柚香はずっと不思議に思っていた。いつも謙虚で礼儀正しく、評判もいいはずの時也が、噂とはまったく違うと。「どうしてなの」柚香には理解できなかった。「俺がいなきゃ、君がどれだけ間抜けか、試してみたかっただけだよ」遥真は容赦なく言い捨て、虫けらを見るような目で続けた。「結果を見ればわかるだろ。救いようがないほどバカだ」「私がバカ?それとも、あなたが勝手に首突っ込んできてるだけ?」柚香は視線をまっすぐ返し、初めてはっきりと二人の境界線を引いた。「あなたが私の生活に手を出さなければ、こんなことにはなってないわ」遥真のまとう空気がじわりと冷え、表情が氷のように凍りついた。柚香は時也から自分のスマホを受け取り、最後に遥真へひと言だけ投げた。 「男なら、玲奈とちゃんと生きなよ。もう私に関わらないで」そう言い切ると、柚香は真帆の手を引いてそのまま去った。一秒たりとも留まらずに。浴室には遥真と時也だけが残り、一気に嵐のような重い空気が充満した。「奥さん、全然君の気持ちを受け取ってないみたいだな」時也が軽く咳払いする。遥真が鋭い目を向ける。時也はすぐに察して言った。「わかった、わかった。もう言わないから、いいだろ?」「前に送った監視カメラの映像、調べてくれって頼んだ件、どうなった」柚香が出ていったのを見届け、遥真が本題に入る。「それがな、妙なんだよ」時也は真顔で言った。「あの男、どこかで見たことある気がするのに、何ひとつ情報が出てこない。普通の相手ならとっくに素性まで全部割れてるのに、名前も住所も一切不明。で、一番おかしいのは君のお義母さんだ」ここで時也はまっすぐ遥真を見た。遥真は一言で言った。「続けろ」「お義母さんのほうからたどってみたら、お義父さんと結婚したところで情報がぷつっと途切れた。その先がまったく追えない。正直、身元もただものではない気がしてる」遥真の瞳がわずかに深くなる。柚香の母のことは、これまで深く調べたことがなかった。結婚してまもなく彼女は事故で昏睡し、名前が橘川安江(きっかわ やすえ)で、夫と同じ苗字ということ以外、家での存在感も薄かった。「柚香の母親についてさらに調べろ」遥真の声は低い。「彼女とあの男、どちらかの正体は突き止めないといけない」……柚香は、遥真が裏でこんなことをし
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