บททั้งหมดของ プライド崩壊の夜~元妻、二人目の妊娠~: บทที่ 801 - บทที่ 810

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第801話

一生独身を貫くと言っていたあの二人に、突然可愛い子どもが生まれたとあって、両家の祖父母たちは揃って、目に入れても痛くないほど朔都を溺愛していた。今は樹と胡桃がずっと病院にいて、両親が常に傍にいない状況ではあるが、朔都の世話をしている人間は、両家の親族やベビーシッターを含めて常に七、八人はいるのだ。まさに、一族みんなから宝物のように大切に育てられていた。だからこそ、胡桃は子どものことに関してはまったく心配していなかったのだ。胡桃が少し真面目な顔になって話題を変えた。「ねえ、妊娠したってことは、学校の仕事はどうするの?普通に続けるの?」「続けるわよ」明里は事もなげに言った。「私、ゆうちっちを妊娠したときだって、産む直前のギリギリまで普通に働いてたの、忘れたの?」「あのときは誰もあなたの体を気にかけてくれる人がいなかったからでしょ」胡桃は鋭く指摘した。「今の潤が、あなたが身重の体で働くのを黙って認めるかどうか、怪しいもんね」そう言われてみると、明里も少し不安になってきた。しばらくして、潤が病室まで迎えに来た。明里はもう少しだけ胡桃と一緒にいたかったが、胡桃が「妊婦は長居しちゃダメ」と、病院に長く留まることを許さなかった。潤も、彼女とまったく同じ考えだった。病院はただでさえ人が多く、さまざまな病を抱えた人が出入りしている。万が一ここで風邪でもうつされたら大変だからだ。車に乗って走り出してから、明里は彼に向かって直接切り出した。「二日ほどゆっくり休んだら、学校の仕事に戻るからね」潤もちょうど、その仕事の話をしようと思っていたところだった。朱美という強力な後ろ盾ができたことは、潤にとっても非常に大きな精神的支えだった。「先生が、来週また念のために検査に来るようにって言ってたよな」「わかってるわ」明里は頷いた。「ちゃんと行くよ。あの日、先生に聞いたら、夜間診療もやってるって言ってたし」「俺が言いたいのは……」潤は少し言葉を選びながら続けた。「これから数日間は、しばらく学校は休んでくれ。できるだけ安静にするようにって先生もはっきり言ってたし、今の時期の無理は絶対にダメだ」「学校にいても、座ってるだけだから無理なんてしないよ」「でも……」「もう、仕事の話は家に帰ってからゆっくり話そう!」明里は話題を逸
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第802話

潤はもうその話で言い争うのをやめて、静かに尋ねた。「どうしても、学校へ行くのか?」「だから、休む必要はないって言ってるじゃない」結局、また元の平行線に戻ってしまった。潤はついに、用意していた切り札を出した。「実は、お義母さんにも相談したんだ。お義母さんも、一週間後の定期検査が済んで結果がわかるまでは、とにかく家で待機していなさいって言ってたよ」「それは私から直接お母さんに話すわ」と明里は引かなかった。こうなると潤にはもう何も言えず、朱美の説得に期待するしかなかった。朱美は、誰よりも明里を溺愛している。最初の妊娠のときは、お互いにまだ実の親子だと知らなかったあの頃とは、今回は状況がまったく違う。愛する娘が再び妊娠したと知った今、朱美は仕事を全部放り出してでも、つきっきりで娘のそばにいたいくらいだったのだ。潤から、明里がどうしても仕事に戻ると頑なに言い張っていると聞いた朱美は、内心少し焦った。彼女は明里の腕を引いて宥希のおもちゃ部屋へ連れ込むと、そっとドアを閉めた。明里は不思議そうな顔をした。「お母さん、どうしたの?」「アキ、私がこういう口出しをするのもなんだけど、今あなたにとって一番大事なのは、とにかく自分の体よ。新しい命を授かったんだから、前とは状況がまったく違うの。それなのに無理をして仕事に行くと言って、潤がどれだけ心配するか、あの子の気持ちをちゃんと考えたの?」明里は少し面食らった。「でも、全然大丈夫だから。この前、先生にも直接聞いたけど、無理さえしなければ普通に働いていいって言われたのよ」「万が一お腹の赤ちゃんに何かあったら、いくら後悔してもしきれないでしょ」「でも……」「でもじゃないわよ」朱美はピシャリと言った。「たった一週間のことじゃない。あなたが一週間休んだって、あの学校が潰れるわけじゃないわ。いい?会社や学校なんて、誰か一人が休んだところでちゃんと回っていくものなのよ」「お母さん、そんなことわかっているわ……」「わかっているならいいのよ」朱美は声のトーンを落として続けた。「とにかく、休めるならしっかり休んで、しばらくは家でゆっくりしていなさい。ゆうちっちを産むとき、そばにいてあげられなかった。つらい思いをさせたのに、何もしてあげられなかった。でも今回は、ちゃんとそばで見守ってい
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第803話

