人で泣いた夜もあったっけ。(……活発で、落ち着きがなくて、少しおてんばでな)(えっ、それって私のこと? そんなに元気な子だったかな……)(いや、たしかに……ちょっと、そうだったかも……)エレンの言葉に、なんだか顔が熱くなる。(そのせいもあってか、その女の子はある日、家を飛び出して、魔物の潜む街外れまで行ってし
last updateHuling Na-update : 2025-08-02
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第45話:研究所前の騒動

「よっ!エレナ!!心配かけたみたいだな!」談話室の扉を開けると、聞き慣れた声が飛んできた。グレンさんが、いつもと少しも変わらない、太陽みたいな笑顔で大きく手を振っている。その姿を見た瞬間、昨日からずっと胸につかえていた冷たい氷が、ふわりと溶けていくのを感じた。「グレンさん!!もう……本当に、心配したんですよ!」「ははっ、悪い悪い!」豪快に笑うグレンさんとは対照的に、その隣からシオンさんが氷のように冷たい視線を向ける。「まったく……休憩所の衛兵も、なかなか目を覚まさないあなたには手を焼いていましたよ」「えっ、グレンさん、ずっと寝てたんですか?」「ああ。それで困ったシオンが、グレンを殴って起こした――というわけだ」シイナさんが淡々と事実を告げる。(あれ……グレンさん、ツナガールの被害者だったはずなのに……)「いや~……ホント痛かったぞ。コイツ、全然容赦がなくてな」グレンさんがさする右頬が、心なしか少し腫れているように見えて、私は思わず苦笑いを浮かべた。その時、シイナさんが手にした小さな機械に視線を落とす。「さて、皆に伝えておきたいことがある」場の空気が、すっと引き締まった。「それは……?」「これか? これはツナガールとは違い、魔力を消耗しない通信機だ。ただし、あちらより通信範囲は狭い。あまり離れると使えなくなる」シイナさんはそう説明すると、顔を上げた。「伝えたい事だが……昨日俺たちが保護した少年が、目を覚ましたらしい」「ほ、ほんとうですか!?」私は思わず、シイナさんのそばへ駆け寄っていた。「ああ。今、メモリスの魔法研究所支部から連絡が入った」「これから、その少年に詳しく話を聞きに行くつもりだが……」「ぜひ、行きましょう!」私が力強く頷くと、ミストさんも、シオンさんも、そしてグレンさんも、静かに同意を示してくれた。「よし……じゃあ、全員で行くか」***こうして私たちが向かった魔法研究所支部は、しかし、妙な熱気に包まれていた。建物の入口に、街の衛兵たちがずらりと並び、今にも中へなだれ込もうとしている。その前で、数人の研究員が必死に立ちはだかっていた。「ここを通しなさい! この場所に、危険な子供がいるという報告があった!」甲高い声が響き、場の空気がピリピリと張り詰める。「どうした? この騒ぎは」シイナさんが一
last updateHuling Na-update : 2025-08-03
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第46話:怯える獣と蛇の声

