「なんだァ? 魔物だと?? こんな街ん中にか?」 グレンの荒い声が、雑踏を裂くように飛んだ。その横で、シイナは眉間にわずかな皺を刻み、押し寄せてくる人波の奥──通りの突き当たりへと目を細めた。 通りの向こうからは人の波が途切れなく雪崩れ込んでくる。生者に混じって幽霊たちの輪郭までが揺れ、肩と肩がぶつかり合い、街の空気そのものが押し戻されてくるかのようだった。 「わわっ! すごい人です〜!!」 『街中に……魔物……』 『ああ。あの時みたいだな』 ──真っ白な体色をした、あの特異個体のグール。その像だけが、場違いなほど鮮明に脳裏へ浮いた。 そんな中、シイナが一歩前へ出た。逃げ惑う流れの脇へ身を滑り込ませ、その中でもまだ足取りの乱れていない男を見つけると、低く声を掛ける。 「すまない、少しいいか」 「な、なんだい?」 「この人の波はなんだ。さっき、魔物だという悲鳴が聞こえたが……」 男は何度か背後を振り返り、それから落ち着かない様子で言葉を継いだ。 「街を飲み込むほどの魔物の大群が、この街へ向かってきてるらしいんだよ……。僕の目には見えなかったんだけど、多くの人がそれを見て、今こうして慌てて逃げてるってわけさ」 「魔物の──大群、だと?」 シイナの目が、はっきりと見開かれた。 ──そもそも魔物とは、大群と呼べるほどの群れを成す生き物ではない。群れるにしても、狼の群れのように意思の疎通が届く範囲が限度だ。街を飲み込むほどの数となれば、その理から大きく外れている。 「仮にそれほどの大軍がこちらへ進行しているのであれば、ベルノ王国に騎士団の派遣を要請したほうがいいかもしれませんね……」 ミストがそう口にすると、男は小さく頷いた。 「幸い、この街には冒険者が大勢いるみたいでね。南出口の方で、冒険者たちが話し合ってたよ」 「またスケルトンの群れの時みてぇに……いや、あん時とは比べもんにならねぇ量と戦うのかよ……」 グレンはそう零し、うんざりしたように頭を掻いた。 「ですが、このまま放置はできませんよね」 シオンの声は静かだった。だが、その一言は風のように真っ直ぐ場を通り抜けた。 「その通りです……! 私も、出来うる限り力になります……! ですから、どうか……!」 「エレナ様、私たちには力があります。人を守れるだけの
Last Updated : 2025-07-31 Read more