明里の記憶の中では、潤はいつだって、自分の仕事を何よりも最優先にする人間だった。まだ二人が離婚していなかったあの頃は、毎日誰よりも朝早くに家を出て、夜遅く日付が変わる頃に帰宅し、長期出張も当たり前のようにこなしていた。それが今では、まるで別人のようだった。「金なら、もう一生遊んで暮らせるほど稼いだしな」潤は平然と言った。「そろそろ少し休んで、人生を楽しんでもいい頃だろ」そう言われてしまうと、明里もそれ以上は反論できなかった。結局、朱美と潤の二人に強引に押し切られる形で、明里は学校へ連絡を入れ、休暇の延長を申し出ることになった。潤の本当の目的は、明里の体を休ませつつ、自分も家で彼女と甘い時間を過ごすことだった。ところが、明里は家で大人しくしているような性格ではなかった。胡桃のいる病院へ見舞いに行こうとしたり、優香を誘って買い物へ出かけようとしたりする。安静が必要な時期だというのに、どうにもじっとしていられないのだ。幸いなことに、心配していた出血はすでにほぼ止まっていた。医師も最初から「大事ではない」と言ってくれていたし、処方された薬を飲んで少し休んでいれば、自然と落ち着くはずの症状だった。むしろ潤の方こそ戦々恐々としており、万が一彼女の身に何かあったらと、気が気ではなかった。明里はそんな落ち着かない潤を見て、さすがに心配しすぎだと笑った。潤はしょんぼりとした顔でうつむいた。「俺には、お前をそばで支えた経験が一度もないんだよ。だって、お前が俺に黙って一人で海外へ行って、あのとき『堕ろした』と嘘をつかれたとき、俺がどれだけ絶望したか……」それは、二人でとっくに腹を割って話し合い、完全に決着がついている過去の話だった。それでも潤は、事あるごとにその話を最強の切り札のように持ち出してくる。そう言われると、明里も本当に申し訳なさで胸が痛くなってしまうのだ。仕方がない――自分の立場に置き換えてみれば、無情に捨てられた挙句、子どもまで奪われたと知ったら、死にたいほど悲しいだろうと思うからだ。それほどのすれ違いと傷を抱えながらも、二人がまたこうして一緒に笑い合っていられるのだから、本当に奇跡みたいなことだった。ただ、潤がそれを都合のいい免罪符のように使ってくるのも事実だ。あの切ない顔で言われると、明里
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第804話

