彼氏がおかしいと初めて感じたのは、彼を迎えにバスケコートへ行ったときだった。金曜の午後。私、一条寧々はゼミがあった。そして、私の婚約者――佐伯拓哉はバスケ部の定期練習がある日だ。私と拓哉は高校時代からの同級生で、その頃からずっと付き合っている。同じ大学に進学するのと同時に彼と始めた同棲は、この春でもう丸2年になる。拓哉の練習が終わったら校門前のカフェで待ち合わせをして、一緒に帰るのがいつものルーティンだった。『大学を卒業したら、結婚しよう』拓哉とそう約束した私は、毎週金曜日のこの流れを欠かしたことは一度もなかった。この幸せが、これからもずっと続くと思っていたのに……。***今日はゼミが30分早く終わったので、私はそのままバスケコートへ向かった。肌寒さの残る春風が、私の頬をそっと撫でていく。夕暮れに染まり始めた空の下、バスケコートの周りには練習を見守る学生たちが大勢集まり、活気に満ちていた。私は人波の一番外側に立ち、時折、人混みの間から拓哉の姿を探した。「拓哉、どこだろう……」探し求めた彼の姿を見つけた途端、胸の奥がきゅっと締めつけられるような甘い痛みを感じた。彼のしなやかな動き、真剣な眼差し。やっぱり、拓哉はどこから見てもかっこいい。しばらく彼を見つめていると、私のすぐ前にいた二人の女子が、甲高い声で話し始めた。「拓哉くん、今日もかっこいいねー!」左の背の低い子が夢見心地な声で言うと、右の茶髪の子が興奮気味に頷いた。「うんうん!さっきのスリーポイント、ジャンプしたとき胸筋見えたのやばかった!」彼女たちは確か、いつも拓哉を追いかけている熱烈なファンだったはずだ。すると、左の子が斜め前を指さし、さらに声を弾ませた。「莉緒ちゃん、今日もめっちゃ可愛い~」右の茶髪の子もすぐさま同意する。「ほんとほんと。拓哉くんと並んでるとマジでお似合い!バスケ部のキャプテンとチア部のリーダーとか、漫画みたいだよね!」彼女たちの視線の先にいたのは、山下莉緒。山下さんは透き通るような白い肌に、肩まで伸ばした黒髪がよく似合う、清楚な雰囲気の女の子だ。私や拓哉と同じ学年で、時々キャンパスでも見かける顔だった。チア部の衣装に身を包んだ彼女は他の部員たちと一緒に、コートの端
Last Updated : 2025-08-07 Read more