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第10話 勝者の余韻と新たなる挑戦者

ผู้เขียน: 渡瀬藍兵
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-19 20:15:17

渾身の力を込めた私の回し蹴りが、寸分の狂いもなくシオンの顎を捉え、その衝撃で彼の意識を刈り取った。鍛え上げられた彼の身体は、力なく闘技場の硬い床へと崩れ落ちる。

──そして、数瞬の静寂の後、どれだけ待っても彼が再び起き上がってくる気配はない。

『しょ、勝者ぁぁぁぁ!!!! エレンゥゥゥ!!!! またしても圧勝! 魔法なき剣士、その強さ、底が知れなぁぁい!!!!』

実況の絶叫にも似たシャウトが闘技場に木霊したその瞬間、先ほどまでの静寂が嘘であったかのように、会場全体が地鳴りのような割れんばかりの大歓声に包まれた。それはもはや称賛というよりも、畏怖と熱狂が入り混じった、人間離れした者への賛歌のようだった。

数秒後、白い制服に身を包んだ治療班らしきスタッフたちが、慌ただしく担架を持って舞台下から駆けつけてくる。

「おい、意識確認! 大丈夫か!?」

「すぐに動かすぞ! 肩を貸せ!」

「ああ、いくぞ、せーのっ!」

しかし、屈強そうに見えるスタッフ2人がかりでシオンの身体を運ぼうとしたが、その見た目からは想像もつかない重みに、彼らの顔が明らかに苦悶に歪む。

「……お、おもっっ!?!?!? なんだこれ、鉄塊でも抱えてるみたいだぞ!?」

「だ、ダメだ、これじゃ運べん! もっと人を呼べ! 一体なんなんだ、この人の異常な重さは……!」

……それは、さすがに口に出して言ってやるな、と私は内心で苦笑する。

恐らく、彼のあの流麗かつパワフルなトンファー捌きを可能にしていたのは、この異常なまでに高められた筋肉の密度なのだろう。それはもはや、常人のそれとは比べ物にならないレベルに達しているに違いない。

私自身、先ほどの攻防で彼の攻撃を柔の構えで受け流したつもりだったが、いまだに手のひらがジンジンと痺れている。あの細身のどこに、あれほどの質量が隠されているというのか。

結局、屈強なスタッフがもう一人加わり、三人がかりでようやく担架に乗せられ、完全に白目をむいたシオンが、まるで戦場から運び出される傷病兵のように運ばれていった。その姿に、観客席からは労いの拍手が送られている。

私はその光景を静かに見送ると、ただ静かに闘技場の舞台を後にする。

(エレン、今日も本当に素敵だったよ! ハラハラしたけど、最後はやっぱり圧巻だったね!)

控室へ向かう通路を歩いていると、エレナが心の底から嬉しそうに、そして少し興奮した様子で私に笑いかけてくる。彼女の声は、どんな万雷の拍手よりも心地よい。

ふふ、やはりこの屈託のない声を聞くと、張り詰めていた私の気も自然と緩んでしまう。こうして純粋に褒められるというのは、存外、悪くないものだ。

(だが、あのシオンという男、なかなかに手強かったぞ。)

洗練された体術に加え、遠隔トンファーによる攻撃…。

魔法使いにとっては、かなりやりずらい相手だろう。

(そうだね…!本当に強そうな人に勝ったんだから、そのご褒美に、私のお財布から、何でも好きな物をご馳走してあげるよ!)

(なに!? ほ、本当か、エレナ!? それは聞き捨てならんな!)

思わず声が上ずる。

(もちろん! いつもちゃんと手加減して、私の身体を気遣ってくれてるし、何よりエレンが勝つと、私も鼻が高いんだから!)

──そうとなれば、今夜の夕食は……そう、あの背徳的で官能的な味わい、ピザで決まりだな。それも、一番大きなサイズで、チーズもマシマシだ。

私は内心の歓喜を悟られぬよう平静を装いつくろいながらも、隠しきれない満足感を噛みしめ、足取りも軽く会場を後にしたのだった。

***

(うまい……! やはり、これに勝るものはない!)

熱々、焼きたてのピザは、まさに人類が生み出した最高傑作の一つだ!!