もちろん、そんな度胸は潤にはなかった。もし万が一明里にバレでもしたら、彼女がどれほど激怒するか、想像するだけで恐ろしかったのだ。案の定、病院での検査の結果はまったく問題なく、母子ともに至って健康だった。あとは、定期的な妊婦検診を受けていけばいいとのことだった。潤は諦めきれず、明里の隣で聞いた。「普段通り仕事に出ても大丈夫なのでしょうか?無理は禁物ですよね。やはり大事をとって、しばらく家で休ませた方がいいと思うのですが」なんとか自分の意図を汲み取ってほしかったのだ。ところが、医師は笑顔で答えた。「ええ、お仕事は問題ありませんよ。もちろん過度な無理は禁物ですが、家にこもりきりなのも妊婦さんの心身に良くありませんから。体調の変化に合わせて、無理のない範囲で過ごしてください」結局、裏目に出た。明里はすかさず言葉を被せた。「ほらね!やっぱり仕事していいって。絶対に無理はしないし、前にも経験しているから自分の体のことはわかっているわ。大丈夫よ!」こうなると、潤も引き下がるしかなかった。仕方なく、学校へ行くことをしぶしぶ認めた。ただし一つだけ、絶対に譲れない条件をつけた――明里が外出する際は、必ず潤が車で送り迎えをすることだ。明里も渋々その条件を飲んだ。結婚休暇明けの、初めての出勤日。潤は約束通り明里を大学のオフィスの入口まで見送り、そこで偶然、千秋と碧に出くわした。「あ、明里さん!」千秋は駆け寄ってきた。式から二十日以上が経ち、その間もメッセージのやり取りはしていたものの、実際に元気そうな顔を見ると、千秋は心底嬉しそうだった。面食いの千秋にとって、明里の輝くような美貌を見るだけで、その日の気分が一気に上がるのだ。碧はというと、もう気安く話しかけられる立場ではないため、少し離れたところから軽く会釈しただけだった。彼らと軽く挨拶を交わしてから、潤が二人に丁寧な口調で言った。「少し体調が優れないようなので、どうかよろしくお願いします」「え?」千秋は驚いてすぐに明里の顔を見た。「どこか具合悪いの?なんで無理して休まなかったのよ」碧もいる手前、あまり詳しい事情を説明することはできなかった。千秋に向かって大丈夫だと微笑んでから、潤を見た。「あなたは、もう先に行っていいわよ」「何かあったら、すぐに
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第805話

ある朝、目を覚ましたその瞬間から、明里は原因不明の微かな吐き気を感じていた。歯を磨くと、その不快感は少しましになった気がした。ところが朝食の席についたとき、目の前に置かれた温かい海鮮粥の匂いを嗅いだだけで、強烈な吐き気が込み上げてきた。吐きたいのに吐けない。隣に座る潤がひどく心配そうな顔をしているのを見て、彼にこれ以上心配をかけまいと、明里は無理をして小さな肉まんを二つだけなんとか胃に収めた。学校へ出勤してからも、胃の中で何かがぐるぐると渦巻いているような不快感がずっと続いていた。吐きたいのに、やはり吐けない。体全体が鉛のように重く、力が入らず、何をするにしてもひどく気が重かった。気を張って仕事に集中しようとしても、不快感が影のようにつきまとって離れなかった。四年前に宥希を妊娠したときには、一度もこんな感覚に陥ったことはなかったのに。一、二日で治まるだろうと楽観視していたが、何日経っても状態は変わらなかった。本当につらかった。どこかが痛いといった明確な不調があるわけではないのに、ただずっと息苦しいのだ。四日目には、明里の忍耐も限界に達していた。体に鞭打って学校へ通い続け、心身ともに消耗しきっていた。とうとう彼女は、学校へ休暇の申請を出した。ちょうど金曜日だったため、土日を合わせれば三日間の休みを取ることができた。この三日間ゆっくり休めば、元の状態に戻れますようにと、明里は祈るしかなかった。前の妊娠のときは何一つ問題なく元気だったのに、どうして今回はこんなにも違うのだろう。食事の栄養バランスも睡眠時間も特に問題はないし、精神状態も四年前よりずっと安定しているはずなのに、どうして体の方がこうもついてこないのか。ベッドの中でスマホを使っていろいろと調べてみても、自分を納得させられるようなはっきりとした答えは見つからなかった。ただ、妊娠するたびに母体の反応が毎回違うということは、なんとなく理解できた。宥希のときに何も感じなかったのは、単に若くて体が丈夫だったからかもしれない。でも今だって、まだ十分に若い。妊娠に適した年齢のはずだ。体力だって決して悪くはない。結局のところ、急激なホルモンバランスの変化がもたらす問題なのだろう、と片付けるしかなかった。休みの三日間、明里は
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第806話

