遥真はまったく気にしていない様子だった。「私の気持ちは変わらない」柚香にとって、彼と和解するなんてありえない。遥真は、彼女の感触がまだ残る指先に視線を落とした。「決めたんだな」柚香は何も言わなかった。けれどその沈黙が、答えだった。遥真は立ち上がる。さっきまであんなことをしていたのに、今の彼は相変わらずきっちりとした紳士の顔だ。「京原市には金持ちは他にもいるけど、俺以外に君に金を貸す度胸のある奴はいない」袖口を整えながら淡々と言う。「君の親友の真帆だって、例外じゃない」「……何をする気?」柚香の顔が一気に強張った。「別に何もしないよ」遥真はゆっくりと彼女の前まで歩み寄る。「けど、もし君が本当に彼女から金を借りようとしたら、その時は話が別だ」両脇に垂れた柚香の手が、ぎゅっと握りしめられる。真帆に少しだけ借りて、後で返そうと思っていたのに。「それと……」遥真はわざと語尾を伸ばした。柚香の心臓が跳ねる。「もう少し素直になったほうがいい」遥真は一歩ずつ近づきながら言った。「口では俺の行動を責めるくせに、手は勝手に俺のシャツを掴んでる。昔から、君は熱くなるたびに俺のシャツをぐしゃぐしゃにするのが好きだったよな」そう言って、わざと自分のしわだらけのシャツに視線を落とした。我慢していた悔しさが一気に込み上げ、柚香は思わず手を上げた。パシン!だがその手は、遥真にしっかりと掴まれた。引こうとしても、強い力で押さえられて動けない。「感情に任せるのは、いいことじゃない」遥真はしばらくそのまま彼女の手を握ってから、ようやく放した。そして去り際に、冷たく言い捨てた。「せいぜい考えるんだな。お母さんの手術費、どうやって用意するか」「あなたの心配なんて、いらない」柚香は、意地と気力だけで立っていた。遥真はジャケットのボタンを留め、底の見えない瞳を静かに戻す。「そう願うよ」そのまま彼は部屋を出ていった。まるで、さっきまでのぬくもりなんて最初からなかったように。高橋先生のオフィスの前を通りかかったとき、呼び止められた。「久瀬さん」遥真は視線だけを向ける。「ひとつ、伝えそびれていたことがありまして」高橋先生は少し迷ったあと、話し始めた。「橘川さんのお母さまの病状が悪化する少し前、病室にひとりの男性が来てい
Read more