粉塵の向こう、少年は一言も発さなかった。ただ、その身にまだバチバチと紫電を纏ったまま、瓦礫の山を駆け下り、街の雑踏へと消えていく。「あっ、待って!」気づけば、私の身体は勝手に駆け出していた。「今のは危かったですよぉぉぉぉ!!!!!?」「だ、だから危険だと言ったでしょう!」背後からミストさんや衛兵たちの声が聞こえる。でも、違う。あの子の瞳に宿っていたのは、敵意なんかじゃない。あれは、世界中のすべてに牙を剥くしかなくなった、何かにひどく怯える目だ。放っておけるわけがなかった。(エレナ、あの少年が気になるのか?)(うん。一度助けたからっていうのもあるけど……あの子、すごく怯えてる目をしてたから)(確かに、あの少年からは強い“怯え”の気配がした。だが、気を付けろ。傷ついた獣は、追い詰められるほど何をしでかすか分からんぞ)(獣だなんて……私は、ただ話がしたいだけだよ)(例え話だ。だが、君にとってはそうでも、あの少年にとって我々は“捕食者”に映っているかもしれん。だからこそ、慎重になれ)(……うん、分かった)***このあたりのはず……。息を整えながら、入り組んだ路地の影に目を凝らす。あの小さな背中を探して、一歩、また一歩と足を進めた。(エレナ、左前方。建物の裏手に気配がある)エレンの冷静な声が、私の意識を導く。(すごい……本当に、なんでそんなことまで分かるの……)教えられた通り、建物の角にそっと近づいた、その瞬間だった。「っ――!」突風が吹いたかのような勢いで、影の中から少年が飛びかかってきた。私は抵抗する間もなく地面に押し倒され、冷たい石畳に背中を打ちつける。喉のすぐ上で止まった爪が、ひやりと冷たい。「ボ、ボクを……捕まえに来たのかっ!?」少年の震える声が、私の真上で響く。その指先――異様なほど鋭く伸びた爪が、私の喉元にそっと触れた。心臓が、冷たい指で掴まれたみたいに跳ねる。「……違うよ。あなたに、話を聞きたかっただけ」私はできるだけ静かに、全身の力を抜いて、敵意がないことを伝えた。「あなたは……何に怯えているの?」「お、怯えてなんか、いない!!」虚勢を張る声が、痛々しい。でも、私はゆっくりと息を吐き、その瞳をまっすぐに見つめ返した。「ううん。私には分かる。あなた、何かに怯えてる。本当はすごく怖いんでしょ……
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第47話:囚われの聖女

「な、なんて酷い……!」 「危険人物の言うことなんて、真に受けちゃあいけませんよぉ」 ねっとりとした声が、私の怒りを嘲笑う。 「小さい子にこんな仕打ちをして……! それに、記憶の実験だなんて……! あなた達は、この都市で一体何をしているのですか!?」 「チッ……もうそこまで話していましたか」 男は心底面倒くさそうに舌打ちをすると、再び歪んだ笑みを浮かべた。 「はぁ〜……恨むなら、その少年を恨んでくださいねぇ」 「あなたも“処理”すべき“可能性”の一つになってしまった、という事ですからぁ」 その言葉を、脳が理解した直後だった。 (エレナ! 後ろだ!) エレンの絶叫。 けれど、もう遅い。 思考の回路が焼き切れるような衝撃。後頭部で、世界が白く弾けた。 ぐらり、と視界が傾いでいく。 目の前が真っ暗になって、膝から力が抜けていく。 ああ、ダメだ……。 意識が、薄れて……。 *** ……うっ……。 ……あれ… 身体に、力が入らない……。 誰かに担がれているような、不規則な揺れ。ざらついた布が頬を擦る感触。 これは……まずい……。 ……ソウコ君は……? あの子も、助けないと……。 そう考えようとしても、思考が濃い霧の向こうに霞んでいく。 私の意識は、抗うこともできずに、深く、冷たい闇の底へと沈んでいった。 *** どれくらいの時間が、流れたのだろう。 ふと意識が浮上したのは、ひやりとした石の感触が頬に伝わったからだった。鉄の錆びた匂いと、微かな黴の匂い。そして、自分の手首に食い込む、冷たい金属の重み。 ゆっくりと目を開けると、そこは、石造りの冷たい牢屋の中だった。 「えっ……こ、ここは……」 鉄格子の向こうから、うっすらと光が差し込んでいる。まだ陽は沈んでいないらしい。 (エレナ、目が覚めたか) (エレン…… 私、どれくらい気を失ってたの?) (ざっと、三時間程だな) (三時間も……) (私が表面に出れば、あの場で二人を捕らえることもできただろう。だが……このままの方が、都合がいいと判断した) エレンの言葉に、はっとする。 (うん…そうだよね。今きっと私達は、この都市の本当の闇の中心にいるんだよね?) (ああ。どうやらこ
last updateHuling Na-update : 2025-08-04
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第48話:魂の痛み