私はエレナの財布から気前よく調達した特大サイズのピザを、宿屋の一階にある食堂のテーブルで、次から次へと至福の表情で口へ運んでいた。

香ばしい生地、濃厚なトマトソース、そして何よりも、とろりと糸を引く黄金色のチーズの三重奏。ああ、至福だ。

(……エレン……あのね、私が言い出した手前、すっごく言いにくいんだけど……もうちょっとだけ、控えめに食べてくれないかな? 私のダイエットが、本当に大変なことになっちゃうから……!)

エレナの、少し困ったような、それでいて懇願するような声が頭の中に響く。

(君のその健気な努力は尊重する! だがしかし、この目の前で湯気を立て、芳醇な香りを放つ、トロけるチーズの悪魔的な誘惑……! ああ、やはりピザは、至高にして究極の料理だ!! )

(うう……わかった、わかったから……せめて、飲み物はお砂糖たっぷりのジュースじゃなくて、お茶にして…………)

そんな微笑ましい(私にとっては死活問題だが)やり取りを頭の中で交わし、ピザの最後の一切れに手を伸ばそうとした、まさにその時だった。

不意に、私の正面の席に、音もなくすっと一人の青年が腰を下ろしてきた。

闇夜に溶け込むような黒髪は、清潔感がある程度に短く整えられており、額の上でふわりと揺れる癖のある前髪が、その目元のシャープな印象をさらに引き立てている。

そして何より印象的なのは、その双眸。揺らがない深い静けさを湛えたその瞳は、一見すると何の感情も読み取れず、まるで磨かれた黒曜石のようだ。

身に纏っているのは、光沢のある黒レザーのタイトなジャケットに、シンプルな白のインナー。下半身は、同じく黒の細身のレザーパンツで、動きやすさと同時に、どこか近寄りがたい重厚感を兼ね備えている。腰に巻かれた機能的なデザインのベルトには、いくつかの小型のポーチや、何かの魔導式の起動装置らしきものが取り付けられていた。全体的に、無駄がなく洗練された印象を受ける。

「どうも。突然すみません。俺は魔法研究所の研究員、シイナと申します。あなたが、エレンさんですね?」

彼は静かに、しかし真っ直ぐ私を見つめて言った。

「……それで、何の用だ? 見ての通り、私は食事中なのだが」

せっかくの至福のピザタイムに割り込んでくるとは、なかなかどうして図太い神経の持ち主らしい。あるいは、それだけ切羽詰まった用件でもあるというのか。

どちらにせよ、早めに用件を切り上げてほしいところだ。このピザが冷めてしまう前に。

「いえ、大した用ではないんです。ただ、今日のあなたの戦い方を見て、感銘を受けまして。俺ももっと頑張らなければいけないな、と改めて思ったんです。それと……実は、明日の準決勝の対戦相手が俺なので、そのご挨拶に、と」

彼は淡々とそう告げた。

「研究員が、この魔法闘技大会に、だと? それはまた、珍しいな」

まあ、それを言えば、魔法の使えない私がこの大会に出場していること自体が、最大の異端なのだろうが。

「はい。まだまだ見習いみたいなものですが……先日、ミストが、あなたに助けられたと話していました。彼女の代わりに、改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました」

ミスト。ああ、そういえばそんな名前だったか。あの妙に喧しい、魔法研究所の少女か。グールに襲われ、下水道の奥深くに引きずり込まれていたところを、偶然通りかかった私が助け出したのだった。

「では、明日はどうぞよろしくお願いします。手加減は……しないでくださいね」

シイナはそう言うと、軽く一礼し、私が何かを言う前に、来た時と同じように音もなく静かに席を立った。

(あの人……なんだか、すごく強そうだね。グレンさんやシオンさんとは、また全然違う雰囲気だった……)

エレナが、少し緊張したような声で呟く。

(ああ。その佇まいからして、只者ではないな。おそらく、かなりの手練れだろう。面白い)

明日の戦い。果たして、あのシイナという男は、一体どういうスタイルで私に挑んでくるのだろうか。

──ふふ、いけないな。まただ。

未知なる相手の動きをあれこれと想像するだけで、私の身体の奥底で眠る闘争本能が疼き、血が沸き立つのを感じてしまう。

***

──そして翌日。準決戦の日。

闘技場には、昨日までとは比較にならないほどの観客が詰めかけ、その熱気は最高潮に達していた。

盛大なファンファーレが、王都の隅々にまで高らかに響き渡っている。

『観客の皆さまァァ!! 長らくお待たせいたしました! 本日は各ブロックの準決勝ォォ!! いよいよ、この魔法闘技の最強の頂点が見えてきたぞぉぉ!!』

『そして、本日最も注目すべき目玉の対決はコチラァァ!! 嵐を呼び、風を断つ! 魔法なき孤高の剣士、優勝候補筆頭エレンVS!! 静かなるる闘志を秘めたる魔法研究所の異端児、神速の研究員シイナァァ!! 勝つのは果たしてどちらかァァ!?』

