All Chapters of Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─: Chapter 41 - Chapter 43

43 Chapters

第40話:傷だらけの少年

「酷い怪我……。いったい、どうしてこんな薄暗い路地裏に……?」私は崩れるようにしゃがみ込み、ぐったりと横たわる少年に手を伸ばす。衣服はところどころ引き裂かれ、その下から覗く肌には、殴られ、蹴られたであろう生々しい傷跡が無数に刻まれていた。「……まずは、この子を癒さなきゃ」震える指先を、そっと少年の額に重ねる。ひんやりとした肌触りに、胸が締め付けられた。祈るように両手を彼の体の上へと差し出す。「聖なる光よ、その御手にて、傷つきしこの子を癒して……」私の祈りに応えるように、手のひらから淡く、温かい光が溢れ出す。それはまるで、闇夜に灯る蝋燭の炎のように、優しく少年の体を包み込んだ。光に照らされるたび、痛々しい擦り傷や青黒い打撲の痕が、まるで幻だったかのようにみるみるうちに癒えていく。──だけど。どれほど肉体の傷が塞がっても、少年の瞼はぴくりとも動かない。呼吸は浅く、その表情は虚ろ。まるで、魂だけがどこか遠い場所へ囚われてしまったかのように、その瞳が開かれることはなかった。どうして……?そんな時だった。「おっ、見つけたぞ! こんな所にいやがったか!」獣の寝床のような、不快な匂い。ねっとりとした悪意が、路地の奥から滲み出してくる。鈍く響く声と共に現れたのは、十人ほどの男たち。皆、一様にだらしない服装で、その目は欲望と残忍さで濁りきっていた。「よう、嬢ちゃん。そこのガキ……悪いが、俺たちに渡しちゃくれねぇか?」リーダー格と思しき男性が、顎をしゃくりながら言う。その口ぶりは、まるで道端に落ちている石ころでも受け渡すような、あまりに雑なものだった。(……っ。この子は“物”なんかじゃない!)私の胸の奥で、静かだが、確かな怒りの炎が燃え上がる。「…………お断りします」毅然として、そう告げる。「おぉ? 随分と威勢がいいじゃねぇか。だがな──俺たち、見ての通り全員が“魔人”なんだぜ? 聖女様ごっこもいいが、大人しく従った方が、お互いの身のためだと思うがなぁ?」「ちげぇねぇ! これは優しさからの忠告だぜ、ありがたく受け取れや!」男たちは下品な笑い声を上げ、じりじりと包囲網を狭めてくる。その、張り詰めた空気の中。隣にいたミストさんが、平坦な声でぽつりと呟いた。「あのー……あなた達のような存在は、この子の健やかなる成長にとって、著しく悪影響を
last updateLast Updated : 2025-07-31
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第41話:ミストの拷問

月光だけが、無慈悲に勝敗を照らし出す。夜風が頬を撫で、辺りにはもはや、呻き声一つなかった。折り重なるように倒れる男たちを一瞥し、私は静かに息を吐く。(……さすがだね、エレン)(……手応えのない連中だったな)彼の静かな思考に、わずかな物足りなさが滲む。その時だった。沈黙した戦場の向こうから、一つの気配が急速に近づいてくるのが分かった。知っている、懐かしい気配だ。(む……この気配は)(え、どうしたの?)(代われ、エレナ。ミストが来る)(本当!? うん、わかった!)意識が切り替わる寸前、彼の思考がわずかに揺れた。(気にするな。君を守るための、務めのようなものだ)──────エレナ視点──────「ごめんね、エレン。せっかく代わってもらったばかりなのに……」(……問題ないさ)彼のぶっきらぼうな、けれど確かな信頼がじんわりと胸に広がる。その温かさをかみ締めていると、夜の闇を切り裂くように、弾むような声が届いた。「エレナさーーん!! ご無事ですかぁっ!!」「ミストさん! はい、私は大丈夫です! そちらこそ、ご無事で!?」駆け寄ってきた彼女は、私の無事を確認すると、すぐに足元に広がる惨状に気づき、その目をまんまるに見開いた。「はい! 私は全員、眠っていただいただけですので……って、わっ!? エレナさん、この方たちは……まさか、ぜんぶお一人で?」「あ、いえっ! ち、違います! たまたま通りかかった、見知らぬ方が助けてくださって……!」「で、ですよねぇ! いやはや、それにしても……これはとんでもない手練れの仕業ですよ〜!」「は、はい……。本当に、息を呑むほどお強い方でした……」(ふふっ。君もずいぶん、嘘が上手くなったじゃないか)(も、もう! エレンまでからかわないでよ!)心の中でぷんすかしていると、ミストさんはふむふむと一人で納得したように頷いていた。「さて、エレナさん。これからどうしましょうか。私としては――なぜ、あの子が狙われていたのか、きっちり情報を引き出したいところ
last updateLast Updated : 2025-08-01
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第42話:メモリスの闇

「ふむ……では、最後の質問です」男性の絶望を映す月光の下、ミストさんはにっこりと、しかしその瞳は笑わずに問いを重ねた。「ま、まだ何かあるのかよ……!」男の顔が恐怖に引きつり、声が哀れに裏返る。「ええ、一つだけ。――“あの子”を追いかけていた理由を、教えていただけますか?」(……! そうだ、それが一番聞きたかったこと……! なんであの子は、あんな酷い怪我をさせられてたんだろう。理由が分からなきゃ、本当に助けてあげることなんてできないもん……!)私の心の中で、消えかけた怒りの火が、悲しみと共に再び燃え盛る。「そ、それは……俺も詳しくは知らねぇんだ……! ただ、依頼されて……実験室から逃げ出したから、少し痛めつけて連れ戻せって、そう言われただけで……!」(ひどい……っ! 人の命を、何だと思ってるの……!それに……実験って……!?)怒りに身体が震える。その激情は、エレンにも伝わっていた。(……“消される”という言葉と、今の発言。領主が裏で糸を引いているとなれば、この街の上層部そのものが腐っていると考えるべきだろうな)(そんな……街の偉い人たちが、みんな……?)「ふむふむ……これはこれは……思った以上に、なかなかに深ーい闇の匂いがしますねぇ」ミストさんが軽やかな口調で言いながらも、その瞳には一切の笑みがない。彼女は男性に向き直ると、静かに告げた。「あなた、“消される”と仰いましたね? ならば、ここから北にある魔法研究所の支部へ向かって下さい。私から話を通しておきますから、ひとまずは匿ってもらえるはずです」「……! ほ、本当か……!? す、すまねぇ……!」思いがけない救いの手に、男性の声が安堵に震えた。だけど──ミストさんの声は、次の瞬間には氷のように鋭く、冷たくなっていた。「ですが、勘違いしないように。自由気ままな暮らしができるとは思わないでくださいね。あなたはあくまで“保護されるべき証人”であり、同時に“罪を犯した犯罪者”なのですから」「っ……!」「……まあ、誰かに消されてしまうよりは、随分とマシでしょう?」「……あ、ああ……その、通りだ……」
last updateLast Updated : 2025-08-01
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