「ふふふ……!!!では早速、お楽しみの時間と参りましょうかぁ」男は、壁にかかった黒光りする革の鞭を、愛おしそうに手に取った。そして、鉄格子を開け、ゆっくりと牢屋の中へ入ってくる。まだ、距離はある。でも、私がこの痛みに耐えていれば、この男はきっと、その醜悪な笑みを浮かべたまま、すぐ傍まで寄ってくるはずだ。その時が、好機。その瞬間、エレンが確実にこの人を捕まえる。だから……それまで耐えれば……!「ではぁ……早速、一発目ぇぇぇ!!!!」ヒュッ、と空気を切り裂く鋭い音。鞭がしなり、私の脇腹へと……灼熱の鉄棒のように吸い込まれた。びちゃり、と肉が濡れて弾ける、生々しい音が響く。「あぁぁぁあ"っ……!!!!」(っ!!エレナ……!!)「あっはっはっはっ!!!!!なんと良い悲鳴なんだぁ!!!」思考が、焼ける。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い――!皮膚が裂け、肉が抉られ、魂が直接引きずり出されるような、そんな痛み……!熱い血が、傷口から溢れ出て、肌を伝っていくのが分かる。「はぁっ、はぁっ……!! うーん!! まだまだ行きますよぉ!!!!!」「それぇ!!! 二発目ぇぇぇ!!!」今度は、胸部への直撃。ごふっ、と肺から空気が無理やり押し出される。「っ……あ"ぁあ!!」視界が、赤と黒に点滅する。想像を絶する痛みに、私の意識はもう、ぷつりと切れそうになっていた。(エレナ……! エレナ……!!)エレンの必死な声が、遠くで聞こえる。「だ……い…………じょう……ぶ……」「おぉ!? なんという強い精神力!!!! ふむ……しかし、やりすぎて早く壊れてしまったら、楽しみが無くなってしまいますからねぇ……」男は心底残念そうに肩をすくめると、牢屋の出口へと向かう。「また来ます。楽しみにしていてくださいねぇ」(覚えているがいい……!!!! 貴様には二度と同じような生活を出来なくしてやる!!!!)エレンの、静かで底なしの怒りが響いた。でも、その声を最後に、私はあまりの激痛に、糸が切れたよう
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第49話:報復

──────エレンの視点──────世界が、反転する。エレナの悲鳴を最後に、彼女の意識が闇に落ちる。入れ替わりに、この身の主導権を握った俺の五感を、灼けつくような激痛が貫いた。だが、それすらも些事だ。魂の底から溢れ出す、この怒りに比べれば。目の前の男が、まだ下卑た笑みを浮かべている。この子の痛みも、恐怖も、尊厳も、全てを玩具として弄んだ、屑。「よくも……よくも、やってくれたな……!!!」俺の口から漏れたのは、エレナのものではない、低く、地の底から響くような声。「へっ?」男が、間抜けな声を上げる。思考より先に、右腕が動いた。対魔人用の鎖がじゃらりと音を立て、男の喉元を鷲掴みにする。「ぐっ!!!」「黙れ。喋るな……!!」指に力を込める。「……貴様の声は、虫唾が走る……!!」男の顔がみるみる青ざめ、白目を剥き、ひくひくと痙攣を始める。だが、この程度の苦しみで、エレナが受けた痛みの代価になるものか。「この程度で気絶することなど……!!! 許さん!!!!」俺は掴んだ男の頭を、そのまま背後の石壁へと、力任せに叩きつけた。ゴッ!!!!肉が潰れる音と、石が砕ける、凄まじい重低音が牢に響き渡る。「か……ぺ……っ」男が崩れ落ちると同時、鎖が繋がれていた壁の留め具が、衝撃で砕け散っていた。「ちっ……。俺の身でさえ、これほどの痛みか……」エレナが耐えた痛みが、時間差で俺の全身を苛む。だが、それすらも、腹の底で煮えくり返る怒りの、薪にしかならない。片腕の自由を得た今、もう片方の枷など飾りにもならん。手枷の、僅かな隙間に指をかけ、捻る。カチン、と乾いた音がして、俺を縛っていた最後の枷が、床に落ちた。さあ。これで、自由の身だ。「おい。起きろ、屑」床に転がり、顔面を血でぐしゃぐしゃにした男は、ぴくりとも動かない。俺は、その腹部へ、容赦なく強烈な蹴りを叩き込んだ。「ぐぁぁぁっ……!!」ヒュー……ヒューと、呼吸もままならな
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