「ママ、いつ家に帰ってくるの?」誠司が眠たそうな目で俺を見上げる。風呂上がりで頬が赤い。今日は病院でずっとはしゃいでいたせいか、もう限界が近そうだ。「誠司があと四回寝たらだな」「……おひるねは?」強請るような目。少しでも早く桔梗に会いたいのだろう。その顔が可愛くて思わず口元が緩む。「分かっているだろう? お昼寝はノーカウントだ」「えぇー……」誠司が不満そうに頬を膨らませた。本人は真剣なのだろうが、丸く膨れた頬が小動物みたいで笑ってしまいそうになる。「ずるい」「ずるくない」「だれが決めたの?」「パパだ」「むぅ……」納得していない顔だが、もう瞼が半分閉じかけている。限界だな。俺は誠司を抱き上げて立ち上がった。小さな体が自然と俺の胸に寄りかかってくる。眠くなって桔梗に甘えたくなったのだろう。 最近は“お兄ちゃんになる”と頑張っているが、まだまだ甘えたい年頃だ。「おやすみ」「おやすみなさい」誠司は素直に返事をしたあと、俺の肩に頬を押しつけた。そのまま数歩歩いただけで腕の中の重みが変わる。力が抜けた……寝たな。今日は朝から病院へ行って、桔梗にも茉白にも会って、ずっと興奮していた。病室では“お兄ちゃん”らしくしようと頑張っていたし、桔梗がいない一日で気疲れもしたのだろう。.「蓮司様」廊下の途中で長谷川が静かに現れた。俺の腕の中の誠司を見ると、ぴたりと動きを止める……なるほど。誠司には聞かせたくない話らしい。「部屋で寝かせてくる」「承知しました」俺は足音を抑えながら誠司の部屋へ向かった。ベッドにそっと寝かせる。誠司は一度眠るとあまり起きないから普段なら心配しない。だが今日は桔梗がいない。眠るときに桔梗が家にいないこと自体は今までも何度かあった。 仕事や付き合いで遅くなることもあったが、誠司は『ママはあとで帰ってくる』と理解していた。でも桔梗はしばらく帰ってこられない。しかも、いま桔梗がいる場所は病院だ。子どもにとって病院は“怖い場所”だ。妊娠も出産も病気ではない、そんなことは大人なら分かっている。けれど子どもには違う、同じ病院。病院は痛いことをされる場所、苦しいって人が行く場所―――そこにママがいる。その事実だけで不安になるには十分だった。「……ママ」眠ったまま誠司が小さく呟いた
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