潤は低い声で呼びかけながら、明里の青白い顔にそっと手を当てた。「今、どこが一番つらい?我慢しないで、一緒に病院に行こうか?」明里は、胸のあたりが鉛を飲んだように重く、胃も絶え間なく波打っているのを感じていた。吐きたいのに何も出てこないし、何かを食べる気もまったく起きない。でも、妊娠中というものはこういう不快なものなのだと、頭ではわかっていた。病院へ行ったところで、どうにもならない。ただ、不調が気持ちにまで暗い影を落とすのが何よりつらいのだ。「大丈夫よ。妊娠ってこういうものだから、今病院に行ったって仕方ないの」「じゃあ、どうすればいいんだ」潤は焦りと深い心配が入り混じった顔で言った。「俺にできることはないか?何でも言ってくれ。少しでも楽になるなら、何でもするから」「私にも、どうすればいいのかわからないの」明里は弱々しく首を振り、潤の手をそっと握った。「そんな泣きそうな顔をしないで。大丈夫。ただすごく疲れていて、何もしたくない、動きたくないだけなの」「何か、食べられそうなものはあるか?酸っぱいものでも買ってこようか?」今の潤に、体に悪いからと食べたいものを止める気など微塵もない。少しでも口にしてくれるなら、なんだっていい。だが、明里はまた力なく首を振った。潤がもう少し何か言葉をかけようとしたとき、明里はすでに静かに目を閉じていた。それは、ひどく疲れ切った顔だった。潤は静かに立ち上がり、音を立てないように寝室を出て、書斎でしばらく一人で時間を過ごした。タバコに手が伸びかけたが、思いとどまった。最終的に、彼は胡桃に電話をかけた。もし樹が意識を取り戻していれば、迷わず彼に相談しただろう。かつて胡桃の妊娠中の壮絶なつわりを、一番近くで支えて見ていたのは樹なのだから。でも今の樹には、当然電話などできない。だから胡桃に頼るしかなかった。胡桃は電話に出るなり、鋭く尋ねた。「めずらしいわね、どうしてあなたから電話?アキの身に何かあった?最近どう?」「実は、そのことで相談があるんだ」潤は深くため息をついた。「ここ数日、あいつはまったく食欲がなくてね。無理やり押し込んでいるような状態だ。吐いてはいないし、検査も異常なしだったが。とにかく気分がすぐれないらしく、俺の顔を見るのもうんざりするみたいで
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第807話

「でも、やっぱり心配だし」と胡桃は食い下がった。「今の時間なら、一、二時間は抜け出せるから」「ずっと家に籠もっているし、外へ連れ出したいと思っていたところだ。そっちへ行かせようか」「そうして。でも、さすがに病院には来させないで。近くのカフェで待ってるから、そこまで連れてきて」「わかった」電話を切って、潤はようやく少しだけ気が楽になった。胡桃の話を聞いて、妊婦というのは体調の変化とともに気持ちも大きく揺れ動くものなのだと、ようやく理解できた。足音を忍ばせて再び寝室へ戻ると、明里は先ほどと同じ姿勢で横になっており、潤が近づいても無反応だった。潤はベッドの縁に腰を下ろし、静かに口を開いた。「明里ちゃん。さっき胡桃から電話があってね、会いたいって言ってるんだ」「胡桃が?わざわざ来なくていいのに」明里は心配そうに言った。「あっちだって看病で大変なのに。私は何ともないし」「じゃあ、こっちから彼女に会いに行かないか?考えてみれば、しばらく彼女に会いに行ってないじゃないか」明里はしばらく考えて、ゆっくりと頷いた。「じゃあ、明日の午前中に」潤は胡桃に連絡し、時間と場所を決めた。その夜、眠りにつくとき、潤がいつものように明里の体を抱き寄せようとした。明里は少し体をずらして彼を拒んだ。「ごめん、今は触らないで。手が当たるだけで、しんどくて」潤の手の重みだけでなく、掛けられた布団の重圧すら不快だったのだ。だから彼女は横向きになって丸まるように寝ていた。そうすると胸への圧迫感が減って、少しだけ息がしやすかったからだ。潤の胸を少しの寂しさがよぎったが、それ以上に明里の体が心配だった。彼女に触れないように少し距離を置き、ただ隣に静かに横たわった。やがて、明里の呼吸が深く規則的になった。潤はそっと明里の手を握り、自分も安堵して目を閉じた。それでも心配で、なかなか深くは眠れなかった。夜中、寝返りを打った明里が無意識に潤の胸に潜り込んできた。潤は反射的に抱きしめたくなったが、ぐっとこらえて拳を体の脇に置いた。それでも二人の体は触れ合っていた。その温もりを感じながら、潤はようやく深い眠りに落ちた。翌日は日曜日だった。起き上がった瞬間から明里の胃は激しく波打ち、強い吐き気で何も食べる気がしなかった。
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第808話

