二人の前には重苦しい、重厚な扉が——……だったのなら雰囲気が出て丁度良いのだが、残念ながら図書館内にある一室でしかない部屋の扉は、ただの会議室にでも続くみたいな風貌だ。扉の一部に嵌め込まれた縦長な曇りガラスの向こうには、何かが元気に動く姿がチラリと見て取れ、室内には既にもう誰かが居る事を二人に告げている。「早速開けてもいいですか?」 「えぇ、もちろんよ」 ここを開ければ後戻りは出来ない。 もちろんする気もないのだが、それでもちょっとだけ後ろ髪を引かれつつ、カシュが扉をゆっくりと開ける。すると、先に室内で待っていた甥っ子の葵が彼を目敏く見付け、「——母さん、叔父さん達が来たよ!」と大声で叫んだ。「こら、騒ぐな!」と言い、瀬田が葵を担ぎ上げ、自分の肩に座らせる。目線が急に高くなったせいで「うわ!」と葵は驚いた声を一瞬だけあげたが、すぐに慣れ、瀬田の髪の毛をしっかりと掴みながら脚をバタバタとさせて喜んだ。「……すっかり子持ちのお父さんね」 子供に遊ばれている瀬田の姿を見上げ、頭から漆黒のベールを被った華がくすくすと笑う。「そうだな。“婚活”だなんだと日々明け暮れていた時期が、今じゃ懐かしく思えるよ」「ははは。数週間程度の子育てで、父親面される子供も大変だねぇ」 そう言ったのは、図書館の館長である本多さんだ。 彼は“人間である母親”の事が大好きなロマンスグレーのオジサマなのだが、“本の精霊”である自分の父親に対しては色々と複雑な心境を抱えているせいか、瀬田に恨みがあるわけではないのに言葉がつい辛辣になってしまった。「いくら“母親からの愛”に飢えてはいても、“新米パパ”さんな瀬田先生に当たっちゃダメですよ?本多さん。お父さんが邪魔でお母さんにかまってもらえない者同士、いっそ君達が仲良くするとかはどうだい?ねー葵君?」 ウルカの勤めるカフェの店長である野本が、普段とは全く違う風貌をして、室内にある椅子に寄り掛かりながら本多と葵に声をかけた。 優しい風貌をした白髪の小柄なご年配のオジサマでしかないはずの彼は今、腕には身の丈以上もある大鎌を持ち、顔には口元だけが見える髑髏の仮面を付け、黒衣のローブを全身に纏っている。コレがハロウィンのコスプレでもあればまだ可愛げもあるというものだが、見た目通りの生き物なせいで、彼の周囲は禍々しい空気で満ちていた。「
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-10-08 อ่านเพิ่มเติม