「つ、疲れましたぁ……」 声にした途端、膝が笑いそうになる。本当にその場にへなへなと座り込んでしまいそうだった。 すると隣のミストが、瞳をきらきらさせながら言う。 「いやー! とても有意義な体験でした!」 心の底から楽しかったのだと、全身で語っている。疲れの色なんて、どこを探しても見当たらない。 (この人、本当にすごいなぁ……) (……ああ。ある意味、魔獣より厄介かもしれん) その時だった。 夜の静寂を、不意に引き裂く鈍い響きが走る。 「う……っ……うぅ……」 壁の向こうから漏れ聞こえるのは、押し殺したような人の呻き声。 「……今の音は?」 ミストの表情から、いつもの笑顔がすっと消える。 「こっちからしましたね! 」 エレナとミストは顔を見合わせ、音のした方へと駆け出した。石畳を蹴る二人分の足音だけが、静かな夜の路地に硬く反響していく。 角を曲がった、その先で—— 二人は息を呑んだ。 路地の僅かな月明かりが、その姿をぼんやりと浮かび上がらせる。壁に背を預け、ぐったりと倒れ込んでいるのは、まだ幼さの残る一人の少年だった。 服はところどころ破れ、手足には痛々しい擦り傷や打撲の痕が無数に刻まれている。 「この傷……ひどい……!!」 「……傷は酷いですが、命に別状はありませんね」 ミストの声は落ち着いていた。けれどその落ち着きが、逆にこの場の危うさを際立たせる。 「酷い怪我……。いったい、どうしてこんな薄暗い路地裏に……?」 エレナは崩れるようにしゃがみ込み、ぐったりと横たわる少年へ手を伸ばした。 「……まずは、この子を癒さなきゃ」 震える指先を、そっと少年の額へ重ねる。 「聖なる癒しよ《サナティオ・サンクタ》」 エレナの祈りに応えるように、手のひらから淡く温かい光が溢れ出し、優しく少年の体を包み込んだ。光に照らされるたび、痛々しい擦り傷や青黒い打撲の痕が、まるで幻だったかのようにみるみるうちに癒えていく。 ——だが。 どれほど肉体の傷が塞がっても、少年の瞼はぴくりとも動かない。 まるで魂だけがどこか遠い場所に囚われてしまったみたいに、瞳が開かれることはなかった。 「どうして……?」 答えが返るより先に、空気が変わった。 「おっ、見つけたぞ!
Last Updated : 2025-07-31 Read more