明里の口元が、ふっと柔らかくほころんだ。「わかっているわ」「いいえ、全然わかっていない」胡桃は幼い子どもに教え諭すように言った。「あなたの不器用な性格、私が一番よくわかっているんだから。自分がつらくても、あいつに心配かけまいと我慢しているんでしょ」「そんなことないわよ……」「言い訳しないの」胡桃はぴしゃりと言った。「正直に答えなさい。最近、あの潤に向かって理不尽に当たったことある大声でわめいたり、子どもみたいに駄々をこねたり、そういうこと一回でもした?」明里には、そんな真似は到底できなかった。胡桃は彼女の困ったような表情を見ただけで、その答えがすぐにわかった。「ほらね。そうやって自分の中に全部溜め込んでストレスにしていたら、お腹の赤ちゃんにも良くないわよ。いいから、怒りたいときは怒る、文句を言いたいときは言う。わかった?」「でも、私一人が我慢すれば済むことじゃない。私が当たって二人とも嫌な気分になったら、余計しんどいわ」「子どもは二人でつくったのに、どうしてそういうつらいことだけ、全部あなた一人が抱え込まなきゃいけないのよ?」胡桃は本当にもどかしそうに明里の顔を見た。「頭はいいのに、たまにすごくバカだよね」そう言われて、明里は、確かに自分は少しバカかもしれないと素直に思った。「それにね」胡桃は続けた。「あなたが何も言わずにただじっと耐えている方が、潤はかえって不安になるのよ。理不尽に当たって、こき使ってやった方が、彼だって何か役に立てたって思ってすっきりするんだから」「……わかったわ」「『わかった』じゃなくて、今すぐやること」胡桃は言った。「ほら、今すぐあいつに電話して、何か買ってこいって言いなさい」「でも、彼、今近くで大事な契約の話があるって……」「その契約とあなたと、どっちが大事なのよ?」「そうは言っても一応、彼にとって仕事だし……」「あなたの体は仕事よりも下なの?」胡桃は半ば強引に、スマホを明里の手に押し込んだ。「いいから、今すぐかけなさい!」「でも、今は本当に何も食べたくないし……」「買ってきてもらって匂いを嗅いだら、少しは食べたくなるかもしれないでしょ」胡桃は引かなかった。「最悪、食べなくてもいいの。とにかくあいつを呼びつけて。来れば私が何とかするから」明里は観念して、仕方なく潤に電話
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第809話