「……まったく、大袈裟すぎるな。異端児とは心外だ」

目の前でウォーミングアップをしていたシイナが、実況の言葉に、やれやれといった表情で苦笑混じりに呟く。

「それだけ多くの者が、お前と私の戦いに期待しているということだ。その期待を裏切らないよう、せいぜい全力で来ることだな」

私は静かに告げる。

「なるほど……手厳しいですね。ですが、今回は胸を借りるつもりで、全力でぶつからせてもらいますよ」

シイナの瞳に、静かだが鋭い闘志の光が宿る。彼もまた、この戦いを楽しみにしていたようだ。彼はゆっくりと、無駄のない動きで構えを取った。その構えには、一切の隙がない。

──素手か? いや、あの腰のベルトの装備が気になる。シオンと同じく、肉体強化を中心とした前衛型なのだろうか?

──いや、まだ情報が圧倒的に少すぎる。今の段階で断定するのは危険だ。

「……来る!」

開戦を告げる鐘が鳴り響いた、まさにその瞬間。

私の視界から、シイナの姿が完全に消えた。

……違う。これは、ただあまりにも、速すぎるだけだ! あのシオンの初速をも上回るか!?

私は反射的に腰の剣を抜き放ち、背後から迫る殺気と拳の風圧に、見ることなく刃を合わせた。

ガキィィィンッ!! と、硬質な金属同士が激しくぶつかり合う鋭い音が響き渡る。

シイナの拳には、いつの間にか黒光りするガントレットが装備されていた。あのベルトの装置は、これの召喚あるいは装着システムか。

──鉄属性の魔法

「今のを見ずに防ぐんですか……一体どんな反射神経してるんですか、あなたは」

シイナが、初めて驚愕の色をその瞳に浮かべて、わずかに後退する。

──なら、今度はこっちの番だ。受けてばかりでは芸がないからな。

私は即座に跳躍し、彼の頭上を飛び越え、その背後へと音もなく回り込む。

そして、彼が振り返りざまの、まさにその一瞬の隙を狙って、無防備な後頭部を目がけて、剣の柄で強か叩き落とさんと一閃──!

(ちょ、ちょっとエレン!? いくらなんでも、それは危ないって!)

頭の中で、エレナの悲鳴にも似た驚いた声が響いた。

(大丈夫だ、エレナ。こいつは、その程度で倒れるような弱い男ではない。)

私の読み通り。いや、期待通りと言うべきか。シイナは常人離れした体捌きで、無理な体勢から強引に体を捻って、私の渾身の一撃を、ガントレットでギリギリで防いでみせた。その顔には、冷や汗が浮かんでいる。