明里は残りを捨てようとはしなかった。彼女はもともと、食べ物を無駄に粗末にすることを嫌う性格なのだ。「はい、これ食べて」と、残りのどんぶりを潤に差し出した。潤は、この手の酸っぱくて辛いだけのジャンクフードはあまり得意ではなかった。彼が一瞬だけ見せた迷っているような顔を見て、明里はすぐに不満げに眉をひそめた。「なに、嫌なの?」「そんなことない!」潤は完全に心外だと思い、慌てて否定した。これ以上彼女に余計なことを考えさせてはいけないと察し、潤は急いで箸を受け取り、食べ始めた。「食べる、もちろん食べるよ」「無理して食べたくないなら、別にいいのよ」明里は声を潤ませた。「本当は好きじゃないんでしょ。だったら最初からちゃんと言ってくれれば、私だって無理強いなんてしないのに」潤はぎょっとして箸を止め、すぐに器を置いてハンカチを取り出し、明里の目尻に浮かんだ涙を慌てて拭った。「なんで泣くんだ?ほら、俺、ちゃんとおいしく食べているじゃないか」「食べたくないなら、無理して食べなくていいって言っているの!」「じゃあ……食べなくてもいいのか?」「やっぱり、私のことなんか嫌なんだ!」「違うって!」潤はどうしていいかわからず、頭を抱えた。「泣かないでくれ。今すぐ食べるから!ほら、全部きれいに食べるから!」実際のところ、それほど量は残っていなかったため、潤が一気に飲み込むようにして食べてしまうと、空になった器を明里に見せた。「ほら、見て。全部おいしく食べたよ」明里は小さく鼻をすすった。「本当は嫌いなのに無理して食べて……気持ち悪くならなかった?」「嬉しいに決まっているだろ。愛する奥さんの食べ残しが、俺はこの世で一番好きなんだから」明里は涙を拭いながら、思わずぷっと吹き出した。「もう、お調子者なんだから」ようやく彼女が笑ってくれたのを見て、潤は心底ほっと胸を撫で下ろした。「このまま家へ帰るか?」潤は機嫌をうかがいながら聞いた。「それとも、どこかもう少しだけ寄り道していくか?」「この辺りに、何かあるの?」「すぐ近くに、緑が多くて綺麗な公園があるみたいなんだ」潤は言った。「ネットの口コミもすごく良かったから」「いつそんなの調べたの?」「お前から電話がかかってくる前に、もし外出できたらと思って、周りの名所を
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第810話

明里はベッドの中で力強く頷いた。「家政婦さんにお願いして、新鮮な材料を買ってきてもらおうよ。それで、みんなで自分たちで包むの。早く!私、どうしてもすごく食べたい!」潤は事前に、妊婦についてネットでいろいろと調べていた。妊婦が突然「何かを食べたい」と言ったときは、今すぐ、この瞬間に口に入れたいくらいの強烈な欲求なのだということを。もしそのときに食べられなければ、本人がどれほど絶望するかということも。彼はさっと明里にキスをして、大股で部屋を出て行った。明里はぱちぱちと瞬きをして、もぞもぞとベッドから起き上がった。数分後、すぐに潤が部屋へ戻ってきた。「家政婦さんにお願いして、すぐに買いに行ってもらったよ。お義母さんがね、今日は皮から手作りするって張り切っていて、お前も一緒にやるかって聞いているけど?」「やる!」てっきりまだ元気がなくて断ると思っていたから、明里の弾んだ声に潤は少し驚いた。「じゃあ、俺もその輪に混ざろうかな」明里はゆっくりとベッドから降りながら、少しからかうように言った。「あなたが?そんなこと、できるの?」「習えばできるさ」潤は事もなげに言った。「それより、お義母さんが自分で一から生地をこねられるとは思わなかったよ。意外な一面だな」「私だって、お母さんに習えばできるもん」「そうだよな、うちの優秀な奥さんは何でもできるもんな」潤は明里の手をそっと取った。「ほら、足元気をつけて。ゆっくり、ゆっくりだぞ」「いちいち支えなくていいってば」明里は少し不満げに眉をひそめた。「そんなに危なっかしい歩き方しているかな。私、普通に歩けるってば」「いや、俺がそそっかしいからだ」潤は言い訳をして、すぐに手を離した。「さあ、お姫様、お先にどうぞ!」明里はジロリと彼を睨んで、呆れたように先に寝室を出た。潤はこらえきれずに笑いをこぼした。どうしようもなく愛おしくてたまらない、柔らかな笑みだった。二人がキッチンへ行くと、朱美が大きなボウルに粉を入れ、真剣な顔で水を注いでいるところだった。「お母さん、本当に皮からこねられるの?」明里が横に駆け寄って聞いた。「もう何年もやっていなかったから、腕が鈍っているかもしれないけどね」朱美は袖を捲り上げながら言った。「ほら、ゆうちっちも呼んできなさい。今日は家族みん
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