「っぶねぇ……! 今のはマジで死ぬかと思った……!」

これは面白くなってきたな──。私の口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。

ようやく、少しは骨のある相手に出会えたようだ。

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    夜の闇に慣れた深紅の瞳が、前方に立ちはだかる異形の影を正確に捉える。私は、右手に握る馴染んだ長剣と、左手に逆手で持った短剣の二刀を、水が流れるように静かに構えた。目の前に立ちはだかるのは、先ほどまでの雑魚とは比較にならぬほどの瘴気を放つ特異個体のグール。その醜悪な巨体からは、低い獣のような唸り声が絶え間なく漏れ、再びこちらへ突進せんと全身の筋肉を不気味に|蠢《うごめ》かせている。 「……来い。その首を刎ねてやる」私の挑発に応じるかのように、咆哮とともに振り下ろされるのは、岩をも砕きそうな太く鋭い獣のような爪。それは風を切り、死の宣告のように私へと迫る。しかし、私はその攻撃を予測していたかのように、最小限の動きで体をひねって紙一重でそれを回避する。巨腕が空を薙ぎ、私のすぐ横の壁に叩きつけられ、石片が砕け散る音を立てた。着地とほぼ同時に、私は体重を乗せた鋭い突きを繰り出す。グシャッ――!右手に握る長剣の切っ先が、狙いすましたその巨大な右目に、まるで吸い込まれるように深く突き刺さった。肉を抉る鈍い感触が、柄を通じて私の手に伝わる。「カァァァァァァガアアアアアアッ!!」眼球を破壊された激痛に、巨体が大きく仰け反り、耳をつんざくような絶叫が下水道の狭い通路に反響し、壁をびりびりと震わせる。血飛沫と、おそらくは眼球の破片らしきものが周囲に飛び散った。間髪入れず、今度はその左腕が、まるで巨大な鉄槌のように横薙ぎに振り上げられるのを見た瞬間、私は即座に後方ではなく、あえて横へと大きく跳躍する。空中でしなやかに身体をひねり、勢いを殺すことなく、そのまま右目に突き刺さったままの長剣の柄を強く握り、──力任せに引き抜く。ブシュウウウッ――!噴水のように、粘度の高い紫色の血が大量の飛沫を描いて闇に散る。眼窩からは、もはや原型を留めぬ何かが溢れ出していた。「……次だ」私は一瞬たりとも攻撃の手を緩めない。即座に構えを切り替え、左手に逆手で持っていた短剣を順手に持ち直し、標的を定める。一瞬の溜めもなく、残された左の眼窩めがけて、投擲ではなく直接、渾身の力を込めて突きを放つ――ザクッ!短く鋭い刃が、抵抗も少なく眼窩の奥深くを正確に貫き、おそらくは脳の一部にまで到達したかのような重い手応えと共に、肉の奥深くまで沈み込んだ。両目の視界を完全に失ったグールが、もは

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第3話 得意個体のグール

    (エレン……大丈夫? 数が多いけど……) エレナの、隠しようもない不安を滲ませた声が、意識の奥深く、まるで水面に広がる波紋のように静かに響いた。 私は夜の静寂に紛れるほど小さな声で、しかし絶対的な自信を込めて、短く返す。 (……私を誰だと思っている。この程度の数、ウォーミングアップにもならん) 前方、薄暗い通路の先には、先ほど右腕を斬り飛ばされたグールが、未だ夥しい量の血を滴らせながらも、濁った眼でこちらを睨みつけ、低い唸り声を上げ続けている。その執念深さだけは評価に値するかもしれない。 「……さて、狩りの時間だ」 私はフードの端をわずかに引き下げ、その深紅の瞳に宿る光をさらに鋭くした。 そのまま、予備動作なく跳躍。石畳を強く蹴った身体が、まるで放たれた矢のように夜空を裂き、濃密な殺気を纏って滑り出す。目指すは、ただ一体の敵。 先頭に立ちはだかる一体へ――最短距離で踏み込み、腰の愛剣を流れるような動きで袈裟懸けに斬り上げる。 ズバァッ、と肉を断つ鈍い音と、骨が砕ける乾いた音が混じり合った。 巨大な胴が上下に裂ける。噴水のように鮮血が横薙ぎに吹き出し、おびただしい量の臓物が、ぬちゃりとした音を立てて石床に無残に散らばった。 だが、私の動きは止まらない。その勢いを殺すことなく、手首の返しだけで剣を右へと反転させる。 ──ザシュッ。 右隣にいた個体の首が、まるで熟れた果実のように宙を舞う。胴体は一瞬遅れて、崩れ落ちるように膝をついた。 銀色の刃が描く軌道は、まるで意思を持っているかのように止まらず、身体全体のしなやかなひねりと共に左へと流れる。 シュバッ―― 左翼にいた最後のグールも、先の二体と全く同じように、抵抗する間もなく斬首される。 鮮血が闇夜に三日月の軌跡を描き、夜闇を反射して赤く妖しく輝く私の瞳が、その血煙の中に静かに沈んでいった。 数瞬前までの喧騒が嘘のように、動きが――ぴたり、と止まる。 残る二体のグールは、仲間たちが一瞬にして肉塊へと変わる様を目の当たりにし、完全に戦意を喪失したようだった。ぜえぜえと荒い息を繰り返しながら、じりじりと後退を始める。その濁った瞳には、先ほどまでの凶暴性はなく、ただ原始的な恐怖だけが浮かんでいた。 逃げる。その選択は、生物として正しいのかもしれない。 だが、私はその背中に向けて、氷

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